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Memory Loss Ⅲ

2009-10-06 | ☆記念FanFction☆
自立してお前の母親に認められるようになる。

俺は絵画の鑑定士になるため、必死に勉強した。

何度も、何度も、お前に会いたくて帰国したくなったが、その想いは心の奥底に封じ込めた。



あれから三年もの月日が流れた。

ソウルの街へと降り立った俺は、風の便りに聞いていたお前が営んでいるという小さなレストランを探した。

ブティックの立ち並ぶその通りに佇むガラス張りの店舗。

俺はよく磨かれているガラス越しに店内を覗き見た。

なにやら床を掃いている人の姿…

韩庚!

間違いない。

あの頃と変わらない動き…表情…

俺は神に感謝した。

韩庚!

心の中で叫んだ俺の声にお前は気付いたようで、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。

韩庚…俺…俺…

何から話せばいい?

溢れる想いで胸がいっぱいになる。

それなのに…

お前はまるで俺のことを初めて見るかのように眺めている。

なぜだ?

三年もの間に、俺のことなんて忘れたのか??

お前を凝視する俺を不思議そうに見ているお前の肩に、細く小さな手が触れる。

誰が見ても恋人同士だと見てとれる二人を…

顔を近づけ囁き合う二人を…

俺は見続けることなどできずに、その場を去った。

どこをどうやって帰ってきたのかもわからない…

気が付けば自分の部屋にたどり着いていた。

韩庚…その女(ひと)は誰?

俺のことはもう何一つ想い出さないのか?

俺は一生分の涙を流した。

アリスのように涙の海で溺れるんじゃないかって思うほどに…

泣き尽して…

もう流す涙も枯れ果てた頃、オヤジが俺の部屋に入ってきた。

「帰って来たのに、挨拶もなしか。お前はホント手を焼かすな…なんだその顔は。大方アイツの所に入ってきたんだろう」

「………」

「まあ、いい。わかっただろ。お前のことなんてこれっぽっちも覚えてないんだ。何せ記憶を失くしているんだからな。お前がいくらアイツの所へ行こうとも一生お前のことなど思い出すなんてことはないんだ。遊びはそろそろ終わりだ。今すぐこの家の後継者として俺の元で働くんだ」

なんとか繋がっていると期待した細い細い糸も、オヤジの言葉にぷっつりと切れた。

俺の中で何かが音を立てて崩れていった。

やがて、それは涙の海へと渦を巻いて飲み込まれていった。

韩庚、愛してる。

今も…

これからも、ずっと…

でも、お前の幸せを望むなら…

このままそっと俺は旅立とう。

この家も捨てて…

お前のことも忘れて…

俺はもう一度生まれ変わるんだ。



朝靄の広がる駅のホームに俺は降り立つ。

三年の間にすっかりココの空気に体が馴染んだようだ。

フィレンツェの空気を胸いっぱい吸い込むと、俺は新たなる一歩を踏み出した。


AX


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