Tula Gianniniが書いた「Great Flute Makers of France/The Lot & Godfroy Families 1650-1900」は
ロット・フリークにとってはなくてはならない存在です。
待望の邦訳も数年前に出ましたが、
おそらく多くの日本人にとっては読み難いロットのカタログ(価格表)までは残念ながら訳してくれていません。
先日、このカタログを眺めていて疑問に思ったことがあったので、改めて色々と読んでみたところ、
新たな発見もありましたので、書き留めておきたいと思います。
初代ロットが創業したのは1855年で、その年のカタログが載っています。
フランス語はさっぱりの私には大まかなこと、意訳とせざるを得ないことしか書けませんが、
大きく外れていることはないと思いますが、どこか変なところがありましたら、どうか御指摘、御指導ください。
================================================
ルイ・ロット価格表 1855年
木管円筒管フルート
1. グレナディラ、キイ銀製、C足部管 450フラン
2. グレナディラ、キイ銀製、H足部管 500フラン
3. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 C足部管 350フラン
4. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 H足部管 400フラン
金属製フルート(円筒管)
5. 総銀製、 C足部管 500フラン
6. 総銀製、 H足部管 550フラン
7. 洋銀製、 C足部管 350フラン
8. 洋銀製、 H足部管 400フラン
木管円錐管ベーム・フルート
9. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製、 C足部管 400フラン
10. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製、 H足部管 450フラン
11. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 D足部管 150フラン
12. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 C足部管 250フラン
13. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 H足部管 280フラン
ベーム・ピッコロ(円錐管)
14. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製 170フラン
15. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製 120フラン
普及型フルート
グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製
16. 5キイ 200フラン
17. 6キイ 215フラン
18. 8キイ、C足部管 300フラン
19. 9キイ、H足部管 350フラン
20. 10キイ、D-Eトリル付き、 380フラン
21. 11キイ、D-Eトリル付き、F#キイ付き 400フラン
22. 12キイ 420フラン
グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製
23. 5キイ 70フラン
24. 6キイ 75フラン
25. 8キイ、C足部管 100フラン
26. 9キイ、H足部管 130フラン
27. 10キイ、D-Eトリル付き、 150フラン
28. 11キイ、D-Eトリル付き、F#キイ付き 160フラン
29. 12キイ 180フラン
普及型ピッコロ
グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製
30. 4キイ 80フラン
31. 5キイ 85フラン
グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製
32. 4キイ 40フラン
33. 5キイ 45フラン
注意(オプション)
1. No1,2,3,4の頭部管への銀の裏打ち 30フラン
2. No9,10へのSi♭追加キイ 15フラン
No11,12,13へのSi♭追加キイ 10フラン
3. No5,6の管体とメカニズムへの金メッキ 80フラン
4. No1,2の全体への銀の裏打ち 50フラン
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当時の最先端を行く、金属管フルートはさすがにもっとも価格が高かったようです。
木管フルートにあっては1と2だけが「グレナディラ」となっていますが、
他は「グレナディラもしくは黒檀」となっています。
この黒檀という単語Ebeneですが、私の持っている木管はコーカスウッドが多いので
日本で黒檀とグレナディラが混同されがちなのと一緒で、ロットもその辺りを混同していたのかもしれません。
この1と2のみグレナディラ、という表示は5代目の工場長E.シャンビーユの時代までは変わりませんが、
1と2のみグレナディラしか使わないと、はっきりと材質を変えていたのかどうかはちょっと怪しい感じもします。
単なる書き落としの可能性もあることでしょう。
それにしても33アイテムもの楽器を製造していたとは驚きであります。
>11. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 D足部管
このタイプの楽器は以前、所有していたことがあります。
美しいコーカスウッドの良く鳴る楽器で、バロックを吹くには最適に思えました。
円錐管の楽器にはDまでが実用的な気がしたものでした。
「普及型フルート」「普及型ピッコロ」というのは円錐管の形状で、キイが5つから12までのもの。
これは後に、5キイと8キイのみに絞られることとなります。
注目すべきは「オプション」の項です。
1の「頭部管への銀の裏打ち」というのは木管の内側に銀のパイプを通したもので、
私はいままで他のマイナーなメーカーでは見たことがありますが、ロットでは実際にはお目にかかっていません。
4に至っては頭部管、本体、足部管まで全て裏打ちするというものなのでしょうが、これも見たことがありません。
おそらくは木の割れに対処しようとしたのではないかと思われます。
2の木管円錐管ベーム・フルートへの「Si♭追加キイ」というのは正直分かりかねますが、
親指のブリチアルディ・キイのことでしょうか?
100番台のピッコロでブリチアルディ・キイがないのもありましたので、そうかもしれません。
3の銀製フルートに対しての金メッキというのも初めて知りました。
ロットが製作した金製のフルートはランパルが所有していた18Kの#1375が唯一という話ですが、
とあるところで、実は2本あるらしい、という話も聞いたことがありますが、
その話の根拠がどこにあるのか? 私はまったく知りません。
ひょっとしたらこの金メッキのロットが実在し、そのことを指して言ったのかもしれないとも思えます。
この時代のフランスでは金といえば18K以上のものであったはずです。
続く。
ロット・フリークにとってはなくてはならない存在です。
待望の邦訳も数年前に出ましたが、
おそらく多くの日本人にとっては読み難いロットのカタログ(価格表)までは残念ながら訳してくれていません。
先日、このカタログを眺めていて疑問に思ったことがあったので、改めて色々と読んでみたところ、
新たな発見もありましたので、書き留めておきたいと思います。
初代ロットが創業したのは1855年で、その年のカタログが載っています。
フランス語はさっぱりの私には大まかなこと、意訳とせざるを得ないことしか書けませんが、
大きく外れていることはないと思いますが、どこか変なところがありましたら、どうか御指摘、御指導ください。
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ルイ・ロット価格表 1855年
木管円筒管フルート
1. グレナディラ、キイ銀製、C足部管 450フラン
2. グレナディラ、キイ銀製、H足部管 500フラン
3. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 C足部管 350フラン
4. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 H足部管 400フラン
金属製フルート(円筒管)
5. 総銀製、 C足部管 500フラン
6. 総銀製、 H足部管 550フラン
7. 洋銀製、 C足部管 350フラン
8. 洋銀製、 H足部管 400フラン
木管円錐管ベーム・フルート
9. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製、 C足部管 400フラン
10. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製、 H足部管 450フラン
11. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 D足部管 150フラン
12. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 C足部管 250フラン
13. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 H足部管 280フラン
ベーム・ピッコロ(円錐管)
14. グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製 170フラン
15. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製 120フラン
普及型フルート
グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製
16. 5キイ 200フラン
17. 6キイ 215フラン
18. 8キイ、C足部管 300フラン
19. 9キイ、H足部管 350フラン
20. 10キイ、D-Eトリル付き、 380フラン
21. 11キイ、D-Eトリル付き、F#キイ付き 400フラン
22. 12キイ 420フラン
グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製
23. 5キイ 70フラン
24. 6キイ 75フラン
25. 8キイ、C足部管 100フラン
26. 9キイ、H足部管 130フラン
27. 10キイ、D-Eトリル付き、 150フラン
28. 11キイ、D-Eトリル付き、F#キイ付き 160フラン
29. 12キイ 180フラン
普及型ピッコロ
グレナディラもしくは黒檀、キイ銀製
30. 4キイ 80フラン
31. 5キイ 85フラン
グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製
32. 4キイ 40フラン
33. 5キイ 45フラン
注意(オプション)
1. No1,2,3,4の頭部管への銀の裏打ち 30フラン
2. No9,10へのSi♭追加キイ 15フラン
No11,12,13へのSi♭追加キイ 10フラン
3. No5,6の管体とメカニズムへの金メッキ 80フラン
4. No1,2の全体への銀の裏打ち 50フラン
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当時の最先端を行く、金属管フルートはさすがにもっとも価格が高かったようです。
木管フルートにあっては1と2だけが「グレナディラ」となっていますが、
他は「グレナディラもしくは黒檀」となっています。
この黒檀という単語Ebeneですが、私の持っている木管はコーカスウッドが多いので
日本で黒檀とグレナディラが混同されがちなのと一緒で、ロットもその辺りを混同していたのかもしれません。
この1と2のみグレナディラ、という表示は5代目の工場長E.シャンビーユの時代までは変わりませんが、
1と2のみグレナディラしか使わないと、はっきりと材質を変えていたのかどうかはちょっと怪しい感じもします。
単なる書き落としの可能性もあることでしょう。
それにしても33アイテムもの楽器を製造していたとは驚きであります。
>11. グレナディラもしくは黒檀、キイ洋銀製、 D足部管
このタイプの楽器は以前、所有していたことがあります。
美しいコーカスウッドの良く鳴る楽器で、バロックを吹くには最適に思えました。
円錐管の楽器にはDまでが実用的な気がしたものでした。
「普及型フルート」「普及型ピッコロ」というのは円錐管の形状で、キイが5つから12までのもの。
これは後に、5キイと8キイのみに絞られることとなります。
注目すべきは「オプション」の項です。
1の「頭部管への銀の裏打ち」というのは木管の内側に銀のパイプを通したもので、
私はいままで他のマイナーなメーカーでは見たことがありますが、ロットでは実際にはお目にかかっていません。
4に至っては頭部管、本体、足部管まで全て裏打ちするというものなのでしょうが、これも見たことがありません。
おそらくは木の割れに対処しようとしたのではないかと思われます。
2の木管円錐管ベーム・フルートへの「Si♭追加キイ」というのは正直分かりかねますが、
親指のブリチアルディ・キイのことでしょうか?
100番台のピッコロでブリチアルディ・キイがないのもありましたので、そうかもしれません。
3の銀製フルートに対しての金メッキというのも初めて知りました。
ロットが製作した金製のフルートはランパルが所有していた18Kの#1375が唯一という話ですが、
とあるところで、実は2本あるらしい、という話も聞いたことがありますが、
その話の根拠がどこにあるのか? 私はまったく知りません。
ひょっとしたらこの金メッキのロットが実在し、そのことを指して言ったのかもしれないとも思えます。
この時代のフランスでは金といえば18K以上のものであったはずです。
続く。
フルートはロット2本だけの、傍から見ればロットフリークでしょうが、ジャンニーニは持っていません。楽器の資料は実際にある物とは全然違うので、物に拘りはあっても本は眺めたくらいです。
この価格表はただフラン、にだけ惹かれてしまいました。初めてパリに行ったときはすでにユーロで、サンテグジュペリのフラン紙幣もなにもありませんでした。
journalのコピーもパラパラと見ただけで手元にありませんが、1-999までのロットはどのような製品か記載されているか、とおもいますが。
こんばんは。
” Louis Lot Company Journals ”のコピーは持っていますが、
盗難だかで紛失しているものがあり、全てのロットの情報が載っているのではありません。
第1巻にしても#2から数字が飛んで次に出て来るのは#14だったりします。
書き忘れもあるかもしれませんし、書き間違いもあるように思います。
年代で言えば、1865-1886と1893-1918と1931-1951は手元にはありません。
私の持っている楽器も修理の記録があったりと、その程度ですよ。
その1から3までの価格表の翻訳、とても面白いですね。
これを見て1フランが今の円でどの程度になるか気になりました。ググッてみたら、
http://homepage3.nifty.com/stellarium/tawagoto/franc.html
に19世紀の1フランはだいたい1000円、とありました。元ネタの本の、鹿島茂の「馬車が買いたい!」が手元にあって読み直したところ、19世紀、王政復古、七月王政、第二帝政、第三共和政と変わっても、パン1kgの値段が5から8スー(1フラン=20スー)でほとんど変わらなかった、とありました。1990年当時のフランを円に換算してだいたい1000円という数字がでています。こんな換算をしながら「赤と黒」「感情教育」「ゴリオ爺さん」などを読み直したいです。
別の見方ですが、1803年から1914年までは金本位制で、1フラン=金9/31gと決まっていました。金価格は最近高騰していますが、金1gを4000円とすると1フラン=1161円で、大きな違いはないかもしれません。ランパルが、がらくたのような金のルイ・ロットをのみの市で買ったとき、同じ重さの金と交換した、という話がわかったような気がしました。
あと個々のリプライですが、
1)手元にあった2代目の#27xxの洋銀のリッププレートは洋銀だったような気がしています。ホールマークはないし、価格表の記載はずいぶん後になってからですし。
2)植村さん所有の初代の楽器はguillocheのはいった金のリッププレートでした。入手した方がこの楽器を誰に吹いてもらうのが一番いいか考えて、植村さんに紹介した、と話していました。
それでは。
取り急ぎランパルの件のみ。
ランパルのあの楽器は蚤の市で見つけた物ではなく、
ランパルのお父さんジョゼフの知り合いの古物商が持ち込んで、買い取ったものと
ランパルの自伝にはそう書いてあったはずです。
それでは。
ランパルのロットの件ですが、私も勘違いしていました。
ランパルと1948年に知り合いになった古物商ランベールが、ある日ランパルに中国製の金のフルートをつぶそうと思うと言ったのだそうです。
それがロットによって作られ中国に輸出された金のフルートとわかったので、
お父さんのジョゼフが徹夜で修理、組み立てをして、
それをナポレオン金貨(24K)1ポンド分と交換したのだそうです。
無知な古物商につぶされなくてよかったですね。
それにしてもランパルの強運、凄いですね。
90%であっても本位金貨として認められていたため、勝手に鋳造、融解することもできたらしいです。このあたりはwikiの読み漁りです。
>1)手元にあった2代目の#27xxの洋銀のリッププレートは洋銀だったような気がしています。ホールマークはないし、価格表の記載はずいぶん後になってからですし。
それは初代のものにホールマークがないのと同じで判断材料としては確固たるものではないように思います。
ホールマークをロットで何年から入れるようになったのかが分かればはっきりするかもしれませんが、
価格表の記載といっても洋銀の楽器に「銀のリッププレート」とは書いてありません。
オプションで
【頭部管 円筒管フルート用洋銀製、銀メッキ、銀の純分度認証極印入りリッププレート付き】
と載る前の洋銀の楽器でもホールマーク入りのリッププレートを見たことがありますし、
私の推測ーーー【全て洋銀製ならばリッププレート銀のオプションがあってもいいはずなのにそれが無いのは
元々リッププレートは銀製だったから】ーーーが合っているのならば、
わざわざカタログに載せることをしなかったのだと思います。
私、個人的にはホールマークを入れるようになる前のものでも、それもリッププレートは銀だったと推測します。
>金本位制は1914年まででしたが、金のロットの購入のころもまだ習慣のように残っていて、同じ重さの金での物々交換になったのかな、と想像しています。
ランパルの記述によると、ロットの18Kのフルートは1ポンド以上の重さがあって、
ランベールには代価としてナポレオン金貨1ポンド分を要求されたとあります。
それを用意するのは容易ではなかったそうですが、ランパルの奥さんのおじいさんが力を貸してくれたそうです。
ランベールは18Kのロットを溶かして金塊にでもしたかったのでしょうけど、
結果としては24Kの金になったので得をしたことでしょう。
ランパルもこれ以上の得をしたことはないのではないでしょうか?
重さで物々交換といっても、ロットから楽器を買うのに材料の重さだけで、というワケにはいかないでしょうから。
それに現存する唯一の金製のロットですからね。