成澤宗男の世界情勢分析

米国の軍産複合体の動向と世界一極支配に向けた戦略を、主流メディアとは異なる視点で分析。真の平和への国際連帯を目指す。

イスラエルと「テロリスト」との秘めた関係②

2020-10-17 19:32:13 | 日記
 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は2018年7月11日、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と会見後にモスクワで記者会見した際、以下のような発言を残している。
「シリアのアサド政権との間に問題はなく、(イスラエルが不法占拠しているシリアの)ゴラン高原ではただの一発の銃弾も発射されていない。……(シリア戦争には)介入しないし、介入してこなかったという明確な方針を持っている。この方針に変化はない。イスラエルを悩ませているのはIS(イスラム国)とヒズボラであって、これも変わらない。問題の核心はイスラエルを攻撃しようとするいかなる者に対しても行動の自由を保持し、そして次にシリアからのイランの撤去だ」
 米国と同様、戦争犯罪の常習国は虚言を弄するのが特徴だが、イスラエルがシリア戦争に「介入しない」というのは、前回の記事で示したように事実に反する。しかも「ただの一発」どころか、ゴラン高原ではイスラエル軍がシリア政府軍に発砲・砲撃した例は数多く報告されている。
 それに、ヒズボラのみならずイランもシリア政府の正式な要請で参戦しているが、イランの「撤去」を意図するのであれば「介入」するしかないというのが、本音の理屈だろう。しかも、イスラエルがいくら「行動の自由」を標榜しても、国家のそれは、当然ながら「紛争の平和的解決」を定めた国連憲章第6章の諸規定に拘束されるはずだ(イスラエルは国際法など最初から眼中にないだろうが)。ネタニヤフがこれほどまでにウソと矛盾に満ちた発言を口にするのも、一歩国外に出れば、少しは「後ろめたさ」を感じてストレートに意思を表明できないという事情があるかもしれない。
 いずれにせよイスラエルは「介入しない」ころか、外部から武装勢力を侵攻させてシリアの政権を打倒する間接侵略を担う、米国を筆頭とした国家群の一員に他ならない。イスラエルのシリア戦争への「介入」については、米の外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の電子版に18年9月6日に掲載された「シリアの反乱勢力を支援するイスラエルの秘密プランの内幕」と題した記事が詳しい。以下、その引用の一部だ。
「二十数人のイスラエル軍の司令官クラスと一般兵によれば、この数年間、イランが支援する戦闘員やイスラム国(IS)の戦士がイスラエルの国境付近に陣取るのを防ぐため、シリア南部で少なくとも12の反乱勢力のグループに武器と資金を秘密裏に供与した」
「軍事的支援は、この7月に終了したが、ライフルや機関銃、迫撃砲、そして輸送用車両の供与が含まれていた。イスラエルの諜報機関は、シリアのイスラエル占領下にあるゴラン高原とシリア領土の間の境界線に接する3つのゲートを通じ、(武装勢力に)武器を供与した」(注1)
 この記事は、12の「グループ」をすべて特定していないが、イスラエルは各自一人当たり「75ドル」を支給。そして、欧米が「穏健派」だとして「公認」している「シリア自由軍」(SFA)と「連携する勢力」には、米国製M16ライフルを供与したという。

明るみに出た「アルカイダ」との結託

 だが、シリア戦争で「穏健派」と「(イスラム)過激派」の区分は困難で、SFAもキリスト教徒やアッシリア人、アルメニア人等を残忍な方法で虐殺したことで知られる悪名高い。現在はトルコの傭兵と化しているが、アラブ世界で最も宗教の自由を確立しているシリアの現政権を転覆するため、こうしたSFAや祭政一致の原理主義勢力を公然と支援した「キリスト教国家」の欧米の姿勢は、改めて問われるべきだろう。
 しかもイスラエルの支援対象は、現実の戦闘現場で「穏健派」にのみ留まるはずがなかった。イスラエルの軍事・情報のインターネットサイトで、同国諜報機関と密接な関係を有するとされるDEBKAfileは、すでに14年8月28日付の「イスラエル軍はゴランとガザでアルカイダの複雑な策略に巻き込まれた」と題した記事で、以下のように報じている。なお、当時は南部の都市・クネイトラから通じる、シリア領土とイスラエル占領下のゴラン高原を結ぶ回路をめぐっての激戦が続いており、イスラエルは武装勢力の支援が迫られていた。
「イスラエルは米国及びヨルダンと共に、シリア南部で戦闘中の反乱勢力を支援する機構の一員として、行動していた。この3国の活動は、米国防省がヨルダンのアンマンに昨年設置した戦争指令室を通じて、調整されていた」
「戦争指令室に配置された3国の諜報員は、協議してどの勢力の一派がヨルダンで運営されていた特別訓練キャンプで支援が施され、武器を受け取るかを決定した」
「3国の政府は、自分たちの懸念にもかかわらず、軍事支援のいくらかはシリアのアルカイダであり、反乱勢力に交じって戦闘を繰り広げていたアル=ヌスラ戦線に行き渡ることになるのを完全に理解していた。どの政府も、自分たちがシリア南部でアル=ヌスラ戦線を武装化させているという事実を認めることに心が休まらなかった」(注2)
 結局、クネイトラの回路は14年8月にアル=ヌスラ戦線(現シャーム解放機構)によって制圧されるが、この記事によると、イスラエルはその旗がゴラン高原のイスラエル占領地の反対側に翻っているのを見て、「新たなジレンマに直面した」とある。「心が休まらなかった」等の弁解じみた記述も目につくが、イスラエルの「武器、情報、食料」等の対武装勢力支援の中に、「テロリスト」「過激派」と呼ばれているアル=ヌスラ戦線が含まれていた事実を、同国の諜報機関が事実上認めたのは間違いない。一方でこの記事とは異なり、アサド政権打倒を最優先した米国やイスラエル及びその随伴諸国が、武装勢力の中で最強の戦闘力を発揮したアル=ヌスラ戦線の支援に躊躇したような気配は乏しい。

公然たる「テロリスト」への武器供与

 なお、こうしたDEBKAfileの情報を元に、フランスの週刊の風刺新聞として知られ、これまで幾度も国家の機密情報を暴露してきた『カナール・アンシェネ』紙は14年12月9日付で、「イスラエルがアルカイダの一派のアル=ヌスラ戦線に武器を供与している」という内容の記事を掲載した。そこではこうした情報の信ぴょう性について、米国や英国と共にシリアの間接侵略の秘密作戦を担当した「対外治安総局」(DGSE)の一員と推測される匿名の諜報機関高官に「確認した」とある。そしてこの高官は、イスラエルについて「アルカイダのイスラム過激派組織内に、世界で最も潜入している国だ」とコメントしている。
 DEBKAfileは翌15年の5月4日付で、「米国とイスラエル、トルコ、ヨルダン、カタール、アラブ首長国連邦がシリアのアルカイダ支部を武装化して、アサドが戦闘に敗北」と題した記事を掲載するが、そこでは「政府軍に対する勝利を勝ち取りつつある反乱勢力の側に、戦争の趨勢が傾いている」という当時の安心感からか、より公然とイスラエルによる「シリアのアルカイダ支部」への支援を追認している。(注3) 
 記事では、タイトルに登場する国々にサウジアラビアを加えた武装勢力支援国が供与した戦車から装甲車、重機関銃、ロケット弾、対戦車ミサイル等々に至る膨大な量の兵器を列挙し、その受領側の筆頭にアル=ヌスラ戦線を挙げている。さらに他にも「シャーム自由人イスラム運動」等の「穏健派」を含む4つのグループを登場させているが、すべて何らかの形でアル=ヌスラ戦線と系列を同じくしたり、共闘関係を有している事実を指摘しているのは興味深い。
かつその上で、「イスラエル政府筋は軍事支援が、アル=ヌスラ戦線の手に渡っている事実を認めた」と記載している。同時に、「(支援したアル=ヌスラ戦線は)ローカルな集団で、アルカイダとは独立して行動している」という政府筋の「弁解」も付け加えているが、さほど意味はないだろう。
 繰り返すように、戦場で「穏健派」と「過激派」の区分は不可能に等しいが、それでも米国が歴史に残るすさまじい物的損害・大量虐殺をもたらした「対テロ戦争」での「主敵」を、一転して「同盟諸国」と共にシリアの間接侵略に向けた軍事支援の最大対象とした事実は、改めてこの国の底知れない欺瞞性を如実に示している。このことは、「対テロ」を名分の一つにして対外侵略を繰り返しているイスラエルにも当てはまるだろう。しかもイスラエルの場合、武器供与を始めとする軍事支援国としてだけ振舞ったのではない。戦場でシリア政府軍と戦うアル=ヌスラ戦線を支援し、共闘していた事実も報じられている。

政府軍との戦闘で指令を発信

 その一例が、米ワシントンで運営されている中東問題専門サイトのAl-Monitorが 15年1月14日付で掲載した、「シリアでイスラエルとアル=ヌスラ戦線は攻撃において調整しているのか」という記事だ。そこでは、シリア南部のクネイトラの回路とその周辺における14年9月の激戦に参加した「モハメド・カシム」と名乗る反政府派戦闘員の証言が、以下のように掲載されている。
「クネイトラの奪取に向けた9月27日の戦闘に先立ち、攻撃を容易にするために、アル=ヌスラ戦線のリーダーとイスラエル軍の間で調整と協議が行なわれた。攻撃に一部加わったSFAの戦闘員によると、イスラエルはアル=ヌスラ戦線のリーダーに(ゴラン高原の)国境地帯とその北側の政府軍の戦略的駐留位置を示した地図を渡した」
「戦闘期間中、イスラエル軍はシリア政府軍の多くの拠点に烈しく砲撃を加え、こちら側の進撃を食い止めようとしたシリア空軍機を撃墜した」(注4)
 この証言は、記事に登場するクネイトラの攻防戦に敵側のシリア政府軍として参加した「ラミ・アル=ハッサン」という将軍のそれと共通している部分がある。将軍は、交戦相手を「殺し屋」(gunmen)と呼び、アル=ヌスラ戦線と特定してはいないが、当時の戦闘状況から同戦線と見なして支障はなく、「モハメド・カシム」と同じくイスラエル軍の参戦状況について触れている。
「イスラエル軍と殺し屋の提携による最初の結果は、クネイトラで生み出され、彼らは(ゴラン高原に通じる)回路を支配した。当時、イスラエル軍は「(シリア政府軍への)反撃」という名目で殺し屋のために援護射撃をし、シリア空軍が戦闘に加わるのを妨害して一機を撃墜して彼らを支援した。そして、シリア政府軍の増援に立ち向かうため、必要な装備を供与した」
 加えて同年10月には、クネイトラの南部に位置し、ゴラン高原よりヨルダン国境に近い都市のダルアーでも戦闘が激化し、クネイトラとダルアーを結ぶ要衝で、ゴラン高原を見渡せる高地にあるタル・アル=ハーラがアル=ヌスラ戦線とSFAを主力とした武装勢力によって陥落させられる。この記事によれば、陥落は「イスラエルの支援無くしては不可能だった」という。そして、「ガズワン・アル=フーラニ」と名乗るダルアーの反政府派戦闘員の証言を載せ、その理由を次のように解説している。
「タル・アル=ハーラの戦闘でのイスラエルの支援は、高度なレベルで、イスラエル軍が作戦計画、戦術、そして追撃に関するこの戦闘での裏の指揮官だった。イスラエル軍は通信で、瞬間、瞬間に戦闘員が何を成すべきかについての正確な指示を送っていた」
 前出の「モハメド・カシム」は、イスラエル軍が武装勢力に「通信機」を供与したことで、各勢力間の「交信を向上させた」と証言している。だがそれ以上に、イスラエル軍による戦闘での直接の作戦指揮に役立ったのは疑いない。つまりイスラエルは武器の供与に留まらず、恐らくは無人機による偵察や通信傍受等でシリア政府軍の位置、兵力を正確に把握した上でそれらの情報を「テロリスト」ら武装勢力に供与し、さらに戦闘の指揮を執っていたことになる。

「テロリスト」の勝利は回避されたが

 のみならず、イスラエル軍は戦場での指令に加えて、「ラミ・アル=ハッサン」の証言のように「援護射撃」や空軍機の撃墜等、アル=ヌスラ戦線やそれと共闘したSFAが優勢になるよう戦闘そのものに加わっていた形跡が濃厚だ。将軍もそうした具体例として、前述のタル・アル=ハーラに設置されていた、高所を利用してゴラン高原やクネイトラ一帯を偵察・監視するシリア政府軍の基地が、15年9月5日にイスラエル空軍機の攻撃によって破壊され、その約一か月後にアル=ヌスラ戦線とSFAによって占拠されたことを挙げている。将軍によれば、最初の空爆と次の攻撃が相次いだのは「偶然ではない」と述べている。
 いずれにせよ、ネタニヤフが口にするような「介入してこなかった」どころの話ではない。イスラエルはシリア南部で米国主導の間接侵略と政権打倒のため軍事介入したのであって、その結果自国にとって有利な戦況になった15年半ば当時、前出のDEBKAfile5月4日付の記事は、その満足感に浸る一方で、懸念材料が残されている事実も次のように認めている。
「米国やイスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、そして湾岸諸国やトルコによって遂行されてきた(政権打倒の)政策によって、素晴らしいものが生み出されると見なすのは困難だ。もしこうした国々が武装させた反アサド勢力が勝利した場合、アルカイダにつながる勢力がシリアの領土を侵食するか、あるいはダマスカスを代わって支配する結果が生み出されよう。シリアは、アルカイダの手に落ちる最初のアラブ国家になりかねない」
 自分で「テロリスト」を支援しておきながら、イスラエルが抱いたこのようなエゴイスティックな「懸念」は、ロシア空軍が同年9月30日に軍事介入したことで解消となる。ISやそれ以外のアル=ヌスラ戦線を始めとする武装勢力に空爆が加えられることで一挙に形勢が逆転し、当時、国土の大半が占領されるのを余儀なくされていたシリア政府軍はイランのゴドス軍やヒズボラと共に反撃に転じる。イスラエルが支援作戦を展開したシリア南部も、18年夏までにクネイトラとダルアーがシリア政府軍に奪還されて同地域はほぼ平定された。
 無論イスラエルだけに当てはまらないが、こうした「懸念」が存在したこと自体、シリアの間接侵略に加わった諸国の道義的正当性の欠落を雄弁に示していよう。ロシア空軍の介入がなかったならばこの「懸念」通りに、疑いなくシリアは「テロリスト」が闊歩する現在のリビア以上の収集困難な無秩序と破壊・殺戮が常態化する、破綻国家になっていた。それでもこうした諸国は、今でもアサド政権打倒は優先されるべき課題であったと見なしているのだろうか。
 同時に、イスラエルの虚言の裏にある隠された行動を追跡すると、欧米諸国の政府・主要報道機関が2001年の「9・11事件」以降、諸悪の根源の犯罪組織のように繰り返し宣伝していた「テロリスト」、あるいは「イスラム過激派」なる集団の実態も見えてくる。この意味でシリア戦争におけるイスラエルの役割の検証は、同時代の国際情勢の本質的把握を試みる側に有益な材料を提供しているのは間違いない。

(注1)Inside Israel’s Secret Program to Back Syrian Rebels   URL https://foreignpolicy.com/2018/09/06/in-secret-program-israel-armed-and-funded-rebel-groups-in-southern-syria/
(注2)Israeli forces caught up in Al Qaeda’s complex toils in both Golan and Gaza URL http://generalspeaking.blogspot.com/2014/08/israeli-forces-caught-up-in-al-qaedas.html
(注3)Assad loses battles as US, Israel, Turkey, Jordan, Qatar and UAE arm Al Qaeda’s Syrian branches  URL http://www.debka.com/article/24578/Assad-loses-battles-as-US-Israel-Turkey-Jordan-Qatar-and-UAE-arm-Al-Qaeda%E2%80%99s-Syrian-branches
(注4)Are Israel, Jabhat al-Nusra coordinating on attacks in Syria?  URL https://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/01/syria-opposition-daraa-israel-communication-nusra.html