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2013-09-18 14:04:57 | 日記
てきたんですか? 一度は逃げたのに――」

 それから、邇々芸の視線の先はゆっくりと下へ降りていく。擦り傷だらけになった狭霧の細腕や、膝から下があらわになった素脚や、引っかき傷や、葉の染みがついて黒ずんだ衣装など――。狭霧の姿をたしかめると、邇々芸は小さく肩で息をした。

「こんなに汚れて――大和の衣装でよかったら、すぐに替えを用意できますよ?」

「いいえ、身なりなんか――」

「そうかな? 大和の衣装も、きっとあなたに似合うと思いますよ」

 困ったものに呆れるように、邇々芸は苦笑する。それから、ゆっくりと狭霧へ歩み寄ると、「失礼……」と声をかけて、触れる許しを請った。

 恭しく伸びた邇々芸の指先は、帯にねじ込まれていた狭霧の裳の裾を引き出してみせた。http://www.cbbak.com


 つややかな絹布で仕立てられた裳は、足首までふわりと落ち、もとの形を取り戻す。邇々芸は狭霧を、土いじりをする農婦のような格好から姫君の姿へ、手ずから戻そうとした。

 その悠長な手つきを、邇々芸の背後に立つ穂耳が咎めた。

「邇々芸様――」

「わかっている。――支度をさせろ。たぶん事実だ」

「は」

 短くやり取りを済ませると、命令を受けた穂耳は、さっと身を翻して邇々芸のそばを離れていく。向かう先はおそらく、港。そこで、浜里を離れる手はずを整えにいくのだ。
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 穂耳の後姿を見届けると、狭霧はほっと胸をなでおろした。

 狭霧たちがいる場所は海から離れた高台だったが、潮騒がそこまで響き渡るほど、あたりはとても静かだった。それは、まだ夜が明けていないからだ。草樹も、虫も、風も、じっと息を潜めているように静かだった。

 朝の光は、まだここに届いていない。夜明けとともに攻め入ると高比古は狭霧へいったが、出雲軍がやってくる気配はまだなかった。

(間に合ったんだ――。邇々芸様たちは逃げ延びることができる……)

 一度消えてしまえば二度ともとには戻らない大切なものを、今度こそは守ることができた。よかった――。

 消えゆく穂耳の後姿を見送っていると、狭霧の目には涙が浮かんだ。そして、目尻の涙をそっと指でふく。

 狭霧を見下ろして、邇々芸は眉をひそめていた。一度邇々芸は、わからない……といいたげに首を横に振り、それから、ため息をついた。それは、まだ見ぬ敵に感嘆するようだった。

「尋ねてもいいですか? いったいあなたは、どうやって襲撃を知ったんですか?」

(どうやって?)

 狭霧は、答えに困った。それは、遠く離れた場所にいるはずの高比古が、彼に備わる霊威を使って狭霧に話したからだが――そのことをどう伝えればいいのか、わからなかった。

「この浜里のそばまで、窺見(うかみ)が忍び寄っていたわけでもないでしょう? だったら、あなたがここへ戻るのは難しかったはずだ。その窺見は、あなたを手放すまいと守るだろうから。ということは、ここに出雲の兵は来なかった。と、すると――? ……聞いたことがあります。出雲の禰宜(ねぎ)は事代(ことしろ)と呼ばれて、ほかの国の禰宜とは少し違った霊威をもつのだと――。あなたにここを襲撃することを伝えたのは、事代という名の術者でしょうか?」

 狭霧は表情をこわばらせた。無言でいる狭霧に、邇々芸はやはり苦笑した。

「僕が聞いた噂は、事実だったようだ。――もう一つ訊いてもいいでしょうか? 出雲軍はどこから来ますか? 海から、川から? 僕たちはどう逃げるべきかを知りたいのですが」

「――それは、川です。さっき、遠賀の大河を下っていると……」

「川――ふん……」

 邇々芸は、さも嫌気がさすといわんばかりに狭霧に横顔を向けた。それから、いま称

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2013-09-17 14:26:08 | 日記


(こいつが、伊邪那の王子)

 急に詰まって苦しくなった喉を訝しみながら、高比古はこみ上げた想いを胸で噛み殺した。

(恨むならおれを恨めよ、狭霧。大国主じゃない)

 それから、馬上から武具を見せつける武人たちを見回すと、命じた。

「連れていけ」



8章、天と、緑の手のひら (1)
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 輝矢が、母である王妃と十年ぶりに再会した場所は、牢屋のなかだった。輝矢の館には、王妃もともに閉じ込められることになったのだ。

 頑丈な扉が開けられて、なかに愛しい御子の姿を見つけると、王妃は駆け寄り、しがみつくように抱きしめて泣き咽んだ。

「……立派になって。つらかったでしょう。どうか母を許して……」

 輝矢はその顔を覚えていなかったけれど、見れば母なのだとわかった。面立ちは自分と似ていた。

 少なくとも、これまで輝矢の周りに溢れていた出雲の顔ではなかった。異国へ放り込まれて、たった一人の伊邪那(いさな)者として暮らしてきた輝矢には、亥月に出会ったときと同じ親しみがこみ上げた。いや、それ以上だ。

 輝矢に取りついて泣きじゃくる王妃の姿をたしかめると、番兵は無言で館の扉を閉める。

 再び閉ざされた館。いや、ここはすでに間違いなく牢屋だ。逃げようとして捕らえられたいまとなっては、わずかな平穏もここにはない。

 でも、輝矢に浮かぶのは柔和な微笑だけだ。

 自分の肩の上で温かい涙をこぼす母を抱き返しながら、輝矢はつぶやいた。

「どうしよう、母上。僕は不遇に慣れているようで、このようなかたちであなたと出会うことになったというのに、そこまで不思議にも思いませんし、悔しくもないのです。……ただお会いできたことが嬉しくて、幸せで……」

 戸惑いつつも、淡々と本音を語る輝矢に、王妃は悲鳴じみた泣き声をあげた。

 



 その日、目が覚めても狭霧の気分は浮かないままだった。

 臥所に注ぎ込んでくる朝日はまぶしくて、それは、まぶたを開けた瞬間に狭霧の目を覚ましてしまうほど明るかった。それなのに――。

 昨日もおとといもその前の日も、狭霧の目にも耳にも、高比古の引きつった顔や恐ろしい罵声がちらついて離れなかった。それで、高比古と顔を合わせてしまうのが怖くて、狭霧はここ数日、奥宮からほとんど出なかった。

 意宇へ出かけたという紫蘭と桧扇来はとっくに戻ってきているのに、兵舎にも足が向かない。あれだけ胸を焦がした「薬師(くすし)になる!」という思いは、すっかり委縮して小さくなっていた。

 薬のことをどれだけ覚えたって……。高比古や紫蘭たちのように不思議な力を持たない狭霧は、事代(ことしろ)になれない。なれるのはせいぜい下っ端の薬師だ。狭霧より能がある人などは大勢いるだろう。いや、狭霧が紫蘭たちのような事代から当たり前のように智恵を教わっているのは、狭霧が大国主の娘だからだ。狭霧がどう頑張ったところで、周りから見ればきっと遊んでいるようなものだ。とくに、高比古のような人の目から見れば。

 もと海賊……いや、海賊に浚われたという彼は、人知れずのたれ死んでいてもおかしくないほどの壮絶な過去を持ちながら、死に物狂いで今の地位を手に入れているのだから。


 でも。狭霧は唇を噛み締めると、ゆっくりと膝を立てて、立ち上がるしかなかった。

(それでも。わたしにはそれくらいしかできないもの)

 琥珀色の光が渦巻く渡殿に出て、飴色の木床を一歩一歩踏みしめて、狭霧はゆっくりと外を目指した。

(ただの道楽だって罵られたとしたって、またいつ罵られるかってこのまま隠れてるほうが、きっと恥ずかしいもの)

 むりやり自分にいい聞かせて、狭霧は

夕霧の背を見送った

2013-09-16 14:17:27 | 日記
くなった。
 限りとて忘れがたきをわするるもこや世になびく心なるらん*
あなたが私を忘れても、私は忘れないよ。
ずっと好きです。

夕霧は「ん?」と思った。
忘れるって何だろ
俺が雁を忘れるって意味かな?
俺返信遅いからなあ。怒らせただろうか。
夕霧忘れっぽい人ではないが
中務の宮のことはどうでもよすぎて、全く記憶から消えていた。
雁はそれを言っているのだが
んー?
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秀才にぶめだから、いまいちわかっていない。
彼女からの香りいい文を持ったまま
「んー」
しばらく首をかしげて見ている。31-1 執念きぞかし

三十一.藤裏葉
わが心ながら、執念きぞかし*―
夕霧はすこし感心すらしていた。
俺ってすごいよな
十八とか、煩悩まっさかりの頃だろ
それをたいしたロマンスもなく、涼しい顔で過ぎちゃって。
殴られたことを恨んでるってわけじゃないんだけど
伯父さんには、やっぱり少し近寄りがたい。
俺まだ宰相中将だしなブランド 激安

雁のこと好きだけど、好きだからこそ
きちんと責任果たしたいと思う。

そんな夕霧を応援してくれたのは、やはり祖母だった。
弥生、祖母の忌月の法要で
伯父内大臣と夕霧、久々に公式の場で一緒になる。
伯父は相変わらず、君達を引き連れて豪勢だった。
夕霧は少し離れた所で、派手ではないが、美しく座っている。
皆が帰り始めた夕暮れのこと
「なあ夕霧、まだ怒ってるのか?」
散る花を眺めていた夕霧の袖を、内大臣が引いた。
心なしか、以前より少し弱ってみえる。
「死んだ祖母さんに免じて許してくれよ。じっと待ってる雁を見て
るのは、つらいんだ」
夕霧は「おや?」と思ったが、丁寧な態度を崩さなかった。
「許すだなんて、そんな。許していただくのは俺の方です。ただ、
まだお怒りはとけてないのかと思って」
冷たい響きではなかった。レディース 時計 人気
緊張というか、戸惑いに近い。
内大臣は一瞬ほっと嬉しそうに笑うと
雨が降り出したので、急いで帰っていった。
伯父さん、あんな人だっけなあ。
何かもっと、強大な壁みたいに立ちはだかってる気がしたけど。
年をとって、考え方が変ったのだろうか。
夕霧十八歳
殴られた頃より、だいぶ背も伸びていた。
もう父に近い。
伯父さんの背が、心なしか小さく見えた気がした。
自分が伯父を脅かすほど立派に成長しつつあるということに
若者、まだ気づいていない。31-2 家族を得て

「あの人もついに頭を下げたか。長かったな」
「別に頭下げてはないけど。ただ宴に来ないかって」
「今まで無視してたお前を呼ぶこと自体、頭下げてるも同然だよ。
あの負けず嫌いの人がね」
光がふふふと笑う。
「で、行くの?」
「そりゃまあ」
「じゃあ思いきり着飾って行けよ。俺の服貸してやるから」
「え?」
別にいいよ、と夕霧は断った。
でも光は強引で、手持ちの中でも特に綺麗なやつを一揃え、
貸してやる。
「絶対着ろよ」
「なんで?」
「いいから」
光は念をおして、夕霧の背を見送った。
今日の宴は事実上の結婚式になるな。
それでもお父さんだけに、光はすばやく気づいている。

「何だ?親父のやつ…」
夕霧は悪態つきながらも、言われたとおり、光の服を着た。
背格好も同じくらいだから、さすがによく似合う。
伯父さんか
夕霧ほどの冷静男も、さすがに緊張していた。
葵と同じ色の瞳を澄ませつつ、ゆっくり内大臣邸へ入る。
「夕霧!」
家では柏木たちが、手をとって迎え入れてくれた。
何だ?このテンション
邸内もなんとなく綺麗だし
甥の俺を、下にもおかぬもてなし
なんか気味悪いな…
夕霧は警戒しつつ進んだ。
大学出でとても物知りの彼だが、結婚はいまだに経験がなかった。
だからこの、浮ついたおめで

邪魔したわ。そろそろ帰ろうか

2013-09-14 14:50:51 | 日記
おくと、はははと笑った。
「ひどすぎじゃね?何その「嫌なら帰れば」的な言いぐさは。言われた
女房が可哀想だよ」
「いつまでたっても寄こさないからだよ、こっちは真心から言ってんのに」
「にしたってひどいだろ。盗んだ犯人に帰れと言われりゃ世話はない」
蛍は杯を干すと、光に渡した。
白い酒をついでやる。
光は結局、紫の寝込みを襲うと
いと軽らかに抱っこして自邸に連れ去ってしまっていた。
付き添う乳母の困惑もどこ吹く風で
本人は至極すっきりした顔をしている。
「で、どうよ、愛姫の抱き心地は」
「悪くねえよ。変にプライド高くもないし、素直でよくなついてる」
光は杯に口をつけた。
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こうしてる間にも、その子のことが気になるらしい。
「光が元気になったのも、その方のおかげなんだね」
朱雀はやさしく笑った。
微笑の中に、光はついに好きな人を自邸に迎えたのか、
葵さんはどう思うであろうという、心配というか、切なさがある。
「素直でなつく、ね。そういう女なら慰めに最適だな」
蛍は目を細めて、遠くをにらんだ。
「俺だけじゃない、彼女のためでもあるんだ。俺たちは、親の支配を
こえる」
光は睫毛を伏せると、酒に映る月を見た。
「あの子も幼い頃、母に死に別れてるんだ。俺と同じ。父親がいるが、
継母のもとじゃつらい扱いを受けて、望まぬ結婚をすることにもなる
だろう。俺はあの子を、父親の政治の道具にはしたくない。もちろん、
変な男の慰みものにもな」
「だから俺がもらった、と言いたいのか。俺よりいい良人はいないと」
「ああ」
こくりとうなずくので、蛍は苦笑してしまった。
「そう」アイホン5 動画

ゆっくり杯をなめる。
「誰が見ても欠点のない貴女に育てあげて、きっと幸せにしてみせる。
俺にならできると思うんだ」
自信というより願望に近かった。
「そう」
蛍の表情は、やはり冴えない。

「お前さ、親をこえるって、どうこえるんだ」
「え?」
蛍の目が月の光に染まった。
金の瞳で彼を刺す。
「地位、財産、容貌…すべて生まれながらに与えられた幸福の中で、
その恩恵に浴しながら、どうやって超えるんだ?官位をきわめたとこ
ろで、それがお前の力だと言えるのか?本心から、親の、帝のおか
げがないと?」
光はつと黙った。au アイフォン5 料金
秋の虫が鳴いている。
「臣籍に下らされたり、望まぬ結婚をしたり、お前がいろいろ苦労
してるのは知ってるよ。だがその人は、誰かの代りじゃないのか。
かなわぬ恋を慰めるための、誰かの…」
「そんなこと」
言いさして、光は黙った。顔がこわばっている。
「お前ならさ、うれしいか?誰かの代りに愛されて、自分を見る目の
中にその人の面影を探されて、それでしあわせと言えるか?」
「黙れ!」
思わず胸ぐらをつかまれても、蛍は動じなかった。
悲しそうに光を見る。
「彼女には俺が一番ふさわしいんだ。俺以外の男にとられるなんて
考えたくもない。だから決めたんだ、俺が幸せにするって、誰より
幸せにするって決めたんだ!」
「光…」
その剣幕に驚いて、朱雀は手を出せずにいた。
光が蛍をはなす。
「兄弟喧嘩は犬も喰わないってね」
蛍はすこし笑うと
「ごめんすー兄、邪魔したわ。そろそろ帰ろうか、光」
そう言って、座を立ってしまった。
光がぷいと従う。
大丈夫かな…
朱雀はすこし不安げに、二人の背を見送った。5-4 恋は盲目

「なんだよあれ、説教か」
光はまだ不機嫌そうだった。
すこしふくれて蛍を見る。
「わりいわりい、ちょっとやなことあってさ。気が沈んでた」
蛍は苦笑すると
「でもあれは本当だよ。その子はその子として、愛してあげてほし
いと思う」
やさしい目で光を見た。
「んなことわかってるよ」
「う

唇を尖らせて日女が嫌味をいえば

2013-09-13 09:57:11 | 日記
御津〉という奇妙な場所から遠ざかるため。

 それを、一行はよく理解していたが、逃避行は思った以上に進みがのろい。

 〈御津〉を探し当ててから、二日後の昼。

 一行の苛立ちは頂点に達して、武人の長、八重比古は、とうとう文句をいった。

「巫女どの。いったい何に脅えて、このようにいちいち止まるのだ。あなたの神威とやらを疑う気はないが、あまりに遅すぎる。これでは、いつ阿伊に――いや、杵築に辿りつけることか……」

 八重比古がため息をつくと、日女はかっと目を見ひらいて怒鳴った。
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「何も感じることができず、見えもしないくせに、口答えをするな! しかも、私の神威とやらを疑う気はないが、だと? 口先ばかり、高比古様をお守りする武人の長とは名ばかりの、情けない男だな! 腹では私を疑っているから、そのようにいうのだろうが!」

「な、なんたる言い草――! 後日、神野の大巫女に、あなたの無礼を訴えてやるぞ!」

「無礼でも葡萄(ぶどう)でも勝手にしろ。大巫女ごときに告げ口されたところで、私は痛くもかゆくもない!」

 日女は、機嫌悪くつんと横を向く。

 狭霧は、慌てて八重比古を宥めた。
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「ま、まあまあ、八重比古さん。みなさんがお疲れなのはよくわかるのですが、こらえてください。わたしたちの中で一番疲れているのは、日女です。たった一人で、昼も夜も高比古とわたしたちを〈御津〉から守ってくれているんですから! ――たぶん」

 狭霧が割って入ると、八重比古は言い合いをやめるが、ぶつぶつと不服をもらした。

「そうであれ、いったいどれほど守られているかは、わかりかねます。まこと、目に見えないものを相手にする巫女というのは、ともすれば、人を騙す妖(あやかし)と紙一重。本当にそこにあるのかどうかもわからないのに、さも大変な仕事があるようにふるまうのですから、我々にはたしかめようもない」

 日に日に、一行の雰囲気は悪くなっていく。

 夜通し高比古を守って疲れていく日女が、疲労の八つ当たりがてらに苛立つのは早かったし、その日女を庇おうとしない高比古も、事を荒だてた。

 どれだけ世話を焼かれても、高比古は、日女を追い払おうとしたからだ。

「おまえなど顔も見たくない。おれの前に姿を見せるな」

「高比古、それはひどいよ。日女は――!」

「お言葉ではございますが、高比古様。私とあなたは、すでに形代の契りを結んだ仲。どこにいようが、私とあなたは、誰より深い場所でつながっているのですよ? 出雲一の力をおもちの事代であられるあなたともあろうお方が、今さら何をおっしゃっているのか――」

 唇を尖らせて日女が嫌味をいえば、高比古は舌打ちをした。

「おまえとつながっているだと? 考えただけでへどが出る。――さっさとどこかへ消えてくれ」

「――高比古様。私にも、切れる堪忍袋の緒があるのですが……!」

「お願いだから、みんな、落ち着いて!」

 一行の歩みは遅く、丸一日かけて進んでも、〈御津〉へ行く前日に進んだ道のりを、まだ戻れていなかった。

 山道を抜け、谷道を降りて、山間の野にいきついたものの、一行の周りにあるのは、見渡す限りの手つかずの草むら。人が暮らす里など、まだ影も形も見えない。

 今も、そこで一行の足をとめた日女は、山で採った蔓を編んでしめ縄をつくっている。日女の手から伸びる蔓のしめ縄は、大人の背丈ほどには長くなっていたが、さらにその三倍は長くならないと先へ進めないことを、一行は、前日のうちに覚えていた。

「また待ちぼうけか――。いったい、いつになったら進めるんだ……」

 武人たちは、地面に腰を落として背を丸めている。