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おれが地獄を見せる

2013-09-26 14:20:39 | 日記
手足の指全部切り落とし、背骨を砕け。そして、生きたままに厠の底に投げ捨てろ」
「投獄されている中務丞親子は如何いたしますか」
「それはいい。おれが地獄を見せる」
 牛太郎は柴田権六譲りの太刀を手に取ると、瞳孔を広げたまま腰を上げた。
本話にはこれまで以上に残虐で残酷な描写があります。心臓の弱い方や、その他ショッ

ク症状を起こす可能性のある方は閲覧しないでください。

本話をご覧になったことにより生じたいかなることについても作者はその責任を一切負

いません。

 雪はようやく止んだが、依然、冷えていた。澄み切った群青の空に、月はこうこうと

映えており、月光に縁取られた白い吐息がいつまでも形を保ったままに流れていく。
 庭隅の堀穴の厠にやって来た柴田軍団与力の徳山孫三郎は、股引を下げ、小刻みに震

えつつふんどしから一物を取り出すと、じょろじょろと小便を垂らした。
 瞼を閉じながら、恍惚の吐息をつく。
 孫三郎は、はた、と、瞼を開いた。瞳を点にして、耳を澄ます。
 うめき声がどこからともなく聞こえてくる。
 あわてて小便の残りを切った。あわてて股引をずり上げた。右に、左に、顔を向ける

。誰の姿もない。
 背筋を凍らせながらゆっくりと厠をあとにした孫三郎。一度、庭奥に振り返る。
 うう、うう、と、確かに呻きはあった。
「ひいっ!」
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 孫三郎は駆け逃げた。これでも齢は三十二であった。
 かがり火のもと、取り乱した形相で雪を踏み鳴らしてくる彼を、たまたま、徳山家の

従者が見つけた。
「どうしたんです、殿」
「怨霊だっ。怨霊が厠に現れたっ」
 と、従者の裾にすがりついて、土岐源氏の支流とは思えないありさまである。従者は

まったく情けない主人に冷ややかな目を向けつつ、
「だったら、その怨霊、引っ捕えてやりましょうよ。またとない武勇じゃねえですか」
「ば、馬鹿っ、やめろっ」
 いさめる孫三郎の言葉をよそに、従者は袖をまくって意気揚々と厠に向かう。
「お、お前、俺が法螺を吹いているとでも思っているな」
 従者の裾にしがみつく孫三郎。
「いやいや、殿が法螺を吹く御仁だなんて思っちゃいやしませんよ」
 二人は雪をざくざくと鳴らしながら庭奥にやって来る。
 二人とも、足を止めた。
「ほら、法螺じゃなかろう」
 従者の顔つきはようやく引きつった。ごくりと固唾を飲み込む。二人は寄り添いなが

らさらに厠に近づいていく。
「と、殿」
「な、なんだ」
「こ、これは厠の穴からじゃねえですかい」
「た、確かにそうだ」
「ぼ、亡霊なんかじゃねえんじゃ。ただ単に誰かが落っこちちゃっただけなんじゃ」
「た、確かにそうかもしれん」
 孫三郎と従者は鼻をつまみながらゆっくりと堀穴に近づいていく。
「こんなに大きかったでしたっけ」
「いや。言われてみれば、ずいぶんと穴が大きいし深い」
 そうして、従者は糞尿が撒き散らされた穴の底に、おい、と、呼びかけた。
「誰かいるのかあ」
 すると、問いかけに答えるかのようなうめき声が返ってくる。孫三郎と従者は顔を見

合わせる。
「お前、人を呼んでこい。あと、梯子だ」
 従者は頷いたあとに駆け出していき、孫三郎は穴の底へ励ましの言葉を与える。やや

もすると、徳山家の従者たちや兵卒たちが十人ほど集まり、暗い穴底に縄梯子を下ろし

ていった。
「しかし、なんだって、大聖寺城の厠はこんなに深いんだ。落ちてしまうほうも落ちて

しまうほうだが、自力では上がれぬではないか」
 などと、孫三郎は眉をしかめながら、おっちょこちょいが梯子を登ってくるのを待っ

た。しかし、

をたばかったのは簗田殿のそ

2013-09-25 14:23:53 | 日記
「六角をたばかったのは簗田殿のその舌ではありませんか」
 牛太郎はようやく気付いた。多羅尾老人はどうやら、織田軍の六角攻めのさい、織田の出方を探ろうとして牛太郎に近づいてきたさゆりに、逆に虚言を吹きこんだことを言っている。
 誤情報を鵜呑みにした六角勢は、織田軍の竹中半兵衛の鬼謀も働いたことにより、たった一日で駆逐されてしまうというさんざんな結果だった。
「そんなこともありましたっけねえ」
 牛太郎はにやにやと笑う。
「そういや、あのくのいちはどうしているんでしょう。もしかして、多羅尾殿の手下だったんですか。いやあ、いい女だったから、どうせなら会わせてくださいよ」
 多羅尾は表情こそほとんど変えなかったが、眉根だけに力を寄せて、むっとしているようだった。
「左衛門尉殿がおっしゃられている女は当家の者ではありませんでしたが、なかなか優秀な者で拙者も目をかけておりました。しかし、拙者も含む惣領たちに失態を責められ、女は八つ裂きに処されました」
「そりゃ残念だ」
 牛太郎はへらへらとしていた。

 翌日、牛太郎一行は小川城を立った。
 しばらく歩くと猟師姿の彩が後方からひっそりと現れた。
「ごめんね、あーや。野宿なんかさせちゃって」
 しかし、栗綱に並んで歩く彩は、視線を前方に据えたまま、唇に人差し指をすうっと当てる。
 目つきが真剣を帯びている。団子茶屋の看板娘の面影はまるでない。
 春の光が砕け散る林道、妙な静けさに包まれていて、鳥の声もない。かっぽらかっぽらと栗綱の足音だけが果てない山に吸い込まれていく。
「振り返らないでください。付けられています」
「えっ」
 と、牛太郎は思わず振り返ろうとしたが、
「旦那様っ」
 小さな声でたしなめられて、びくっと背筋をこわばらせる。
「ま、まことか、彩殿」
 弥八郎が視線だけを横に動かして、背後の彩に訊ねた。
「中忍が一人、下忍が三人います。姿を見てしまったら最後、仕留められてしまいますので、このまま伊賀の里までやり過ごしてください」
「あ、あーやは大丈夫なのかよ」
「私は、兄さんが抜けるときに筋目を通したので大丈夫です」
 とはいっても、生きた心地がしなかった。山は不気味なほどの静寂のうちに浸っているのに、何の物音も背後から聞こえてこない。ただし、見られている、という寒々しさはある。
 尾行してくる目的はなんなのか。
 四人は終始無言のまま山を下りていく。鬱蒼と生い茂る木々の中をうねうねと曲がりくねっていく細道で、いくら進めど視界は開けない。山の上から里を見下ろせてもいいものなのに、ひたすら山だった。
 人とすれ違うこともない。ただただ、背後を付けられている。
「旦那様は」
 治郎助が言う。
「こんなことばっかりなんでしょうか」
 牛太郎は緊張しっぱなしのため、喉が渇ききっていた。そうでもない、と答えようとしたけれど、なかなか声が出なくて、
「うん」
 としか言えなかった。
 坂はなだらかになった。
「あと少しの辛抱です」
 そんなこと言ったくせに、彩は腰に引っかけている鉈に手をかけた。それを視界にしてしまった牛太郎は顔を引きつらせる。
「おい、あーや」
「山を抜ければ伊賀の縄張りですが、もしかしたら――」
 伊賀に入る前に襲ってくるかもしれないということらしい。
「勘弁してくれよお」
「念のためです。大丈夫です。でも、もし襲われたら、旦那様は栗綱と共に伊賀へと駆け抜けてください」
 しかし、杞憂に終わった。洞穴を抜け出たようにして視界は一挙に開け、山々と田畑に囲まれる里の集落が目前にあり、それを光景にした途端、彩が大きな吐息とともにへたへたとその場に膝

はまたずっと岐阜に戻られないかと

2013-09-24 11:36:38 | 日記
梓の華奢な両肩を掴むと、潤んだ瞳をしっかと見つめる。
「あっしは死にませんし、岐阜を守るためにあっしは行くのです」
 素晴らしい男気であった。頼れる者の顔であった。なにせ、武田徳栄軒の死を知っているからこそ、こんな顔つきをできる。普段の牛太郎だったら武田を恐れるあまり、家を出て逃亡だ。
 無論、梓は牛太郎の茶番の真実を知らないから、唇をつぼみのように小さく開いて、すがりつくように、うっとりと牛太郎を見つめる。
「なにゆえ、そのような自信があるのじゃ」
「ここで死ぬぐらいなら、あっしは梓殿と一緒に暮らせていません。あっしと梓殿の縁は天が与えてくださった運命でございます。天があっしを見放すようなら、最初から梓殿はあっしのもとにおりません」
 この時代の女性――、とくに武家の箱入り娘などは生と死のはかなさに日頃から直面しているせいで、散りゆく花のようなみやびさに一種の憧れを持っていた。
 梓も例外ではなく、気取った場面の気取った言葉ほど胸を動かされるのだった。
「しかし、天はかようにもわらわと亭主殿を見ていてくれているのか。ときに天は罪のない者を見殺しにするではないか」
 梓の声はすすり泣きのように震えている。
 もしも、最初の妻が梓でなかったら、牛太郎は見事な女たらしになっていたかもしれない。
「殺し合いは人がするんです。人と人とが出会い、殺し合いをし、恋愛をするんです。でも、あっしと梓殿の馴れ初めは運命じゃないですか」
 ただ、牛太郎も牛太郎で自分で言っているうちにその気になってくる。
「あっしは梓殿がいるかぎり死にません」http://www.18aaz.com

 と、肩を掴む両手に力がこもった。
 まあ、牛太郎も梓に惚れていた。梓と出会うまでは不遇な恋愛を辿ってきたため、たとえ殴られ蹴られようとも、自分をここまで愛してくれる人は初めてだったので、その有難さを無意識ながらも素直に幸福に思っていた。
「夢のようじゃ。亭主殿はまたずっと岐阜に戻られないかと思っていたというのに」
 梓は牛太郎の胸にそっと頭を寄せる。
 枕を一つにした月影の部屋で、梓は牛太郎の腕に甘えながら、いくさはどうだったのかと訊ねてきた。太郎は元気なのか、危ない目には合わなかったのか、牛太郎自身はどのような槍働きであったのか。
 美しい妻との睦事のあと、闇にたゆたうような心地であった牛太郎の気分は、梓のその質問により、すっかり冷めた。
「太郎は元気ですし、危ない目にも合っていませんし、あっしもそれなりに活躍しましたが――」
 おもしろくないことを思い出してしまった牛太郎は眉を八の字にして口を閉ざした。
 あのゲジゲジ眉毛野郎が。と、玄蕃允の高笑いが聞こえてくるようで、唸るような吐息をついた。
「どうしたのじゃ」
 さすがに、何度か寝夜を共にしているだけあって、梓は夫の胸の内がだいたい感ぜられるようになっている。
「何か、よからぬことがあったのか。何かあったなら、わらわに申してみよ。聞くことしかできぬかもしれぬが、わらわはいつでも亭主殿の味方じゃ」
 牛太郎は再度溜め息をついた。
「実は、玄蕃允とかいう馬鹿が――」時計 ブランド レディース
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 と、牛太郎は愚痴った。ただの愚痴であって、これを言ったところで、どうにかなるとは思ってもいなかった。
 そういうつもりではなかった。そういうつもりでは。
「なんじゃと!」
 突如として梓は血相を変えて体を起こし、その細い眉は鬼のごとく吊り上がっていた。
「あやつがかような無礼を働いているというのかっ! なんていうことじゃ。なんていう柴田の恥さらし者じゃ。叔父御にかような無礼を働くとはなんていうことじゃ」
 あわわ……。
 梓が握り拳を作ってわなわなと震えている。
とんだ跳ねっ返

王子が処刑された後に

2013-09-23 14:45:35 | 日記
つくれるでしょう? どうして、なにもしないうちから……」

「そんなものは些細な理由だよ。要は、おれがあの人の持ち物を奪ったか、そうでないか。おれは、あの人の一番大事なものを無断で奪った。そんなの――殺される覚悟がないと、おれがあの人にたてつくなんて無理だよ。あんたの親父は、おれが服従してる相手なんだから」

「わたしが、とうさまの持ち物? わたしはそんなじゃ……!」

「そうなんだよ。あの人にとってはそうなんだ」

 高比古が、わずかたりとも躊躇いを見せなかったせいか。狭霧は問いを変えた。

「なら、一緒についていってもいい?」

 高比古は、すこし悩んだ後で答えた。

「いいよ。あんたも当事者だもんな。でも、口は挟むなよ」

「絶対に、いや。あなたまで目の前で失うくらいなら、わたしだって死ぬ気で抗う」

 狭霧の目は、命を賭けるふうだった。

 むしろ、狭霧のほうが高比古より命を賭け慣れているというふうで、眼差しは、呪いを跳ね返す奇妙な壁のように見えた。

「どうして、あんたまで命を賭けてくれるんだ。そんなのは、馬鹿な真似をしたおれだけでいいのに。どうして、おれを恨まないんだ? おれはあんたを、おれのわがままに付き合わせたのに……」

 心から不思議に思ってつぶやくと、狭霧は思い切り眉山を寄せて、睨んだ。

「いまさらなにをいっているのよ、あなたは――!」

 強い眼差しは高比古を責めていて、迷いめいたものは、狭霧の顔にほんのひとかけもなかった。

 その理由に、高比古はすぐに気づいた。

 狭霧はかつて、想い人を目の前で亡くしている。その王子を殺したのは父、大国主で、高比古もその場でそれを見ていた。その王子が処刑された後に、気を失った狭霧が生きたまま魂を飛ばして死にかけた姿も、高比古はよく覚えていた。

 狭霧は怒っていた。でも――。

「――ごめん。それでも、いまのおれに、生きようとは思えない」

 涙目で睨みつける狭霧へ、高比古ができたのは苦笑で応えることだけだった。

「頭ではわかってるんだ。こんなことしかいえなくて、ごめん……。幸せにしてやるっていえなくて、ごめん。こんなことをして、この後本当におれが殺されたら、あんたを哀しませて、そのうえ、なにもかもがめちゃくちゃになるのに――。おれは、とてもわがままだ。でも、あんたが欲しくてたまらなかった。手に入るのはたった一晩だけかもしれないとは思ったが、それでも……」
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 一度、高比古は言葉を濁した。でも、じわじわと温かな笑みを浮かべながら、正直に告げた。

「一晩あんたといて、家族がいる幻を想像してしまった。家族なんておれは知らないのに、とても幸せだったんだ。あれほど満足したのは、昨日がはじめてだった」エクスプローラー1
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 狭霧は、眉をひそめて目を逸らした。

「家族? たった一晩の家族なんて、なんの意味もないわよ。なんの意味も……」

「そんなふうにいうなよ。おれは満足してたんだから」

「わたしは絶対に満足しない。たった一晩だけの幸せなんか、誰が……」

 狭霧の目に、涙が溢れた。その涙を押しつけるように、狭霧はぎゅっと高比古に抱きついた。

「悔しい――」

「え?」

「悔しいよ。どうして……! あなたのことを、いつからこんなに好きになっていたんだろう。昨日までと、全然ちがうの。いったいなにが起きたんだろう? 会ったばかりの時なんか、わたしは、高比古のことなんて大嫌いだったのに――」

 狭霧が、二人が出会った頃の話を始めると、高比古はその耳もとでくすっと笑った。

「それは、うん。おれも同じだ。おれは、あんたのことが大嫌いだった。あんた以上に嫌いだと思った奴は、後に

いつのまにか狭

2013-09-22 14:30:18 | 日記
ぁ?

「阿多の都へ? と、いうことは……」

 出雲は、阿多隼人族との繋がりを本格的に深めていくつもりなのだ。東で力をため込む大和という国への牽制のために――。

 息を飲んだ高比古を見下ろす矢雲の顔は、まだ笑っていた。

「ああ、どうにかなるまで出雲には帰るなとのことらしい。まったく、人使いが荒いんだよ、あのお方は」

 くすくすと笑う仕草も、まだ余裕めいている。

 だが、一度唇を閉じると、真面目な眼差しで高比古をいたわった。矢雲の仕草は、兄じみていた。彼は高比古に、出雲という大国の須佐乃男という家長のもとで、共に鍛え上げられる弟のように接していた。

「だから、彼女の行く末は私が見届けてくるよ。きみは、国で私が戻るのを待っていてくれ。戻っても、彼女は平気だとしかいわないかもしれないが。そういうわけで、安心していいよ」

 高比古は、くしゃっと眉根をひそめて苦笑した。

「……ありがとう」http://www.2014sh.com


「ああ。じゃあ、出雲で」

 矢雲はにやっと笑って別れの挨拶を告げ、軽く手をあげた。




 雑木林で肩を並べて、夕空のもとにたたずんで以来、高比古と狭霧は、時おり思い出したように隣り合ってなにかを話すことが増えた。

 真浪(まなみ)や火悉海(ほつみ)とも、道のどこかで出会うたびにもそういうことが起きたが、高比古にとってのそういう話し相手は、少しずつ増えていった。

 それは、高比古が人といることに慣れたせいだが、そうやって人と打ち解けるのを少し愉しむようになった高比古に、狭霧や、周りの人も慣れていったのだ。

 出雲の帆船が、とうとう宗像を発つ日。
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 その日も、高比古は狭霧のそばにいた。居心地悪そうに、仏頂面をしていたが。

 宗像の港は、出航を間近に控えた出雲の船に乗り込もうとする船乗りや従者たち、それから、見送りにやってきた大勢の人で賑わっていたが、とくに華やかに目立つ集団がいた。宗像の女たちだ。

 高比古の妃として出雲へ旅立つことになった幼い姫の見送りにやって来た女たちで、色とりどりの衣装に身を包む女たちの輪には、泣き声もある。しんみりとしていて、人はわざわざ近づかないので、女たちがそこですすり泣いている光景は、雄々しい港では異質だった。

 高比古も例外ではなく、そこから遠ざかるように狭霧にくっついていた。

 でも、あえて目を向けようとせず、まるで目に入らないもののように女たちのすすり泣きを無視する高比古を、さすがに狭霧はたしなめた。

「……ねえ、あなたのお妃を迎えにいってきたら? どうしてここにいるのよ。逃げるみたいに」

 話す機会が増えるということは、互いに遠慮がなくなるということだ。

 狭霧が高比古を見る時にする、まるで出来のいい兄を見るような目は変わらなかったものの、いつのまにか狭霧は、高比古をたしなめる第一人者になっていた。

 しかし、高比古は文句を言われるのを嫌う。

「逃げてなんか……」

「じゃあ、どうしてこそこそしているのよ。まるでわたしの陰に隠れるみたいに」

 たしかに高比古は、宗像の女たちの視線から遠ざかるように狭霧のそばにいた。大切な宝を守るように心依姫(ここよりひめ)を囲む女たちの輪から、「婿君、お願いしますよ」という視線を突きつけられるたびに、わざとあさってのほうを向いていた。

「迎えにいけといっても――今はまだ、あの姫も別れを惜しんでいるところだろう? それに、おれだって、心の整理がまだ……」

 隣り合って話すのに抵抗がなくなったとはいえ、高比古が腹にあるものを洗いざらい狭霧に漏らすことはなかった。だが、狭霧には、なぜかいろいろなことがよくばれた。

「心の整