手足の指全部切り落とし、背骨を砕け。そして、生きたままに厠の底に投げ捨てろ」
「投獄されている中務丞親子は如何いたしますか」
「それはいい。おれが地獄を見せる」
牛太郎は柴田権六譲りの太刀を手に取ると、瞳孔を広げたまま腰を上げた。
本話にはこれまで以上に残虐で残酷な描写があります。心臓の弱い方や、その他ショッ
ク症状を起こす可能性のある方は閲覧しないでください。
本話をご覧になったことにより生じたいかなることについても作者はその責任を一切負
いません。
雪はようやく止んだが、依然、冷えていた。澄み切った群青の空に、月はこうこうと
映えており、月光に縁取られた白い吐息がいつまでも形を保ったままに流れていく。
庭隅の堀穴の厠にやって来た柴田軍団与力の徳山孫三郎は、股引を下げ、小刻みに震
えつつふんどしから一物を取り出すと、じょろじょろと小便を垂らした。
瞼を閉じながら、恍惚の吐息をつく。
孫三郎は、はた、と、瞼を開いた。瞳を点にして、耳を澄ます。
うめき声がどこからともなく聞こえてくる。
あわてて小便の残りを切った。あわてて股引をずり上げた。右に、左に、顔を向ける
。誰の姿もない。
背筋を凍らせながらゆっくりと厠をあとにした孫三郎。一度、庭奥に振り返る。
うう、うう、と、確かに呻きはあった。
「ひいっ!」
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孫三郎は駆け逃げた。これでも齢は三十二であった。
かがり火のもと、取り乱した形相で雪を踏み鳴らしてくる彼を、たまたま、徳山家の
従者が見つけた。
「どうしたんです、殿」
「怨霊だっ。怨霊が厠に現れたっ」
と、従者の裾にすがりついて、土岐源氏の支流とは思えないありさまである。従者は
まったく情けない主人に冷ややかな目を向けつつ、
「だったら、その怨霊、引っ捕えてやりましょうよ。またとない武勇じゃねえですか」
「ば、馬鹿っ、やめろっ」
いさめる孫三郎の言葉をよそに、従者は袖をまくって意気揚々と厠に向かう。
「お、お前、俺が法螺を吹いているとでも思っているな」
従者の裾にしがみつく孫三郎。
「いやいや、殿が法螺を吹く御仁だなんて思っちゃいやしませんよ」
二人は雪をざくざくと鳴らしながら庭奥にやって来る。
二人とも、足を止めた。
「ほら、法螺じゃなかろう」
従者の顔つきはようやく引きつった。ごくりと固唾を飲み込む。二人は寄り添いなが
らさらに厠に近づいていく。
「と、殿」
「な、なんだ」
「こ、これは厠の穴からじゃねえですかい」
「た、確かにそうだ」
「ぼ、亡霊なんかじゃねえんじゃ。ただ単に誰かが落っこちちゃっただけなんじゃ」
「た、確かにそうかもしれん」
孫三郎と従者は鼻をつまみながらゆっくりと堀穴に近づいていく。
「こんなに大きかったでしたっけ」
「いや。言われてみれば、ずいぶんと穴が大きいし深い」
そうして、従者は糞尿が撒き散らされた穴の底に、おい、と、呼びかけた。
「誰かいるのかあ」
すると、問いかけに答えるかのようなうめき声が返ってくる。孫三郎と従者は顔を見
合わせる。
「お前、人を呼んでこい。あと、梯子だ」
従者は頷いたあとに駆け出していき、孫三郎は穴の底へ励ましの言葉を与える。やや
もすると、徳山家の従者たちや兵卒たちが十人ほど集まり、暗い穴底に縄梯子を下ろし
ていった。
「しかし、なんだって、大聖寺城の厠はこんなに深いんだ。落ちてしまうほうも落ちて
しまうほうだが、自力では上がれぬではないか」
などと、孫三郎は眉をしかめながら、おっちょこちょいが梯子を登ってくるのを待っ
た。しかし、
「投獄されている中務丞親子は如何いたしますか」
「それはいい。おれが地獄を見せる」
牛太郎は柴田権六譲りの太刀を手に取ると、瞳孔を広げたまま腰を上げた。
本話にはこれまで以上に残虐で残酷な描写があります。心臓の弱い方や、その他ショッ
ク症状を起こす可能性のある方は閲覧しないでください。
本話をご覧になったことにより生じたいかなることについても作者はその責任を一切負
いません。
雪はようやく止んだが、依然、冷えていた。澄み切った群青の空に、月はこうこうと
映えており、月光に縁取られた白い吐息がいつまでも形を保ったままに流れていく。
庭隅の堀穴の厠にやって来た柴田軍団与力の徳山孫三郎は、股引を下げ、小刻みに震
えつつふんどしから一物を取り出すと、じょろじょろと小便を垂らした。
瞼を閉じながら、恍惚の吐息をつく。
孫三郎は、はた、と、瞼を開いた。瞳を点にして、耳を澄ます。
うめき声がどこからともなく聞こえてくる。
あわてて小便の残りを切った。あわてて股引をずり上げた。右に、左に、顔を向ける
。誰の姿もない。
背筋を凍らせながらゆっくりと厠をあとにした孫三郎。一度、庭奥に振り返る。
うう、うう、と、確かに呻きはあった。
「ひいっ!」
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孫三郎は駆け逃げた。これでも齢は三十二であった。
かがり火のもと、取り乱した形相で雪を踏み鳴らしてくる彼を、たまたま、徳山家の
従者が見つけた。
「どうしたんです、殿」
「怨霊だっ。怨霊が厠に現れたっ」
と、従者の裾にすがりついて、土岐源氏の支流とは思えないありさまである。従者は
まったく情けない主人に冷ややかな目を向けつつ、
「だったら、その怨霊、引っ捕えてやりましょうよ。またとない武勇じゃねえですか」
「ば、馬鹿っ、やめろっ」
いさめる孫三郎の言葉をよそに、従者は袖をまくって意気揚々と厠に向かう。
「お、お前、俺が法螺を吹いているとでも思っているな」
従者の裾にしがみつく孫三郎。
「いやいや、殿が法螺を吹く御仁だなんて思っちゃいやしませんよ」
二人は雪をざくざくと鳴らしながら庭奥にやって来る。
二人とも、足を止めた。
「ほら、法螺じゃなかろう」
従者の顔つきはようやく引きつった。ごくりと固唾を飲み込む。二人は寄り添いなが
らさらに厠に近づいていく。
「と、殿」
「な、なんだ」
「こ、これは厠の穴からじゃねえですかい」
「た、確かにそうだ」
「ぼ、亡霊なんかじゃねえんじゃ。ただ単に誰かが落っこちちゃっただけなんじゃ」
「た、確かにそうかもしれん」
孫三郎と従者は鼻をつまみながらゆっくりと堀穴に近づいていく。
「こんなに大きかったでしたっけ」
「いや。言われてみれば、ずいぶんと穴が大きいし深い」
そうして、従者は糞尿が撒き散らされた穴の底に、おい、と、呼びかけた。
「誰かいるのかあ」
すると、問いかけに答えるかのようなうめき声が返ってくる。孫三郎と従者は顔を見
合わせる。
「お前、人を呼んでこい。あと、梯子だ」
従者は頷いたあとに駆け出していき、孫三郎は穴の底へ励ましの言葉を与える。やや
もすると、徳山家の従者たちや兵卒たちが十人ほど集まり、暗い穴底に縄梯子を下ろし
ていった。
「しかし、なんだって、大聖寺城の厠はこんなに深いんだ。落ちてしまうほうも落ちて
しまうほうだが、自力では上がれぬではないか」
などと、孫三郎は眉をしかめながら、おっちょこちょいが梯子を登ってくるのを待っ
た。しかし、