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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

とある二人の話。105

2018-06-22 | 財団関係者
 

 

「良いか!勝手に離れるなよ!」
「うん!分かってる!」
「この世界には危険が多いんだからな!」
「うん!ユノから聞いた!」
「こんな我が儘を聞き入れるのは…」
「早くいこ!ママ!!」



竜の言う事は絶対なのだろうか。散歩に行きたいと言い出した竜を保護者は説得する様子もなかった。しかも、空を飛ばず、歩きたいと言っても、過保護な筈の保護者は止めもしない。願いを叶えない方が問題だと言われ、渋々、連れ出す事を了承した。

勝手な行動をしても良いのか、研究員の彼女に聞こうかとも思った。でも、その必要はないと言われ、さっさと朝食を済ませた。大事な竜の散歩なら、当然、保護者も同伴するのかと思ったのに、二人で行けと言われた。


竜の身に何かあれば、僕の命はないらしい。そう言われた時、彼が間に割って入ったけど、問答無用だと切り捨てられていた。

彼には別の用件を熟すように言った保護者は、何かを企んでいる気がした。そこに疑問を抱いたけど、竜は全く、気に留めない。いつも空から見るだけだったこの世界を歩ける事が楽しみだと、無邪気に喜んでいる。

 


「じゃあ、行ってくるね、ユノ!」
「…ああ。気を付けろよ」
「お土産、買ってくるからね!」
「…ああ、楽しみにしている」

 

ニコニコと保護者に手を振った竜は、僕の手をしっかりと握る。彼は後片付けをしているらしく、姿が見えない。だから、僕は手を振る必要がなく、軽くむくれた。

 


 

会社にも行かず、呑気に散歩に行くだなんて、想像もしなかった。見える景色はいつもと同じなのに。違和感を拭えない。非日常的な出来事が連続しているせいで、まるで異世界に飛ばされたような奇妙な気分を抱えている。


 

「ねえ、ママ!良い天気で気持ち良いね~!」
「…ああ、そうだな」

幼い竜は本当に楽しそうな笑顔を見せる。

「あっ!ママ!あっちから良い匂いがするよ!」
「走るな!」


一瞬でも手を離すと、何処までも駆けて行ってしまいそうな竜を留め置く為に。しっかりと握った手は離さないでいた。

 

 

 

「ねえ、ママ!早く、早く!」
「そんなに急かすな!」
「だって!!」



良い匂いと言われても、ピンと来ない。グイグイと手を引く竜に主導権を握られている。急ぐ理由なんてないだろう。そう思いながら、手を離す訳にもいかず、僅かばかりの抵抗を試みていると、通りの向こうに…嫌な人影が見えた。


 

「あ!!MAXじゃないか!!」

 
見つかりたくないと願ったけど、天には通じなかった。いつもタイミング悪く現れる同期が駆け寄ってくる。握る手の先に視線を向け、竜に気付いた同期は一頻り驚いてから、余計な質問を投げてくる。



「君は…MAXの弟くん?」
「え?」
「親戚の子とか?でも、MAXによく似てるな…」
「ねえ、ママ!この人、誰?」
「ママ…? ママ!? え!? MAXがママっ!?」
「ねえ、ママ。この人、変な人?」



勝手に驚くなと言いたかった。慌てて勘違い発言を訂正して、誤解を解きたい所だ。


でも、それは無駄な事だと諦めたのは…学習したからだろう。きっと何を言っても、誤解は解けない。好き勝手な噂を広められる。容易に想像がつく。予想通りと言えば良いのか。同期は目を輝かせ、興奮状態になっている。



「MAXに隠し子が居たなんてっ!!父親はチョン君なの!?あ、でもそれだと…計算が合わないか…。って、もしかして、MAXとチョン君って、複雑な環境下のカップル!?」

 

「…ねえ、ママ」
「こいつの事は無視だ、無視!」


興味津々な様子の同期を放置して、竜の手を引き、歩き出す。

 

「MAX!相談なら、いつでも乗るから!チョン君には内緒じゃないよね!?って、やっぱり、チョン君が父親!?」


同期の叫びは断固として無視を決め込み、振り向きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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