言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

『いま世界の哲学者が考えていること』を読む。

2017年06月21日 16時32分14秒 | 日記

 「世界の哲学者がいまどんなことを考へてゐるのか」

 そんなことをタイトルを見て興味を持つた。私にとつて考へるとは善とはなにか、教へるとはどういふことか、自己とは何か、といふスタイルにしたがつたある種の原理的な思考のことを意味するが、実際の哲学者はさういふ思考ではなく、現実の課題にたいしてその対処法を考へてゐるのであつた。

 それがとても新鮮であつた。なるほど考へるとは何か対象があつて起きることであり、現在に生きる哲学者現実の問題を対象にするのは当然のことであるが、さうであれば経済学的アプローチも、宗教的アプローチも、科学的なアプローチもあつて当然である。

 なーんだ、さういふことが哲学なのか、といふ驚きである。無知も甚だしいが、事実だから正直に書く。

 目次を引用する。

▼第1章 世界の哲学者は今、何を考えているのか
◎ポストモダン以後、哲学はどこへ向かうのか
◎「真理」はどこにも存在しない
◎人間消滅以後の世界をどう理解するのか
◎道徳を脳科学によって説明する

▼第2章 IT革命は人類に何をもたらすのか
◎人類史を変える二つの革命
◎スマートフォンの存在論
◎シノプティコン――多数による少数の監視
◎ビッグデータと人工知能ルネサンス
◎人工知能によって啓蒙される人類?

▼第3章 バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか
◎「ポストヒューマン」誕生への道
◎人間のゲノム編集はなにを意味するのか
◎クローン人間の哲学
◎不老不死になることは幸せなのか
◎犯罪者には道徳ピルを飲ませる?

▼第4章 資本主義は21世紀でも通用するのか
◎近代が終わっても資本主義は終わらない?
◎格差は本当に悪なのか
◎自由主義のパラドックス
◎フィンテック革命と金融資本主義の未来
◎グローバリゼーションのトリレンマ

▼第5章 人類が宗教を捨てることはありえないのか
◎多文化主義から宗教的転回へ
◎多文化主義モデルか、社会統合モデルか
◎宗教を科学的に理解する?
◎グールドの相互非干渉の原理
◎創造説とネオ無神論

▼第6章 人類は地球を守らなくてはいけないのか
◎経済活動と環境保護は対立しない?
◎環境プラグマティズムは何を主張しているのか
◎地球温暖化対策の優先順位は?
◎終末論を超えて

 

 それぞれの章に、世界的な哲学者が出てくる。特筆すべきことは、日本人が一人もゐなかつたといふことである。世界の哲学者に日本人はゐないといふのは驚きである。

 著者の岡本裕一朗氏が日本の哲学界の人間関係に配慮して、さういふことにしたのか。いやそんなことはないだらう。たとへば、環境問題にしても、未だに日本の言論界は気候変動を炭酸ガス由来で説明する議論にとどまつてゐる。ビョルン・ロンボルグの『環境危機を煽ってはいけない』(2003、文藝春秋)のやうな冷静な主張をする哲学者が日本にはゐないといふことである。

 現代の課題を網羅的に知るにはとても良い本である。一人の著者が書いたものであるといふのがいい。『現代用語の基礎知識』のやうな形では、視点が見えないからである。高校生でも読める。

 

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