ウラ伊予弁【愛媛新聞 伊予弁コラムで書ききれなかったコトを綴る】

大三島リモーネ Iターン就農から酒造り(リキュール)6次産業の取り組み色々想う事のコトダマを綴る主観ですのでご了承を

雪の降る日は

2014-03-06 01:43:45 | 日記
18歳のひと月前から通い出した教習所では、茶色に脱色した頭髪が教官達に目を付けられ、
あまりの風当たりの強さに心が折れる寸前だった。
こんな髪型じゃ世間が冷たいのは分かっていたから二十数年前の私は健気に頑張った。
しかし教習所内でも「男色家」の噂で有名な、ある教官が同乗した時に
「キミ、トッポジージョみたいで可愛いね」
膝の上に手を置かれた時に心が折れ、教習所をドロップアウトした。

遅れること数年、合宿で普通自動車免許を取得した。試験場での帰りに同行した友人の車を運転させてもらった。
以来、二十年ペーパードライバー。
移住前に教習所にてペーパードラーバー向けの講習を受けようとしたが、
その金額を聞いた妻は髪を逆立て
「私が教えてあげる!」
横浜育ちの妻は確かに運転が上手い。大三島の港にて妻による特訓が始まった。
その内容たるや映画「フルメタル・ジャケット」の前半シーンのように苛烈をきわめた。
運転技術を思い出す前に、このままでは精神が崩壊してしまう。私は自主練習に励んだ。

いまや私自身、ハンドルを握り諸用で愛媛各地へ車を走らせる。たまに島で脱輪するがそれもご愛嬌。
二月のある日、今治税務署へ裏ラベル原案を提出しにいった。
あいにく「雪」だった。
慣れたとはいえ、降雪の中、ハンドルを握るのは緊張する。
1月に製造免許を取得したとはいえすぐにリキュール製造はできない。
タンクの深さを計り申告しなければならないからだ。免許を取った帰り道に運転できる自動車とはやはり違う。
タンク検定の申告は済ませていたが、同時に提出した製品に貼る表示ラベルが税務署より「指導」が入り訂正することになった。
逆算すると製品化してもラベルの印刷が間に合わない可能性がでてきた。

そこで修正案を雪の中、提出しにいった。
印刷会社からダイレクトに税務署へメールでやりとりしてもらえば早いのだが、それが出来ない。
ならばFAX。それも出来ない。なぜか?
それが税務署だから、としか答えられない。
書類を酒類チェックシートと一緒に所轄である今治税務署にリモーネ名で提出し、
そこから酒税担当官のいる松山税務署へ書類は移り、表示事項が指定の文字ポイント数か、
記載漏れはないか、表現についても精査され認可を得た後に、やっとリモーネから印刷の発注をかけることができる。

今回の指導は「有機レモン」の表示についてその使用割合を記載すべし、とのこと。
原材料として使うレモンは有機100%だが、アルコールに漬け込んだ果皮は取り出すし、
水も砂糖も原料用アルコールも入れるから出来あがったリキュールは割合で換算した場合、有機100%ではない。
たとえば「有機レモン45%使用」などの表示が必要、とのこと。なんだか有機のレモンを45%しか使ってないような誤解を与えかねないし、今回は製造元が盛龍酒造さん時代の裏ラベルからのマイナーチェンジにとどめることにした。
提出後、みぞれ舞う、高速道しまなみ海道に乗り大三島へ戻る。
飼い主に会えた犬のシッポのような速さでワイパーが動くが、フロントガラスを叩きつける氷雨の勢いが勝り視界は悪いまま。
前かがみでハンドルを握り前方注視していると25年以上前の4月、大雪の真夜中、東京で交通警備員のアルバイトをしていた自分を思い出した。

工事はマンホール内の為、期待していた中止にはならず明け方まで車道で一人、雪の中、赤い点滅棒をひたすら振り続けた。
防寒着は三月で会社に返していたために軽装だった。明け方、勤務が終了し、原付で帰路に着く
。路面は凍結し横転したトラックの脇を徐行し、やっと一人暮らしのワンルームに辿りつきバスに湯を入れ冷え切った身体を温めたあの日。
雪山で遭難した人の気持ちが理解できた。

やればやるだけチケットノルマや練習スタジオ代で赤字になるバンド活動に没頭していたあの頃に比べれば、
やりたい仕事と向き合え生活できる今は張り合いがある。
煩雑な手続きや悪天候を愚痴るのは贅沢というもの。
 凍害を予見して早めに収穫したためレモンの被害は数年前ほどではないだろう。
 3月収穫のせとかについては…。

今年、こんな私が人生で初めてゴールドカードに昇進した。
東京ではスクーターを乗り回していたが駐車禁止の切符を切られまくりゴールドには縁がなかった。
運転のほとんどを信号が二つしかない「大三島」でしているため自分のゴールドに価値があるのか。
格下相手に白星を重ね、価値のないローカルタイトルを手にしたボクサーみたいで面映ゆい。

人間的にも多少はこなれてきたので、人を性癖でジャッジすることはない。
免許証の写真にはかつてトッポジージョと称された「可愛さ」は微塵もなく
「微笑みデブ」と化した47歳の私がいるだけだ。
※微笑みデブとは?フルメタル・ジャケットを参照下さい。