リンパ浮腫を克服するために

リンパ浮腫治療に関する情報を発信していきます!

深部リンパ管系について

2005年12月13日 19時25分22秒 | リンパ浮腫とは
リムズ徳島クリニック院長の小川です。
久しぶりの投稿になります。
10月から11月にかけては、学会や講演会が多くてその準備に手間取り書き込みができませんでした。お待ちいただいていた皆様には深くお詫びをいたします。

今回は前回の表在リンパ管の続きでリンパ管の流れのうち深部リンパ管のお話しをします。



表在リンパ管で集められ太い集合管となったリンパの流れは、頚部腋窩鼠径リンパ節に流れ込み、その後体の奥の深部リンパ管と呼ばれる太いリンパ管になります。

まず臍のラインから下の両下肢を含めた下半身の表在リンパ管は両側の鼠径リンパ節に入ります。その後腸骨動静脈に沿って「後腹膜」と呼ばれる腹膜の外側の部分を通って上行します。(腹膜とは?後腹膜とは?という説明は専門的すぎて難しいため、今回は割愛します。)
両側のリンパ管は、臍の奥あたりで合流し一本の太いリンパ管になります。その後「乳び槽」と呼ばれるリンパ管が拡張した部分になり、そこに小腸や大腸などの腸管からのリンパ液が流れ込みます。腸からのリンパ液内には食べ物を消化して吸収された脂肪が多く含まれるため、脂肪分の多い食事をした後には白濁したリンパ液になります。

その後リンパ管は「胸管」と呼ばれる様になり、胸腔内を通って最終的には左の鎖骨の裏で頸静脈が鎖骨下静脈に合流する静脈角という部分で静脈に合流します。また、左顔面や左上半身のリンパ液も頚部リンパ節・腋窩リンパ節を経由して左静脈角に流れ込みます。

右顔面や右上半身のリンパ液は頚部リンパ節・腋窩リンパ節を経由して反対側の右静脈角に流れ込みます。

文章で書くと非常に難しくなりましたが、このような特徴的なリンパ管の走行は、リンパ浮腫がどのような手術を受けるとどの部位に発症しやすいかを理解するために必要な知識ですので、図を参考にしていただき理解してみてください。

深部リンパ管系の特徴的走行とリンパ浮腫の関係
①、深部リンパ管は直接心臓に流れ込むのではなく、一旦静脈角で静脈に流れ込んで全身の血流に入る。
②、両側の腸骨リンパ節を切除するような婦人科癌や膀胱癌・前立腺癌などは両下肢に浮腫を発症する可能性がある。(片足の場合が多いがその理由ははっきりしない)
③、直腸癌は切除するリンパ節が腸骨ではなくもっと奥のリンパ節でありリンパ浮腫を発症しにくい。
④、胃癌や膵臓癌・食道癌などの手術で胸管を切断してしまうと、両下肢に浮腫を発症することがあるがめったには起こらない。
⑤、胃・腸など腹部臓器からの転移は左静脈角付近にみられることがあるため、転移すると左顔面や左上肢に浮腫を発症することがある。
⑥、深部リンパ管系に入る前の腋窩リンパ節を切除する乳癌などの手術や鼠径リンパ節を切除する肛門癌・外陰部癌・下肢の悪性腫瘍では、脇道が少なくリンパ浮腫を発症しやすい。しかし重力の影響を受けやすい下肢の発症率が圧倒的に多い。

以上のような特徴がありますが、一律に決められるものではありませんのでご承知ください。
おおよそのリンパ浮腫発症率は、乳癌手術後で約5%程度。子宮癌手術後で20-30%といわれていますので、浮腫を発症しない患者様の方が多いと言うことを理解いただき、過度な心配をしないようにしてください。

今回の深部リンパ管の走行は、「用手的リンパドレナージ」という治療を行う際に非常に重要になりますので、難しいとは思いますが覚えておいてください。





リンパ管のつながり(表在リンパ管系)

2005年10月16日 18時32分49秒 | リンパ浮腫とは
リムズ徳島クリニックの小川です。
記事の間が開いて申し訳ありません。
今回は、リンパ末端から吸収されたリンパ液がどのようにして流れていくかを解説してみます。
難しいことは省略して、できるだけわかりやすくしてみます。

以前お話しした「リンパ末端」でリンパ液がつくられ、その後ゆっくり流れて行きます。
全身の皮膚で考えると、リンパ管は皮下脂肪の中に編み目状に張り巡らされています。
リンパ末端から「毛細リンパ管」と呼ばれる非常に細く、リンパ管の特徴である弁構造もないリンパ管のまだまだ始まり部分に入ります。
この毛細リンパ管は、弁がないぶんどのような方向にも流れていくという特徴があります。例えば、弁がしっかりしたリンパ管では、管内のリンパ液は中枢方向に向いてしか流れませんが、毛細リンパ管内は横にも下にもという感じで移動させることが可能です。
リンパ浮腫患者さんの皮膚では、この毛細リンパ管の中にもたくさんのリンパ液が貯まっていますので、前回お話ししたように柔らかくゆっくりと手のひらを使ってドレナージしてあげれば、目的とする方向にリンパ液が移動する様が確認できると思います。
この毛細リンパ管は皮膚直下に分布していますが、そこからもっと深く皮下組織内にはいると前集合管・集合管と呼ばれる弁構造を持ったリンパ管になります。集合管は徐々に合流して太いリンパ管になり、リンパ節を経由して中枢に向かいます。
この集合管の太いものは、おもに皮下脂肪同士を層状に分けている線維組織という部分や筋肉の表面の筋膜に多く分布しているため、リンパ浮腫患者さんの一部では超音波検査(エコー検査)を患肢に行うことでリンパ管が拡張して太くなっている状態を確認することもできます。
以上のように「リンパ末端」から始まって「集合管」に至るリンパ管を総称して「表在リンパ管系」と呼んでいます。
この表在リンパ管系も属性があって、集合管くらい太いリンパ管になるとどこのリンパ節にはいるか決まっています。例えば右足と右下腹部の集合管は右鼠径部のリンパ節に流れ込みます。臍より上の右上腹部・胸部や右上肢の集合管は、右腋窩リンパ節にといった具合に体の真ん中から左右・臍の高さ・鎖骨の高さなどでは集合管のつながりが少なくなる境界線が引かれます。これを「リンパ分水嶺」と呼びます。すなわち山の頂上で雨水を分けるようなものです。
この理屈から言えば、右鼠径部のリンパ節だけが機能を失った場合には、右下腹部から右下肢だけに浮腫が見られるということになります。
ではこのような浮腫を改善させるためにはどうするかというと、この分水嶺をこえて右腋窩リンパ節に流れ込むようにリンパ管が発達すればよいと言うことになります。
ただし集合管でのネットワークは少ないため、その時活躍するのが皮膚直下の毛細リンパ管であり、分水嶺をこえる様に中のリンパ液を移動させてやれば、腋窩リンパ節所属の集合管に流れ込むといった理論になります。

文字ばっかりでわかりにくいと思いますが、これがリンパドレナージの理論です。
治療の項に移れたらもう一度詳しくお話しします。

次回はもう少し先のリンパ管(深部リンパ管)について解説します。

リンパ管の始まり

2005年08月18日 07時57分41秒 | リンパ浮腫とは
前回「リンパ」ということについて解説しましたが、今回は体の中で「リンパ」を運ぶ働きをする「リンパ管」の構造のうち、その始まりについて解説します。


図:リンパ管

 「リンパ管」はリンパ末端と呼ばれる部分から始まります。植物は根を張り 巡らせて土の中の水分や養分を吸い上げ成長していきますが、リンパ末端もこの「植物の根」のようなものだと考えてください。
リンパ末端は皮膚の直下にあり、体の細胞間にある組織間液や白血球成分などを吸い上げて「リンパ」として運搬しています。組織間液には各細胞が不要になっ た老廃物やアルブミンと呼ばれるタンパク成分が多く含まれていますので、その働きが悪くなれば老廃物やアルブミンが細胞間に残ってしまい浮腫につながります。
このリンパ末端は、図にも示したように「繋留フィラメント」と呼ばれる細かい線維で皮下組織に固定されていますが、このフィラメントを引っ張るような刺激 があればリンパ末端の細胞を引っ張るようになってその細胞のすきまを開くようになります。そうすれば組織間液の吸収もよくなると言うことです。 フィラメントを引っ張る刺激とは、皮膚を優しくずらすように動かすような方法が効果的です。 指圧のように力を加えてマッサージすることは筋肉に加える刺激であって、皮膚直下にあるリンパ末端の部分には効果的な刺激は加わりません。
当院でリンパ浮腫治療のために行っている「複合的理学療法」のうち「用手的リンパドレナージ」は、このようなリンパ末端の構造を考えて、手のひらを使って 力を加えすぎずに皮膚をずらすようにマッサージすることを基本としています。 リンパ末端で吸収された「リンパ」はこの後徐々に太いリンパ管に合流して流れますが、その流れ方も「用手的リンパドレナージ」を行うために理解していただきたい内容が含まれていますので、徐々に解説していきます。

リムズ徳島クリニック院長 小川佳宏

リンパとは?

2005年06月12日 23時38分04秒 | リンパ浮腫とは
リンパ浮腫とは?
  この病気について詳しく解説する前に、この「リンパ」とは何かについて理解していただく必要があります。
  皆さんがよく耳にする「リンパ」を含んだ言葉としては、「リンパ球」「リンパ腺がはれる」「リンパマッサージ」などいくつかあげられます。
  動脈や静脈と同じように全身にくまなく張り巡らされているリンパ管という血管があり、その中を流れている液体が「リンパ」とか「リンパ液」と呼ばれます(これから後はすべて「リンパ」で統一します)。
  心臓から送り出された血液は、動脈の中を通って全身の隅々にまで送られます。動脈の最終は毛細血管(正確には毛細動脈)になり、そこから血管の外の細胞に酸素や栄養分を送っています。
  毛細血管(正確には毛細静脈)から始まる静脈を通って血液は心臓に戻りますが、その量は動脈から送り出された量の約90%といわれています。ではその残りの約10%はどうなったのでしょうか?
  毛細動脈から一個一個の細胞のすきま(細胞間隙といいますが)にしみ出した栄養分などの血液成分は、一部毛細静脈に回収されますが、大部分はリンパ管の中に吸い込まれ、先に書いた「リンパ」になります。
  細胞のすきまには、アルブミンに代表されるタンパク成分や細胞が不要になったゴミのようなものも多く含まれていますので、リンパ管は体内の不要物をあつめて流す下水道のようなものです。
  そのほか、リンパ球・マクロファージなどの白血球も一緒に運搬されるため、体に細菌やウイルスが侵入したときには、リンパ管の中をリンパ節(いわゆるリンパ腺)に運んで処理するため、「リンパ腺が腫れた」という状態になることがあります。
  ここまでの内容をある程度理解していただくと、次のような話がわかりやすくなります。
  1. リンパ節をとるような手術をするとなぜむくみやすくなるのか?
    リンパ節を取るということは、リンパ管も切ってしまうということであり、それまで運搬していた細胞間の不要物も運搬されにくくなるということです。細胞の すきまに液状成分が多くのこったり、リンパ管の中のリンパが逆流することでむくみが始まります。これがリンパ浮腫ということになります。
  2. リンパ浮腫になった患肢は感染を起こしやすくなるのはどうしてか?
    細胞のすきまにしみ出した白血球が感染防御の役割をしているが、細菌やウイルスを殺す働きはリンパ節に運ばれてから活発になるため、リンパ管の働きが落ちている場合には感染にも弱くなります。
  今回は以上のような内容を理解してみてください。
  次回はリンパ管の構造についてお話しします。

リムズ徳島クリニック院長 小川佳宏