曲学阿世:真実を追求し、虚実の世間に迎合するようなことはしたくない。

真実を曲解し不正な情報によって世間の人々にこびへつらい、世間にとり入れられるような、ことはしたくない。

「越水」は天災だが「堤防決壊」は人災である

2019年10月14日 09時33分55秒 | 政治

 

                                

                     「植草一秀の『知られざる真実』」
                                     2019/10/14
           「越水」は天災だが「堤防決壊」は人災である
              第2455号
   ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019101406000059336 ──────────────────────────────────── 台風19号による被害が広がっている。
台風接近に伴い、初期から中期に集中豪雨に見舞われた静岡、神奈川、東京に おいては、記録的な豪雨に見舞われながらも、大河川の堤防決壊等の事態が回 避された。
しかし、台風の移動に伴い中期から後期に豪雨に見舞われた埼玉、長野、栃 木、茨城、宮城、福島などの地域で河川の氾濫が相次ぎ、21河川の24箇所 で堤防が決壊した。
川の水量が増大して水が堤防を乗り越える「越水」によって発生する浸水と、 川の水量増加によって堤防が壊れる「決壊」によって発生する浸水とでは、被 害に著しい差が生じる。
国が管理する大河川では、長野県千曲川(信濃川)で発生した大規模な堤防決 壊など、埼玉、長野、茨城、宮城などの7河川の7箇所で堤防決壊が生じた。
とりわけ千曲川の堤防決壊では大規模な浸水被害が発生している。
このほか、県が管理する河川でも、栃木県の9河川・9箇所、埼玉県の3河川 ・3箇所、福島県の1河川・1箇所、宮城県の2河川・2箇所で堤防が決壊し た。
「越水」は東京都の多摩川など、のべ142河川で発生した。
神奈川、東京地方では、箱根町の24時間雨量が922.5ミリに達し、日本 での観測史上最多記録を更新したが、河川の堤防決壊は生じなかった。
上流域のダムが、流入する雨水をせき止め、下流域の河川での越水や堤防決壊 を回避する上で重要な役割を果たしたと見られる。
ところが、埼玉、長野、茨城、宮城などでは、国が管理する河川でも堤防決壊 が生じ、甚大な被害を発生させている。

堤防決壊を防ぐには堤防強度を強化する必要があり、東京、神奈川の河川では 強固な堤防が構築されていたのだろうが、上記地域では、堤防の強度が相対的 には弱いものになっていた可能性がある。
堤防決壊は堤防のなかの強度が最も弱い部分で発生する。
大規模な河川の場合でも、全延長のすべての堤防において、例外なく完全に堤 防を強化しなければ堤防決壊を回避できない。
大河川であればあるほど、堤防決壊を回避するための堤防強化策を施すことは 難しくなる。
とはいえ、堤防が決壊してしまうと被害は甚大になる。
豪雨発生の頻度が上がり、豪雨の程度が急激に拡大している近年の状況を踏ま えれば、洪水対策としてのダムの整備と堤防強化策は極めて優先順位の高い施 策に位置付けられる必要がある。
台風19号襲来に際して、気象庁は大雨特別警報を発令したが、その意味が正 確に理解されていたのかどうかにも疑念が生じる。
記録的な大雨が予想されるときに、何よりも警戒を要するのは河川氾濫に伴う 浸水である。
その浸水被害においても、とりわけ警戒が求められるのが堤防決壊による浸水 発生である。
堤防が決壊した場合の浸水の状況については、日本全国においてハザードマッ プが作成され、どの程度の浸水被害が、どの程度の期間持続するかのデータが 提供されている。
記録的な豪雨が予想される際に、予防的な避難等がとりわけ必要になるのが、 ハザードマップで深い浸水が予想される地域の住民ということになる。

とりわけ、こうした地域における病院や高齢者福祉施設においては、早い時点 での対応が必要になる。
大雨特別警報が実際に発令される時点は、すでに屋外に出ての避難が困難に なっている局面である可能性が高い。
その局面で、病人や高齢者が避難活動を行うことは困難である。
したがって、大雨特別警報の発令が想定される状況下では、その発令の前の段 階で、とりわけ、ハザードマップ上、重大な浸水被害に見舞われる可能性のあ る地域の病院や福祉施設に対して、通常のプロセスとは別に避難指示を発令す ることなどを検討する必要が生じている。
また、一般市民に対しても、豪雨による被害の典型事例が、河川決壊による浸 水にあることを周知徹底し、ハザードマップ上、リスクの高い地域に居住する 市民に対して、避難勧告、指示体系の通常のリスク区分よりは前倒しの対応が 必要であることを分かりやすく、繰り返し情報提供する必要がある。
今回の台風19号による死者がすでに全国で34名、行方不明者17名発生し ていると伝えられている。
事前の警戒情報が流布されていたが、屋外に出て活動した、あるいは自動車を 利用した方々が多数、犠牲になられている。
巨大台風襲来時には基本的に外出をしない、早期の避難を実施する、などの行 動が命を守る行動ということになる。
この点についての周知をさらに徹底することも重要な課題として浮上してい る。
水害防止のためのダムの整備、堤防決壊を回避するための堤防強化が引き続き 重要な政策課題になることを再確認する必要がある。

今回の台風19号は連休中に襲来した。
鉄道各社は計画運休を実施し、鉄道利用者は鉄道の全面的な運休に対応した。
しかし、これが平日の台風襲来であったら、どう変化しただろうか。
この点への考察が重要になる。
9月9日の台風15号上陸の際は、月曜未明に台風が上陸した。
鉄道各社は月曜日午前中からの運転再開を計画していたが、実際には運転開始 が大幅に遅延した。
このなかで多数の労働者が長時間の通勤対応を迫られた。
企業が労働者の安全を優先して休業、自宅待機などを命じる措置を講じていれ ば、混乱は抑制されたはずだった。
国民の命を守る観点から、平日に台風等の特別な天候が予想される際の、企業 による従業員に対する対応策についてのガイドラインを、国や自治体が定める ことも必要であると考えられる。

JR東日本とJR西日本が管理・運営している北陸新幹線の車両が、千曲川の 大規模氾濫によって浸水被害を受けた。
JR東とJR西は12両の車両編成を30編成保有しているとのことだが、千 曲川の大規模氾濫によって長野新幹線車両センターに留め置かれていた10編 成が浸水被害に見舞われた。
このため、金沢-長野間での北陸新幹線運転再開のめどが立っていない。
長野新幹線車両センターは避難指示の対象地域になっており、JR関係者も現 場を確認できない状況にある。
浸水被害が解消するまでに2週間程度の時間が想定され、車両の修復にも長期 の時間を要するのではないかと懸念されている。
被害の程度によっては新幹線車両を廃車にする必要が生じるとの見方もある。

30編成のうち10編成を失うことになるから、仮に運転を再開しても、元の ダイヤ編成での運行は非常に難しくなるのではないか。
問題は、長野新幹線車両センターがハザードマップ上で深刻な浸水被害を蒙る 可能性のある地域内に敷設されていたことだ。
ハザードマップが示す浸水被害が現実化する確率は、通常を想定すれば、それ ほど高いものではない。
しかし、基幹的な公共陸上交通を司る新幹線の車両センターの立地決定の際に は、少なくともハザードマップ上のリスクの高い地域を避ける配慮が必要だっ たのではないか。
大規模水害が発生する際の、最も警戒を要する事態は、堤防決壊による浸水被 害である。
現場は千曲川に隣接する地域であり、所在地決定の際のリスク管理として、ハ ザードマップ上の浸水リスクの高い地域を選定したことの責任は軽微とは言え ないだろう。
車両センターの立地を決定した際に、ハザードマップを活用できたのかどうか は不明だが、立地上のリスクとして河川氾濫による浸水を想定することは必要 であったと思われる。

今回の千曲川堤防決壊について、河川の災害に詳しい東京理科大学の二瓶泰雄 教授は、流域で記録的な大雨が降ったことに加えて、川幅が急激に狭くなる地 形的な要因も重なって、堤防が決壊した可能性があると指摘している。
https://bit.ly/35xnxPW
川幅が急激に狭くなれば、豪雨によって水量が急増する局面では、堤防に対す る圧力が急激に上がる。
したがって、こうした地形上の特徴を踏まえて、川幅の狭くなる箇所において は、堤防強度を十分に高めておく必要があったと言える。
河川の堤防強化においては、長い河川延長のなかの、最も弱い部分が堤防決壊 の標的にされる。
したがって、文字通り、一箇所の漏れもなく、完全に、全面的に堤防強度の強 化を図る必要があるから、対応は容易ではない。
しかし、一度重大事態が発生すれば、その影響、損失は天文学的なものになる から、やはり「備えあれば憂いなし」ということになるのだ。

2015年9月に発生した関東・東北豪雨では鬼怒川で氾濫が発生して、常総 市などを中心に14名の死者が生じる甚大な被害が発生した。
大規模水害をもたらしたのは鬼怒川の堤防「越水」だった。
「越水」した箇所は常総市若宮戸で、太陽光事業者の私有地部分だった。
若宮戸地区の鬼怒川沿いには堤防のない区間が約1キロあり、自然の土手が堤 防の役割を担っていた。
このなかの約150メートルの自然堤防が、高さで約2メートル削られていた のである。
太陽光事業者がソーラーパネル設置のために掘削したものだった。
住民は洪水が起きる危険性を、発生前から国に指摘していた。
ところが、国は土地の掘削などに許可が必要な河川区域に指定せず、ソーラー パネル設置に伴う堤防掘削を放置してきた。
こうした事実経緯を背景に、2018年8月7日、茨城県常総市の住民ら約3 0人が総額約3億3500万円の損害賠償を国に求める訴訟を水戸地裁下妻支 部に起こしている。
治水は政治の基本の基本である。
最も降水量の多かった神奈川で河川氾濫が生じなかったが、長野などでは発生 した。
堤防強化策にいちじるしい「むら」がある点を見落とせない。

コメント