Sigh on Blog

徒然

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すげー久し振り。

2008年10月02日 | diary
かなり放置してたけど、また書きたくなったので書きます。


新作を書きました。話の内容よりは、表現にこだわりました。


でも、あまりできていない。読書しないと!


さー、読んでくださいませ。



   *   *   *   *   *



Mules on Muse


 彼女は、いつも同じミュールを履いていた。
 漆黒のミュール、彼岸花みたいに頼りなく細いヒールに甲の部分に大きなリボンがあしらわれている。光の反射によって、濃緑や紅蓮を帯び、満天の星のように散りばめられたラメがきらきらと輝いていた。
 昔付き合っていた彼からのプレゼントだと、彼女は教えてくれた。そのとき、彼女の浮かべた表情を、僕はうまく説明することができない。懐かしんでいるわけでもなく、悲しんでいるのでもない。春が足早に過ぎ、桜の花びらの薄い桃色に、青々しい葉が混ざり合う様を惜しんでいるような雰囲気を醸し、それでも彼女の呼吸には苦しみが秘められているような気がして、僕は胸を締め付けられる思いだった。
 彼女は絵を描くことを生業としていた。才能もあり、彼女の筆の通った白い空間には、それまでになかった小さな命が宿ったような、躍動的で活動的な色彩が生まれていた。
 せめて、彼女に芸術の力がなく、一般の女性がそうであるように、朝の満員電車に揺られ、ディスプレイに文字を並べる作業や、ただただ繰り返される単純な肉体労働に従事しているのなら、これほどまでに、自分の足を飾る靴に執着しなくて済んだのかもしれない。
 四季がめぐり、僕たちはともに同じ屋根の下で、お互いの名前を呼び合い、同じ空気を肺に満たしたとしても、彼女の心の片隅には、凛とした存在感を持つ百合のように、あのミュールがいつまでも咲いていた。
 一緒に裸で眠り、いくつも触れ合ってきたというのに、僕には、そのミュールの代わりになれないと思い知ったとき、こみ上げてきた惨めさと貧しい気持ちに耐えられることが出来ず、僕はハダシで冬の世界に走り出した。
 あてどなく、あてどなく。
 息が上がり、降ってくる雪が体温をかすめとっていっても、地を這う霜が僕の爪先をつんざいて行こうとも、止まるという選択肢をいつまでも拒み、とにかく逃げたい衝動を抑えることができなかった。
 不甲斐ない魂が涙を流していた。それは報われることも、忘れることもかなわずに、僕は遂に足を動かすことが出来ずに、白く染まったアスファルトの上に転がった。色を失った世界の淵に倒れこみ、僕は彼女のことしか考えられなくなっていた。
 どうやったって、僕には、彼女に似合う靴をプレゼントしてやれない。彼女の世界で暮らすことはできても、あくまでも間借りしている鳥のようなもので、根を生やし共存していくことは望めない。どれほど手を伸ばしたところで、肌と肌が密着したところで、二つの原子が一つになることはなく、僕らは重なる度に孤独に苛まれていく。眠たくて仕方がない。

 落ちる瞼の隙間から、見覚えのある黒がよぎった。

 君は、何でこんな悲しく冷たい夜にすら、そのミュールを履くのだろうか。僕に近づく一歩で、左のミュールのヒールが折れる。
僕は知っている。靴箱の中には、埃をかぶったキャメル色のブーツが仕舞われていること。ハイヒールやスニーカーが、彼女の華奢な足を待っていることを。僕は知っている。彼女の爪がボロボロになっていることを。
 それでも、彼女はそれを選ぶ。
 彼女は僕を抱き上げると、月明かりのない、街灯までかすれて薄い夜を歩き出した。白い息を吐く彼女が、冷えた外気に埋もれた僕の温もりを受け取る。確かに脈打つ鼓動を確かめ、彼女は微笑んだ。僕は、自分の不甲斐なさよりも、彼女がまだこの感情を忘れていなかったことを幸せに思い、目を閉じた。

 次に起きたとき、僕はふかふかの布団にくるまれており、隣には何もつけていない彼女が、僕をくるむような形で眠っていた。僕は布団をかきわけ、彼女の足にたどりついた。熟れた無花果のように腫れたそれは、ところどころ浅く切れており、透明の汁がにじみ出ていた。僕は、それを舌でなめた。何度も、何度も。自分にできることはこれくらいしかなかった。僕のために、冬の厳しさにあてられた彼女の足を、僕は日が昇り、彼女が僕を抱きしめるまでずっと。
 彼女の心に居るために、僕にできることなんて、本当は何もなかったのに。
 半年後、僕は死んだ。
 軽い風邪から併発した病魔が、満月が欠けていく速度と同調するように、僕の命を削り取っていった。
 そのときには、彼女の側には僕とは違う男が立っていた。履けなくなったミュールを修理に出した靴屋の主人だった。寡黙だけど、時折、無邪気な子供のように喜ぶ顔が可愛いと、彼女は僕に話してくれた。きっと、彼がその表情を浮かべるとき、彼女もそっくりな笑顔を作り、二人で手を繋いでいるのだろう。僕は自分の役目が終わりを告げたことを悟った。最後まで、僕にはあのミュールの代わりにはなれなかった。それでも、僕は幸せだった。
 彼女は、僕のために泣いてくれた。
 亡骸は灰となり、彼女の手によって絵の具へと生まれ変わった。僕の色は、白と黒の間だった。それが、絵筆に含まれキャンバスを軽やかに駆ける。彼女が描いたのは、あの日の情景だった。自分の愚かさに絶望した僕を、彼女が救いあげてくれたあの冬の日の。
 深々と降り注ぐシンメトリーの結晶に縁取られた、彼女と僕。
 僕が愛したひとりの女性と、彼女の掌を求める小さい黒猫が、そこに咲いていた。



コメント (6)
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遅れましたが、

2007年09月25日 | diary
ロバート教官へ。
お誕生日おめでとうございます。


絵は即席で描きました。
一応、こなたのつもり。
印象だけで描いたので、あんまり似てないかも。
そして、エフェクトで誤魔化してしまいました。
もちっと上手に書きたかったorz
スキャナがあればなぁ。


歳をとるのは嫌ですが、
とにかく、誕生日はめでたいです。


これからもよろしくお願いします。
コメント (10)
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名刺入れを購入

2007年06月24日 | diary
五千円くらいのやつ。
なんか社会人に一歩近づいた気がする。


これからどうなるかわからないけれど、
この買い物が無駄にならないように精進していきたい。


  *  *  *  *  *


久し振りに、空腹に寝不足という悪条件で酒を飲み、
激しく後悔をしました。昨日のことです。


それでも、後悔しない人生って、どうなの?


後悔をしないようにとか、後悔するくらいならとか、
よく耳にするし、実際に言葉にしたこともあるけれど、
後悔するからこそ、それを次に生かそうという気がしてくるのだとも思う。
つまり、後悔することが悪いんじゃなくて、
そこから何も学ばないということが良くないのだと思う。


まあ、性懲りもなく泥酔しているわたしが言えた義理ではないんだけど。


今日、テレビで『選挙』という日本映画が紹介されていました。


簡単に言うと、地盤・血縁のない土地で選挙に挑む一人の男のドキュメンタリーということ。
あとの詳細は各自で検索しておくれ。


それにしても、日本の政治家というのは、
選挙というものを勝敗としてしか認識していない気がする。
当選すれば万歳三唱で喜びを分かち合う。


あれを見るたびにわたしは、

「おいおい、これからだろ。これじゃあまるで、そこで終わったみたいじゃないか」

と思うわけで。


あんまり期待してないから、それほど感想もないけれど、
そういう現状自体が、自分を含めて駄サイクルに陥っているのだと思う。


『人間は改善しない』


何はともあれ、ニーチェが言ってたことが身に染みる週末なのでした。
おわり。
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後悔とは、思わぬ形でやってくる。

2007年06月18日 | diary
 金曜日。


 午後九時前に帰宅。まさかの残業二時間半。
 まあ、でもこれはこれで賃金がもらえるわけだから、別に不満なんてない。むしろ、ちょっとくらい残業した方が、残業するに値する仕事を手伝えることは、会社の役に立っている気がして、すこしだけ胸を張って帰宅することができた。


 このあと一時間かけて大学の後輩たちに会いに行った。
 馴染みのラーメンが食べたくて、夏に発行する予定の文芸誌の進行状況が聞きたくて、七月に映画を観に行きたいなと考えていて、みんなが元気でやってるのかも気になっていた。
 多少の変化はあれど、みんないつも通りだった。いつものようにダラダラしていて、いつものように好きなことにだけは執着を見せていて、あんまり建前を気にしないものだから、こちらの肩の力も抜けて良い感じになれた。
 相変わらず、という単語は、マイナスイメージで使われることが多いけれど、これを言っているときは、すくなくともわたしは、その対象である事象に対して、親しみを込めて使っていることが多い。
 だから彼らを見て、相変わらずだと、わたしは思った。


 そのあと麻雀を土曜日の夕方まで打っていた。トータルで浮いていたので、それなりに楽しく打てた。麻雀は不思議だ。徹夜で打ったあとには、もう二度と卓なんか囲まない、と思っていても、一週間も経たないうちに、指先が牌の表面を触る感覚を欲してくるのだから。もうこれは病気といっても過言ではないと思う。わたしは立派な麻雀中毒者だ。いや、立派ではないか。とりあえず、わたしの中の、下手だけど好き、という悪循環の典型ではある。


 土曜日。


 と、ここまで来ても、わたしはそれなりに楽しんでいたので、後悔なんかしていない。


 土曜日の夜九時から、中学校の頃の友達と一緒に、そいつの友達のオジサンの家に招かれた。理由は、映画を観るため。
 まったく面識がなかったし、断わろうと思えばいくらでもできたけれど、それをしなかったのは、人見知りの激しい自分を変えたいという欲望と、「ショーシャンクの空に」というタイトルに惹かれたからだ。


 結果として、非常に楽しい上映会になった。
 そのオジサンというのが、とても気さくな方だったので、上映終了後の軽いディスカッションと映画についての意見交換など、あまり趣味は合わなかったけれど、それがまた、共感とは違う種類の、逆の見方というようなものだったので、ちょっとは自分の持っている視野の幅が広がった気がした。
 それもこれも、「ショーシャンクの空に」が、あまりにも素晴らしい映画だったおかげというのもある。これは、わたしの本棚にぜひ飾っておきたい作品でした。詳しいレヴューはまた今度。


 話し込んで気づけば、真夜中の三時を越えており、友達の車で送ってもらい、泥のようにベッドに横になった途端。


 日曜日。


 午後三時前。
 半日ぐらい寝てました。その代償なのか、腰が痛い!すごく痛い!
 骨盤と背骨がかみ合ってない感じ。何が悪かったのか。徹マンのせいだろうか。
 その日は、何もできずに終始、肉体の安静を保ちながら就寝。
 運動しているつもりでいたけれど、基本的に、まだ自分の体は鈍っているのだと思いました。もっと精進しなくてはいけないな。


 月曜日。


 雨が降っていた。今週ずっと降るのだろうか。
 重い雲の下、月の出ない夜にジョギングはできない。それに、まだ腰に違和感がある。


 早く雨が上がり、運動して丈夫な体を作りたいと思った週末でした。
 おわり。

コメント (1)
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ある後輩に贈る。

2007年06月07日 | diary
継続は力なり。また力とは努力の賜である。


うまい水などこの世にはなく、ただ体を癒す水はどこにでもある。


疲れを知り、慣れてこそはじまりの舞台に立てる。


だから、諦めてばかりでは寝ているのと同じである。


自らの軌跡を残すために、痛みに耐えることを覚えなさい。


そして、責任をその空っぽの背中に担ぎ歩きなさい。


運がなかったと真の原因から逃げず、前を見るのではなく、地面を踏みしめることを大切にしなさい。


明日は平等ではなく、過ぎる一日の重みがその価値を決めるのである。



敵など、どこにもいない。いるとすれば、それは己の影であると気づきなさい。


  *  *  *  *  *


バイトを初日でやめてしまった君へ。
こないだは、面接をすっぽかしましたね。


次がある、とずっと言えるわけないので、君にとっては何気ないことかもしれないけれど、周りから見たら心配の種であるその悪循環に早く気づいてください。


これは、説教ではありません。応援の言葉です。
わたしは、ずっと友達の味方であります。


ということで、更新終了。
んじゃね。
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お買い物

2007年05月28日 | diary
古本屋で、オズの魔法使いを買いました。

よく考えたら、名前は聞いたことがあっても、内容を知らなかったり忘れてたり、はたまた粗筋を読んだだけでわかった気になっている物語が自分の中にはたくさんあって、原点回帰というわけでもないけど、ひとつずつ確認していくことにしようと思った次第で。

でも、しばらくはページを開かないだろうな、と自分の性格を考えてしみじみ。

開くまでが長いんですよ、読み始めたらあっという間だけど。


ま、本棚にあるとないとでは雲泥の差、と勝手に決め付け、更新終了。


気温の変化が激しいので、体調管理に気をつけて。
んじゃね。
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あとがき19

2007年05月22日 | diary
というわけで、百物語でした。

自分の中ではお気に入り。
ただ、名前がカタカナにしたせいで読みにくいかも。
この辺は改良の必要ありかな。

百物語は、百本立てたロウソクを、一つ話をするごとに消していくものです。
本編では、修学旅行の楽しかった雰囲気を、ヒグチが一つずつ消していくというものもこめてあったり。


さて、そろそろストックがなくなってきました(ピンチ)

というか、なくなりました。
実際はもうちょい書いてるんですけど、
諸事情により、本当のことを言うと作者の力量不足により、
あまりまとまっていないものばかり。

というわけなので、小説を更新するのは、しばらくお休みです。
最近は色々と忙しくて全然更新していなかったわけなのですが。


これからは、なんとか週一か毎日ぐらいで更新していく予定です。
ほとんど自己満足の駄文、もしくは考えを文章化しまとめるもの、
あと日記も書くだろうと思います。

それでは、もう寝よう。
おやーすみ。
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百物語

2007年04月07日 | Literature Factor
「こえー」「ちょー怖いって」
 電気を消した旅館の一室。もう早々と寝てしまったタナベとカタヤマを抜いて、オレとアオキとイノウエで怪談話をしていた。
「タテヤマの話し方はうまいな」アオキが枕にあごを乗せて脅えてみせた。「ただののっぺら坊主なのに」
 褒められたオレはちょっと照れた。「バカだな、お前らが怖がりなんだよ」
「いやいや、タテヤマはうまいよ」と、イノウエも声をひそめていった。
 小学校の修学旅行で京都に来ていた。寺や神社になんて興味ないから、もっと近場ならよかったのにって最初は思ったけれど、何百年前の建造物の持つ神秘っていうのは、写真みたいな表面的なものだけでは伝わらないってことが、実物を目にしてよく分かった。
 だから、来て良かった。ちなみに、一緒に名所廻りしたのが、アオキとイノウエで良かった。夕食のときに、他の班の文句を聞くと、つくづく楽しくない旅行だという感想しか耳にしなかったからだ。
 風呂に入ったあと、みんなでひたすら暴れて、先生に怒られて、部屋を抜け出して、自販機に行こうとしたところで先生に見つかりそうになって、それがまた面白くって、今度はみんな寝静まったころ、イノウエがこう提案した。
「怖い話をしようぜ」
 まずイノウエが、メリーさんという小指を失くした少女の話をして、そしてアオキが、悪の十字架っていう拍子抜けの冗談をいって、オレに番が回ってきたのだ。
「じゃあ、次はイノウエがやれよ」
 これで一周したな、とオレがいうと、いきなり背中に何かが圧し掛かってきた。
 驚いて叫びそうになったところで、「ちょっと待てって」と口を押さえつけられた。「おれだよ、おれ」
「ヒグチ、寝てたんじゃないのか?」アオキがオレの上の物体にいった。
「さっきのお前たちの声で起きた」と、ヒグチは無理やり、「なんか楽しそうなことしてるじゃん。おれもまぜてよ」と輪に無理やり入ってきた。
「別にいいけどさ、お前、怖い話できるのか?」
 眉をひそめたイノウエの気持ちは分かる。ヒグチは、できないことをできるといい張る困ったやつだ。みんなの気を惹きたいがために、蛇を捕まえようとして、逆に噛まれて保健室に運ばれるような男だ。
 でも、このままヒグチの駄々を無視していたら、うるさくて仕方がない。オレはため息混じりに頷いた。「じゃあ今度はお前な」
 アオキもイノウエも同じような表情で、急に眠たくなったのか欠伸をした。
 加えてもらったヒグチは、嬉しそうに、「それじゃあ」と、咳払いして、窓ガラスをひっかいたような高い声を低くした。
「ある男性が、朝目覚めてみると、M字ハゲになっていました」
 …………。
「ベジータみたいに」
「いや、そうじゃないって」すかさずアオキがつっこんだ。「確かに、一晩でハゲたら恐いけど」
 オレとイノウエも、その意見に同感だったので、無言でヒグチを睨んだ。そうすると、いくら空気の読めないヒグチでもさとったらしく、「こんなのは」と、声のトーンを落とした。
「コンタクトレンズに、瞬間接着剤がつけられていて、それを知らずに……」
「それも、違う!」
 イノウエが怒りをあらわに布団から立ち上がった。それをオレが抑える。アオキも、イノウエのそれは当然の反応だといわんばかりに、戦闘体制に入ろうとしていた。
そんな狙いを定めたハンターのような目をしている二人を牽制しながら、オレは他人事のように頭を捻っているヒグチにいった。
「他にないのか?」

 ひゃくものがたり【百物語】
 夜、数人集まって多くの灯をつけておき、それを一つ一つ消しながら種々の怪談を語り合い、真暗になった時に幽霊が現れるとされた遊び。(広辞苑調べ)

 一時間後。
「それならさ、ペットボトルに男のアレを入れたら抜けなくなった、とか」
 また下ネタかよ、と今更言及する気力を失くしたオレたちは、どんどん出てくるヒグチ流の怖い話を、右の耳から左の耳に筒抜けさせているだけで、旅の思い出とか先生の監視をかいくぐるときのスリルとかさっき沸騰した怒りとかが、そういう情熱が消えて、しぼんでいくのを感じた。
「なあ」隣で、うつらうつらしていたイノウエがいった。「もう、寝ない?」
 それ賛成、とアオキが早速布団にくるまりだした。ヒグチは相変わらず一人で喋っているし、イノウエもオレの肩を叩いて、おやすみと呟いたので、今日はもうお開きだな、と思ったところに、
「え」
 出入り口のドアのほうに、暗闇に浮かぶ白い顔があった。障子越しの月明かりでは、まるでのっぺら坊主のように表情がないのに、迫ってくるような威圧感と、暗闇に浮かぶ人間とは思えないほどの白い手が、まるで、オレが話した怪談みたいに、
 …………。
 腹の底から搾り出した悲鳴は、でも映画やドラマのようにうまくは出なくて、これから眠ろうとしていたイノウエとアオキを起こす程度だった。二人は目を擦りながらオレの方を訝しがって、そして、視線の先に目をやると、同じように固まってしまった。
 けれど、雲で妨げられていた月明かりが、この部屋に入ってきた途端、緊張の糸がぷつんと切れた。
「か、神田先生……」
 オレたち六年二組の担任である神田先生が、不審そうにこちらに近寄ってきた。「どうしたの? そんなに驚いて」
 まさか化粧を落とした先生の顔が、凹凸のないのっぺら坊主のようで、腰を抜かして金縛りにあっていましたなんて、口が裂けてもいえなかったので、三人そろって苦笑いでやり過ごした。
「それより、先生こそ何の用ですか」
「部屋の前を通ったら、あなたちの話し声が聞こえてきてね、それで覗いてみたんだけど」
 ああ、ヒグチのせいだ。あいつの小型犬みたいな声のせいで、先生に見つかって、これからオレたちは怒られるのだ。折角、おやすみをいったところなのに。
 少しでも責任を回避しようと、アオキがつまらなさそうにいった。「うるさいのは、ヒグチ君だけです」
 イノウエもそれに賛同した。「ヒグチ君が、一人で騒いでたんです」
 こうなったら、オレもヒグチ一人だけを悪者にしようか、と思案していると、悲しそうな表情をした神田先生がイノウエとアオキの頬を、いきなり叩いた。
 呆気に取られている二人に、先生は目尻に涙を浮かべながらいった。
「何をふざけてるの! ヒグチ君は、一週間前に蛇に噛まれて死んだでしょ」
 それは、付近のマンションで誰かが飼っていたものらしく、法律に違反する危険な毒を持った、珍しい柄をした蛇だった。
「え、だって」と、アオキが振り返った畳の上には、誰もいなかった。
 部屋中を、押入れやトイレの中も隈なく探したけれど、オレとアオキとイノウエと、すっかり熟睡しているタナベとカタヤマしかこの部屋にはいなかった。さっきまでヒグチが座っていたところには、熱も残っていない。
 そして唐突に、オレたちは、ヒグチがもう死んでしまっていることを思い出した。
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あとがき18

2007年04月05日 | diary
えー、やっと終わりました。

『向日葵』

このところ忙しさにかまけて週一の更新をおざなりにしてしまいました。
もうやめようかな、とか思いましたけど、最後まで載せることができて良かったです。

これは、謎解きに重点を置き、
それに合わせてストーリーを展開させたので、
自分としてはあまり好きじゃないというか、
手直ししたいところが山ほどあるのですが、
いろいろと立て込んでいるので、
たぶんしばらくはこのままでしょう。

いつかは、しっかりと作り直したい作品であります。

この謎解きも、
あとから見るとかなり強引であり、
唐突で尚且つ説明不足な気がします。
もしも本気で考えた方がいるなら、申し訳ない気持ちでいっぱいです。


さて、次回更新ですが、
気の向いたとき、というといつになるかわからないので、
今週の土曜と日曜のあいだに更新します。


  *  *  *  *  *


次回作ですが、


百物語(2500)


()内は大まかな文字数です、ていうかこれ書くの久し振りだなぁ。


これは、自分の中では良い具合に書けた作品であります。
説明が最小限で、ストーリーが流れている気がします。
あくまで自分の中で。
書いているときに、あまり展開とか表現に悩まない作品は、
読み返してみても無理なところが少ない。


とりあえず、自分のストックが無くなるまで続けるつもりです。
そんじゃね☆
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向日葵 11

2007年04月03日 | Literature Factor
 液晶に現れる文字。
『Takayama Akari』
 エンターを押すと、気の抜けた電子音が響いたかと思うと、いままで沈黙を保っていたドアが静かに開いていった。
 想像していたのは、来たときと同じようなトロッコの部屋だったのだが、そこには、ただ暗闇が広がっているだけだ。夜の海原のように、取りとめのない空間。無くなったはずの不安が足を伝って全身を縛りつけようとする。
 そこに。
 何かが足元で光った。
 ピンポン玉くらいの大きさの光。電球だ。それが地面に備え付けられていると思ったら、二メートルぐらい先にも電球が灯り、さらに等間隔に三つの電球がついた。と、足元の電球が消えて、またひとつ先に明かりが灯る。
 誘導灯のようなものか。出口には自分の足で歩いていかなくてはいけないようだ。
 横のほうにも、別の道を示すように電球が灯っていた。あれも、どこか僕のものとは別の終点へと繋がっているのだろう。暗くて人影なんて見えないけれど、足音でみんなが、それぞれの人の所に帰っていくことがわかる。
 しばらく電球についていくと、『階段』と書かれたプレートが光り、段差を照らす光が増えた。
 僕の心は高鳴る。出口はすぐそこだ。
 階段は短かった。せいぜい三階に上がるに満たないくらいだ。
 最後のステップを蹴って、ドアを勢いよく押して外に出ると、いきなりの太陽光線に視界を奪われた。開ききった瞳孔に光がなだれ込んでくる。徐々に輪郭を持ってくる風景は、どこかのバス停のようなポールとベンチ、辺りは一時間前まで見ていた遊園地のものだ。ゴッホ展が開かれているミュージアムも見える。
 そう、ほんの少しの時間なのに、一週間くらい閉じ込められていた気分だ。そして、それに見合う開放感もある。
 ベンチには、一人の少女が座っていた。彼女は、こちらを見上げると、柔らかな微笑を浮かべる。
「おかえり」
 僕も、僕を待ってくれていたアカリに答える。
「ただいま」


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