培地の変容

2008-09-24 | きになる人々
「この社会は、僕/私には、生きにくい」と感じるとき、若者は、どうするか。

過去をさかのぼれば、1968-69年の東大安田講堂占拠事件を中心とした、全共闘が挙げられる。今回、「日本社会の多角的検討」を標榜するシノドスが、立教大学の場を借りて試みたシンポジウム、
「1968+40  全共闘もシラケも知らない若者たちへ」は、フランス文学者である渡邊一民、文芸評論家の絓秀実の言を定点としつつ、社会学の若手研究者3人が2008年現在の若者たちの立ち位置や現状の打開策を論じようとするものだった。

興味深かったのは、休憩時間に主催者の一人である芹沢一也が会場聴講者から集めた質問「なぜ若者はあばれないのか」に対する、社会哲学者・橋本努の応答である。上昇する(=変革する)可能性のない世界での革命的発声は起こりにくいだろう、と橋本はいう。60年代の若者があばれられたのは、高度経済成長期の気運を若者たちが顕著に感じ取っていたからである。また(同じく社会学者・酒井隆史の報告を受けながら)韓国の、中高生までも含む若者のデモが盛んであるのは韓国経済の上昇気運が未だ若者の中にあるからではないか、と。
(補注:韓国の若年齢層によるキャンドル・デモに関しては、理論社会学者・鈴木謙介が別の感想を出しているので、興味のある方は後日の講演録を参照してください。
(参考:http://kazuyaserizawa.com/synodos/mm/)

問題は、2008年現在、日本の若者に漂っている、諦めの気分なのだ。この、諦念に関して、橋本は、若者に共有されるそれに焦点を当てるというよりは、質問者の態度を他人行儀とも言えるとコメントするに留め、打開案として「中間集団」という概念を出した。たとえば、職人集団や寺社といった、自律的集団である。
今回のシンポジウムに根差す疑問、「じゃあ、オレら/わたしら、どーすりゃいいの?」への応答として、「コミューン」が提示されたということが、筆者には非常に興味深いことだった。この「コミューン」提示までの下敷きをランダムに積み重ねると、こんな感じだ。

・橋本努が京都「相国寺」での連続講義を通じて感得した、「中間集団の自律性」
の提示
・鈴木謙介によって言及された、真木悠介の「交響するコミューン」という概念
・若手パネリスト(酒井隆史 橋本努 鈴木謙介)らに共有されるサブカルチャーへの同世代的な共感
・社会学が学として持つ弱さ――サブカルという「余剰」を学として包みきらない弱みが、共感的許容に変わっているということ

これらを踏まえて浮上してきた「中間集団」(by橋本努)≒「わけありコミューン」(by鈴木謙介)は、従来考えられてきた集団概念とは大きく異なるものであり、「それは、集団なの?」と問いかけてしまうような、‘ゆる~い’集団である。彼らパネリストたちが提出した新しい集団概念に、18世紀ドイツの詩人、シラーの最大のアポリア(行き詰まり)は意味を成さない。

「しかしこうした美しい仮象の国家は、存在するものでしょうか?いったいどこに、見出すことができるのでしょうか?欲求の点からいえば、それは純粋に高められたあらゆる魂の中に存在するし、実行の点からいえば、いわば純粋な協会とか純粋な共和国のような、二、三のごく選ばれたサークルの中にだけ見出せるものといえるかもしれません。」
  (シラー『人間の美的教育について』法政大学出版局・2003)

シラーは人間を個として捉えることを前提に、個に包み込まれぬが、なお個に属すだろう余剰を、感性的衝動と形式衝動、そしてそれらの統合としての遊戯衝動として魅惑溢れる理想の個人を構想し、そうした個人らが「理想の国」を作るのだとと説いた。が、今回のシンポジウムで、21世紀の若手論者は、シラーを一例として有する従来の概念に、「培地が違う」と、言ったのではないだろうか。
培地たる、国家も、個人も、
「どっか、完璧じゃあないよね」
と。
国家も、個人も、完璧では、ない。そのことをまず、認めよう。そのうえで、まずは、ゆるぅ~く、集おうや。
それから始めてみるのはどうだろう?

若手論者たちの呼びかけを、そのように、受け取った。

              




立教大学文学部創立百周年記念 × SYNODOS SYMPOSIUM
「1968+40  全共闘もシラケも知らない若者たちへ」

基調講演/渡邊一民 司会/芹沢一也 荻上チキ
パネリスト/絓秀実 酒井隆史 橋本努 鈴木謙介
写真協力/渡辺眸

日時:2008年9月23日(祝) 開場13:30 開演14:00
場所:立教大学池袋キャンパス11号館地下AB01教室
定員:500名(入場無料)

http://kazuyaserizawa.com/synodos/sympo/

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