廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ヴィブラフォンが産み落とした独自のピアニズム

2022年09月03日 | Jazz LP

Jack Wilson / Innovations  ( 米 Discovery Records DS-777 )


ジャック・ウィルソンはその独特なピアニズムと他の誰にも発想できない美しいアドリブのフレーズを両立させる稀有なピアニスト。
大抵はどちらか一方で勝負するものだが、この人の場合はその2つが両立しているところがとにかく凄い。こういうピアニストはあまりいない。

50~60年代に活躍した人たちは70年代になると失速する人が大半だが、この人は失速するどころか、ますます磨きがかかった、というのも凄い。
ロイ・エアーズとレギュラー・コンボを組んでいたので、彼の演奏に焦点があたったアルバムが少ないのが難点だが、そんな中でこのアルバムの
存在は貴重だ。彼の滾々と尽きることなく湧いて出てくる美メロが存分に堪能できる傑作である。

このアルバムを聴いていると、彼のピアノはエアーズのヴィブラフォンの煌びやかなフレーズに強く影響されて出来上がったんだなということが
よくわかる。ピアノの音やフレーズの輝き方がヴィブラフォンのそれに通じるからだ。だから彼のピアノはメロウだとして人気があるのだろう。
演奏の発想が普通のジャズ・ピアニストとは根本的に違うのはあまりに明白だ。

作曲力も高く、自作が半分以上を占めるため、音楽自体が非常に新鮮なのだ。聴き飽きたスタンダードなどなく、初めて聴くことになる美しい
曲群にメロメロになる。"Waltz For Ahmad" なんてケニー・バロンが弾きそうな珠玉の名バラードで、夏が終わり、秋へと変わろうとしている
この時期にはピッタリの名曲だ。曲によってはエレピとコンガが疾走するレア・グルーヴなパートも取り込み、どこを切り取っても美味しさは満点。
センスの良い自由な発想が、聴き手の心を大きく開放するのだ。これを聴くと、自分の中で澱んでいた感情が一掃されて、新鮮な空気に入れ替わる
のがわかるだろう。



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