象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

負の要因と発想の転換〜大場政夫編〜その1です。(4/10更新)

2018年03月07日 14時23分58秒 | 負の要因

 これは、1/26に更新したものを、大幅に追加し、”負の要因と発想の転換〜大場政夫編”として、新たに独立させます。悪しからずです。

 
 "狂気の右ストレート"の異名で知られた大場政夫。知ってる人も多いだろう。第25代WBA世界フライ級王者僅か23歳の若さで交通事故で呆気なく他界した。故に、"永遠のチャンプ"とも言われる。

 ギャンブル好きの父親の影響で、極貧の家庭環境で育つ。"世界王者になり、両親の為に家を建てよう"が彼の全てになった。
 入門当時は、貧相な体躯で、誰もがボクサーとしての資質を疑った。ジムのマネージャも一度は断った程だ。父親が何とか懇願し、ジム入りを強引に許諾させた。

 "大場君はパンチなさ過ぎですね"と揶揄した海老原を倒して、波に乗った。その後の狂気じみた快進撃は皆が知る通りだ。


 以降、世界フライ級王者となったばかりのビラカンポ(比)をノンタイトルで下し、世界王者への挑戦権を遂に獲得。相手はそのピラカンポを下したベルクレック(タイ)。

 開始早々、ベルクレックの肘を目尻に受け負傷するも、大場はムキにならず、時間を掛けゆっくりと相手を料理した。
 本来この試合は、タイで行われる筈だったが、帝拳側が上手く交渉し、東京での開催にこぎ着けた。その上、ベルクレックは減量に失敗し、大場には運も味方した


 初防衛戦では、"フライ級史上最高"と称されるベツリオ•ゴンザレス(名前だけは知ってる人も多いだろう)を、際どい判定で逃げ切るも。恐らく日本以外だったら、負けてたであろうか。頂点に立った大場には、狂気が消え失せていた。

 しかし、リングサイドで観戦してた石原慎太郎に、”フライ級にしては凄まじい打ち合いですね”と言わしめた。事実、見てる側が疲れる程の激しいファイトだった。

 見方を変えれば、実質一階級下のゴンザレスの動きが軽すぎて、捕まえきれなかったと。大場も実質バンタム級の体でしたもの。減量苦もあり、ゴンザレスの動きに付いていけず、最後は流石に疲れてましたな。


 
 ジムは考えた。狂気を呼び戻す為に、アメリカヘの武者修業を思い付く。相手は、世界王者よりも強いと噂のメキシコ王者ロッキー•ガルシア。大場はアゴを砕かれるも、逆転KOし、宿敵ガルシアに"世界は思った以上に遠かった"と言わしめた。

 以降、タイトルマッチの間には、ノンタイトルを噛ませるようにした。狂気を発芽させ、持続させる為だ。過酷な減量と強い相手こそが、大場の狂気を覚醒させる。そのノンタイトルでも大場の狂気は、世界ランカー相手に如何なく発揮されるのだ。

 あるコラムで知った事だが、メキシコの世界5位、ナタリオ・ヒメネスを日本に招いてのノンタイトル戦も実に素晴らしかったという。
 ブロックが巧みな相手のボディに左アッパーを集中し、5R悶絶させてのKO勝ちはパーフェクトだったと。嗚呼、見たかったな。

 多分、3度目の防衛の花形選手相手に際どい判定勝ちをした辺りから、危機を感じてたんでしょう。それに、減量メニューだけじゃ体重が落ちず、無理にでもノンタイトルを噛ませる必要があった。全く大場の人生もファイトもスケジュールも過酷そのものですね。


 大場はピラニアを飼ってた。一瞬で獲物を食いちぎる獰猛さに、大場は酔いしれた。"これが堪んないんですよ"と。孤独もまた狂気と獰猛さを融合させるのだろうか。
 

 4度目の防衛は、最強の挑戦者と言われたオーランド•アモレス。初回から”黒い恐怖”の異名を誇るロングフックが炸裂。もんどり打って大場がダウン、場内に戦慄が走る。”あれがフライ級のパンチか” 会場はどよめいた。アモレスは一気に攻め立てた。左右の死のフックが大場を襲う。

 試合前、相手を舐めきり、アイスクリームを頬張るという失態を仕出かしたアモレスだが、それに見合う怪物ではあった。しかし、大場は相手をじろりと睨みつけ、果敢に応戦する。勇気が狂気を支配した瞬間だ。

 2R、大場の左右のストレートが芸術的な光を放ち、アモレスをマットに沈める。そのアモレスのバッティングで、2Rには額を割られ、3Rには目尻から出血すると、今度は温存してた狂気が唸った
 5R、アモレスの顔面を捉えた大場の右ストレートは、アモレスの頭骨が歪む程の衝撃だった。以降、”死に急ぐ若者”と形容された怒涛のラッシュで、一気に”パナマの黒い怪物”をカンバスの闇に沈めた。

 白目を剥いたまま、カンバスに崩れ落ちた様は、今でも鮮明に焼き付いてる。アモレスの人生観を歪める程の波状攻撃は、破壊そのものだった。そして僕らのボクシング観も、大きく変わった。

 試合後、アモレスは力なく語った。”試合は4Rで終わってた。大場は偉大なチャンピオンだ”と。

 因みに、アモレスはその後一階級上げ、サラテに挑戦しますが、完全KO負け。そのサラテもゴメスには全く歯が立たず、そのゴメスもサンチェスにはフルボコで失神。そして、そのサンチェスは大場と同様に事故死します。運命とはかくも奇なりですね。

 バンタムに上げての万全の状態での大場を、サラテと大場、大場とゴメスなんてシーンを見たかった。日本人ボクサー殿堂入り第一号のファイティング原田よりも確実に強かったと思う。

 
 この頃のボクシングには皆が酔った。日本中が湧いた。日本列島が揺れた。ヤクザだって大場の強さに憧れた。



 生涯最後の試合となったチャチャイ•チオノイ戦。いきなりの初回、チャチャイが"生涯で最高"と、自画自賛した程のオーバーハンドの右ロングを、モロに食らった。
 大場は吹っ飛んだ。受け身が取れなかった程の衝撃だった。お陰で足首を強く捻り、全くの苦境に陥った。
 
 敗北は濃厚だった。大場の生命線であるフットワークが全く使えないのだ。それでも脚を引き摺りながら、大場は耐えに耐えた。”リング上では絶対にテンカウントは聞かない”とは、大場の口癖だった。

 中盤、チャチャイの肘が大場の額を砕いた。レフェリーは偶然のバッティングと見た。大場はキレた、大場は狂った様に殴りかかった。まるで、足首の痛みを忘れたかの様に。

 大場の狂気が会場を包み込み、チャチャイを震え上がらせた。勝利を100%確信してたタイの英雄は12Rで息絶えた。ボロ雑巾みたいに打ち砕かれたその姿は、死を覚悟した男の壮絶さを物語ってた。


 その4ヶ月後、大場は帰らぬ人となった。チャチャイは語る。"大場が死ななかったら、俺がリング上で死んでた"と。死を一度は覚悟した男の言葉だ。
 大場の狂気は半端なかった。彼は、負の要因を”狂気”に変えた。狂気と獰猛さと共存させ、最強の挑戦者達を次々と血祭りに上げたのだ。


 しかし、この大場との”伝説の一戦”は、チャチャイの人生をも大きく変えた。大半の世界王者は、栄光から一度滑り落ちると、あまりにも大き過ぎる反動からか、あたかも時空が歪んだかの様に、生きる指針を見失う。

 チャチャイにとって、この大場との伝説の一戦こそが、本当の宝であり、真の栄光だったのだ。昨今、ベルトというのは、ジムに恵まれ、相手にメディアに恵まれれば、ハングリーなしでも、そこそこ強ければ、誰でも巻ける時代。

 真の栄光は命を懸けないと得られない。大半のありふれた陳腐な栄光は、直ぐに闇に葬られる。しかし、彼は死んだ大場に対して、彼なりの精一杯の礼儀を、引退後の人生で尽くそうとしたのだ。だから、チャチャイも大場と同様に、永遠の王者なりえたのである。

 4/10に大幅に加筆しました。

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2 コメント

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死に急ぐ若者 (ootubohitman)
2018-03-08 17:31:55
ベツリオゴンザレスの試合はユーチューブでも綺麗な映像で流されてます。
それだけ世界中で認められたリアルバウトという事でしょうか。

でも再戦すれば、大場が勝ったでしょう。ゴンザレスはテクニックは最高ですが、破壊力が足りないかな。でも最後は大場も結構疲れてましたね。

石原慎太郎さん、この頃は全然若いですね。それにかなりボクシング通です。解説の小林さんもしきりに頷いてました。

それと、ノンタイトルではメキシコのヒメネスとも戦ってんですね。世界ランク5位のテクニシャンをボディアッパーで沈めたとか。

全くの”死に急ぐ若者”の様に闘い続けたんです。大場の生き様に共感した若者も多かったんではないでしょうか。
Re:死に急ぐ若者 (lemonwater2017)
2018-03-08 21:20:12
こんばんわです。

ヒメネス選手は、初耳ですね。
確かに、ノンタイトルで世界ランカーと拳を合わせる様になり、大場のファイトスタイルが一変してますね。

 多分、花形選手に判定勝ちをした辺りから、危機感を感じてたんでしょう。それとも減量苦からか、試合どこではなかったかもです。

 筋肉の盛り上がりなんて、全然変わってますもの。実質バンタム位のウェイトだったんでしょうか。
 ゴンザレスの動きが軽すぎて、捕まえきれなかったという感覚か。バンタムに上げての万全の状態での大場が見たかったですね。

 因みに、アモレスはその後一階級上げ、サラテに挑戦しますが、完全KO負け。そのサラテもゴメスには全く歯が立たず、そのゴメスもサンチェスにはフルボコで失神します。そして、そのサンチェスは大場と同様に事故死します。

 サラテと大場、大場とゴメスなんて見たかったな。

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