世界変動展望

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糖尿病治療のブレイクスルーとなり得るベータトロフィン論文に関する不適切さ

2014-11-13 03:02:32 | 社会

2013年4月25日にハーバード大学幹細胞研究所の共同所長であるDouglas Meltonらのグループがセル誌でベータトロフィンという新ホルモンを発見し、それは膵β細胞の増殖を促進すると主張する論文を発表した[1]。二型糖尿病治療のブレイクスルーとなり得る成果で大きく注目された。二型糖尿病はインスリンの分泌低下等で起きる病気で、患者は食事に合わせて一日数回インスリンを注射しなければならない[2]。それは煩わしいので患者がもっと楽に生活できるための治療を目指してインスリン生産細胞であるβ細胞を体内で増やす治療法が研究されている[2]。β細胞を増やせばインスリンが増え、注射を打たない楽な糖尿病治療ができる。Meltonらが発見したと主張するベータトロフィンはまさに膵β細胞を増殖させると論文で主張されており、具体的には「8週齢マウスの肝臓にベータトロフィンを発現させると、インスリンを分泌する膵β細胞の増殖が平均17倍上昇した。ベータトロフィンはヒトの肝臓にも発現している[1] 」という。「2型糖尿病は世界中で3億人以上が罹患しているとされる代謝性疾患であるが、この主要な原因は、加齢とともに膵β細胞機能が低下することである。2型糖尿病と1型糖尿病(膵β細胞への自己免疫攻撃によって引き起こされる)に直接関わる医療費は、米国だけでも、毎年1760億ドル(約17兆6000万円)に もなる。[1]」画期的な二型糖尿病治療法が開発されうるブレイクスルーとして大きく注目された[1]。ハーバード大学は成果を宣伝した。


ハーバード大学のベータトロフィン論文[3]の宣伝

ところがMeltonらがセル論文で主張したベータトロフィンの効果の否定を主張する論文がセル誌で発表された[4]。論文を発表したのはRegeneron Pharmaceuticalsの研究者Viktoria Gusarovaemailら。彼らはベータトロフィンはangiopoietin-like-protein8(ANGPTL8) で、これはβ細胞の増殖には効果がないと主張した。PubPeerでも指摘があったRetraction Watchも最近の展開を報じた[6]。MeltonはPubPeerの匿名の指摘に対して不快に思っているようで指摘は有用でないので無視するつもりのようだ[6]。Meltonグループは追跡研究で批判論文[4]の正当性を確かめ、新たなデータが当初の結論と矛盾し疑問を持たせる結果になったことを認めた[6][7]。ベータトロフィンがβ細胞を増やすというブレイクスルーとなったセル論文の結論には十分な証明がなく支持できないようだ[6][7]。

しかしMeltonにとって論文撤回はデータに不正があった時に行うもので、撤回するつもりはないという[6]。私はこれは間違っていると思う。論文の結論が支持できなければ撤回するしかないし、データの捏造、改ざんがあった時だけ撤回になるわけではない。結論が支持できない論文を撤回しないのは他に損害を与える危険を作ることで研究者の倫理としてかなりまずい。ブレイクスルーの論文なら影響が大きいと思う。もっとも結論が支持できないことが広く知られれば損害は少なくなるのかもしれないが。PubPeerの指摘を悪く見なして無視したり、論文の撤回を避けようとするMeltonの態度は重大な誤りがあった論文や不正論文の著者にありがちな事だが、匿名者相手に回答を控えるのはともかく一般の説明責任や論文の撤回の責任は果たさないとまずい。

今年のSTAP細胞捏造オーストラリアのパーキンソン病治療のブレイクスルー論文の捏造など、いろいろブレイクスルーが騒がれたが、世の中そんなうまい事がめったにあるわけないといえる。

Meltonは論文撤回はデータ捏造、改ざんやその類の時だけとRetraction Watchで語ったので、撤回したら捏造、改ざんを認めたという事になるのか[6]。

参考
[1]Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7
[2]このサイト 2014.11.13閲覧
[3]Cell Volume 153, Issue 4, p747–758, 9 May 2013
[4]Cell Volume 159, Issue 3, p691–696, 23 October 2014
[5]このサイト 2014.11.13閲覧
[6]Retraction Watch.
[7]Cell Volume 159, Issue 3, p467–468, 23 October 2014
[8]関連


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