世界変動展望

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第11回研究公正の有識者会議を見た現在の研究公正議論に対する見解

2019-10-10 00:00:00 | 社会

「平成30年度に公表された事案8件のうち5件が、学内の紀要に掲載された論文における盗用ということで、紀要について査読を行う等の体制の整備を行うことも、発生防止の取組として有用と考えられる。」(第11回研究公正の有識者会議 議事要旨より)

文科省の有識者会議は文科省に報告された内容だけをもとに議論しているようだ。報告一覧。文科省の事件一覧は更新頻度も件数も低く内容が貧弱すぎる。白楽先生の事件一覧の方が充実している。有識者会議で扱っている事件前例は内容が貧弱すぎて、実態にあっているのか少し疑問がある。文系の研究者あたりの研究不正発生率が高いのは確かだと思うが、捏造、改ざんもそこそこ多いと思う。

また、紀要に査読体制を整備して盗用を防ぐということだが、文系は査読を含めて研究公正の制度が貧弱すぎ、非常に後進的。Correspondenceはないし、口頭発表等の査読付き論文以外の発表だと捏造、改ざんは問題にならないとか全分析結果、結論の訂正とか非常に悪い。それに前例からいって、査読は研究不正を防ぐ仕組みになっていない。今まで非常に多くの査読付き論文で研究不正が発見され、査読が不正を防ぐ仕組みになっていない事が示された。例えばSTAP細胞論文にもコピペ盗用があったが、それを査読で防ぐ事はできなかったし、でたらめな論文を掲載してしまった。こんな事は何度も繰り返されてきた。

文系の和文誌は確かに標準的な出版倫理や制度の構築が急務だ。しかし、査読をきちんとやれば研究不正が防げるのかは前例からいって非常に疑問がある。査読はもともと「不正はやっていない」という前提で行われ、提出されるデータ等を疑いもしない。

また、有識者会議はいいかげんに、研究不正の対応がずさん、隠蔽といった問題がある事を認識して制度を議論してほしい。各研究機関で不正として報告されたものだけを対象に議論するから、相当な数のでたらめ、隠蔽事案が考慮されておらず、有用な議論や対策ができない。研究機関はでたらめ、隠蔽といった不当な対応は全く珍しくない。東大医学系、国立環境研究所・大阪大学事件、東北大学元総長事件、京大再生研事件、岡山大学事件、大阪大学医学系などたくさん不当な対応で未解決になっている事件がある。例えば東大医学系事件はモラルハザードが原因だが、有識者会議ではまるで正当な調査で問題なかったために考慮されなかったかのような扱いではないか。一定の研究倫理の専門家の間では、この件は大きな問題で、必ず議論しなければならないし、ずっと前からORIのような第三者機関を作るべきだと多くの人が主張している。しかし、有識者会議はこういう問題を全然考慮していない。

有識者会議が文科省に不正として報告された事件だけをもとに議論すると貧弱すぎる。

それに文科省に報告される研究不正の調査制度の報告書は、本当によくわかっているのか疑問がある報告書もある。未来工学研究所の「研究活動における不正行為に対する調査方法に関する調査」によると

『しかし、細部は別として、基本的考え方は文部科学大臣決定「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)の順守であり、基本的骨格は、上記ガイドラインに関して文部科学省が行った照会に対する日本学術会議の回答(平成27年(2015年)3月6日)「科学研究における健全性の向上について」の中に含まれている「各大学の研究不正対応に関する規程のモデル」に基づいており、その枠組みを外れたものは見られなかった。』(2.4.4(1)、p122 より)

と書かれている。しかし、ガイドラインの基本的枠組みを歪めている研究機関の内部規程はいくつかある。

例えば大阪大学は「大阪大学における公正な研究活動の推進に関する規程」(写し)を見る限りガイドラインに沿っているように見えるが、「大阪大学における研究活動の特定不正行為の予備調査及び本調査に関する細則」(写し)をみるとガイドラインの規定を歪めている事がわかる。ガイドラインでは本調査がメインで半数以上の外部者を加えて不正の有無を判断し、予備調査は不正行為の可能性などを調べる準備的、簡易な調査というのが基本的枠組みだが、阪大の規定ではそれが逆転していて、予備調査は全員内部だけで行って、不正の有無まで判断する。外部者が半数以上加わる本調査は予備調査報告の確認というプロセスだ。阪大はメインが予備調査、本調査はその確認という制度であって、ガイドラインの枠組みを歪めている。メインとなる本調査で外部者を半数以上加えて公正中立な制度にしようという趣旨なのに、阪大は細則でそれを骨抜きにしている。内部だけで処理できるようにして不正を隠蔽できるようにする制度だ。以前の阪大の規定は外部者の通報を受け付けない規定だった。こうした規定は阪大にとって研究不正の問題が不都合で、恣意的な対応を可能にすることで不正を隠蔽できるようにしたいという意思の表れなのだろう。

東北大学の規定写し)もFFPは故意、著しい注意義務違反を規制対象とするのがガイドラインの規定なのに、それを歪めて故意のみを対象とし、二重投稿などの行為だけ著しい注意義務違反を含めて規制対象にできることしている。できる事にしているというのは大学が恣意的に扱えるということ。東北大学元総長に対する研究不正を追及するグループはこれに抗議したが、東北大学は無視している

これが研究機関の対応に任せている実態であって、結局のところきちんとやろうとしない、できる限り隠蔽するという態度ばかりである。必ず実効性のある規則やORIのような第三者機関を作らなければならない。前からずっとそう主張している。

今は研究公正の有識者の議論は不正事案の把握が貧弱すぎるし、各研究機関が不正に対してずさん対応、隠蔽といった不当な対応をとっている事が全く珍しくない事を全然考慮していない。大きな隠蔽事件が発覚しないと動かないというのは不適切だ。前から主張されている事は必ず改善する必要がある。必ず実行してほしい。