歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪【参考書の紹介】『現代文 キーワード読解』Z会出版≫

2022-04-03 18:09:20 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪【参考書の紹介】『現代文 キーワード読解』Z会出版≫
(2022年4月3日投稿)

【はじめに】


今回のブログでは、次の参考書を紹介してみよう。
〇Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]

「はしがき」にも述べてあるように、現代文を正確に読解するためには、文章の論理展開を把握する力の他に、「語彙力」と「テーマ知識」が欠かせない。
(「テーマ知識」とは、評論文で扱われる特定のテーマについての知識のことである)
本書では、「語彙力」と「テーマ知識」の両方を身につけることができるように工夫されている。
評論文における頻出キーワード(第1部)、入試頻出の評論テーマ(第2部)、さらに小説分野の重要語(第3部)と分けて、収録している。
 私の関心に沿って、キーワードをピックアップして、紹介してみる。




【Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』はこちらから】

現代文キーワード読解[改訂版]






Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解』
【目次】
はしがき
本書の構成と利用法
第1部 キーワード編
第1章 基本
第2章 科学
第3章 言語
第4章 文化・宗教
第5章 哲学・心理
第6章 近代
第7章 現代社会

第2部 頻出テーマ編
テーマ1 自己/他者
テーマ2 身体論
テーマ3 メディア・芸術論
テーマ4 政治論
テーマ5 経済論
テーマ6 歴史論

第3部 小説重要語編
補講 読解ツール
1 同内容表現
2 対比表現
3 否定→肯定
4 譲歩表現
5 逆接表現+筆者の主張
6 具体例の読み解き方
7 因果関係
8 時間・時代の変化
9 空間の比較
10 常識批判
11 疑問→解答+根拠はワンセット
12 呼応表現
付録 反意語・カタカナ語
索引




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・【はじめに】
・No.73文化とNo.74文明~「第1部キーワード編」より
・No. 89主観とNo. 90 客観~「第1部キーワード編」より
・No.141大衆社会~「第1部キーワード編」より
・No.148グローバル化(グローバリゼーション)~「第1部キーワード編」より
・第2部頻出テーマ編 テーマ6歴史論~カー著『歴史とは何か』より
・夏目漱石と森鷗外の作品にみえるキーワード~「第3部小説重要語編」より
・コラムで紹介された夏目漱石と森鷗外
・岡本かの子という作家と小説『家霊』
・小説重要語の確認テスト






No.73文化とNo.74文明~「第1部キーワード編」より


「第1部キーワード編」の「第4章 文化・宗教」には、「No.73文化」と「No.74文明」には次のように記してある。

No.73 文化
人間の精神活動によって生み出されたもの。普遍的な文明に対して、「時代や地域に固有」というニュアンスで用いられる。
No.74 文明
技術や物質面で普遍的な影響力をもつ文化のこと。

「入試でキーワードをチェック!」では、文章が入試問題から取り上げられている。実際の入試問題を読みながら、文脈の中でキーワードを学習できるという利点がある。

文化と文明について、村上陽一郎『文明のなかの科学』から、次のような評論が引用されている。(出題:立教大学・経済学部)

 ある一つの「文化」は「普遍化への意志」を持って、他の諸文化への
攻撃的な姿勢を示したときに「文明」となり得るのではないか。そして、
そのことは、ヨーロッパの十八世紀に「文明」という概念が造られたときに、
暗々裏にその概念のなかに込められた潜在的な前提ではなかったか。
 もちろん、実は「普遍化」への意志だけがあっても「文化」は「文明」には
なれない。その意志を実行に移すだけの、社会的な制度や機構(そのなかに
は軍隊や警察のような、権力の施行を円滑にするための統治制度も、あるい
は自らの文化的価値を布教し教化するための教育制度も、重要な一つの要素と
して含まれる)を備えていることが必要である。言い換えれば、「文明」とは、
一つの「文化」が、そうした普遍化への意志を持ち、その意志を実行に移すだ
けの装置を備え、そして事実、多くの異なった文化を、自分の文化的な価値
のなかで統一する形で支配し統治したときに、その状態に対して付される術語
ではないか。

「読解のポイント」では、文章を読解する際に要点となる箇所を示している。文章の論理がどのように展開されているかを確認するのに役立つ。

たとえば、上記の評論については、次のようにまとめている。
読解のポイント
ある一つの「文化」
⇓普遍化への意志+社会的な制度や機構
「文明」

「要約」では、文章の内容を短くまとめている。ここを読むと、文章の内容がつかみやすくなる。自分でも要約を練習してみるとよい。

要約
文明とは、ある一つの文化が普遍化しようとして、そのための社会的な制度や機構を備え、多くの異なった文化を自分の文化的な価値のなかで統一した状態のことである。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、8頁、112頁~113頁)



No. 89主観とNo. 90 客観~「第1部キーワード編」より


「第1部キーワード編」の「第5章 哲学・心理」の「No. 89主観」と「No. 90客観」には次のようにある。

No.89主観
対象を認識する自分の意識。または、自分だけの感覚や考え。
No.90客観
①自分の意識と関わりなく存在する対象。
②誰にとっても同じであること。

「入試でキーワードをチェック!」には、主観と客観について、山下勲『世界と人間』から、次のような評論が引用されている。(出題:センター本試験(国語Ⅰ・Ⅱ))
 
 私(主観)が物(客観)を見るというのは、結果として現れてきた
現象である。私という意識は意識されるもの(客観)なしにはありえず、客
観も意識するものなしにはない。そこで、人間がものごとを知るという主観と
客観の関係の基礎には両者が一体となった状態があり、その原初の世界が分化
することによって知るという意識の現象があると見なされなければならない。
この意識の根源にある世界は直観の世界であり、古来、主客合一、物我一如と
いわれてきた。我々が我を忘れてものごとに熱中している時や、美しい風景に
うっとり見入っている時のことを考えれば理解しやすい。しかしこの例に限ら
ず、どのような場合にもそのような一体化した状態が意識の根源に存在してい
る。それが分化した時、人間の意識の世界が現れてくる。それは意識するもの
とされるもの、知るものと知られるものの世界である。これは、主客対立とか
主客分裂とかいわれるが、私と私でないものの区別が明瞭となる世界である。

読解のポイント
意識の根源にある原初の世界
 =直観の世界
 =主客合一・物我一如
 主客対立・主客分裂
主観(意識するもの)
 ⇕
客観(意識されるもの)

要約
主観と客観という意識の世界の根源には、主客合一、物我一如という原初の世界があり、それが分化した時、人間の意識の世界が現れてくる。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、140頁~141頁)



No.141大衆社会~「第1部キーワード編」より


「第1部キーワード編」の「第6章 近代」の「No.141大衆社会」には次のようにある。

No.141大衆社会
大多数の人々の集団が、大きな力をもつ社会。
※大衆社会という語は、入試現代文で使われる場合には、ほとんどよい意味では使われない。

「入試でキーワードをチェック!」には、大衆社会について、中西新太郎「文化的支配に抵抗する」から、次のような評論が引用されている(出題:センター本試験(国語Ⅰ・Ⅱ))。

 政治権力との対抗関係がないという意味ではないが、マス・メディアは、
全体として、現代社会の権力と権威的秩序の一端をになう位置へと変化し
てきた。マス・メディアがつくりだす文化も、したがって大衆文化の多くも、
文化という次元のうえで、弱者の抵抗表現を核にした下位文化とはとてもいえ
ない権威的な存在へと変貌している。大衆文化のつくり手のもつ意識がこの秩
序どおりでないとしても、大量生産のかたちを介するかぎり、大衆文化は大
衆社会に固有の権威的構造・秩序のなかに組みこまれざるをえない。フォー
マルな、権威のある文化に押さえつけられた大衆文化がある、という図式は崩
れ、たとえばクラシック音楽とポピュラー音楽との落差にかんして私たちがま
だなんとなく感じている、「高級―低級」という文化秩序も実際には(文化
生産とその消費のありようとしては)逆転しつつある。

中西新太郎「文化的支配に抵抗する」 センター本試験(国語Ⅰ・Ⅱ)

読解のポイント
≪マス・メディアがつくりだす大衆文化≫
<従来>=弱者の抵抗表現を核とした下位文化
 ⇕
<現在>=権威的な存在へと変貌
➡権威ある文化に押さえつけられた大衆文化があるという図式は崩れ、文化秩序は逆転しつつある

要約
マス・メディアは、全体として権威的な存在へと変化しており、権威ある文化に押さえつけられた大衆文化という図式は崩れつつある。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、222頁~223頁)



No.148グローバル化(グローバリゼーション)~「第1部キーワード編」より


「第1部キーワード編」の「第6章 近代」の「No.148グローバル化(グローバリゼーション)」には次のようにある。

No.148 グローバル化(グローバリゼーション)
物事が世界的・地球的になっていく動き。
国際化という傾向はあくまで「国家」を中心としているが、グローバル化は国家や国境に関係なく、物事が地球的規模で展開することを言う。

「入試でキーワードをチェック!」には、
間宮陽介「グローバリゼーションと公共空間の創設」から、次のような評論が引用されている。
(出題:新潟大学・人文学部)

「国際化」を英語でいえば、internationalizationということになろう。
internationalとはnationとnationをつなぐ(inter)という意味である。
がんらい異質なあるものとあるものを「つなぐ」というのがinterという接
頭辞である。日本、アメリカ、韓国、中国、これらの国々には似た面もあれば
異なる面もある。すべての面で同じであれば国と国をつなぐ必要は生じない、
違った面があるから国と国をつなぐ、すなわち国際化する必要が生じるわけで
ある。
 「国際化」に対して、「グローバル化」にはもともと違っているものを同
質化するという含みがある。ボーダレス化する、国境をなくすとは、国と国を
分け隔てる障害を取り除き人や物の往き来を自由にするということを通り越し
て、当の異質性を消去する、そうしたニュアンスがグローバル化という言葉に
は含まれているのである。
(間宮陽介「グローバリゼーションと公共空間の創設」)

読解のポイント
国際化=異質な面があるからつなぐ
 ⇕
グローバル化=もともと違っているものを同質化する

要約
国際化は、がんらい異質な国同士をつなぐという意味をもつのに対して、グローバル化には、境界をなくして異質性を消去するというニュアンスがある。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、236頁~237頁)



第2部頻出テーマ編 テーマ6 歴史論~カー著『歴史とは何か』より


「第2部頻出テーマ編 テーマ6歴史論」においては、カー著『歴史とは何か』が「入試にチャレンジ!」において取り上げられている。

 歴史家と歴史上の事実の関係を吟味して参りますと、私たちは二つの難所の
間を危うく航行するという全く不安定な状態にあることが判ります。すなわち、
歴史を事実の客観的編纂と考え、解釈に対する事実の無条件的優越性を説く支持
し難い理論の難所と、歴史とは、歴史上の事実を明らかにし、これを解釈の過程
を通して征服する歴史家の心の主観的産物であると考える、これまた支持し難い
理論の難所との間、つまり、歴史の重心は過去にあるという見方と、歴史の重心
は現在にあるという見方との間であります。
 考えてみれば、歴史家の陥っている窮境は、人間の本性の一つの反映なのであ
ります。人間というものは、決して残りなく環境に巻き込まれているものでもな
く、無条件で環境に従っているものでもありません。その半面、人間は環境から
完全に独立したものではなく、その絶対の主人でもありません。人間と環境との
関係は、歴史家とそのテーマとの関係でもあります。歴史家は事実の慎ましい奴
隷でもなく、その暴虐な主人でもないのです。歴史家と事実との関係は平等な関
係、ギヴ・アンド・テークの関係であります。
 歴史家は事実の仮りの選択と仮りの解釈で出発するものであります。仕事が進
むにしたがって、解釈の方も、事実の選択や整理の方も、両者の相互作用を通じ
て微妙な半ば無意識的な変化を蒙るようになります。そして、歴史家は現在の一
部であり、事実は過去に属しているのですから、この相互作用はまた現在と過去
との相互関係を含んでおります。歴史家と歴史上の事実とはお互いに必要なもの
であります。事実を持たぬ歴史家は根もありませんし、実も結びません。歴史家
のいない事実は、生命もなく、意味もありません。そこで、「歴史とは何か」に
対する私の最初のお答えを申し上げることにいたしましょう。( X )

出典 E・H・カー著/清水幾太郎『歴史とは何か』 出題 中央大学・経済学部

【問】( X )に入れるのに最も適当なものを一つ選べ。
A 歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去
との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。
B 歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去
との間の限られた会話なのであります。
C 歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不変の前提であり、現在と過去
との間の尽きることを知らぬ独白なのであります。
D 歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不毛の過程であり、現在と過去
との間の無限の対話なのであります。
E 歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不変の過程であり、現在と過去
との間の限られた独白なのであります。

【解法】
ヒント
・事実または解釈のどちらか一方だけでは、歴史はとらえられないということ。
・現在に属す歴史家と過去に属す事実との相互作用によって生きた歴史はつくられていくということ。

☆筆者は、歴史家と事実との相互作用は「現在と過去との相互関係を含んでおります」と言っている。
だから、それを「独白」ととらえているC・Eは×。
☆「歴史家と歴史上の事実とはお互いに必要なもの」なのだから、それを「不毛の過程」と否定的にとらえているDも×。
☆「現在」は刻々と変化するものであることを考えれば、Bのように現在と過去との関係を「限られた会話」とするのはおかしい。

【解答】 A
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、288頁~289頁)



夏目漱石と森鷗外の作品にみえるキーワード~「第3部小説重要語編」より


「第3部 小説重要語編」について紹介しておこう。
例えば、No.163には次のようにある。

No.163 懐かしい
①心引かれ、愛着を抱く。
②過去のことに心引かれる。

「文章でキーワードをチェック」において、「懐かしい」というキーワードを、森鷗外『雁』という作品から引用している。

場面
高利貸しの愛人であるお玉は、日中、よく窓の外を眺めて暮らしていた。ある時、通りかかった医学部生の岡田に恋心を抱く。

お玉のためには岡田も只窓の外を通る学生の一人に過ぎない。しかし際立って立派な紅顔の美少年でありながら、己惚(うぬぼれ)らしい、気障(きざ)な態度がないのにお玉は気が附いて、何とはなしに懐かしい人柄だと思い初めた。

出典森鷗外『雁』
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、293頁)

また、No.178には次のようにある。
No.178気が(気の)置けない
遠慮する必要がなく、心から打ち解けることができる。
<気が許せない・油断できない>という意味に間違えやすいので注意が必要。

「文章でキーワードをチェック」において、「気が(気の)置けない」というキーワードを、夏目漱石『彼岸過迄』という作品から引用している

場面
高木という人物が、叔母や母たちのいる別荘に遊びに来る。

高木の去った後、母と叔母は少時(しばらく)彼の噂をした。初対面の人だけに母の印象は殊に深かった様に見えた。気の置けない、至って行き届いた人らしいと云って賞めていた。叔母は又母の批評を一々実例に照して確かめる風に見えた。
出典夏目漱石『彼岸過迄』
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、304頁)

同じく、「No.181 棹(さお)さす」についても、夏目漱石『草枕』から引用している。まず、
「No.181棹さす」とは、次のような意味である。

No.181 棹(さお)さす
時勢・流行に合わせて物事を進める。
※<流れに逆らう・勢いを止める>という反対の意味に誤用しやすいので注意。

場面
主人公の画工は山路を登りながら感慨にふける。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい。

出典夏目漱石『草枕』
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、307頁)

また、「No.196なおざり」についても、夏目漱石『明暗』から引用している。「No.196なおざり」とは、次のような意味である。

No.196 なおざり 
物事に真剣に取り合わず、いい加減に対処すること。おろそか。
※漢字では「等閑(とうかん)」と標記する。「おざなり<=その場限りの間に合わせ>」との意味の違いに注意しよう。

場面
読書家の「彼」は机の上の洋書を手にする。

彼は坐るなりそれを開いて枝折(しおり)の挿(はさ)んである頁を目標(めあて)に其所(そこ)から読みにかかった。けれども三四日等閑にしておいた咎(とが)が祟って、前後の続き具合が能く解(わか)らなかった。
出典夏目漱石『明暗』

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、318頁)

もう一度、森鷗外に戻るが、「No.200鷹揚(おうよう)」というキーワードが、森鷗外『普請中』から引用されている。

No.200 鷹揚(おうよう)
鷹揚(おうよう)
ゆったりとしている様子。
※鷹(たか)が大空をゆうゆうと飛ぶ様子からできた語。

場面
渡邊は知り合いのドイツ人女性とホテルで会食する。

「長く待たせて。」
 独逸語である。ぞんざいな詞(ことば)と不吊合(ふつりあい)に、傘を左の手に持ち替えて、おうように手袋に包んだ右の手の指尖(ゆびさき)を差し伸べた。渡邊は、女が給仕の前で芝居をするなと思いながら、丁寧にその指尖をつまんだ。

出典森鷗外『普請中』
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、323頁)



コラムで紹介された夏目漱石と森鷗外


コラムで紹介されている夏目漱石と森鷗外について記しておく。

【夏目漱石について】
・夏目漱石は国民的作家と言われる。
・その作品の魅力の一つは文体にあると考えられる。
⇒江戸っ子らしい、くだけていてしかも明快な、話し言葉に近い言い方や、和漢洋にわたる深い教養からおのずとにじみ出てくる格調の高さなどが、その独特の文体の魅力を形づくっている。
・漱石は、自然主義一色で文学が塗り込められようとしていた時代に、それに理解を示しながらなお独自な位置を占め、森鷗外とともに文学を一段高いところから照らし出すような存在だった。
⇒その<高さ>を保証したものの一つは、漱石の抱いた問題意識の大きさ、深さであっただろう。

【森鷗外について】
・森鷗外は漱石に比肩する明治文学の巨匠である。しかし、それだけではない。
⇒当時の日本の超エリートとしてドイツに留学し、コッホなどの著名な医学者から指導を受け、陸軍軍医総監にまで上り詰めた人物としても知られている。
・ドイツ留学中の経験は『舞姫』という浪漫主義作品に結実するが、その舞台を日本に移したのが『雁』だという指摘もされている。
⇒たしかに『舞姫』のエリスも『雁』のお玉も、封建社会に埋没し、薄幸な人生を送る女性である一方、『舞姫』の豊大郎と『雁』の岡田には、最終的には傍観者的な態度をとる知識人エリートという類似性が見られる。
・なお、鷗外は晩年、歴史小説や史伝を発表した。
・ちなみに、現実の鷗外はなかなかの愛妻家であった。
⇒陸軍師団のあった広島に出張した際の、夫人に宛てた配慮に満ちた手紙や歌が残されている。
⇔この点、漱石とは対照的である。
 漱石は、「自分は信用されているほど君子ではないから、外では何をしているかわからない」と夫人を煙に巻いた。
(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、295頁)



岡本かの子という作家と小説『家霊』


岡本かの子という作家の小説『家霊(かれい)』が、No.164「しかつめらしい」という小説重要語のところで、引用されている。そして、コラムにも取り上げられている。(コラムでも言及されているように、この『家霊』という小説は入試でよく出題されているそうだ。)

No.164 しかつめらしい 岡本かの子『家霊』
①もっともらしい。
②まじめぶった様子だ。
※もとは「しかつべらしい」で、音が変化してできた語。「鹿爪(しかつめ)らしい」と字をあてる。

場面
何度も食事の代金を店に払わずに帰る老人がいた。彼は今夜も店に来て、注文をして言い訳を述べる。

老人は娘のいる窓や店の者に向って、始めのうちはしきりに世間の不況、自分の職業の彫金の需要されないことなどを鹿爪らしく述べ、従って勘定も払えなかった言訳を吶々(とつとつ)と述べる。
  ※吶々――口ごもりながら話すさま。
出典岡本かの子『家霊』

コラム「女流文学1 岡本かの子」より
・岡本かの子は、与謝野晶子に師事した歌人として、また仏教学者としての一面もあったが、一方では、夫婦関係で多くの苦労を経験したことでも知られる。
・小説に専心したのは晩年の数年間だけだが、芥川龍之介をモデルにした小説を発表して作家的出発を果たしたあとは、多数の作品を残した。
・食と生命に関したテーマの作品が目立つ。その中でも『家霊』は入試によく出題されているという。
・多くの人間を巻き込み波乱に富んだ、かの子の人生は、瀬戸内晴美(寂聴)の『かの子繚乱』にくわしい。
・なお、かの子の息子は画家の岡本太郎である。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、293頁、331頁)



小説重要語の確認テスト


「第3部小説重要語編」には、確認テストが4つ出題されている(確認テスト24~27)。
そのうちの1つである確認テスト24には次のようにある。

確認テスト24
次の空欄に当てはまる語を、あとの①~⑥からそれぞれ一つずつ選べ(同じものを二度使ってはならない)。なお、空欄には活用させて入るものもある。

ア 思いを寄せている人が手の届かないところにいる時は、何とも□□ものだ。
イ 読書中の小説で、主人公の性格が自分と似ていることに気づき、□□気がした。
ウ いつもはひょうきんな彼が、皆の前で話をする時は急に□□顔になるのが、何ともおかしい。
エ その程度の勉強量で「猛勉強」などと言うなんて、□□にもほどがある。他の人は君の三倍は勉強しているよ。
オ 通学途中で気になっていた、名前も知らない彼女に思い切って声をかけたら、あからさまに□□顔をされてしまった。
カ 今日は一人でいたいのに、しきりに携帯電話にメッセージが届く。こんな時、いつもは便利な携帯電話が□□てたまらない。

【選択肢】
①懐かしい ②しかつめらしい ③いぶかしい ④片腹痛い ⑤うとましい ⑥やるせない

【正解】
ア=⑥、イ=①、ウ=②、エ=④、オ=③、カ=⑤
【参考】
イ…「懐かしい」には、<心引かれる>という意味もある。
オ…「いぶかしい」の動詞形は「いぶかる(訝る)」で、<疑わしく思う・不審に思う>の意。

(Z会出版編集部編『現代文 キーワード読解[改訂版]』Z会出版、2005年[2015年版]、300頁~301頁)