難波宮作歌一首(并短歌)
安見知之 吾大王乃 在通 名庭乃宮者 不知魚取 海片就而 玉拾 濱邊乎近見 朝羽振 浪之聲□ 夕薙丹 櫂合之聲所聆 暁之 寐覺尓聞者 海石之 塩干乃共 □渚尓波 千鳥妻呼 葭部尓波 鶴鳴動 視人乃 語丹為者 聞人之 視巻欲為 御食向 味原宮者 雖見不飽香聞
やすみしし 我が大君の あり通ふ 難波(なには)の宮は 鯨魚(いさな)取り 海片付きて 玉拾ふ 浜辺(はまへ)を清み 朝羽(あさは)振る 波の音騒き(さわく) 夕なぎに 楫(かぢ)の音聞こゆ 暁(あかとき)の 寝覚(ねざめ)に聞けば 海石(いくり)の 潮干(しほひ)の共(むた) 浦洲には 千鳥妻呼び 葦辺(あしへ)には 鶴(たづ)が音響(ねとよ)む 見る人の 語りにすれば 聞く人の 見まく欲りする 御食向(みけむか)ふ 味経(あじふ)の宮は 見れど飽かぬかも
難波宮にて作る歌一首(並びに短歌)
「“八隅知し”我らの天皇が、いつも通われる、難波宮は、“鯨魚取り”海に面している。真珠を拾う、浜辺は清らかに。朝は(鳥が羽を)はばたくように、波の音が騒ぐ。夕凪には、(舟の)楫の音が聞こえる。明け方の、目覚めに聞けば、暗礁がひき潮とともに(姿を見せる)。入り江にある州では、チドリがつがいを呼ぶよ。アシが茂る水辺では、ツルが鳴き声を響かせる。
(この光景を)見た人が語れば、(この話を)聞く人も、(この光景を)見たくなること請け合いだ。“御食向(みけむか)ふ”味経宮(難波宮)は、いつ見ても飽きないものだ」