セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「マタンゴ」&東宝特撮映画

2010-11-03 01:45:56 | 邦画
 僕が子供の頃の楽しみは、夏休みと正月に上映される怪獣映画でした。
 TVではウルトラシリーズ第一弾になった「ウルトラQ」が始まり、以後、「ウルトラ
マン」、「ウルトラセブン」と続きます、考えると幼稚だけど幸せな時代だったのかも
しれません。
 特撮映画には熱狂的ファンの方々が大勢いらっしゃるので、迂闊な事は余り言え
ないんですが、大人になっても見られるモノは非常に少ないですね、やっぱり対象
が小学生辺りですから。(あくまでも鉦鼓亭の個人的見解ですよ)
 名作の誉れ高い「ゴジラ」(1954年)にしても、アイデアは抜群だし良い所も一杯
有るんですが、主演の宝田明と河内桃子(特に宝田明さん)の芝居が限度を越えて
下手っぴすぎるので、ドラマの部分で興醒めしてしまうんです、むしろ「空の大怪獣
ラドン」(1956)の滅びの美学や、「モスラ」(1961)のファンタジーに鉦鼓亭は惹
かれます。
 そんな中でも後世に残る作品は有ります、1963年の「マタンゴ」、大映が1966
年に作った「大魔神」、この二作は名作と呼べる域にあると思います。
 どちらも人間のドラマ部分が非常にしっかりしてるので、今観ても充分耐えられる。
 「大魔神」は大映の作なので、ここでは除外。
 「マタンゴ」については後述するとして、もう少し他の映画について書いてみます。

 「海底軍艦」(1963年) 海底軍艦「轟天号」のフォルムが美しい、この軍艦の美
しさは東宝美術の傑作。(デザインは巨匠 小松崎茂)
 (20年以上前に「ゴジラ」が復活した際、「轟天号」と名の付くやつが出て来ました
が、論外!!!!!)
 その轟天号の試運転シーン、地下の秘密ドックに注水が開始される所から海面に
浮上、更に空に飛び上がる一連のシーンは、今、見てもワクワクします。
 音楽も轟天号がムウ帝国攻撃の為、空を駆け抜けるシーンに使われる「海底軍艦
のマーチ」が凄く好きです。(伊福部メロディでは、これと「地球防衛軍のマーチ」、「ゴ
ジラ」が好き)
 あとは藤山陽子(学園ドラマの始祖「青春とはなんだ!」のヒロイン)が見られる。
 でも、それだけですね、評価できるのは、後は酷いもんです。(泣)
 何が酷いって、これ、いくらでも面白い話に出来るのに、これ以上無い程チャチな
話にしてる、何か、一生懸命ツマラナクしてしまったかねにとって怒りの作品です。
 「ガス人間第一号」(1960年)
 変型人間シリーズ最終作、カルトなファンの居る作品、僕はそこまでの名作とは思
わないけど、秀作一歩手前くらいと思ってます。
 これは大人向けの作品で、ドラマが主で特撮が従。
 この映画の魅力は、八千草薫の美しさに尽きます、宝塚から東宝入社間もない頃
の作品だと思いますが、彼女の姿を見るだけでも、この作品の価値はあります。
 鉦鼓亭、「今迄の邦画で誰が一番綺麗だったか」と聞かれたら、躊躇なく、この作
品の八千草さんと答えます。
 他に彼女の下僕役の左卜全(この人は国宝級役者だと思ってる)も良いし、主役の
土屋嘉男も頑張ってるので、ドラマの部分がしっかりしてます。
 「美女と液体人間」(1958年)は見直してガックリでした、ただ、カエルが液体動物
に変化する所は怖いし、液体人間が隙間からドロドロっと侵入してくる所も不気味。
 でも、これも白川由美(二谷英明の奥様)の艶っぽさを楽しむ映画。

 「マタンゴ」 監督 本多猪四郎 出演 久保明、土屋嘉男、水野久美
 肝心のキノコ人間「マタンゴ」の造形がチープ極まりないんですが、そんな事はどう
でもいい位、ドラマで見せる作品、これもドラマが主で特撮は従なんですが、セットの
作り込みは頑張ってます。
 最初に、当時の夏と正月は怪獣シリーズの興行と書きましたが、これも夏休みに公
開された作品で併映は「ハワイの若大将」。(実に素晴らしいカップリング~笑~)
 で、みんな騙された。(笑)
 僕を含めて、一体どれくらいの子供達が怪獣シリーズを想像して映画館に足を運ん
だのか、僕と同世代にはキノコ恐怖症になった人間が多数居ますが、みんな、これ
のお陰。
 僕も20才位までキノコ苦手でしたよ。
 つまり子供向けの映画じゃないんです、大人向けのスリラー、水野久美の「男はみ
んな私が欲しいのよ」なんて台詞もあるし、そんな台詞の意味、昔の小学生には解
りませんよ。
 話はクルーザーで遊びに出た7人が、難破して誰も知らない南の島に漂着する。(
今では使えないシチュ)
 そこは極端に食料が乏しく、食べると身体にキノコが生えてきて、終いには全身キ
ノコになってしまうという毒キノコ「マタンゴ」ばかりの島だった。
 南洋の雨と湿気、更にカビに囲まれ、しだいに理性を失いエゴイズム丸出しになる
人間達、そして一人、また一人と禁断の「マタンゴ」に手を出していく。
 しかし、キノコ人間「マタンゴ」ってオルグは熱心だけど凶暴じゃないんです、むしろ
人間の方がよっぽど凶暴で醜い。
 多分、テーマはそんなとこ、「南洋の自然のジャングルの方が、欲望だらけの都会
の人工的ジャングルよりよほど平和だ」
 だけど、そんな陳腐なテーマを吹き飛ばしてしまう、強烈な面白さがこの映画には
有ります。
 それは極限状態に追い込まれた人間達のエゴイズム、そして、エゴイズムの果て
に突付けられる「人間として飢え死にするか、キノコの化け物になって生きていくか」
という究極の選択。
 更にもう一つ、隠れたテーマだと思うのですが、自分の一番大事な人が「化け物」
になると決まった時、あなたならどうする?「捨てる」か「一緒に化け物になるか」?

 この映画、或る意味、本多版「羅生門」だとも思います。
 只一人、島を脱出し救助された男(久保明)の回想と云う形で語られる話は、黒澤
の「羅生門」で木樵(志村喬)が話す二回目の供述と同じで、人間の口から語られる
話には必ず自己正当化が含まれて本当の真実はわからない。
 意味深なラスト・シーンには二つの解釈が出来ますが、悪い方の解釈をすれば、こ
の話は、より一層ダークさが増します。
 今でも、小学生低学年に見せたらトラウマになる危険が有りますよ。(笑)
 でも、何度も観たい映画じゃない。


                                    H.22.4.13

※空を飛ぶ軍艦、鉦鼓亭の記憶の中では、この海底軍艦「轟天号」が最初、「ヤマト」の
 10年以上前、「ヤマト」の最後部(ロケット部分)と「轟天号」の最後部は似てる気がし
 ないでもない。
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4 コメント

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こんにちは! (宵乃)
2012-07-11 11:39:59
この作品、ツボでした(笑)
子供の頃に観たら怖かったんでしょうけど、今観たら微笑ましいというか…。まあ、最終的には人間は養分にされちゃうんだろうなぁと思うと怖いんですが。
ホントに人間の方が怖かったですよね。鉦鼓亭さんの仰るとおり生還者の回想だから、実は彼も含めておぞましい事になってたんじゃないかと、想像する余地があるのもオツです。
にしても、夏休みに「ハワイの若大将」と併映するとは、なんという罠!!(笑)
返信する
♪うらみ・ま~す~♪(by みゆき) (鉦鼓亭)
2012-07-12 00:46:05
いらっしゃいませ、コメントありがとうございます!!

昔、母の関西の友人から松茸が送られて来る事がありました。(今みたいに超高級品じゃない時代)
皆、大喜びでしたけど、僕は一つも食べられなかった。
食い物の恨みは深いぞ~~、東宝!!
それくらいトラウマでしたよ、でも「「マタンゴ」見たからキノコ、食べられない」なんて言えません。(笑)
今でこそネットの時代で同病の人が多かったなんて解るけど、あの頃は知る由もなかった・・・。(涙)

今でも通用する映画なのか、ちょっと半信半疑なのですが、ウチの娘が高校の頃、これ見せたら結構怖がってました。
今でも、記憶に残ってるみたいです。(笑)

大人になってから見るのも楽しいんじゃないかと。
ツッコミ所は一杯あるし、それなりに怖いし、語るに足る作品だと僕は思っています。

返信する
マタンゴ (ロンリネス均)
2015-02-09 22:10:43
私が生まれた1954年は映画が産業として豊穣な時代だった ゴジラ、七人の侍、24の瞳、東京物語、カルメン故郷に帰るなどの作品は何度も繰り返し見たけど、今でも脳裏に鮮明に焼き付けられている ラドン、バラン、モスラ、キングギドラ、ガイラ、雪男 押川春浪の原作も夢中になって読んだ海底軍艦の美術の素晴らしさには子供ながらに驚歎した それにしても八千草薫の美しさは宮本武蔵のお通りと並んで美しく、土屋嘉男の哀しく切ない愛も強く印象に残っている河内桃子も美しく、藤山陽子には憧れた 酒井和歌子は清純でとても眩しく光輝いていたっけ なんといっても水野久美は白眉で、その妖艶な美しさには正直打ちのめされた 星新一と福島正美の共同シナリオも成功していたと思う東宝では原田真人のガンヘッド、大映では吸血鬼ゴケミドロがとても懐かしい 映画は私にとっては今でも弘兼兼史の描いた夢工場であり、学校だと思ってます 原田の映画さらば映画の友よーインデアンサマー、舛田利雄監督、つかこうへい原作のこの愛の物語、イブの総べて、サンセット大通り、女優志願には限りない愛を感じています
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2015-02-09 23:23:40
 ロンリネス均さん、はじめまして
 鉦鼓亭と申します

僕は1956年1月の生まれです。
1954年は邦画のとって本当に記念すべき年だったと思います。
「七人の侍」、「近松物語」、「ゴジラ」、同じ年に、これだけの作品が出たのは邦画の水準の高さをもってしても奇跡に感じてしまいます。
藤山陽子、酒井和歌子>憧れの「お姉さん」だったのかもしれません。
水野久美>リアルタイムで「マタンゴ」、「フランケンシュタイン対地底怪獣」、「サンダ対ガイラ」他を観ていますが、流石にあの色気は子供には無理で、その妖しさを理解できたのは大分、大人になってからです。
思春期も終わり頃から本格的に映画を見始め、洋画から入ったものですから自ずと憧れはそちらの人で、J・フォンダ、J・ビセット、L・ワグナーに惚れていました。
日本の女優さんは、その頃は少なく、TV女優の武原英子さん、映画界では酒井和歌子さん、栗原小巻さんのファンでした。
もし、僕が10年早く生まれてたら、久我美子さん、八千草薫さん、香川京子さん辺りに熱を上げてた気がします。

記事を読んで下さり、ありがとうございます。




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