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【私の愛した悪役たち】第86回 メンゲル博士(マイティジャック)

2011年12月11日 | 漫研究室
マイティジャック Vol.1 [DVD]
特撮(映像),二谷英明,南廣,久保菜穂子
ビクターエンタテインメント

『プラネテス』(作・幸村誠)に登場するロックスミス博士を知っているだろうか?木星往還船計画の責任者であり「宇宙船以外何一つ愛せない男」。開発中の事故を引き起こし多くの犠牲者を出したにも関わらず、平然と「次は上手くやります」と言ってのけ、淡々と、ひたすら、宇宙開発に従事する男。
彼を魅力的なキャラクターと感じる人は多いと思うし、また、自分の決めた目的のみを最優先し、他の全てを振り捨てて、前へ前へと突き進む姿に憧れのような思いを抱く人もいるんじゃないかと思う。(逆に、ああいう人間のどこがいいのか分からない人も少なくないとは思うけど)
…どうしてこんな話を始めたのかというと今回紹介する『悪役』は、僕はロックスミス博士に非常に近い人物じゃないかと思っていて、先に彼を紹介する事で、イメージの助けになるものがあるかもしれないと思ったからだ。
いや、ロックスミスという男にも一欠片の“愛”が宿っている事を感じるなら、この『悪役』は、それすら無く、ロックスミスの完成形と言ってもいい人間だ。ただし、宇宙開発ではなく“人体実験”の。

僕はロックスミス博士が大好きなんだけど、彼のカッコ良さというのは、どこに宿っているのだろう?“宇宙開発”はカッコいいかもしれない。なんとな~っく、ロマンがあって、なんとな~っく、人の求める探求がそこにある気がする…かもしれない。
じゃあ、“人体実験”は?人の身体を玩具にして、人の尊厳を踏みにじった、「人体改造以外は何一つ愛せない男」、それが今回紹介する“メンゲル博士”なのだけど、彼の探求は、カッコ良さや憧れを感じてはいけないものなのだろうか?…と考えたりもする。ただ、ともかく僕はロックスミス博士もメンゲル博士も大好きである。

メンゲル博士は、円谷プロが製作した1時間番組のスパイ活劇『マイティジャック』(1968年放映)の第5話『メスと口紅』に登場する医学者だ。(『マイティジャック』自体はあまり人気の振るわなかった作品だけど、まあ、それは置いておくとして)
元・ナチスドイツの外科医であり、その天才的技術を持って人体を改造し、ドイツ軍を世界最強の兵団にする計画に従事した。その際の、実験材料として強制収容所に送られたユダヤ人たちを大量に……………いや、あの……ここらへんの設定、ほぼ、まるっきりナチスの“死の天使”ヨーゼフ・メンゲレそのまんまなんですが…(汗)ちょっと、洒落になっていないというか、メンゲルって……“メンゲレ”と“メンゲル”じゃ変名にもなってないような、ちなみにこの時期(1968年)まだ逃亡中……
……まあ!とにかく、ベルリン陥落前にドイツを脱出したメンゲル博士は、ユダヤの追跡を逃れながらも、人体改造の研究を繰り返していたワケです。それが、宇宙戦用の改造兵士の開発を進める悪の秘密組織Qの招聘を受ける。そんな展開ですね。宇宙戦用の改造兵士の失敗作が流出する中、マイティジャックの一員である英(はなぶさ)ドクターの口から「メンゲル博士があれをやったっていうのか?彼がやったら失敗するはずがない!」と“いいモノ”の方から言わしめています。

…そこなんですよね。僕の好きな『悪役』を紹介するこのコーナーなんですが、そういう悪役~悪の組織~がある物語世界では、実は、人体改造に悦びを感じながら仕事していたであろう、マッドサイエンティストなんて、星の数程いると言ってもいいものです。
にも、関わらずなぜ、こんな1エピソードの登場に過ぎない1マッドサイエンティストの事を気にするのか?それはこの博士が、周りから妙な、不思議な尊敬を受けているからです。世界混乱を策謀する悪の組織・Qも、世界平和を目指す正義の組織マイティジャックも、このメンゲル博士に対しては、非常に高い敬意を払っている。まるで「最早、こういう人間には善も悪もない!」とでも言うかのように。その“場”の空気のようなものが、このエピソードを忘れられなくさせています。

はっきり言いますけど博士、全然、人格者じゃないですよ?…っていうか、相当“人でなし”です。「手術ニハ、若イ女ガイイ、スグニ連レテ来ナサイ!」とか言います。水棲人間に改造した助手に向かって「(超人間にしてやったのだから)ソレダケデ十分デハナイノカネ?」とか言い放ちます。
…でも!でも!尊敬されているんです!ユダヤ人たちはおそらく彼を裁判にかけ殺そうとしていますが、他の組織は善も悪も、彼の頭脳を失うまいと必死ですし、彼の逃亡をずっと助け続けた日本人女性は、人体改造という悪魔の所業に心を痛め、なんとかメンゲル博士に“それ”を止めさせよう(それは、博士への尊敬は彼の頭脳と技術から生まれたものであろう事にも関わらず彼からそれを奪おうという矛盾した心情です)としますが、メンゲル博士から離れない。助手である事も止めようとはしません。多分、間違いなく愛情があったと思います。
水棲人間に改造されてしまった元助手からさえも愛憎が見える…彼を尊敬しておりそれ故、彼への憎しみも大きくなっり、最後にはメンゲル博士を絞め殺してしまう。そうして彼が殺された後、マイティジャックの英ドクターからは「惜しい人だった…」と言わしめる。

ロックスミス博士は孤独が強調されたキャラクターなんですが、メンゲル博士は孤独じゃないんですよね。…いや、ロックスミス博士は孤独だと思い込んでいるだけかもしれない。…メンゲル博士は、どんなに自分に付き従う男女がいても孤独かもしれない。そして、孤独など我関せずで、人体改造を繰り返しているのかもしれない。
非道徳であろうと、非人道であろうと、“それ”をさせてくれる所には、迷いなく行き“それ”に邁進するのみ。それが、善悪などという“人間の都合”を吹き飛ばして人を惹きつけ集める様に、マッドサイエンティストの一つの完成形を観た気がしています。


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