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遺骨DNA鑑定で知りたいこと

2005-01-30 14:32:01 | 社会・政治
ダン・ブラウンの小説に嵌っているせいかどうか、世の中のミステリアスな事件の報道もつい読み物として見ることが多い。ところがミステリーファンとして満足させられる報道内容にはなかなかお目にかからない。ストーリーに穴がごろごろしているからである。

ここで私が取り上げたいのは北朝鮮側から日本側に提供された遺骨のDNA鑑定を巡っての報道である。ちょうど今、サンデープロジェクトに町村外相が出演して、北朝鮮側が「日本の遺骨鑑定結果は徹底した捏造」と述べていることに対して、「捏造だとおっしゃる。日本の科学技術の水準というものを些か馬鹿にしているといわざるを得ない」との意見を述べている。一方、この鑑定結果に関連して同じく出演者の一人、草野厚氏が「帝京大学は確かな結果を出した。(警視庁の?)科警研は判定不能だといった。これていうのは日本の国民にとっても知りたいこと」とコメントしている。

草野氏の仰るとおり、その日本国民の知りたいことを何故マスコミが伝えていないのだろう。

昨年12月8日のasahi.comのなかの記事ではこのように報じられている。

「北朝鮮から提供された遺骨は、新潟県警が11月下旬、帝京大法医学研究室と警察庁科学警察研究所、東京歯科大の橋本正次・助教授に鑑定を依頼していた。DNA鑑定は帝京大と警察庁で遺骨を分けて担当。照合にはめぐみさん本人のDNA情報が使われたという。

 県警外事課によると、このうち帝京大の鑑定でめぐみさんのへその緒から得られたDNAとは塩基配列が異なり、「別の2人の人間の骨」と判断された。男女別や年齢など詳細は不明という。警察庁と橋本助教授の鑑定は結果が出ていない。県警の三木邦彦警備部長は「(DNA鑑定で)国内最高レベルの研究機関の鑑定なので、めぐみさんとは別人とみて間違いない」と述べた。政府関係者によると、遺骨は五つあり、うち四つが同一のDNA、一つが別人のDNAだったという。」

この記事に従うと三カ所に鑑定を依頼して、まだ全部の結果が出揃っていない段階で、先ず帝京大学の結果だけを公表したことになる。国民としては引き続いて他の二カ所での鑑定結果を知りたいところであるが、それがどうも鑑定不能との内容であったらしい。

資料としての朝鮮中央通信社備忘録を引用してみる。

「11月15日、日本政府代表団が帰国した後、日本の警察庁はめぐみさんの遺骨を犯罪関連の「証拠物」と見なし、刑事訴訟手続にしたがうという口実のもと、新潟県警察本部に鑑定依頼書を出させ、科学警察研究所、帝京大学、東京歯科大学でDNA鑑定と骨相学に基づく鑑定で精密検査を行うようにした。

 数日間にわたる検査の結果、科学警察研究所は「遺骨が高温で焼かれたのでDNAを検出することができなかった」という結論を下し、東京歯科大学も骨片が微細であるので、鑑定は困難という立場を示した。」

これはサンデープロジェクトでの草野氏の発言、「科警研は判定不能だといった」と矛盾しない。すなわち、三カ所に鑑定依頼して二カ所では鑑定不能と判定され、一カ所で鑑定結果が報告されたというのが事実であろう。

このような事実が明らかになった時点で、正確な報道を責務と自覚しているマスコミ、というような持って回った書き方は止めて、取材した記者はどのように反応したのだろう。その後の経緯から察するに、一カ所からの鑑定結果に基づいての政府発表をきわめて素直に受け入れたようである。普通の感覚なら、ホントにそれで大丈夫?と慎重になるのではないだろうか。全ての結果が出揃っていない状況下、鑑定結果の信憑性こそ問題ととらえて独自の取材を行った記者、取材者が一人もいなかったのだろうか。

科学研究の成果は相互検証が可能な形で論文として公表される。その論文に記載された材料を用いて、また記載された手順に従って実験を進めると(追試)かならずやその論文に報告された結果が再現される筈で、またそうでなければならない。実験結果の再現性(本人にはもちろん、他の科学者によっても)こそが科学的立証の根本で、これは科学研究に携わるものにとっては自明の常識、また科学・技術分野の取材者についても云えることである。

二カ所で鑑定不可能であったことが、何故一カ所で可能であったのか、この時点で相互検証の重要性に気づく取材者が一人もいなかったのだろうか。

科学者にとっても同じ試料を与えられて、あるところでは分析結果が出たのに、自分のところでは結果を出せなかったとなると、平静な気持ちではおられない。分析結果を出したところに出向いて教えを乞い、失敗の原因を明らかにしないと気が休まらない。その上でお互いに試料を交換して相手の出した結果に再現性があるのかどうか、あらてめて確認する過程を通じて事実が事実としても重みを獲得する。

残念ながらこの詰めに甘さがあったのではないか、というのが現時点での私の推測である。町村外相は「捏造だとおっしゃる。日本の科学技術の水準というものを些か馬鹿にしているといわざるを得ない」と仰った。ところがこの情念的な発言とは対照的に、朝鮮中央通信社備忘録を見ると鑑定結果の内容に即した具体的な技術的疑問点を指摘している。

もしこの指摘が事実であるとすれば(鑑定書、公開されているのだろうか?)、北朝鮮側が日本の報告を「捏造」と決めつけるにたりる材料を与えたのは日本側である。そういう「口実」を与えうる杜撰な内容を含んだ公文書をほんとうに日本国政府が北朝鮮に手渡したのであろうか。もしそうだとしたら政治的にも大失態、手厳しく云えば国辱的行為である。

日本国民としてはそうでないことを願う。国民を納得させるために以下の二点に問題点を残してはならない。

その一、なぜ二カ所では鑑定不可能で一カ所では鑑定が可能であったのか、その結果をうけて相互検証を行ったのかどうか、この鑑定に携わった関係者の合意に基づく状況説明がなければならない。

その二、DNAが検出されたのは事実として、このDNAを遺骨由来のものと断定した科学的根拠の明示が必要である。これは極めて厳しい検証を要求するが、「日本の科学技術の水準」でどのようにクリアしたのか、北朝鮮側に提示(するとして)する前に日本国民に示して欲しい。

「捏造」問題を感情論に埋没させるのではなく、科学上の論点に疑念を残さない問題の整理がまず必要である。

付け足りのようではあるが、科学者の報告に一旦疑念がもたれた際に状況を明らかにすることがどれほどの大仕事になるものか、一つのケースに関しての詳細なドキュメンタリーが大部の本に纏められている。写真に示した"The Baltimore Case: A Trial of Politics, Science, and Character"である。科学的真実を明らかにすることの厳しさを学ぶのに手頃な本である。


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