SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Mark Blyth, Austerity: The History of a Dangerous Idea (Oxford University Press, 2013)

2014年10月15日 | 
最近本の紹介をしていませんでしたが、久しぶりにあまり日本語で紹介されていなさそうに思われる、Mark Blyth, Austerity: The History of a Dangerous Idea (Oxford University Press, 2013)を取り上げようかと思います。



本書における著者の主張は「緊縮政策は行うべきではない」という一言にまとめることができるかと思います。
著者は最近のサブプライム危機及び欧州危機の原因と現状を確認(第2章及び第3章)し、現在の状況において緊縮政策は有効でなく、むしろ状況を悪化させるのだから行うべきでないと主張します。(経済学の知見が僕にはあまりにも乏しいので断定することはできないけれど、著者はケインズ経済学の立場に立っていると思われます。)

行うべきでない理由は下記2点。
(1)緊縮政策の有効性は理論的に否定されている(特に4章及び5章)
(2)緊縮政策の有効性は歴史的に否定されている(特に6章)

本書の「売り」はもちろんこの4章~6章にあります。
著者は緊縮政策の思想的淵源をAdam SmithやDavid Humeまで遡って語っていきますが、僕が最も興味深く読んだのは、Alberto Alesinaの登場と彼の「栄枯盛衰」を描いた箇所(pp.167-177、pp.205-216)です。
Alesinaや彼と一緒に緊縮財政が経済成長にむしろ寄与することを主張した論者たち(Francesco Silvia Ardagna、Guido Tabellini、Roberto Perotti、・・・)がみんなMilanoにあるBocconi大学の卒業生だったというトリビア(知られざる人間関係(?))はもちろん、一時期飛ぶ鳥を落とす勢いだった(と僕はいろいろな論文を読んで思っていた)Alesinaたち(というか、Bocconi学派の人たち)の研究が最近はその計量分析手法の疑義等から批判されているということは、経済を勉強されている方にとっては旧知に属することかもしれないけど、僕は本書で初めて知りました。
著者の「IMFが緊縮財政が・・・危険思想であることを思い出したときAlesinaの時間は終了した」という評価(p.215)が妥当かどうかは分かりませんが(今度、経済を勉強している友人に聞いてみよう。)、現在の世界経済を見通す上でこのAlesinaらの栄枯盛衰の物語は知っておいたほうがよさそうな気がします。

著者の専門は国際政治経済学。
経済学を専門とする人ではないのに、サブプライム危機や欧州危機の原因を分かりやすく丁寧に説明し、緊縮財政と経済成長をめぐる最近の経済学の学説まで鮮やかに整理する著者の力量に敬服しました。

Oxford University Pressから出ている本ですが、筆致はそこまで固くなく(academic writingのルールに厳格には沿っていない)、学術書と新書の中間くらいな印象です。
いままでよく分かっていなかったことが整理されたり、新しいことを知ることができたりと、知的にわくわくしながら楽しんで通読できました。
経済学を勉強している方にも、僕のような経済状況を理解していたいと思う素人にもおすすめできる良書だと思います。

(投稿者:Ren)

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