SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Andreas Gofas and Colin Hay, eds., The Role of Ideas in Political Analysis (Routledge, 2010)

2014年06月16日 | 
Andreas Gofas and Colin Hay, eds., The Role of Ideas in Political Analysis: A Portrait of Contemporary Debates (Routledge, 2010)を読みました。



本書は近年の「アイディアの政治」アプローチを振り返り、それが存在論の次元では物質的利益重視vsアイディア重視、認識論の次元では因果関係による理解vs構造主義による理解、そして方法論の次元では定性的研究vs定量的研究という二元論がはびこっていることを問題視(pp.3-5)し、これを乗り越えようと試みるものです。
それぞれの章の著者たち(Mark BlythさんとVivien Schmidtさんによる本書へのコメントを除く)はこのフレームワークを前提として論述しています。

僕はこの本を読むことによって「アイディアの政治」アプローチをより広い視野で捉え直すことができるのではないかと期待していたのですが、結論から言えばその期待は大いに裏切られました。
まず、本書全体の共通枠組みとなっている「二元論」については、さほど真新しい論点を提示できていないように思われました。
これについてはMark Blythさんの以下の痛烈な批判がよく示しているように思います。

"[I]s there anyone out there among "ideas" scholars who doesn't already know much of what they say in their contribution to this volume and has indeed already said much of it in print?"(p.167)

だから、読んでいても、著者たちが何を主張したいのかがいまいちよく分からない。
特に残念だったのは、スピノザの内在因(immanent causality)をヒューム的な因果関係に代えて重視すべきであることを主張する第3章。
スピノザ好きな僕は本章を読むことをとても楽しみにしていたのですが、著者の言っていることはただ、アイディアはある結果を引き起こす原因となると同時にその結果に意味を付与する(我々はそのもたらされた結果の意味を、アイディアを通して解釈する)というようなことだけのように思われて、これだけのことであるならばなぜわざわざスピノザを持ち出したのか、理由が良く分かりませんでした。(もちろん、僕が著者の意図をちゃんと読み取れていないだけなのかもしれませんが。)

もう一つ残念な点は、いくつかの章において重要な論点が提示されている(危機じゃなくて日常政治に注目する第4章、ある事象をどうフレーミングするかにおいて重要な役割を果たすメディアに注目する第5章、我々が何を知っているかのみならず、何を知らないかを明らかにするものとしてのアイディアを提示する第6章、定性的研究が主流なアイディアの政治において、定量的研究も可能であり、また定性的研究と定量的研究を組み合わせるべきであることを主張する第7章)ものの、第7章以外はその論点が十分に展開されずに終わってしまっていたこと。
むしろこれらの章は「二元論」批判のフレームワークでない文脈で論じたほうが良かったのではないか。

結果として、本書で一番読み応えがあったのは、Mark BlythさんとVivien Schmidtさんによる本書へのコメントでした。
両者とも本書の各章について自分の立場と対照させながら批判していて、とても勉強になりました。(Blythさんの編者たちへの批判はちょっと強すぎるような気がしたけど。)
このコメントがついていることが本書を読む最も大きな意義になっているのではないかと思います。
二人に散々に批判されている編者たちがこのコメントに対してリプライするようなところがあったらさらに良かったかもしれません。


「アイディアの政治」アプローチに詳しい人が読んだらまた違った感想を抱いたのかもしれませんが、いまの僕にとってはあまりわくわくしない本でした。


蛇足ですが、「はしがき」に思わず笑ってしまった箇所があったので、最後に引用だけ。

"Our appreciation goes to our contributors and particularly those who submitted their drafts early and waited patiently for the book to appear."

いつまでたっても原稿を出さない人がいたのでしょうけど、すごい皮肉ですね…。