いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】極道VS不良番長

2008-11-28 | 邦画 か行
【「極道VS不良番長」山下耕作 1974】を観ました



おはなし
「極道」島村清吉(若山富三郎)は、15人の子分を引き連れカタギになったものの……。

VSシリーズということで、「極道VSまむし」に続く、コラボレーション企画第2段。今度は、あの不良番長と共演です。。。っていうことには、なっているんですけど。ほら、東映だし。看板倒れというか、羊頭狗肉というか、頭隠して尻隠さずというか(ちょっと違う)。

若山先生の熱唱の「全極連ブルース」をバックに、岐阜へと続く国道を、延々と屋台の列が連なっています。これは、カタギになった島村組の一行が引いているホルモン焼きの屋台。名づけて、「大日本ホルモン焼移動レストラン株式会社」だそうです。と、そこにバイクの一団がからんできました。後ろの方で、演出抜きでにコケているバイクもいますが、ま、それはともあれ、こんな暴走族のチョッカイにもカタギである島村組は我慢我慢。「くそったれ。カタギっちゅうのは辛いもんやのう」と子分たちは嘆き節ですが、オヤブンいえ社長の島村清吉(若山富三郎)のカタギへの意思はとっても固いのでした。

さて、不良番長・神坂弘(梅宮辰夫)率いる一行が、オープンカーに乗ってパレードをしています。どうやら、今度はここ岐阜で、インチキバイクショーを計画している模様。アメリカで大評判の空飛ぶオートバイと銘打って、バンドやチアガールを雇って、宣伝に努めているのでした。しかし、肝心のショーの日になっても客足はさっぱり。お小遣いを握り締めた小学生が二人っきりという、情けない有様です。「それでも無いよりマシだ。ずらかろうぜ」。まあ、でも千円分だけは走ってやるか。ただし、ジャンプ台の手前まで。ブォーン。「おーい。アクセルが戻らねえよー」。ドッカーン。はい、梅宮辰夫は大怪我です。

兄弟分の大勝(大木実)の紹介で、若山先生は一軒の家を買うことに。ここが、これからは「大日本ホルモン焼移動レストラン株式会社」の本社であり、みんなのネグラになるのです。もちろん代金の500万円なんて持っていませんが、幸い、持ち主であるバー「キミ」のママがとてもいい人かつ、若山先生に惚れたようで、代金の支払を待ってくれるそうです。良かった良かった。思わず腹心のドヤ政に、「ドヤ政。わいな、ママはんと初めておうた時からな、こりゃエエ人だと思うとったんがな。小林みちるに似てるやろ」と嬉しそうな若山先生。ママは「小林みちるがお好きですの」とか言っていますが、小林みちるって、いったい誰。

まあ、それはともかく、若山先生がオシッコ漏らしたり、入院している梅宮辰夫のオシッコ満載な尿瓶を、安岡力也が花瓶の花にあげたりと、小学生が喜びそうなギャグが続きつつも、なんだか揉め事の火種がくすぶりはじめましたよ。

対立の軸は3つ。ひとつはもちろん若山先生の島村組。そして、地元を牛耳る石黒(内田朝雄)の中部興業。そして、東京から参戦しているカポネ団です。とはいえ、このカポネ団は、安岡力也、鈴木やすし、山城新伍といった面々が入院中の梅宮辰夫の面倒を見ているため、弟分の謙次(渡瀬恒彦)が仕切っているという設定がなんとも、羊頭狗肉な雰囲気を。

なぜだか島村組にカラんでくる渡瀬恒彦のカポネ団。中部興業に、島村組が殴りこみをかけようとしていると偽電話をかけてみたり、インチキピストル(水鉄砲)を中部興業に売りつけたあげく、バイクで島村組に逃げ込んて、島村組と中部興業を一触即発にしてみたりと、カマッテ君ぶりが全開です。しかし、そこは若山先生。中部興業に撃たれたニッキー(森田日記=女性)を、アバウトに手術してあげて、男気を示しちゃうのです。まあ麻酔なしで、メスのかわりにドスとかいうのは、最高にイヤな気分ですけどね。そんなヨロヨロのニッキーを迎えにきた渡瀬恒彦。「あんたがここのオヤジかい。俺はカポネ団の輪島謙次だよ。ウチのもんが世話になってるそうで、すまねえな」とエラそうに、札束ぽーん。どりゃっ。若山先生の愛の教育パンチが炸裂。「おい、こらっ。わいがそんなケチな了見で、この娘助けたと思っとんのかい」。あっ、そう。と金をそそくさとしまって、ニッキーを連れて帰る渡瀬恒彦。えーと、若山先生、金をもらっとけば良かったのに。だって、渡瀬恒彦、これっぽっちも恩義とか感じてませんよ。

さて、若山先生に家を売ってくれた(金は払われてないけど)ママは、中部興業の内田朝雄に言い寄られまくっています。その上、弟の鉄男(てっちゃん)まで、ヤクザに憧れて中部興業に入社(入組)してしまったので、イヤーンな感じ。となれば、若山先生の出番。ママの色気に答えるためにも、せめててっちゃんくらいは、カタギの道に戻してあげましょう。まずは、話し合いの前に雰囲気を和らげないとね。駄菓子屋で買ったアメを渡して、「てっちゃん、ナメナメしいな」と優しく言ってみる若山先生。しかし、てっちゃんだって、もう大人。アメはナメナメしているものの、どうしてもヤクザを辞めると言いません。どかーん。若山先生の鉄拳パンチがうなりました。「極道がどんなもんか見したろか、おう、われ」。おや、ひっくり返っているてっちゃんの手に、なんだかポスターが。おや、小林みちるのポスターじゃないですか。えっ、なになに、中部興業が交通遺児のために、小林みちるを呼んでチャリティコンサートをやるですと。なあんだ、中部興業の内田朝雄もイイ奴だったんですね。すっかり、感心して、てっちゃんの足を洗わせることなんて、忘れてしまう若山先生です。

早速、中部興業に行って、「わいなあ、あんたの手伝いをさしてもらおうと思うて来ましたんや」と申し出る若山先生。交通遺児のための「チャリチャリショー」だし、なにより大好きな小林みちるちゃんに会えますからね。そして、数日がたち、小林みちるちゃん(ジュディ・オング)がやってきました。ええと、なぜにジュディ・オング。ま、それはともかく、若山先生がセクハラ気味に、せっせとお世話したのにも関わらず。ジュディ・オングは誘拐されてしまったのです。きゃーっ。

さらったのはカポネ団。なんと身代金一千万円を要求してきたじゃありませんか。梅宮辰夫のカポネ団も、決して善良とはいえませんでしたが、さすが狂犬渡瀬恒彦が率いると、ここまで悪くなるものなんですね。当然、お金を持っていない若山先生は、カポネ団の小物をシメて、アジトに向かうのです。

「みちるちゃんはな、かわいそうな交通遺児のためにチャリチャリショーやりに来はったんだぞ」と説教をかます若山先生。狂犬渡瀬恒彦は、そんな言葉をガン無視で、ピストルを突きつけますが、ニッキーのウルウル目に負けたようです。そういえば、このオッサンに借りがあったんだ。しかし、言うことだけは言っておかないと。「オッサンちゅう男は、なかなか見所のある男や。だけどよ、お人好しの上に、バカが付かあ。石黒に騙されてんのも分かんねえでよ」「石黒はよ。チャリティショーの名目で、会場やタレントを安く使って、ボロ儲けしようとしてんだ。それが奴のいつものやり口だよ」。「そ、それはホンマけ」とビックリの若山先生。確かに、いまだにこの手のビジネスというかインチキすれすれの行為は後を絶ちませんからねえ。ホワイトバンドとか。純真な若山先生なんかイチコロです。と、それはともあれ、何気にスルーしちゃいましたが、バカが付くのは正直。バカお人好しっていうのは、ちょっと聞かないぞぉ。

どりゃあ。助け出したジュディ・オングを引き取りにきた内田朝雄に啖呵を切る若山先生。「待たんかい、われ。石黒、みちるちゃんはなあショーが終わるまでわいが預かるで。それからやな、切符代と売り上げの一切、交通遺児に寄付するまでやなあ。わいが監視するがな」。バチバチ。睨みあう二人です。

ショーが始まり、ジュディ・オングの「花嫁の耳かざり」がフルコーラスでバッチリ。ついでに、若山先生の売上金の監視もバッチリです。しかし、そこにピストルを持ったカポネ団が売上金の強奪にやってきたのです。金を奪って逃げるカポネ団。ついでに、ショーを見にきたいたいけな少年をバイクで撥ねるという鬼畜っぷりです。それも、両親を交通事故で失った孤児院の少年というのですから、若山先生の怒りは超噴火クラスに。

逃げ遅れたカポネ団を縛り上げ、グラウンドの真ん中に仁王立ちの若山先生。おお、来た来た。カポネ団がゾロゾロと仲間を取り返しに来ましたよ。「謙次、もしも子供が死んだらやな。こいつとおんどれら、残らずわいの手であの世に送ってやるさけぇ、覚悟せんかい」。渡瀬恒彦も負けてはいません。「おっさん、気でも狂ったのかい。おっさん、一人で何ができるっていうんだい」。じゃじゃーん。一人じゃないもーん。若山先生の仮面ライダー変身ポーズとともに、屋台軍団がワラワラとあらわましたよ。マ、マズイ。機を見るに敏な渡瀬恒彦は「おっさん、サシで勝負だ」と、あっさり方針変更。もちろん、若山先生にも否やはありません。ぴーひょろろー。キックボクシングの試合前の踊りを始めちゃう若山先生。準備OK。とりゃあ。スカッ。うわっ、真空飛び膝蹴りが大失敗。「やっぱりムリやった。沢村でもアカンかったんやから」と無念の自爆を遂げた若山先生。いったい、何をしたいんですか。と、そこに子供が危篤状態という知らせが。アホみたいな勝負はお預けにして、慌てて病院に走る若山先生と、その子分たちです。

チック、タック。チック、タック。じりじりと手術室の前に佇む若山先生たち。手術はどうなっているんでしょうか。少年はRh-のAB型というお約束の血液型なので、輸血もままならず、とても心配です。と、シオシオとやってきた渡瀬恒彦たち。俺たちの血液型も調べてくれよ、とイキナリな展開に。チック、タック。チック、タック。おっ、手術が終わったようです。どうやら、少年は命を取りとめたみたい。ホッとひと安心するみんな。そこに、車椅子に乗った梅宮辰夫が現れましたよ。「島村さん。俺、この謙次の兄貴分で神坂弘ってモンです」「おう、われがカポネ団のカシラけ」。ようやく、二人が揃いましたよ。「ニッキーから全部聞きました。子供のことは本当にすまないと思ってます。こいつら、俺の入院費を工面するためにやったことなんで、勘弁してやってください」。えーと、会った瞬間、いきなり仲直りですか。

その夜は、島村組とカポネ団で、番長シャロックを歌いつつ、ホルモン焼きの大宴会。白(関山耕司)の宴会芸で盛り上がったりしていますよ。というか、画面を貫くヘンな熱気は、この人たちマジで酒入ってるんじゃないの、というイキオイ。「おっさん、おかげで今夜、俺たちのいい解散式になったよ」と渡瀬恒彦が勝手にカポネ団を解散しちゃったりしつつ、和気藹々と東京に帰っていくカポネ団。と、思ったら、帰り道に中部興業に襲撃され、渡瀬恒彦以外、全員はマシンガンの蜂の巣になっちゃいましたよ。

「社長、カポネ団が皆殺しに遭いよった。鉄砲だ。鉄砲で撃たれて、そりゃもうムチャクチャや」と子分が飛び込んできて若山先生に報告です。「おやっさん。カポネ団の連中いうたら、もうわいらの仲間も同然だっせ」「おやっさん。わてらの命はおやっさんのモンや。好きなように使こうてくんなはれ」と口々に訴える子分たち。しばし、瞑目していた若山先生はクワッと目を見開きます。「よう言うてくれた。ハラくくるんなら、筋目だけは通さなあかん」と、懐からミニミニ位牌を取り出しましたよ。そこには「島村一家之霊」と書いてあります。「見んかい。俺たちの眠るのはココや。おんどれらの命、島村清吉貰ろうたで」「へいっ」。

ごごごごごご。中部興業の本社ビルに何かが近づいてきます。何かが。ごごごごごご。うわっ、屋台です。屋台の大群です。それも鉄板つきの。撃て、撃てぇ。バーンバーン。ズキューン、ズキューン。おお、中部興業の撃った弾丸は全部はじかれてるし。バォーン。おっと生き残った渡瀬恒彦もバイクで駆けつけてきました。「突っ込めぇ」、うぉーっ。竹やりを突き出してズゴゴゴゴと迫るホルモン焼屋台。っていうか、チャリオット?いや、これは、子連れ狼のフルパワー乳母車なイキオイだ。子分にビルの入り口をまかせ、単身突入する若山先生。おっと、後ろには渡瀬恒彦も続いているようです。と、ここで、存在をスッカリ忘れていたてっちゃん(ママの弟)が、ガクガクブルブルしながら立ちはだかりました。しかし、若山先生の「おう、弾かんかい。弾けるもんなら弾かんかい」というドスの効いた声に、ヘナヘナです。よっしゃ。行くぞぉ。途中、死んだフリをしたり、敵の股間に包丁をプスっとしてみたりしつつ、とうとう内田朝雄を追い詰める若山先生。ヒィーーーッ。あれ、怯えた内田朝雄は勝手に窓から落ちて、屋台の竹やりにグッサリです。ええと、勝ちましたか。そこにきなりバーン。うぐっ。若山先生、腹を撃たれました。撃ったのは、てっちゃん。「よう弾いたな。褒めたるがな。せやけど、わいはな、まだ生きとるで。一生ヤクザやるんやったらな、トドメ刺さんかい」と迫力の若山先生に、てっちゃんは首をプルプル振っています。「それでいいがな。これでヤクザものが、どないなものか分かったやろ」。

あっ、警察がやってきたようです。「おやっさん、どうやらお迎えが来たようですぜ」という子分に、「わいにとってムショはな、別荘や」とうそぶく若山先生。「俺も付き合うぜ」という渡瀬恒彦に、ニヤリと笑った若山先生は「このガキ。行こうか」と歩きだすのです。


まずダメなとこ。不良番長は全然関係ないし。っていうか、梅宮辰夫の出番、これだけっ。その上、極道シリーズとしても、後期のグダグダな展開に近いものがあります。

しかし、そんな中でも、さすがに山下耕作監督。殴りこみ直前の子分たちとの会話には、なにかググっとこみ上げてくるものがあります。もちろん、あまりマジメに論じる映画でもないし、映画史的にどうこう言うことはないと思いますが、そんな中でもキッチリと男汁を溢れさせる画作りをする。これは本当にプロの仕事ですね。







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【映画】いとはん物語

2008-11-24 | 邦画 あ行
【「いとはん物語」伊藤大輔 1957】を観ました



おはなし
顔がちょっとナンですが、気立ての良いいとはん(お嬢さま)のお嘉津に結婚話が持ち上がり……。

女優さんが、あえて不細工メイクをして映画に出るというのは、例えば成瀬巳喜男監督の「放浪記」で高峰秀子がチャレンジしていましたが、この映画は一味違います。京マチ子のメイクがなんというか、スゴスギ。冗談抜きで、「本当は別の俳優さんが演じてて、京マチ子は声だけあててるんじゃないの」と最後まで疑っていました。

大正時代、老舗が立ち並ぶ大阪西長堀では、お稲荷さんのお祭りが行われています。ここ「扇弥」という扇屋の老舗でも、手代をはじめ小僧さん、女中さんはウキウキソワソワして仕事が手につきません。これには、さすがの女将・おわさ(東山千栄子)もお手上げ。今日は早仕舞いしよ、ということになったのです。

どうやら、このお祭りでは、扇弥のとうさん(娘)三姉妹が、供物をもって参詣するのが恒例のようです。かつぎ(ベールみたいなもの)をかぶって、静々と歩く三姉妹。次女のお咲(矢島ひろ子)、三女の菊子(市川和子)はいずれも、美しくそしてカワイイ顔立ちですが、肝心の長女、お嘉津(京マチ子)の顔はかつぎの下、奥深くに隠れ見えません。

そりゃ総領娘が一番の別嬪だ。三姉妹を見物している青年の一人が意味ありげに、新参者の青年に囁きます。そうか、次女、三女があんなにキレイなんだから、長女はどれだけキレイなんだろう。ワクワク。おっ、かつぎを取るぞ。と、そこに現れたのは、なんというかスゴイ顔。寸足らずの眉に、ショボショボした目。巨大な鼻の穴に、乱食い歯を包むおちょぼ口。「清やんも人が悪いなあ。どんな美人かと思わせといて」。アッハッハと、騙された青年を笑う仲間たち。

そんなお嘉津をバカにする声が聞こえてきたのでしょう。「ちい姉ちゃん帰ろう」と三女が言い出し、次女とともに逃げるように帰ってしまいました。それでも、あとに残されたお嘉津と、小間使いのお八重(小野道子)は、イヤな言葉を聴かないように、懸命にお稲荷様にお祈りをするのです。

「八重、縁結びの神さんだけに、特別に熱心やな」「だって、いとはんだって」「あら、あてみたいなもんやて、やっぱり女やもん。若い女の子なみのお願いはあります」、そんな会話からも二人の主従の仲の良さが伝わってくるようです。「いとはんのお相手って誰やろ」と冗談めかして聞いてみるお八重。しかし、お嘉津は「あての胸の奥の底の底で、そっと思うてることやもん」と、こればかりは教えようとはしないのです。

さて、青年たちは、性懲りもなくお嘉津をからかおうと待ち構えていました。「♪もしもし亀よ、亀さんよ♪」をオカメに変えて、はやし立てる青年たち。同じ男として、こういうヤツらには、グーパンチで教育をしてやりたいところですが、映画の中にもいました、いました。ふざけた歌を聞きとがめて、「失敬なことすんな」と番頭の友七(鶴田浩二)が飛び込んできたのです。「喧嘩だ、喧嘩だぁ」、ドスンバタン。屋台をなぎ倒しながら喧嘩をする友七VS青年たち。戻ってきた次女が「店の名にかかわるやないか」と友七を叱っていますが、これは姉のお嘉津の気持ちを考えていない対応ですよね。お嘉津にとって、友七の行動がどれだけありがたく、心を暖かくするものだったか。「友七、すまなんだなあ、あてのことで。そこいらの壊したお店、あんじょうコト言うて、弁償しといてんか」と、精一杯の感謝をこめてお財布を渡すお嘉津です。

お嘉津のところにお友達が遊びに来ています。どうやら、共通の友人が結婚をするので、お祝いに何をあげようかと相談しているようす。一通り相談も終わり、迎えにきた旦那様(川崎敬三)と連れ立って、仲良く帰っていくお友達。そんな美男美女の組み合わせをほほえましく思って、見つめていた女主人のおわさの表情が強張りました。お嘉津が柱の陰から、美男美女の組み合わせをそっと見つめているのです。いきなりお嘉津が不憫で、不憫でたまらなくなるおわさ。次女などは、最初からお嘉津にお婿さんが来ることはないと割り切り、自分が婿をとって扇弥を継ぐ気でいますが、母親としては、そんな次女の利己的な態度もうとましく、かえって長女のお嘉津への不憫が募るのです。

お嘉津が部屋で書き物をしていると、口笛が聞こえてきました。「庭の千草」という美しく、少し物悲しいメロディです。見れば、番頭の友七が口笛を吹きながら、物干しで菊の花に水をやっている最中でした。近づいて「四国に行くんやて」と声をかけるお嘉津。「へい、土佐まで。しばらく留守にするんで、こいつが心配で」。そう、それなら私があんたのいない間、お水をあげると約束をするお嘉津。お嘉津はちっとも偉ぶらないお嬢さんなのです。というより、友七の丹精した菊を、心から愛おしそうに世話をしているようすからすると……。

桃色のステキな帯止めを見て、キレイですねえ、と嘆息しているお八重。これは、お嘉津が結婚するお友達のためにあつらえた特注品です。「こうてやるわな」とお嘉津は言い出しました。お八重が誰かステキな人と結婚するときには、わたしが、これよりもっとステキな帯止めを買ってあげる。と、それはともかく、忘れてました。引き出物は買ったけど、その前にお祝いの手紙を出さなくちゃ。あわてて、手紙を書き始めるお嘉津。三味線はもちろん、お嘉津の手蹟(て)は並みではありません。たおやかな指から、実に綺麗な字がスラスラと紡ぎだされます。おっと、それでも上手の手から水は漏れるもの。書き損じです。まあ仕方ありません。何の気なしに、そこにサラサラと筆を滑らせるお嘉津。いったい、何を書いているんでしょうね。「ああ、そやそや。菊の手入れするの忘れてた」、軽い足取りで、物干しに向かうお嘉津です。

おわさが部屋にやってきました。何の気なしに、お嘉津の書き損じた反古(ほご)を見つめます。「友七、友七、友七さま……」、余白にびっしりと番頭の友七の名前が書いてあるではありませんか。思わず鼻の奥がツーンとするほどの不憫さに襲われたおわさは、衝動的に「お嘉津」と声をかけてしまったのです。「何やね、おかあちゃん」「実はな、折り入って、あんたに相談がおまんねん」。もちろん、事前に計画していたわけでも、何でもありません。ただ瞬間的に、お嘉津不憫さのあまり、口走った愚かな母の世迷言とさえ言えるでしょう。隠居したいから、あんたに婿を取りたいと言い出すおわさ。「友七や。友七に決めてますんや」。ピキーン。思わぬ言葉に固まるお嘉津。「どやろな」「うち……おかあちゃーん」。手を取り合って泣く母娘。しかしどうしたことでしょう。それを部屋の外でそっと聴いていたお八重の顔が蒼白になっていますよ。もしかして。

ルンルンのお嘉津。思わず鏡に自分の顔を写してみたりしています。でも、そこにあるのは、やっぱり自分が、そして人が嫌ういつもの顔。でも、片手で眉をかくして、もう一方の手で口元を隠せば、うん、そんなに悪くないかも。クルクル。鏡の前で回ってみたり、とにかく大はしゃぎのお嘉津です。しかし、そんなお嘉津とは対照的に、お八重の表情はますます曇っていくのです。

やはり老舗の女主人ともなれば、おわさの行動力は非凡なものが。四国に扇の地紙を買い付けに行っている友七の帰りを待たずに、早速、友七の兄を電報で呼び寄せることにしました。長年、お世話になっている奥様のお呼びとあって、取るものもとりあえず駆けつけてきた友七の兄、松吉(加東大介)に一通り説明するおわさ。「ムリやろか、この話」「いやぁ、勿体無い」と松吉は平伏。「ただなあ、友七がどう考えるか」「いやぁ、滅相も無い」とまた平伏。なんか、話が通じているんだか通じていないんだか、いまいち不安ですが、おわさとしては兄からも結婚の了承を得たと「確信」するのです。

それを聞いて、完全に有頂天のお嘉津。友達から貰った新婚旅行の写真を見ると、それが近い将来の自分の姿に思えてきました。ぽんわわーん。富士山を見ているステッキ片手のステキな紳士。そして、横にいるのは美しい新妻。紳士の吹く「庭の千草」のメロディをウットリと聞きながら新妻はイソイソと後ろをついて歩きます。紅葉の富士五湖はまさに夢のような美しさ。歩き疲れれば、鄙びた茶店で休憩。おや、近在の子供たちが「いちばんぼーしみーつけた」と歌いだしましたよ。そうそう、一番星から二番星の出るまでの間に、願い事をすればかなうと聞いています。思わず、熱心にお祈りをする美しいお嘉津。「何を願ごうたの」という友七の優しい声に、胸が苦しいくらいの幸せを感じつつ、「いつまでも二人。仲良く暮らせますように」とお嘉津は答えます。「そや、いつまでも仲良うにな。私も一緒に祈ろう」。ああん、友七。あたし幸せ、ムニャムニャ。もちろん、夢オチなのは言うまでもありません。

やっぱり電報で呼び返された友七が港につくとお兄さんが待ち構えていました。説明されて、「知らなんだ。いとはんが、それほどまでにわしを」と絶句する友七。しかし、これはタダゴトじゃありませんよ。「兄さん、あんたいくらなんでも、勝手にそんな大事な話きめたんやないやろね」。「……」。えーっ、OKしちゃったの。「断わるっちゅうのか」とお兄さんはオロオロしていますが、こっちだって困りますよ。うーむ。

友七が店に帰ると、訳知りの古株女中お幸(浦辺粂子)が、ススッと寄ってきて、「友さん、あんたハラ決まったの」と声をかけてきました。決まったも何も、こっちだって驚いてる真っ最中ですよ。早速、主人のおわさに呼び出される友七。「他でもないが、兄さんから聞いとくんなはったか」「へえ」。ありがたい話だと思います、けど……ちょっと考えさせてください。うんうんとニコニコのおわさ。すっかり友七が遠慮しているだけだと思い込んでいますよ。それが証拠に、お嘉津の部屋に行って、一部始終を説明してますから。ええっ、考えさせてくれって、と衝撃を受けているお嘉津に、「うふふ。アホやなあ。こんな話の場合にはな、ちゃんと得心はしていても、一応考えて見ました上で、と言うのがお決まりなんや」と自慢しています。そんな母娘の会話を立ち聞きしつつ、ポロリと涙を流しているのはお八重。さあ、どうなるんでしょうか。

お幸の手引きで、お稲荷さんに来たお八重。そこに友七が息を切らしてやってきました。「あんたがここで待ってるさかいにとな、お幸さんがそっと。わての心は決まっとんねん。あんたの覚悟聞かして欲しいんや」。「好き、好きよ」と言いつつ、身を引くというお八重。「このままお別れしたかて、あたしは愛されたんですさかい、あたしはそれだけで生きていけます。でも、もしもあんたが断わらはったら死ぬかもしれへんお方があるでしょ。分かってます。愛の無い結婚ができるかって。でも、それも考えようでは、もっともっと大きな愛情よ。今ではあの方はもう、あなた無しでは生きていかれへんの。そして、とってもいい方なんですもの」。しかし、友七がそんな言葉に納得できるわけもありません。「お八重さん、このまま黙って二人で逃げよか」。黙って首を振るお八重。「そうとも、そんな卑怯なマネはできん。ここで待ってて。話は僕がつけてくる」

そんな話を一部始終、聞いてしまった次女。日頃の冷静さにも似ず、姉ちゃんにそんなこと言わないで、と友七をかきくどきます。どうぞ、姉ちゃんと結婚してあげて。しかし友七は、それはできない、とキッパリ断わるのでした。あの美しい心を騙して、生涯を共にするなんて耐えられない。それに、それじゃあいとはんに失礼です。

しかし、そうは言ったものの、悲しくなってしまうほどモジモジして、それでもひたむきなお嘉津を見ると、友七だって、なかなか真実を切り出せません。なにしろお嘉津はちっとも悪くないんですから。「実はわたくし……。……」。と、そこにお幸がやってきて、陰からちょっとちょっとと手招きしていますよ。なんだろう。ちょっと失礼します。と、お幸はお八重からの別れの手紙を持ってきたのでした。「バカッ。バカバカ」と怒る友七。なんて早まったことをするんだ。何がなんだか分からずにキョトンとしているお嘉津に、友七はだまってお八重の手紙を差し出して、「すんまへん」と走り去っていきます。そして、その手紙を読んだお嘉津の顔はさっと青ざめ、放心状態になりました。ふっと、鏡を見ると、そこには人に愛してもらえない自分の顔があります。泣きながら、鏡に乳液をぶちまけるお嘉津。まるで、そうすれば、自分の顔が消えてなくなるかのように。

お幸から事情をきいたおわさがやってきました。「幸から聞いて。堪忍してや」「ううん。うちはええねん。ほんのしばらくの間だけでも、うれしい目がでけたんやもん」。そう言いつつも、またブワッと涙が溢れるお嘉津。結局、母と娘は手を取り合って、身も世もなく泣き崩れるのでした。うわーん。

「それよりなあ、おかあちゃん。八重と友七さんのこと。出るように計ろうてやってな」と、涙声で言うお嘉津。そこに、近所の子供たちの「いちばんぼーし、みーつけた」と歌うのが聞こえてきました。まるで友七の分身のように、一生懸命丹精してきた菊に囲まれた物干しで、お嘉津はいつまでも顔をおおって泣き続けるのです。


いやあ、こうやって書いてても悲しくなってきました。最初は、ブサイクなお嘉津だけど、友七の愛に包まれて、どんどんキレイになっていくハッピーエンドのお話かと思っていたのに、こんな展開になるとは。徐々に雲行きが怪しくなると同時に、なんだか悲しくなってきて、ラストシーンでは不覚にも鼻の奥がツーンとしてしまいました。

なにしろ、この映画には悪い人がいません(無神経な青年たちは別として)。お嘉津も悪くない。お八重も悪くない。友七も悪くない。おわさだって、お兄さんだって、行動の結果はともかくとして、キッカケは善意で動いているのです。でも、こんな悲しい結末になるとは。

鶴田浩二も小野道子も、いいお芝居をしていました。抑制された演技の裏にあるパッション。それを上手に表現していたと思います。しかし、やっぱりこの映画のキモは京マチ子。とてつもない醜女メイクでありながら、動きや表情の使い方がカンペキで、「いい人」なんだなあと思わせます。そう、最初は仰天メイクでビックリさせて、でも映画が終わる頃には、「お嘉津」という人間が、本当にそこにいて、そして観ている人間がまるで、本当の親友のように「お嘉津」を大好きになっている。そんな難しい役を立派に演じきったと思います。

でも悲しい。お嘉津が幸せになるといいなあ。







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【映画】狂走セックス族

2008-11-21 | 邦画 か行
【「狂走セックス族」皆川隆之 1973】を観ました



おはなし
狂走族の淳哉は、白バイに捕まったことから……

バイクが出てくる映画はともかく、バイク映画と言えるものは意外にありません。その点で、この映画はとても貴重です。まあ、タイトルは東映らしいというか、ちょっとアレなんですけどね。

ぶーん。一人称視点で、走っているバイクからの映像が映し出されます。画面が変わると、赤ヘルのおにいちゃんが暴走していますよ。うー、うー。おっと、後ろから白バイが追ってきました。逃げる。追う。逃げる。追う。そのままバイクはトンネルに。画面が暗転すると、そこにクレジットが。いや、なんだか、この映画は期待が持てそうですよ。

トンネルを抜けると、そこは雪国……ではなくて、パトカーが待ち構えていました。そのまま、捕まってしまうおにいちゃん。というか、名前は川口淳哉(白井孝史)です。「おい、ここはサーキット場と違うんだ」パーンチ、キーック。血の気の多い白バイ警官・本郷(渡瀬恒彦)にボッコボコにされた淳哉は「ちっくしょー」と叫ぶのでした。

4人の女の子が、素っ裸でバイクにまたがりクネクネしています。「おいスケだよ」「よし行くぞ」と張り切って近づいていく、別の4台のバイク。はい、淳哉たちの一団です。「仲良くしようぜ。とにかくお前らと寝たいんだよ。オナニーより生身の俺たちの方がはるかにいいぜ」と迫る男の子たちに、「あたしたちが失神するほど、満足させてくれ自信がある」と挑発的な女の子たち。はい、そのままエッチタイム。素っ裸でバイクにまたがった男女は、あんなことやこんなことをしちゃうのです。ついでに、裸でバイクを走らせたりもしてますが。

どさっ。バイクのカタログが山のように積まれている前で、淳哉はお父さん(名和宏)におねだり中。しかし「自動車なら買ってもいいが、オートバイじゃダメだ」と、お父さんは聞く耳を持ちません。淳哉は「ナナハンが欲しいんだ。欲しいんだよ、ナナハンが」とダダをこねてみますが、どうやら交渉失敗のようです。

じゃあどうする。諦める。いいえ、そんな簡単に諦められません。ということで、先日出会ったハダカバイク娘に頼んで美人局(つつもたせ)をやってみる淳哉。お父さんを誘惑させて、あっさり金をゲットです。しかし、協力しておいて言うのも何ですが、ハダカ娘には、どうして淳哉がお父さんを脅迫してまでナナハンにこだわっているのかが分かりません。淳哉は「ナナハンさえありゃ白バイにも勝てる。白バイをぶっちぎって逃げるのはサイコーに気持ちいいぜ」と言うのですが。

ぶぉんぶぉん。レーシング(空ぶかし)音が聞こえます。CB750FOURです。各所から、ぐぐっと舐めるように、CBナナハンを映していくカメラ。いやあバイク乗りの気持ちが分かってますね、この監督。バイクに興味のない人には、どうでもいいでしょうが、バイクを舐めるように映すのは基本ということで。で、その横には、真新しいクシタニの白ツナギをばっちりキメた淳哉が。渋くキメているつもりでも、思わず顔がニヤケてしまうのは、やっぱりバイク乗りの基本です。思わず仲間に「抜群だよ」「ケタが違いすぎるよ」と自慢の声も出てしまうというものです。

と、そこに一台のロータスヨーロッパが爆走していきました。ちっ、オレの世界一速いCBに勝てるわけねえ。とりあえず追いかける淳哉と、その愉快な仲間たち。おや、ロータスを運転しているのは若い女(杉本美樹)じゃありませんか。「スケじゃねえか」と喜ぶ仲間に対し、「くそっ」と舌打ちをする淳哉。なんとなく、その微妙な気持ちは分かります。悔しいような嬉しいような、なんだか分からないモヤモヤした気持ちなんでしょうね。ともあれ、そのロータスはキュキュキュと直角ターンをキメ、どこかに去っていってしまいました。

「おい、本郷。今日も例によって狂走族狩りか」という仲間の声を無視して、自分の白バイのエンジン音に陶然としている本郷。やっぱり、「オレのCB450は世界一」とか思ってるんでしょうか。アイドリング音に納得したのか、「よーし。いい音だ」と満足げな本郷は、狩りもとい取締りに出発です。

トロイ癖に飛ばしているバイクを捕まえた本郷。横柄に切符を切っていると、そこに真新しいナナハンに乗った淳哉が近寄ってきて、「いよう、俺のナナハンについてこられるか」とフルアクセルで加速を始めました。ちくしょー、ナメやがって。慌てて追いかける本郷。燦然と輝く「450DOHC」のエンブレムは伊達ではありません。ぎゅいーん。しかし、追いつけません。なにしろ相手のバイクのエンブレムは「750FOUR」です。挑発的にブレーキランプを点滅させる淳哉。「止まれーっ」「うるせえ、バカ野郎。あばよ」、ぐぉーん。4本の排気管から野太い音を撒き散らしながら淳哉のCB750はカッ飛んでいってしまったのです。思わず「ナナハン」とつぶやく本郷。なんだか、ショボーンです。

傷心の本郷は、彼女(伊佐山ひろ子)とホテルに行ってみることにしました。しかし、めくるめく時間が過ぎると、やっぱりどよーん。「そんなに私と一緒にいるのがイヤなの」と彼女に怒られても、しつこくどよーんです「いいわね、あんたには白バイがあるんだもん……分かった、もう帰っていい」。嫌われちゃったかも。

「おい白バイからかうなんてヤバイぞ。やめとけよ」という仲間の忠告を無視して、相変わらず暴走を続ける淳哉。たまたま、ホテルの前で彼女ともめてる本郷を視界の隅っこにとらえつつ、パトロール中の白バイに突っかかっていくのです。ばびゅーん。さらには、憧れのロータス乗りの女を見つけて、カッコよく抜き去ってみたり、警察署の前にいたパトカーの面前でスピンターンをキメてみたりと、とりあえずやりたい放題。けっ、とろい4輪なんかに捕まるもんか。おっと、マンションの駐車場に追い込まれちゃいましたよ。ヤバイ。とりあえず、車のカバーをCB750にかけて、身を潜める淳哉。おや、なんたる偶然、その駐車場にロータスヨーロッパの女がいて、こっちを見ているじゃありませんか。あまつさえ、追ってきた警官に淳哉のことを黙っていてくれました。思わず運命を感じちゃう淳哉。もう、フォーリンラブもいいとこです。

ガソリンスタンドで、ビキニガールたちをナンパする淳哉と仲間たち。しかし4輪ならともかく2輪なんてカッコ悪いとバカにされてプッチーンです。こんな奴らにはお仕置きだ。とりあえず、追い回してレイプしちゃいます。まあ、ここらへんは本筋に「全然」関係ないんですけど、何分かに一遍、オッパイ出すべし、みたいな東映の方針があるんでしょうね。

ともあれ、そんなこんなで、ご機嫌にCB750を走らせる淳哉。しかし、そこに油断があったんでしょう。待ち構えていた警察に捕まってしまいました。早速、署に連れ込まれる淳哉。エライ人に、「親のスネかじっていい気になりやがって」と怒られちゃいましたよ。まあ、ここで反省した顔でもみせるか、せめて黙っていればいいのに、淳哉も負けじと言い返します。「うるせえ、かじるスネがあるから、かじってんじゃねえか。親のスネをかじれずにポリ公になった貧乏人のヒガミじゃねえのか」。横で聞いていた本郷は無言でパンチ。キック。黙ったまま、とことんドツキまくってきます。さすが、狂犬な渡瀬恒彦。真実味ありすぎです。

「どうしても、その白バイのポリ公に恨み晴らすっていうのか」と仲間に詰問される淳哉。さすがに、警察に喧嘩を売るとなると、ついていけないみたいです。「オレたち、オートバイが好きなだけでよ、それ以上の危険は好きじゃねえよ。おめえみたいによ、キチガイじみたことでしかスリル味わえない奴とは違うんだよ」。じゃあな、これで縁切りだ。一人ぼっちになってしまう淳哉。思わず、町のアチコチを寂しいポーズをキメながら、彷徨い歩いちゃうのです。しかし、犬も歩けば棒にあたる。ウロウロしていたら、ある歌手(上田正樹)が熱唱している倉庫で、発見しちゃったじゃないですか。なにを。いえ、本郷の彼女をです。ニヤリ。何事かを思いついた淳哉はさっそく、彼女に声をかけて、なにやら親しげに話をしています。さて、どうするつもりなんでしょう。

本郷に、彼女が怪我をして部屋で寝ています、と偽の電話をかけた淳哉は、そのまま彼女のマンションへ。いやヤメて、という彼女をムリヤリ抱いてしまうのです。イヤイヤと言う声が、やがて甘いアッハーンに変わったころ、本郷が慌てて駆けつけてきました。大丈夫かっ。と、その瞬間、表情がグワッと固まります。オレのカノジョがエッチしてる。男が振り向くと、それは勝ち誇った顔の淳哉。梅干を食べたようなスッパイ顔になる本郷。ソレもアノ野郎だ、ガーン。とりあえず、淳哉が意味ありげな笑いを浮かべて帰ったあと、本郷は涙目になって、彼女をぶっ飛ばしてみるのでした。どりゃーっ。

またも傷心のまま、取り締まりをしている本郷。そこに淳哉が「オス。元気か。良かったぜ」と挑発をかけてきましたよ。ブチーン。キレた本郷は追跡開始。どりゃーっと幅寄せをして、淳哉のCB750を路肩に追い詰めました。ドリャ、オリャと意味不明の奇声を上げながら、淳哉を叩きのめす本郷。パンチにキックの雨あられです。さすがに、これには周りの人たちも集まってきて、ヤメロヤメロの大合唱。憎々しげに淳哉を睨んだ本郷は、そのままプイっと去っていくのでした。と、そこにキキーッとやってきたのはロータスヨーロッパ娘。やさしく介抱してくれたうえに、部屋にまで連れて行ってくれて、淳哉としては思わぬ拾い物をした気分です。

宏子というロータスヨーロッパ娘に、熱く語る淳哉。「オレは白バイに追われて逃げる。あのスリルがたまらなく気持ちいいんだ。自分の肌で風を切って走り、ひとつ間違えば死ぬかもしれない。あの気持ちはオレにしか分からない」。そんな淳哉に「あたしもそんなスリルを味わってみたい。ねえ、あたしにも教えてくれる」と熱い視線を注ぐ宏子。マ、マジですか。しかし、ここでうろたえるとカッコ悪いので、あくまで冷静なフリをしなくちゃ。「オートバイは4輪と違って転んだら死につながるんだぜ」「だから乗りたいの。この体で、自分が生きてるってこと確かめたいの」。ムヒョー。鼻血でそう。しかし、やっぱり冷静なフリしなくては。「俺のコーチは厳しいぞ」「いいわ」。

まあ、東映のお約束としてバイクのコーチをする前に、「夜のコーチ」ということで、アッハーンなシーンが続きます。もう、天にも昇る気持ちの淳哉。しかし、一方、本郷といえば、地獄にでも降とされた気持ちです。というのも、淳哉を殴る蹴るしていたのが、複数の市民から訴えられちゃったそうなのです。とりあえず、謹慎10日間。まあ、特別公務員暴行陵虐罪で捕まることに比べたら、まだマシですが、それにしても、ちっくしょー。

アハハ、ウフフ。イチャツキながらバイクの練習をする淳哉と宏子。またがるのはホンダのバイアルスというトライアルマシン。っていうか、欲しいよバイアルス。買っちゃおうかな。てなことは、どうでも良くて、一人でトコトコと走っていった宏子に悲劇が襲い掛かったのです。それは淳哉のかつての仲間がヘヘヘと下品な笑いを浮かべ、宏子を押し倒しにきたのでした。キャーッ。慌てて駆けつけた淳哉は、かつての仲間をフルボッコにして追い返しました。幸い、宏子の貞操は無事でしたが、わき腹をドツカれて苦しんでいますよ。大丈夫でしょうか。

部屋に連れてかえり、必死に看病する淳哉。ぱちっ。良かった宏子が目を覚ましたようです。「わき腹まだ痛むか」「淳、ずっと側にいてくれたのねっ」。ちゅー。いや、怪我してるんだから、それ以上はやめとけ。

わたしメロン食べたい。うーん、病気イコールメロンなのは、知ってますが怪我でもメロンなんですね。よっしゃ買ってくるよ、と部屋を飛び出す淳哉。しかし、そこには先ほどフルにボコった旧仲間が待ち伏せしていたのでした。倍返しのイキオイでボッコボコにされる淳哉。とりあえず、駐車場にひっくり返って気絶です。

帰ってこない。帰ってこない。イライラする宏子。メロンを買いに行くと言って、きっと、そのまま帰っちゃったんだ。んもう、知らない。怒りにまかせて、ロータスヨーロッパに乗り込み暴走開始です。ブロロン、ブロロン。そのエンジン音で気絶から醒めた淳哉はCBで後を追います。待ってくれー。んもう、知らない、知らない。怒りに我を忘れてる宏子は、淳哉に気づかず爆走を続けるのでした。ウウーウウー。白バイがサイレンを鳴らしつつ、宏子のロータスヨーロッパを追いかけ始めました。チッ。宏子を守らなきゃ。まさか後ろから追いかけてくるバイクがいるとは気づかず、油断していた白バイに、淳哉は横並びするやいなやキーック。うわあ。たまらず転倒する白バイ。そして、倒れた方向にはダンプカーが。キキー、グシャッ。

高台で夜景を見下ろしながらタソガレている宏子と淳哉。「きっと死んだわ、あの警官」「たぶんな」。「ごめんね淳。誤解したりして。私が冷静でいれば、こんなことには」シクシク。「泣くなよ。信じられないだろうけど、オレは今スゴク気分がいいんだ。恨み重なる白バイを、好きな娘を守るために殺した。悔いはないぜ」。とはいえ、このままだと捕まるので、二人は逃げることに。まずは先立つものが必要です。実家に金を調達に帰る淳哉。しかし、家にはすでに警官隊がミッシリと取り囲んでいたのです。ダメだ。あわてて宏子のマンションに戻る淳哉。ところが、ここにも警察の手が伸び、宏子はパトカーに乗せられていたのです。おっと、淳哉のCB750も見つかってしまいました。パトカーが追跡してきます。ちくしょー、待ってろよー。激走して逃げ始める淳哉。飛ばして、飛ばして、アレ。気づいてみれば、神戸の波止場で夕焼けを見ながらポーズをキメている自分に気づくのでした。

とりあえず、宏子のマンションに電話をしてみる淳哉。予想通り参考人だった宏子は部屋に戻っていましたよ。一緒に逃げよう。明日夜明けとともに迎えにいくよ。うん、待ってる。なーんて会話をする二人ですが、その会話は盗聴器によって警察に筒抜けだったのです。

夜明けに向けて、緊急配備の計画を練る警察のみなさん。そこに本郷がやってきました。「あのう、川口は私に任せてください。かならず連行します」。クドイ。謹慎中ダロ。エライ人パート1(殿山泰司)、パート2(戸浦六宏)にムッチャクチャに怒られてしまう本郷。なんだか、とても寂しそうです。シオシオ気分で夜の町を歩く本郷。ふと見ると、バイク屋さんにキラキラ輝くバイクが飾ってあります。何と言っても、そのエンブレムには燦然と「OHC750」の文字が。

夜の高速道路を飛ばし始める淳哉。そのまま、夜明けの時間がやってきて、なおも淳哉はアクセルを開け続けます。ギュイーン。と、路肩にナナハンが止まっています。おや、本郷です。どうやらバイク屋さんから夜中のうちにバイクを強奪して待ち構えていた模様。ヤマハTX750。ヤマハ初のナナハンで、淳哉のCB750を迎え撃つ覚悟のようです。ギュイーン。轟音と共に走り去ったCB750を確認して、TX750のキックペダルを踏み降ろす本郷。CB750の4気筒エンジンとは違ったツイン独特の重低音が響きます。ドッドッドッドドドドド。

「止まれー」「うるせえバカヤロ」。罵りあいながらの高速バトル。そしてワインディングへ。一般車をビビらせつつ二人のバトルは続きます。ゲシゲシ、バイクを蹴り合う二人。しかし、なかなか決着はつかず、2台のバイクはとうとう市街地に。さすがに、ここに至って、隠れていたパトカーが一斉に飛び出しました。しまったという表情を浮かべる本郷。奴にも、そして俺にも、もう命がけの遊びをする時間は僅かしか残されていない。もう、こうなったら。高速で走りつつヘルメットを脱ぐ本郷。淳哉が"何をする気なんだよ"という顔で、こちらを見ています。ふん、こうするんだよ。メットを淳哉に投げつける本郷。ゴーン。頭に直撃を食らってよろける淳哉。CB750はそのまま縁石にぶつかって吹っ飛ぶのでした。

ドッカーン。ゴロゴロ。バタッ。タラーッ。吹き飛び、転がり、倒れこみ、そして頭から血を流している淳哉。いえ、かつて淳哉だった、今はただの死体です。追いかけてきた警察のエライ人に逮捕され、去っていく本郷。と、そこにロータスヨーロッパが走ってきました。事故現場。ピクリとも動かない淳哉だったモノを、無表情に見つめていた宏子は、やがてロータスヨーロッパに乗り込みUターンをして去っていくのです。


この映画を見終わって、メチャクチャ興奮しました。ナンダこの映画。こんなスゴイ映画があったなんて。ああ、こんな映画を見逃していた自分が恥ずかしい。さぞかし、ネット界では賞賛の声が渦巻いているに違いない。よっしゃ、ググってみよう。カチッ。

えーと、なんでこんなに反応が少ないの。それに目立つ意見は、曰く、平板なストーリーだの、ワケが分からないだの、さらにはバイクシーンに迫力がないだの。なんだってぇ。こんなにスゴイのに。特に最後のCB対TXのバトルは、もう感激の一言です。実際の高速で、そしてワインディングで2台がひたすらバトルしてるんですよ。それを固定カメラ。後続する車からの車載カメラ。さらにはバイクの下部に取り付けたカメラで、縦横無尽に撮影。テンポのいいカット割で、熱く演出。このどこに迫力がないんだと、何を考えているんだと。

あまりに感激したので、このバトルシーンは都合4度ほど観てみましたが、観れば観るほどよくできてます。手元にあるカシオのストップウォッチ計測では、渡瀬恒彦がTXのキックペダルを踏み降ろしてから、ヘルメットをゴチーンとぶつけるまでの7分59秒87、もう息をもつかせぬイキオイです。

まあCGや、ワイヤーアクションを見慣れていて、そのうえ実際にバイクに乗らない人にとっては、ショボイように見えるのかもしれません。罵りあったり、蹴りを入れているだけでは見所に欠けるんでしょう。でも、これはかなりスゴイんですよ。ほとんど実写版のバリバリ伝説みたいな、峠のバトル。実際に、淳哉の乗っていたCB750FOURを僕も所有していたことがありますが、パワーがモリモリのくせに曲がらない止まらないというクセモノバイクで、こんなもんで峠を攻めまくるなんて、考えただけでガクガクブルブルです。それを映画で魅せてくれるんですから。

そのほかにも、バイアルスが走り、さらにはスーパーカー世代には涙チョチョギレのロータスヨーロッパが走り、もうヘンな方向に豪華なこの作品。東映の女番長シリーズが好きだとか、バイク(特に旧車)に痺れるみたいな属性の人には、これ以上ない作品だと断言できます。でもね。まあバイクとオッパイに興味のない人にはダメ映画なのかな。寂しいけど。

ちなみに、永久保存用にDVDを買おうと思い立ち、アマゾンで調べたところ、どうやらDVD化されていない模様。すごくガックリです。







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【映画】ぼんち

2008-11-19 | 邦画 は行
【「ぼんち」市川崑 1960】を観ました



おはなし
船場の老舗に生まれた喜久治(市川雷蔵)は、ぼんぼんからぼんちを目指して修行の日々……という話ではないかも。

山崎豊子の原作を市川崑が映画化したものです。しきたりだらけの船場の風俗を市川崑が映画化すると、こんなにカッコよくなるのかと改めて感心しきりです。

まずは現在(1960)の大阪の風景。クルマが走り回り、大きな工場が立ち並び、巨大な広告塔が林立する、まさに商業都市大阪の面目躍如といった趣。しかし、一歩裏通りに入ると、そこは時間の止まったような、小さな家の立ち並ぶ昔ながらの大阪です。そこに、一人の落語家・春団子(中村鴈治郎)がヒョコヒョコと歩いてきて、一軒の家に入りました。どうやら、贔屓の旦那に呼ばれてやってきたようです。その旦那というのは、元は船場の足袋問屋・河内屋を切り回していた喜久治(市川雷蔵)。喜久治は、春団子に「わてのうちは船場で四代続いた足袋問屋ですさかいな……わてで五代目やった」と、問わず語りに、昔話を始め……。

ここは船場の河内屋。今、その奥座敷ではぼんぼんの喜久治、それにお母さんの勢以(山田五十鈴)とおばあちゃんのきの(毛利菊枝)が向かい合っています。早速、女遊びの激しい喜久治を説教し始めるきの。勢以は息子の不始末をきのに謝り始めましたよ。と、喜久治が「ホンマの親子で、世間並みの嫁姑の芝居しはんのは、いつ見ても面白いもんでんな」とチャチャを入れたからさあタイヘン。きのと勢以は声を揃えて「喜久ぼん!」と怒るのです。まあ、それはともあれ、女遊びをするくらいなら、嫁を迎えたほうがマシ、という結論に二人は達したようで、「まあ、私らに任せることや」ときのは、喜久治に嫁取りの宣言をするのでした。えっ、お父さんですか。お父さんの喜兵衛(船越英二)は、婿の立場ですから、今もせっせと帳面付けに余念がないみたいですね。

ここで市川崑監督のムダの無い演出が光ります。屋形船かなんかにのって、喜久治の前で、嫁の実家の悪口を言っているきのと勢以。成金の癖にだの、相手を驚かすために、着物を着替えまくろうとか、ダークな相談の真っ最中。と、画面が変わると、既に新妻の弘子(中村玉緒)が勢以にイジメられていますよ。理由はたかだかダイコンの切り方一つ。「ケチくさいようでも、そういうとこまで気ぃ配らな、代々の分限者にはなれまへん。一代限りのニワカ成金なら話は別でっしゃろけど」。思わず、怒りにプルプル震えた弘子は、勢以が去ったあと、包丁でダイコンをメッタ斬りにするのでした。

それからも、執拗な監視は続きます。便所を棒でさぐって、月のものチェックまでされるに至って、弘子は完全にキレました。「わての月のものがあるかどうか調べはったんです」と喜久治にエグエグ泣きながら訴える弘子。とはいえ、喜久治はボンボンなので、「いやらしい」と言うばかりで、あんまり役に立ちそうにもありません。結局、弘子は「縁側にロウでも塗られてコケて、お腹の子もあても流産で殺されてしまいます」と、腎臓が悪いことにして、実家に帰り、そこで男の子を産んじゃったのでした。

怒る、怒る。きのは激怒しています。勢以は「イーッ」とかいって泣き崩れているし、嫁ごときにしてやられたとあっては、船場のプライドが、そしてしきたりが。報復は速やかに行われました。ささいなミスをたてに、弘子を追い出すきのと勢以。跡継ぎは乳母に育てさせればいいんですから、外から来た女はいらないのです。えっ、喜久治ですか。「堪忍やで」と弘子に迫って、あっさり拒否されてますが。まあ、当たり前ですけど。

なんだか、とてつもなく存在感の薄いお父さんが、病気になっちゃいました。きのと勢以は有馬温泉に湯治に行っちゃっているので、看病するのは喜久治の役目。とはいえ、お父さんはかえって、あのうるさい女二人がいなくて、せいせいしているようですよ。ついでに、喜久治のはからいで、極秘に面倒を見ていた君香という芸者が付き添い婦になって、むしろハッピー。「気根性のあるぼんちになってや。ぼんぼんで終わったらあかんで」と喜久治に言い残し、わりとあっけなく死んでいくのです。思わず、声を殺して泣き崩れる君香。勢以だって、一応は自分の夫のことですから、泣いてはみるものの、きのに隣室に引きずられ、「泣きやみ。いやらしい」と言われてしまうのです。やっぱり、婿の死に、ごりょんさんが泣くのはしきたりに反しているんでしょうか。

お父さんが死んだので、正式に五代目になった喜久治。さっそく、女遊びが本格化です。チョイスしたのはぽん太(若尾文子)という芸者。客からもらった指輪を両手10本の指にはめ、ついでに足の小指にまではめちゃうようなナイスな芸者ですが、「ぽん太、わてが今日から指輪一本にしたるで」と喜久治に言われると、今までの指輪をポンポン捨ててしまうくらいの、ドライっぷりが、さすが若尾文子の面目躍如といったところです。

早速、しきたりどおり二号の本宅伺いをするぽん太。その水際立った所作には、怖いきのも「粗相ないご挨拶でおました」とご機嫌のようす。要はしきたりにかない、なおかつ本宅に入り込まない限り、女はOKということみたいです。ある意味、分かりやすい価値観ではありますね。

とはいっても、こういうことは世阿弥言うところの「秘すれば花」でもあります。あんまり大っぴらなのも、考え物ですよね。しっとりかつしっぽりと行きたいところです。ということで、喜久治は次のターゲットをロックオン。今度は芸者のお目見えを済ませたばかりの幾子(草笛光子)を妾にすることにしてみました。この幾子というのが、いわゆる女らしい女。「だんさん、あてにお金のかからんようにしておくれやす」と、あくまで謙虚で、細々気のつく骨惜しみをしない性格でした。その上、だんさんのお気にいるように、すぐホドケル帯の結び方を考えたりして、思わずガバッといっちゃう喜久治です。

さて、家で女中に背中を流させている喜久治のところにきのが、ものすごい形相でやってきました。ぽん太に男の子が生まれたと聞いて、怒り心頭に発していますよ。当然、ここでもしきたりパワーが炸裂。男の子なら5万円、女の子なら1万円を持っていき、それで子供を里子に出すようにとの厳命です。いや、そんな現金を遊ばせてないし、と軽く抵抗してみる喜久治ですが、それなら目録を持って行けといわれてグウの音もでません。はいはい、行きますよ。

早速、目録を持って出かける喜久治。産後のぽん太に、子供の名前をつけてと言われて、「そや。ぽん太の太を取って、太郎にしよやないか」と安直極まりません。「あんまり簡単すぎるやおまへんか。もうちょっと代わり映えのある名前あらしまへんか」と抗議されても、「丈夫そうで、ええ名前やないか。太郎にしとき」とナゲヤリモード全開です。ここでの、若尾文子のうへぇといった表情はとてもステキです。まあ、そうなるわな。

さて、時局は戦争のせいで暗くなっていきます。満州事変も始まり、お茶屋での粋な遊びより、カフェでの狂騒的な遊びが幅を利かせる時代になってきました。もちろん、そんな流行に乗り遅れる喜久治ではありません。よし、早速レッツゴー。行ってみると、これが中々面白そうなところです。特に、無口な女がひとりいるのが気になります。仲間によると「比沙子はんは、自分の好きなことやないと、何ぼ言うても喋りはらしまへんねん」だそうで、そうなると、やっぱり何が好きなのか気になっちゃいますよね。何が好きなのと聞いてみる喜久治。比沙子(越路吹雪)は一言で答えます。「馬っ!」。多分、ここは笑うポイントなんでしょうね。失礼ですが、かなり馬面の越路吹雪が「馬っ!」ですから。

ドドド。競馬場を馬が疾走しています。なんか、喜久治はいきなり比沙子のために馬を買ったみたいですね。そのまま、なんとなく流れで比沙子のアパートに行く喜久治。まあ、当然、そのままそういうことになってしまうわけで。しかし、間が悪かったのか、ナンなのか、そのまま風邪で昏倒してしまう喜久治。情けないことに、番頭さんたちに担がれて、家にご帰還です。

うんうん寝込んでいる喜久治の横で、怒っているきの。でも比沙子とのことは「一晩だけの付き合いだす」と喜久治が言うと、納得したようす。これはしきたりに反してないんでしょうね。と、そこに喜久治の子供を産んだ幾子が、子癇を起こして死んだとの連絡が。「喜久ぼん、行かれまへんで。船場のしきたりでは、旦那は妾の死に顔見たり、葬式に出られしまへんのでっせ」と怖い顔のきの。「行きとうても、行かれしまへんがな。この熱では」。いや、熱があっても行けよ、と思わないでもないんですが。

さらに、きのは言い出します。「昔から、妾腹はお家の子柱と言いまっしゃろ」。お母さん、さすがに今は止めた方が、と止める勢以を完全無視してきのが主張するには、新しい妾を作って、それに女の子を産ませろというのです。男の子は、生まれたなりの能力。でも、女の子なら、婿を吟味すればいくらでも優秀な男が手に入るというリクツのもよう。さらには、すでに相手も物色してあるというから、きののパワーには恐るべきものが。

はい、きのからあてがわれたのはお福(京マチ子)という肉のムッチリとのった女でした。そのお福のはからいで、料亭の二階から、そっと幾子の葬列を見送る喜久治。思わず涙がこぼれます。「お福、抱いて。わてをぎゅーっと抱いてぇな。わてはもう情けのうて、自分がかわいそうで、涙が止まらへんねん」。お福がふぅーっと喜久治に吐息を浴びせます。へにゃへにゃ。蕩ける喜久治。しかし、コトを終えてお福は言うのです。「ほんまは、あて石女(うまずめ)だす」。思わず笑いだす喜久治。「ハハハ。知らんのや。おばあちゃん、それ知らへんのや」。それは、しきたりババのきのへの、ささやかな抵抗だったのかもしれません。

戦争が激しくなり、きのと勢以はとっとと疎開しました。ようやく、女の圧迫から逃れ、さっぱりした気分の喜久治。とは言え、妾のところを律儀に巡回しているのではありますが。しかし、戦争はますます激しさを増し、とうとう船場にも空襲があったのです。ヒュー、ドカン。なんか映画間違ってませんか、くらいのイキオイでけっこうスペクタクルなシーンが続き、はい、河内屋丸焼けです。残ったのは商品を収めた倉がひとつ、ポツン。でも、こうなったら番頭と二人、商売を再建するだけです。恐らく、喜久治にとって、初めて女の影から完全に解放された瞬間だったのでしょう。でも、そうは問屋が卸しませんよ。着の身着のままのぽん太が逃げてきました。比沙子までやってきました。お福すら来ました。挙句の果てに、きのと勢以まで店が心配だと疎開先から帰ってくる始末。「こんな時にムチャな。帰ってこんでもいいのに」と苦りきる喜久治ですが、まあ、目の前にいますからね。どうしようもありません。うーん、よし。腹巻から現金を取り出す喜久治。なんと10万円もの大金をその場で6等分して、女たちと自分で分けることにしたのです。「これだけあったら、当分の生活には困らへんやろさかい、今からすぐ河内長野の菩提寺行ってんか」。こんな時、妾なんていうのは正直なもの。目の前に現金を積まれれば、どこへだって行っちゃいます。誰も、残りたいともいわずに、嬉々として金を受け取って去っていくのです。しかし、納まらないのはきの。「商い倉は男のもの。衣装倉や家屋敷にはわてらの血が染み込んでおますわ。空襲にことよせて、あてらにつながるもんは、みんな灰にしてしもたんやな」と喜久治を罵り始めるのでした。勢以はただ分からないとメソメソするばかり。どうにも喜久治には困った展開です。もっとも、きのはすぐに川にはまって死にました。それが事故なのか、覚悟の自殺だったのかは、誰にも分かりません。

それから一年以上。喜久治は女たちの残した男の子三人と勢以を守って、商売に精を出しました。無我夢中で働き、妾のことはこれっぽっちも思い出さない、ある意味で充実した時間です。しかし、商売も落ち着き、そういえば河内長野に避難させた妾のことも思い出されます。ということで、山道を登り、迎えに行く喜久治。と、お風呂から女たちの嬌声が聞こえてきます。ああ、元気だったんだ。思わず聞き耳を立てると……。

ハダカで(風呂だから当たり前)、あけすけなく話し込んでいる3人の女。比沙子はどうやら、馬に見切りをつけ、大阪に出て株をやろうと考えているようです。ぽん太は女の子を雇って女将になる算段。そしてお福は、金の続くうちは、ここで酒三昧の日々を送るのが希望。水のかけっこをしたり、お福のもっちりした肌を触って、キャーキャー騒いでいる女たちからは、とうとう喜久治のキの字も出てきませんでした。思わず、うへえといった顔になる喜久治です。

「それで、どないなりましてん」と春団子が話の続きを促します。年老いた喜久治は、達観したように語ります。「誰もが苦しかったあの時代を知らぬげに、艶ようムッチリと肥えてたわ。それぞれに味のある女だと思い返そうとしてみても、もうダメやった。女という肉体を持った生き物としか見えなんだわ。わては嬉しかったなあ。これが放蕩の終わりやちゅうことが分かって。そんなサッパリしたエエ気持ちでおなごから足を洗えるとは思うてもみなんだよって」。結局、番頭に金を渡して妾との関係を清算した喜久治は、早世した子供を除いて、二人の男の子と、母親の勢以の面倒をみて、戦後の混乱期を生き抜いたのです。

いまや大人になった太郎(林成年)に小遣いを貰って、春団子とヒョコヒョコ飲みに出かける喜久治。しかし、先代から仕える上女中頭のお時には、喜久治の颯爽とした姿。そう、ぼんぼんではなく、立派なぼんちになった喜久治の姿が目に浮かぶのです。


なんていうか、フェミニストの人が見ると、怒りのあまり三回くらい気絶しそうな内容ではあります。しかし、言葉にするとトンデモない内容なのに、陰惨な印象がまったくといって感じられないのは、市川雷蔵の品の良さでしょう。飄々として憎めない、そんなぼんちを上手に演じていました。

女優陣はスゴイの一言。順番に中村玉緒、若尾文子、草笛光子、越路吹雪、そして京マチ子ですからね。さらにお母さんの山田五十鈴まで加えれば、どれだけ豪華なんだと。それに普通、これだけ揃っていても、注目すべき人は限られるものですが、この映画に関しては、どの女優もうまい。それぞれが違ったタイプの女を演じて、またそのいずれもがカンペキに近い出来栄えでした。

しかし、雷蔵を女たちが取り巻く映画と言えば、増村保造監督の「好色一代男」が思い浮かびますが、最後は正反対なのもおかしいですね。ぼんちでは、女遊び学部を卒業して終わりなのに対して、好色一代男では、さらなる女遊びを求めて、女護が島に旅立っちゃうんですから。言ってみれば女遊びの大学院進学、みたいな。

まあ、個人的には、そこまで執着するのは理解できないんですけど、これもまた人生、でしょうか。

ところで、あらためて「ぼんぼん」と「ぼんち」の違いって意識したことなかったんんですけど、チンピラとヤクザとか、川谷拓三と松方弘樹くらいに違うもんなんでしょうかね。大阪人ではないので、そこらへんのニュアンスがいまいち理解できませんでした。







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【映画】白夫人の妖恋

2008-11-17 | 邦画 は行
【「白夫人の妖恋」豊田四郎 1956】を観ました



おはなし
美しい娘、白娘(パイニャン)と結婚した許仙は、タイヘンな目に。なぜなら奥様は白蛇だったのです

中国の民話「白蛇伝」がもとになっていますとか、香港のショウブラザースとの提携作品だとか、さらに日本初のカラー特撮映画だとかは、この際、どうでもいいこと。池部良と山口淑子という因縁の組み合わせがかもし出すヘンな世界と、八千草薫のカワイサが記憶に残る作品でした。

宗の時代。ここは中国の西湖。風光明媚で知られた土地です。ほら、カメラがパンしていくと、靄に霞んだ、それはそれは美しい西湖や、中国風の街並みが広がっているじゃありませんか。ただし、思いっきり絵ですけど。それも風呂屋レベルの。

湖面を一艘の舟が行きます。そこに乗っているのは、たいそう美しい青年・許仙(池部良)です。なにしろ、湖水に浮かぶ睡蓮なんかを手にとってポーズをキメてますからね。と、そこに「船頭さーん、船頭さーん」という声が。船頭が舟を岸に寄せると、それは美しい娘・白娘(山口淑子)と、お付きの下女・小青(八千草薫)が乗り込んできました。思わず恥らってしまった許仙ですが、そこに薫風がふわーっと吹き、白娘の真っ赤なスカーフが許仙に飛んできましたよ。とりあえず、くんかくんか匂いを嗅いで陶然とする許仙。まったく、何やってんだか。「失礼いたしました」と真っ赤なスカーフを取り上げた小青は、聞かれもしないのに「お嬢様は立派なお家柄の大家(たいけ)のお方で、白娘(パイニャン)、白娘と申されますの」と紹介を始めちゃいました。まあ、紹介されたら、こっちも名乗るのが礼儀。「私は許仙と申します」と名乗る許仙。後ろでは、「きょせんさまっ」と白娘が熱視線を注いでいますよ。もう、完全にイカレてますね。

ま、細かいことはすっ飛ばして、この結果、許仙と白娘はバッチリ恋に落ちたのです。許仙は朝起きると小鳥に話しかけちゃうような優男ですが、しょせん姉(清川虹子)の嫁いだ薬屋で居候の身分。一方、白娘は目元パッチリな、美しくお金持ちの娘。普通だと、この恋はうまく行かないのが相場ですが、そんなものは、この燃え上がる二人には関係ないのです。

お得意先周りで歩いている許仙を、小青が屋敷に引っ張りこみました。待つことしばし、白娘が「朝からお待ちしておりましたのよ」と、現れました。キレイな牡丹の花が咲く庭を見せて、かくれんぼしたりする白娘。アハハ、アハハと逃げたりもして。もう好きにしてって感じです。

耳につけていた真珠を、そっと睡蓮の花の上に乗せる白娘。許仙を見上げつつふーっ。ゆらゆらと睡蓮は許仙の方に漂います。思わず、その真珠を手にとり、「深い海の底に沈んだ月の雫のようだ」とつぶやく許仙。「誰にも知られないで沈んでいったお月様の雫」と答える白娘。「きれいだ」「そんなにきれい」「ええ」「どちらが」。とりあえず絶句する許仙。観てるこっちは、恥ずかしさのあまり、悶絶しそうです。

ともあれ、白娘の怒涛の寄りに、タジタジとなる許仙。でも、結婚はできないんです。なぜなら、ぼくはシガナイ薬屋の番頭(正確には居候)で、貧乏だから。「どうぞ、どうぞ、許してください」。それを聞いて、顔を覆い、スゴイ勢いでドスドスと去っていく白娘。はあ、でもしょうがないよね。しかし帰ろうとする許仙を下女の小青が呼び止めました。「許仙さま、お嬢様泣いていらっしゃいますよ(プンプン)。あなたって方は、あんなことを仰って」「でも……」「許仙さまっ、身分などが何でしょう。あなたはなぜ、そんなに貧乏をお恥じになるんですか。それとも、あなたは婚礼の費用がないなどと仰って、貧乏を盾に、お嬢様の心を踏みにじろうとなさるんですか(プンスカ)。いいえ、きっとそうですわ」。えーと、プンプン怒る八千草薫、すごくカワイイんですが。どうしてくれよう。

でも、本当に金が無いと力説する許仙に、「ああ、そんなことなら」と言い出す小青。するっとお金(銀)を差し出しましたよ。ほれ。とりあえず喜ぶ許仙。部屋の中からは白娘も熱視線をバリバリと許仙に注いでいます。

しかし、この銀はなんとお上の倉庫から盗み出されたものでした。義兄(田中春男)にチクラれ、捕まってしまう許仙。しかし、断固として白娘の屋敷の場所を白状しようとはしないのが立派です。とはいえ、肝心の小青はノンキなもの。「夕べ、銀を倉から盗み出した時から、大丈夫かなと思ってたんですよ」と悪びれていません。そのうえ、悩む白娘に「さ、早く逃げましょう。許仙さまだけが男じゃなし、もっとイイ男見つけたらいいでしょ」とか言っていますが。もちろん、その直後、白娘のパンチが小青に決まったのは言うまでもありません。

結局、自白した許仙の案内で、役人たちが屋敷にやってきました。でも、そこは荒れ果て、どう見ても人が住んでる気配はありません。おかしいなあ、でもホントにここなんですよ、と弁解する許仙。おっと、白娘が陰のように現れました。「県知事の命令だ。捕まえろぉ」と殺到する役人たち。しかし、そこに一陣の妖しい風が吹いたかと思うと、白娘の姿はかき消えたのです。

臼をごーりごーりしながら、「許仙はとうとう蘇州の牢屋に送られましたよ」とつぶやく姉。「かわいそうなことをしたなあ」と答える義兄。いや、お前がチクったんだろ、と思わないでもありませんが、この義兄は、実はいい人だったようです。というのも、蘇州に送られた許仙は、義兄のワイロが効いて、とりあえず釈放されたのですから。そのまま、土地の実力者・王明(上田吉二郎)の宿屋で番頭をさせられることになった許仙。まあ、牢屋にいるよりかは、なんぼかマシですね。あとは、故郷に帰ることを許されるまで、ここでマジメに仕事しようっと。

と思ったらきちゃいましたよ。あの二人が。「何しに来た」「帰れっ」と怒る許仙。「それはあんまりなお言葉です。まるでバケモノか何かのようなお言い草です」とプンスカ怒っている小青は、しかし、見つけてしまいましたよ。許仙の胸元にある、白娘の真っ赤なスカーフを。「許仙さま、あなたは自分の心を偽ってらっしゃいます。それを持ってるのが、何よりの証拠でございます」。そのまま、小青はスゴイ勢いで弁解を開始して、気づけば許仙は白娘と部屋に二人きり。「どうして優しい言葉をかけてくださいませんの」と白娘が迫ります。後ずさりをする許仙。追い詰める白娘。とうとう白娘は許仙の手を取って自分の首にあて、「許仙さま、いっそ殺してっ」と絶叫です。それでも黙っている許仙に、キレる白娘。「もういいわ」「私、いっそ死んでしまった方がマシです」とドタドタ部屋を出て行っちゃいましたよ。恐るおそる部屋から外にでてみる許仙。おや、白娘はヤケにしおらしい態度で、目をパチクリしてますよ。いやいや、ここで騙されちゃいけません。

あなたに会えただけでも良かったといいつつ、「さようなら」と歩き去る白娘。「……」。もう一度振り返り、「さようなら」とドスドス歩きだす白娘。スタタタ、許仙は走りました。そのまま、白娘をお姫様ダッコして、部屋に連れて行きます。ベッドにポーンと白娘を投げ出し、そのまま画面はピンクライトに。チュー。えーと、とうが立った池部良と、かなりとうが立ちまくった山口淑子のラブシーン。いくらピンクライトにしたってダメなもんはダメだと思います。痛たた。

お客さん、来ないわねえ。とダラダラしている白娘と小青。なんと、許仙とうまいこと結婚した白娘は、薬屋さんを開業していたのでした。もちろん、名目上の主人、許仙は家の奥のベッドでゴロゴロしてるだけ。ほとんど、いや完全にヒモに成り下がってるのがマヌケです。そのまま、暇にまかせて、お祭り見物に出かける許仙。と、そこに「あいや、そこな御仁、お待ちなさい」と怪しい道士(東野英治郎)が声をかけてきましたよ。「ワシは茅山道人という道士だが、どうも不思議。さっきから見ていると、あんたの頭から妖気が立ち昇っておる」。うわっヘンなのが来たよ、と逃げ出した許仙を、しつこく追いかけてきた茅山道人は、「お前は妖怪の虜になっておるのじゃ。思い当たることがあろう」と言いつのります。ハッ、そういえば。おそろしく影響されやすいというか、主体性ゼロの許仙は「道士さま、私は家に帰るのが恐ろしくなりました」とビビリモードに突入です。「いやいや、心配することはない。今夜の丑三つ時、このおふだの一枚を部屋の入り口に貼り、一枚を火で燃やし、一枚をお前の肌に付けておいたら、妖魔は必ず尻尾をあらわそう。このまま放っておいたら、お前の命にかかわる」。えーとメンドクサイんだ。イヤだーと逃げ出す許仙。しかし茅山道人の道術で、目の前に火がメラメラと燃え上がりました、ひーっ。仕方なくおふだを受け取る許仙です。

「タイヘンです。タイヘンです、奥様っ」と、その一件を目撃していた小青が、白娘に一部始終を報告しました。「小青、お前は私を助けてくれるね」と何やら耳打ちをする白娘。「えーっ、毒を撒くですって」とビックリな小青。白娘のリクツはこうでした。毒を撒けば疫病がはやる。そうすれば薬屋はウハウハ。儲かれば、ダンナ様もつまらないことは考えまい。「分からない」と首をフルフル振る小青。確かに、そのリクツはヘンだぞぉ。

その日の夜中、こっそり起きだしておふだを貼る許仙。許仙がさらに、おふだを燃やそうとすると、そこに白娘が現れました。「あなた。あなた、こんなにベットリ。ほら、あたくし、恐ろしい夢を見ましたわ」と、自分の胸元に手を入れさせる白娘。しかし、許仙はガクガクブルブルなので、色気アタックが効かないようです。ならばと、恨み言を言い出す白娘。じゃあ、いいわ。おふだを燃やしてあげるっ。ボッ。と、その時、外で呪文を唱えていた茅山道人は白娘の妖術でグハッと昏倒です。「許してくれ、バカだったっ」と日和見を決め込む許仙。「許してくれ、許してくれ。私は恥ずかしい」。パッとグリーンのスポットライトが当たり、ラブシーンを始めちゃう二人。何とかならないものかなあ、このセンス。それはともあれ、毒を撒き終わって帰ってきた小青が、何気なくドアを開けると、恥ずかしそうに、頬に手を当てるのです。カ、カワイイぞ、八千草薫。萌え死にそうです。

めでたく疫病がはやり、薬屋は大繁盛。ついでに白娘は茅山道人と妖術勝負をして勝ったりして、まずは平穏な日々。まあ、周りの人には大迷惑ですけど。そんな、ある日、小青がタイヘンですと言い出しました。今度は何よっ。えーと、王明さんから節句の酒盛りに招待されちゃいました。「旦那さまをかい」「ええ」「いいじゃないの」「奥様もご一緒でございますよ」「へー」。って、なんですとー。なんと、節句に出てくるお酒は蛇族にとって大敵。それを飲むと、お腹が痛くなっちゃうそうですよ。うーん、困った、困った。と、そこに「いやあ、忙しい忙しい」と許仙が帰ってきました、忙しいと言いつつ、張りのある表情をしている許仙のりりしいお姿にうっとりする白娘。「あんなに喜んでらっしゃる。良かったねえ」。すかさず小青のツッコミが入ります。「ちっとも良くはありませんわ。ふんっ、どうかしてる」。この八千草薫もカワイイ。もうダメ。萌え死にました。バタッ。

ということで、節句の酒盛り。ドジっ娘小青は間違って酒を浴びてしまい、しゅるるーと青い蛇になって、遁走です。懸命に酒を回避した白娘も、許仙がまあまあ、とムリムリにお酒を飲ませたために気分が悪くなっちゃいました。「お願いでございます。一人にしておいてください」と別室に引っ込み、しゅるるーと白蛇に変わる白娘。そこに止せばいいのに許仙がやってきましたよ。「パイニャン。パイ……グエェツ」ドサッ。なんと白蛇を見てビックリした許仙は、そのままショック死してしまったのです。なんていうか、とことんダメなヤツ。

早速、桃の花が咲き乱れる中華な場所に、雲に乗ってやってきた白娘。どうか、生き返りの草を分けてください。「どうぞ、哀れと思って、私の夫を生き返らせてくださいませ」と仙翁(左卜全)に頼み込んでみるのでした。しかし、下界で毒を撒いたりしたことがバレバレだったので、草をもらうどころか、ミニチュア化されてしまう白娘。うわーん。と、そこに謎の声が響きます。「カイセイ草、いっぽんやるがよい」。ああ、ありがとう菩薩さま。

その頃、下界では。白娘に連戦連敗中の茅山道人が、許仙の枕元でなにやら、ムニャムニャ呪文を唱えています。パチッ、と目を開ける許仙。「ややっ、生き返った。どうじゃワシの方術の力は」と自画自賛する茅山道人。おっと、そんな場合じゃない。「あんたはあの女の正体を見たな。その目でハッキリ見たであろう」「見ました、見ました。はぁーっ、恐ろしい」。よし、じゃあ金山寺に逃げよう。あそこにいる、法海禅師しかお前を守ってくれるお人はいないのだ。小青を突き飛ばして逃げる二人。小青は「んまーっ」と怒っています。

「奥様、遅うございました」と戻ってきた白娘に告げる小青。「悔しゅうございます。旦那様は奥様を呪って、憎んで、金山寺の法海禅師のところへ」。ガックリしてピーピー泣き出す白娘。しかし、ここで小青の声がググッと低くなりましたよ。「泣いている時ではありません」「情のない男を憎むのです。こうなったらただ憎むのです。憎むんですよ、奥様」。ぐいーっと白娘の後ろ髪を引っ張る小青。「負けてはいけません、呪うんですよっ」。

金山寺にやってきた白娘と小青。まずは、法海禅師に低姿勢で「どうぞ、夫を」と頼んでみます。法力も捨てます、だから。「ならん」「これだけお頼みしても」「くどいっ」。むきーっ。「もう頼まぬ、老いぼれめっ」。

白娘と小青は二人並んで呪文を唱え始めました。雲が湧き、風が吹き、海が逆巻きます。ヒューッと竜巻が起き、雷が轟き、なんだかどんどんスゴイことに。ひーひー叫んでるだけの許仙は放っておいて、法海禅師も逆襲開始。あんにゃらうんにゃらとお経を唱えだしました。法海禅師の周りに集まり、グルグル回りながらお経を唱え始める若い僧たち。よく分かりませんけど、人間対妖魔の最後の戦いが今始まるっ!!って感じで燃える展開になってきましたよ。「恐ろしい白蛇の力だ。四海の竜王も味方にしたらしいぞ」と茅山道人がつぶやくと同時に波のイキオイが増してきました。ざっぱーん。ざっぱーん。日本の誇る円谷特撮で描かれる大スペクタクル。

やっぱり、ひーひー逃げ回ってる許仙。さすがの茅山道人もムカっときたようです。「許仙、お前がいるからだぞ。お前さえいなければ。えいっ」。あれー。海の中に落ちていく許仙。

ハッ。と呪文を止める白娘。小青、イキナリ白娘の頭をぶん殴りました。「何をしてるんです。今呪文を止めてはダメです」。そう、妖術とは諸刃の剣。中途半端なところで中断すると、その力は逆流して。どっぱーーーん。ほら、自分に返ってくるんです。

プカプカ浮かぶ木に掴まっている白娘と小青。「どうして方術を捨てたんです。あんな、あんな薄情な男のために。私には分からない」、ざっぱーん。「笑っておくれ。どんなに笑われても私は後悔しない」「勝手にするがいいわ」、ざっぱーん。日本の誇る円谷プロの、渾身のざっぱーんを浴びながら会話をする二人。いや、ほんとうに苦しそうなんですけど。特に八千草薫。かわいそう、でもカワイイ。ダメだ、また萌え死にそうです。

「もう知らないっ」と小青はどこかに泳いでいってしまいました。残された白娘はつぶやきます。「小青、小青も行ってしまった。私はどこへでも流されていく。私は」ざっぱーん。

全てが終わり、ついでに皇帝じきじきに罪をゆるされた許仙はめでたく故郷の西湖に帰れることに。ルンルン。旅路を急ぐ許仙。と、そこに白い蛇が。どわーっ。逃げ出す許仙。しかし、どこに逃げても白蛇が現れ、さらには白娘の幻まで出てきて、恨み言を言い出しましたよ。「旦那様、私でございます、私でございます」。「言うなっ、まだ私を迷わすのか」とキレる許仙。「いいえ、私があなたを迷わせましたのか、あなたが私をお迷わせになったのか、もう私には分かりません」。

「あなたが私を……。あなたが私を」と悩む許仙。確かにそうでした。燃え上がった恋の炎は、確かに二人で燃やしたものでした。決して、どちらか一方が良いとか悪いとかいえるものではないでしょう。頭がグルグルしつつ、お花畑に迷い込む許仙。思わず白娘の残した真珠を見つめて、「パイニャン」とつぶやいちゃいます。そこに突然、本当に突然、現れた法海禅師。「この愚か者。かーーーーつ」、ドカーン。雷を落とされ許船は即死です。えーっ、どうして。「お前たちは、この世を捨て、相抱いて、蓬莱の島に行けっ」と言う法海禅師。その言葉に答えるように、許仙の死体からホワホワと半透明な許仙が現れました。そして、やっぱり半透明な白娘と、抱き合いつつ空に昇っていくのでした。二人をつなぐのは赤いスカーフです。


えーと、強引な山口淑子に見込まれた池部良がトンデモない目に遭う話ということでいいんでしょうか。となると、アレとフォーマットは一緒ですね。たまたま、どっちも舞台は中国だし。それにしても、「暁の脱走」(1950)の時ですら、すでにヒロイン役にはムリがあった山口淑子が、この映画でヒロインをやるのには、かなりムリムリがありました。悲恋というより、肉欲に狂ったおばさんの話になってますからね。もちろん、僕個人としては、充分に楽しめましたけど、本当であれば、ここは素直に岸恵子とか、他の女優さんを起用すべきだったろうなと思います。

池部良は、うーん。どちらかというと、憂愁をおびたインテリ役が似合うのに、こんなバカな役ですからね。これで池部良を評価するのは、あまりに酷というものですから、ガンバッタで賞でもあげときます。

ま、それはともあれ、良かったのは八千草薫。いまだにカワイイおばあちゃんの八千草薫ですが、この時は25歳ですからね。なんというか、その仕草の一つひとつが愛らしくて、愛らしくて。もう、連れて帰りたくなっちゃいます。まあ、どこに帰るのかは知りませんが。とにかく、映画の最中、何回か確実に萌え死にました。

「暁の脱走」と「安珍と清姫」ついでに「楊貴妃」を足して3で割ったような、この作品。どうしたってケッタイですが、意外に笑えて、ちょっと泣けます。面白い作品でした。







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【映画】沖縄やくざ戦争

2008-11-14 | 邦画 あ行
【「沖縄やくざ戦争」中島貞夫 1976】を観ました



おはなし
本土返還を前に、沖縄ではやくざ戦争が勃発。なんだかタイヘンなことに。

前半は千葉真一の暴れっぷり。後半は松方弘樹のキレっぷりを堪能できる、一粒で二度おいしい映画です。

「沖縄市(コザ)」。夜の歓楽街では、東京から進出してきた居酒屋さんがオープンセールの真っ最中。と、そこに入ってきたのはサングラス姿もバッチリな国頭正剛(千葉真一)と、その愉快な仲間たち。トリャっ。ビール瓶を正拳突きで粉砕した千葉ちゃんは、キックで店を破壊していき、満足そうにポーズを取っています。「兄貴、兄貴」と慌てて止めに入ったのは、兄弟分の中里(松方弘樹)ですが、千葉ちゃんの懐刀、石川(地井武男)は黙ってニヤニヤ見ているばかり。

「石川、きさまなぜ止めんのだ」と松方弘樹が叱り付けても、「止めて止まるオヤジですかねえ」と鼻で笑っていますよ。まったく生意気な奴です。トリャ。とりあえず、ひと殴りしておく松方弘樹でした。

さて、ここでお話の前提条件を整理しておきましょう。沖縄は現在のところ沖縄連合琉盛会という組織が仕切っています。この組織ですが、実は那覇の大城派とコザの国頭派の寄り合い所帯。もともと、二派は抗争をしていましたが、本土復帰を目前にして、本土やくざに対抗するために大同団結をしたのです。とは言え、もともと犬猿の仲。それに大城(織本順吉)と千葉ちゃんが、それぞれ理事長という、変則的な組織なので揉め事が絶えません。

さらにコザは、もともと国頭をはじめ三派が合い争う場所でした。しかし、千葉ちゃんのために、松方弘樹が敵をマシンガンでバリバリ殺してあげたために、今では国頭派のみが生き残っているのです。で、地井武男は、その後に入って急成長した子分ですから、言ってみれば格が違うと。しかし、建前はともかく、残った松方弘樹の子分たちは、地井武男に苛め抜かれ、すっかり落ちぶれていたのです。そんなところに、沖縄返還の恩赦で、松方弘樹は出所してきたのです。

一緒にマシンガンをぶっ放した誠治が、白骨死体で発見されたことを知った松方弘樹。「手も足もバラバラ。頭蓋骨はボッコボコだ。誠治はなぶり殺しにされたんだ」と怒っています。もちろん、こんなことをやるのは、地井武男。地井武男に決まっています。しかし、当然のことながらトボける地井武男。それどころか、松方弘樹がプンプン怒りながら帰ったあとに、松方弘樹の悪口を言い出しましたよ。沖縄そばをグッチャグチャ食べながら、それを聞いているんだか、聞いていないんだか分からない千葉ちゃん。しかし、地井武男が「理事長。中里も消しましょう」と言い出したのには、沖縄そばを口からダラッと出しながら、怒るのです。「石川、誠治らチンピラどもを何百人ぶっ殺そうが、俺は屁とも思わねえ。だが、ちょーでぇ(兄弟)だけには手を出すなよ。たとえお前でも、下手な真似しやがったらタダじゃおかねえぞ。ああ?」。思わず、黙ってしまう地井武男。やっぱり、口からそばが飛ぶのがイヤだったんでしょうか。

さて、子分の具志川(室田日出男)が、ほそぼそと営む氷屋さんで、カキ氷を食べながら、じみーに作戦会議を開いている松方弘樹たち中里派。オヤブンが帰ってきたので、室田日出男や鉄男(矢吹二朗=千葉ちゃん弟)あたりは、「石川をやりましょう」とヒートアップしていますが、「喧嘩しても勝てんぞ」と、あくまで松方弘樹は冷静です。「向こうは200。こっちは30」「兄貴を信じる他はねえ。もう少し待つんだ。ムショで待つことだけは覚えたさ」。

えーと、待ったカイがあったんでしょうか。二郎(尾藤イサオ)の幼馴染の宏(渡瀬恒彦)が、田舎の久米島から出てきました。久米島といえば、松方弘樹や室田日出男を出身地でもあるので、なんだか室田日出男あたりはうれしそうです。やったあ、これで31人めですね。それに、芸能界ケンカ最強ともいわれる渡瀬恒彦ですから、心強い限りです。お前も早く、ここで女を作るんだぞ、と渡瀬恒彦に優しいアドバイスをする室田日出男。イエス、ボス。早速、ディスコのトイレで、黒人女性を襲う渡瀬恒彦。むろん、仲間の黒人男性と大喧嘩です。あれ、ちょっと違ったかなあ。今度は尾藤イサオの彼女の友達を紹介してもらう渡瀬恒彦。もう、すぐさまパンツ一丁になって、準備万端。いつでもこいです。「待ってよ。先にちょうだい」と言い出す女(ひろみ麻耶)。「金取るのか」と驚いた渡瀬恒彦ですが、なあに、やっちまえばコッチの勝ちということで、いただきまーす。ゴチン。股間を蹴られてのた打ち回ってますよ。「大丈夫?お医者さん、呼ぼうか」と心配するひろみ麻耶に、「さすってくれよ」とお願いする渡瀬恒彦。ひろみ麻耶はビックリ。なんか、スゴク大きいんですけど。ゴクリ。と、思ったら、パンツにタオルが入れてあったのでした。まあ、そんなこんなで、スケができて良かったね、渡瀬恒彦。

貧乏はツライもので、室田日出男は黙って縄張りを越えて商売をしてしまいました。といっても、じみーに氷を売っただけですけど。でも、縄張りは縄張り。早速、千葉ちゃんたちに拉致されてしまいます。アイスをペロペロ舐めながら、「縄張り侵した奴がどうなるか、国頭一門の掟、知ってるな。んーっ」と、睨んでいる千葉ちゃん。「俺、どうなってもいいっすよ。オヤジや若いもんの身が立つように考えてやってください」と男気溢れる室田日出男は、死を覚悟します。頭に突きつけられるピストル。ところが、千葉ちゃんは言い出しました。「待て、殺したくらいで見せしめになるかい」。その手に握っているのはペンチ(というかヤットコ)。思わず、ビビる室田日出男。ま、まさか。ギャーッ。案の定、室田日出男は、大事なトコロを千葉ちゃんの子分に千切り取られてしまったのです。新しいアイスを食べつつ、それを見ている千葉ちゃん。さすが、狂犬です。

当然、縄張り荒らしなので、松方弘樹は千葉ちゃんに平身低頭。「オヤジさん、俺ガマンできなくて」という室田日出男に、涙のパンチです。許せ、子分よ。「兄貴、すまねえ」と千葉ちゃんにあやまり、「石川すまなかったな」と地井武男にも謝る松方弘樹。しかし、地井武男はプハーっとタバコの煙なんか吹きかけてますよ。ちくしょー、いつかコロス。

「理事長、これで分かったでしょ」と、またも松方弘樹の悪口を言い出す地井武男。しかし、千葉ちゃんは、松方弘樹に新しい縄張りをくれてやれ、と言い出すのでした。さすが千葉ちゃん。決してケチではないんです、単に狂犬なだけで。しかし、これには地井武男が猛反発。「国頭派をここまで大きく育てたのは、この俺だ」。バコッ。千葉ちゃんの裏拳が炸裂しました。メゲズに「俺無しで、やっていけるというなら、この場で俺を殺してくれ」と叫んでみる地井武男。あ、それはマズイ。千葉ちゃんに駆け引きが通じるワケないんですから。バッとサングラスをむしりとり、「言・う・た・な・あ」とピストルを構える千葉ちゃん。「オヤジ、やめてくださいよ」と子分たちがすがり付いて止め、どうにか即射殺は免れたものの、「出て行け、コラぁ」と地井武男は放り出されるのです。

そんなこんなで、仲がいいんだか悪いんだか良く分かりませんが、千葉ちゃんと松方弘樹は、高級クラブでの琉盛会の打ち合わせに参加中。大城理事長こと織本順吉や、その若頭の翁長(成田三樹夫)は、千葉ちゃんにホテルでも建てろや、とシキリに現代ヤクザへの転向を勧めますが、千葉ちゃんは怒り顔です。「ヤマトの奴らを泊めるホテルを建てろと言うんかい」。そう、千葉ちゃんは本土の人間が大キライな、コチコチの沖縄至上主義者だったのです。と、ステージでは、どうみても本土のヤクザ(曽根晴美)が、気持ちよく歌なんか歌ってますよ。ムカムカ。千葉ちゃんの顔が、怒りに歪んでいます。「おいおい」と織本順吉以下、みんなが止めるなか、ステージに飛び上がった千葉ちゃん。いきなり、上半身裸になったかと思うと、琉球空手の演武を始めちゃいましたよ。もう、いかにも挑発してますよー、と言わんばかりの態度の千葉ちゃんですが、そこは曽根晴美は大人でした。というか、危険な香りを感じたんでしょう。ムカムカしつつも、本土のヤクザたちは黙って引き上げていったのです。君子危うきに近寄らず、ですね。

しかし、たとえ君子でも避けられないものがあります。それは千葉ちゃん。挑発に乗らないなら、コッチから行くぜとばかりに、本土ヤクザを襲撃しちゃったのです。曽根晴美をボコボコにしておいて、車で轢く千葉ちゃん。バックして、もう一度。前進してもう一度。バック、前進。とりあえず、何回でも踏んでみちゃうのです。

これに慌てたのは、琉盛会の理事長はじめマトモな幹部のみなさん。なにしろ、曽根晴美は、本土でも最大規模を誇る関西旭会の幹部だったというのですから。「下手したら、旭会と戦争だよ」とガクガクブルブルしている成田三樹夫に、しかし千葉ちゃんは言うのです。「戦争やろうじゃねえか。戦争、だーい好き」。「気は確かかね。向こうは組員2万人の大組織だ」と抵抗してみる成田三樹夫ですが、そもそも、この言葉は間違えています。なにしろ、千葉ちゃんの気は「確か」じゃありませんから。「ヤマトの奴らどもは、一歩たりとも、この沖縄の土を踏まさん」と息巻く千葉ちゃんに、琉盛会のみなさんは困った表情です。

「わしゃ知らん。わしゃ知らんぞお」と織本順吉が日和ったので、しかたなく成田三樹夫と松方弘樹が、はるばる大阪までワビに行くことに。「中里英雄であります。なにぶん田舎者のことで、謝罪の法をわきまえておりませんが、本土の流儀ではかような場合、指を切断すると聞いております。たとえ、十本残らず切られたとしても文句はありません」と、折り目正しく挨拶をする松方弘樹に、心動かされたのでしょうか。旭会の大幹部、海津(梅宮辰夫)は、快く許してくれたのでした。もちろん、千葉ちゃんの首を取るという条件ですが。

沖縄に戻った松方弘樹は、「この恥知らず」と千葉ちゃんから、キツーいパンチを喰らっちゃいました。「ちょうでぇ(兄弟)、貴様までがヤマトの犬に成り下がるとは思わなかったぞ」と、寂しそうな笑みを浮かべる千葉ちゃん。しかし「生きるためさ」と松方弘樹は言います。「生きるためなら、犬にでも豚にでもなるさ」。ドガーンと効果音でも付けたくなるイキオイで振り向く千葉ちゃん。「中里、24時間以内に、このコザから出て行け。てめえの一門の者みたら、一人残らずタッ殺してやる」。

「45だ」と、でかいピストル(45口径)を取り出し、尾藤イサオ、渡瀬恒彦に渡す室田日出男。「オヤジや俺の代わりに、島のモンの意地、見せてくれ」。千葉ちゃんのせいで、かわいそうなことになってしまった室田日出男は、もはや復讐の鬼と化しています。もちろん、その計画に気づいても止めようとしない松方弘樹。なにしろ、やらなければコッチがやられる。それに千葉ちゃんを生かしておいては、いずれ本土のヤクザがやってきて、沖縄ヤクザは壊滅、皆殺しは目に見えていますからね。ただ、ワリを食わないように、準備だけはしておかないと。ということで、早速、成田三樹夫に交渉です。「チャカも金をいらんですが、一つだけ欲しいものがあります」、「国頭の葬式に、大城さん以下、あんたがたが列席しないという約束」です。つまり、千葉ちゃん殺害は、中里派の暴発ではなく、琉盛会全体の意思であることを示してもらいたいということです。ついでに、地井武男の除名も要求する松方弘樹。「中里さん、負けたよ」と成田三樹夫は同意しましたが、で大丈夫でしょうか。成田三樹夫が義理堅いとは、聞いたことがありませんけど。

ともあれ、賽は投げられました。ルビコン川は渡ってしまったのです。キャバレーで飲んでいる千葉ちゃんを、尾藤イサオと渡瀬恒彦が襲撃します。「なんじゃい貴様」と言う千葉ちゃんに、渡瀬恒彦がズドン。なにしろグリズリーをも倒すという45マグナム。一発で千葉ちゃんは消し飛び、と思いきや、千葉ちゃん暴れてます。ズドン。ズドン。5発目にして、ようやく千葉ちゃんは「倒立」をキメつつ死ぬのでした。

しかし、約束はドコへ行ったのか。織本順吉はじめ幹部のみなさん列席のもと、厳かに行われる千葉ちゃんのお葬式。もちろん、地井武男も除名されず、逆に松方弘樹一派は追われる立場になってしまいました。仕方ない。矢吹二朗の実家のある、島の北部、名護市に隠れる松方弘樹たち。「どいつもこいつも、ケロっと裏切りやがって」と松方弘樹は、憤懣やるかたない様子で、子分たちも意気消沈しちゃってます。元気なのは、室田日出男だけみたいですね。

さて、警察に捕まった渡瀬恒彦を救いにやってきた尾藤イサオ。差し入れのお弁当の中に、ピストルを隠し、無事、渡瀬恒彦を脱出させることに成功しました。ピーポーピーポー。サイレンを鳴らして追いかけるパトカーとカーチェイスの始まりです。お前は先に逃げてろ、と渡瀬恒彦を降ろす(というか捨てる)尾藤イサオ。だって、渡瀬恒彦が車に乗っていなければ、あとはどうにでもなりますもんね。キキー。車を止めて、あとはパトカーを待ちます。えーと、あれ。すごい勢いで突っ込んでくるパトカー。バコッ、ドッカーン。あらー、車は尾藤イサオを乗せたまま大爆発しちゃうのでした。

一方、そのニュースをテレビで見つつ、ご飯を食べている松方弘樹一派。どうしたんだろう。大丈夫かなあ。口々に心配している皆さんをよそに、室田日出男は「石川、タッ殺せー」とか呟いていますが。「具志川の言うとおりさ。奴らタッ殺さにゃ、コッチがやられる。とにかく、金がいる。武器買う金がいる」と、リーダーらしく、一同に言い聞かせる松方弘樹。しかし、みんなが持っているのは小銭ばかり。困ったなあ。「タッ殺せー。タッ殺せー」、はいはい、室田日出男はまだ、ツブヤイていますけど、ほっときましょう。おっと、そこにズタボロの渡瀬恒彦がやってきましたよ。これからは尾藤イサオの分も働く、「石川だって、ナンだって、オレがタッ殺すさ」と、力強く宣言する渡瀬恒彦に、思わずみんなの元気も回復するというものです。

金稼ぎ作戦、そのいち。松方弘樹のスケ(新藤恵美)、東京トルコに身売りするの巻。結果、金を受け取って帰ろうとした矢吹二朗は、敵に見つかり軽トラごと海へドボン。

金稼ぎ作戦、そのに。渡瀬恒彦のスケが貯めた貯金ツボをかっぱらおう。渡瀬恒彦はスケのところに行って、いい事したあと、ツボを奪う作戦に。しかし、敵地で悠長にいい事なんかしてたもんですから、地井武男たちに見つかっちゃいました。命からがら逃亡したものの、お金はゲットできず。

金稼ぎ作戦、そのさん。昔の借金、とりたてよう。早速、コザのバーに借金を取り立てに行く子分のみなさん(片桐竜次、成瀬正孝、三上寛)。もちろん見つかり、生き埋めにされることに。「名護の、名護の鉄男の実家だ」「おい、ラクにしてやれ」。バーン。バサッバサッ。土がどんどん降り積もります。

金稼ぎ作戦、そのよん。素直に借りよう。折りよく沖縄にやってきていた梅宮辰夫と成田三樹夫が酒を飲んでいるところに、金を借りにいった松方弘樹。バッと土下座をして、「海津さんワシに金めぐんでください。お願いします、頼みます。私ら、武器買って石川たち皆殺しにする」と頼んでみます。ポン。札束が投げ出されました。500万円、うわーい。

金が入ったので、早速、お買い物。米軍からジープを買って、機関銃を買って。ついでに迷彩服をバッチリとキメちゃう松方弘樹。「そのカッコ、死んだ国頭のオヤジさん、ソックリですわ」と子分に言われて、「くらーっ、そんなこと言うな」とパンチです。でも、お金があるって素晴らしい。ジープで敵事務所に乗りつけ、乱射してみたり、敵の子分をジープで引きずってみたり。思わず、冷静なはずの松方弘樹ですら、「タッ殺せ、タッ殺せー」と喚いちゃうくらいの気持ちよさです。途中、子分が二人ほど撃ち殺されましたが、なあに気にしない、気にしない。目指すは地井武男の首、ただひとつ。おー。ズドド。バーン、バーン。あいにく室田日出男は死んじゃいましたが、ようやく地井武男をタッ殺すことに成功した松方弘樹。これで、梅宮辰夫や成田三樹夫との約束どおり、千葉ちゃんの後を継いで、島の北部を支配することができます。やったあ。

しかし、喜び勇んで成田三樹夫に電話すると、なんだか言ってることがヘンですよ。「理事長はもういらんのだ。これで琉盛会は大城会長の下で一本化だ」。ガーンとする松方弘樹。そして、成田三樹夫の後ろで、もっと激しくガーンとしているのは、大城会長こと織本順吉です。な、なんてことを。そんなこと言ったら、ボクが松方弘樹に命狙われちゃうじゃない。なあに、絶対ガードして見せます、と成田三樹夫は豪語しているものの、アテになるんでしょうか。

なるほど、成田三樹夫はいい仕事をしました。水も漏らさぬ警戒態勢とは、このことを言うのでしょう。犬を連れたヤクザ。ジープで巡回するヤクザ。門前にもトランシーバーを持ったヤクザ。いやあ、これだけの警護は大統領だってしてもらえませんよ。「どうですか、どーぞ」「OK、異常なしです、どーぞ」「本当だな、どーぞ」「本当です、どーぞ」。ようやく安全を確認したのでしょう、警備のヤクザが、後ろを振り向いて織本順吉に言います。「会長、大丈夫です」。「本当だな」と念を押す織本順吉に「本当です、どーぞ」と答えるヤクザさん。もう、オチャメなんだから。

「さあ、ジョージ、散歩しようねえ」と、三輪自転車で散歩に出かける織本順吉。しかし、そこに現れたのは、火達磨になったクルマから奇跡の脱出をした尾藤イサオだったのです。バーン。バーン。うぎゃあ。もちろん、尾藤イサオもボディガードたちに蜂の巣にされましたが、その死に顔が満足そうでした。

沖縄の海。豪華クルーザーで大物釣りを楽しむ梅宮辰夫。横でオベッカを使っている成田三樹夫さえいなければ、その後の梅宮辰夫を暗示するような展開です。と、そこにモーターボートが疾走してきました。来ました、来ました。松方弘樹と渡瀬恒彦です。もちろん、釣りの仲間に入れてもらいにきたわけでなく、その目的は復讐。ズドドド。ズドドド。機関銃を撃ち込む松方弘樹。あわれ、成田三樹夫はズタボロになって死にました。しかし、これで終わりじゃありません。戻ってきて、またも機関銃を撃ち込む松方弘樹。もちろん、梅宮辰夫の子分も反撃し、銃弾の応酬が続きます。ズドドズドド。バーンバーン。ズドドドドド、ババーン、ババーン。クルーザーの上に生き残っているのは、負傷した梅宮辰夫のみ。「くそ、あのくされガキが」。

そのくされガキこと松方弘樹の横では、流れ弾に当たったのでしょう。渡瀬恒彦が血まみれになって息絶えています。松方弘樹は、モーターボートを沖合いに向けつつも、いつまでもクルーザーを睨んでいるのでした。


ともすればリクツっぽくなる中島貞夫監督ですから、沖縄問題から真正面に取り組んでしまいそうなトコロですが、この映画は、どこまでもギラギラと、そしてアッケラカンと撮った作品だと思います。もちろん、そこはかとなく漂う、グズグズのユーモアも捨てがたい魅力です。

何と言っても、この映画の最大の魅力は、千葉ちゃんの野獣そのものの演技。仮にもスターなんだから、そこまでやらなくても、と心配になってしまうくらいのキチガイっぷりがステキです。

そして、千葉ちゃんが退場してからは、蒼白メイクで「タッ殺せ、タッ殺せ~」とつぶやき続ける室田日出男や、その狂気が乗り移ってしまったかのような松方弘樹のイカレっぷりが映画を支えます。他にも、小悪党っぷりがナイスな成田三樹夫や織本順吉。粗暴な男、渡瀬恒彦。それにエラソウな演技がカッコイイ梅宮辰夫など、的を射たキャスティングが、グイグイと映画を引っ張りました。

本来の東映路線からは、微妙にヘンな方向にズレているような気がしないでもありませんが、間違いなく「どこか」に突き抜けている、この映画。ひじょうに面白いです。







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【映画】だれの椅子?

2008-11-12 | 邦画 た行
【「だれの椅子?」森永健次郎 1968】を観ました



新任教師の恵子(吉永小百合)は、無骨だけど根の優しい菅原先生と、ハンサムでソツのない次郎の間で、心が揺れて……

当時、大学在学中の小百合ちゃんが、新任の英語の先生を演じた作品です。原作は「青い山脈」の石坂洋次郎。これが吉と出るか凶と出るのか、興味があるところです。

♪ヤンヤンヤン。わっかい二人、だっからぁ♪。なかにし礼作詞、小百合ちゃんの歌で、かなりズッコケつつ映画はスタート。

いましも、教会で結婚式が行われようとしています。牧師さん(三島雅夫)の、「ただ今より、高畠次郎と沢村恵子の結婚式を執り行いますが、この結婚に異議のある方はございませんか」という声が会堂に響きます。もちろん、異議のある人間なんか……おや、新婦の沢村恵子(吉永小百合)自身が、「私はどうしてこの人と結婚することになったんだろう」とかつぶやいていますよ。

「私がこの古い城下町の高台にある、私立桜ヶ丘高校の教師として赴任してきたのは、ちょうど去年の今頃であった」と小百合ちゃんのモノローグとともに、高校の風景が。「この高校はキリスト教系の学校で、男女共学ではないが、敷地の3分の2ほどが男子部の学校で、3分の1ほどのところに女子部の校舎が建っている」そうです。ほほう。

校長先生(北林谷栄)に案内されて、女子部の3年4組に見学にやってくる小百合ちゃん。ちょうどそこでは、「母と息子」というテーマで、国語の菅原先生(渡哲也)が生徒たちに母からの手紙を読んでいるところでした。まあ、ここでは先生も生徒と同じ人間だとか、同じ目線の高さを強調しつつ恋の話がされたりと、まあ、いかにも石坂洋次郎らしいお話が展開されるのでした。

と、そこに男子部のケンサク君が怪我をしたという知らせが。校長先生と、ケンサク君の幼馴染チエコは慌てて病院に向かいます。しかし、怪我はたいしたことなかったので、一安心。でも、大切な話があるんだ、とチエコにこっそり言い出すケンサク君。手を捻挫しているので、オシッコができないと言うのです。シビンを当てて欲しいんだ。パンツのボタンを外して、そう、そのオシッコ口を出して……。えーと、いったい、これは何の羞恥プレイですか。ともあれ、そんなところにやってきた渡哲也。看護婦さんに、今大事な話があるそうなので、あと6分待ってください、とか言われると妄想が膨らむというものです。おい、開けるぞ、ガラガラ。なんだかチエコがヘンにはじらっていますよ。「二人でキスしたのか」、プンプン。

喫茶店で、チエコから一部始終を聞く渡哲也。なあんだ、キスじゃなくてよかった。っていうか、もっとヤバイ気もしますけどね。おっと。うちの生徒がタバコを吸ってるぞ。とりあえず、タバコを巻き上げて、渡哲也は自分で吸っちゃうのです。どうやら、石坂洋次郎流の民主主義的な先生っていうのは、こういう人のことを言うらしいですね。なんだか、間違ってるように思います。おっと、喫茶店から外を見ると、小百合ちゃんがバスを待っていますよ。早速、散歩を誘ってみる渡哲也。もちろん、小百合ちゃんが断るわけもなく、二人はお墓に出かけるのでした。

なんでまた、お墓に。それは、そこにイベントがあるからです。ほら、やってます、やってます。生徒のカナザワマサオ君とそのお母さんがお墓参りに来て、本妻(藤間紫)になじられている現場を「たまたま」発見しちゃいましたよ。「奥さん、オヤジがあんたみたいな高慢ちきな細君に不満で、料理屋の女中だったおふくろと関係を結ぶようになった気持ち、俺には分かるような気がするよ」「んまあ」。妙に説明くさい台詞、ありがとうございます。それで事情が飲み込めましたよ。「よせ、カナザワ。気を静めるんだ」と言いつつ、本妻にも説教を始めちゃう渡哲也。「それがどうしたというんですか。神聖な墓場でデートするような先生がエラそうな口をきいて。でも4人に1人では、私が負けますから今日は帰ります」と本妻はキレつつ、逃げ出しました。まったく、渡哲也も大人げないですよね。そんな本妻を慌てて追いかけ、私はあなたの気持ちに共鳴できます、と言い出す小百合ちゃん。本妻は「あなたって真っ直ぐな気持ちの方なのね。ごめんなさいね」と、思わず味方をしてくれた小百合ちゃんに感謝感激です。

とりえあえず、マサオ君親子も去り、渡哲也と二人きりになった小百合ちゃんは、トンデモないことを言い出しました。「あたし生々しいトラブルを目の前に見たら、あたしの教養なんて、吹けば飛ぶよな頼りの無いものに思えて、体の中が空っぽになったみたい。先生、あたしを力いっぱい抱いて、血の巡りを活発にさせてください」。えーと、これは日活は日活でもロマンポルノじゃないんですけどね。それにしてもなに、この展開。もちろん「ええっ」と驚く渡哲也に、「ただし、顔はくっ付けないようにして」と注文をつけるのを忘れない小百合ちゃんです。

それからしばらく経って、小百合ちゃんの下宿に本妻が訪ねてきました。気を使って、大家さんが麦茶を持ってきてくれます。しかし、小百合ちゃんは一言。「これもいただきますけど、あとおビールもお願いしますわ。大石さん、お飲みになるでしょ」。えーと、コイツ何様のつもりでしょう。あ、小百合様か。ともあれ、おビールを飲みつつ、ポツリポツリと話を始める本妻。ところが、それがまたビックリする内容です。なんか、夫は精子が少なかったとか、それで自分は人工授精で子供を二人産んだと言い出しましたよ。でもそれが女だったので、夫が外で産ませたマサオ君の方がカワイくて、つい、その愛情が逆の形で爆発したんだそうです。いや、言葉は日本語として頭に入ってはくるけど、何言ってるんだかワカラナイ。

と、そこに渡哲也が遊びにきました。ほらあげるよ、としっかり子犬を抱えています。「でも、困るわ。下宿人の身分で犬なんて飼えませんわ」と断る小百合ちゃん。えーと、下宿人の身分だなんて、よく言えますね。そんなことを言うのはこの口か、この口か、とホッペをぶにーっと引っ張ってやりたい気分です。

ま、ともあれ、本妻の希望に従い、マサオ君と本妻が仲良くなれるように、取り計らうことにした小百合ちゃん。ヘンに行動力があるので、タチが悪いったらありゃしません。そのまま、渡哲也を子分よろしく引き連れて、マサオ君の家に。「マサオ君、私、ホントのことズバリと言いますからね。大石夫人のご主人だったヤキチさんの本当の子供はあなただけなのよ」。いや、ホントにズバリだ。マサオ君だって、戸惑ってますよ。

そんな事件から、しばらく経ったある日。小百合ちゃんは校長室に呼び出されました。えーと、何かやったかしら。でも、校長先生はお茶なんか淹れてくれたりして上機嫌ですよ。その上、あなたはお嫁さんタイプとか、小百合ちゃんを持ち上げだしました。アヤシイ。これにはきっと、何か裏が。じゃじゃーん。おっと、校長先生の甥っ子、高畠次郎(杉良太郎)が登場です。オリンピックの開会式かよ、とツッコミを入れたくなる真っ赤なジャケットに身を包み、流し目バリバリです。でも、これで電動工具のマキタ電機勤務のサラリーマンというんだから、恐れ入ります。

「僕は仕事の方もそつなくこなしますし、親にもあんまり心配をかけないし、人付き合いもいいし、頭も悪くないし、女の子にも好かれるし。ま、ぼくみたいのをプレイボーイというんでしょう」と、サワヤカな笑みを浮かべ、指輪をギラリンとさせる杉良太郎。なんかグーで殴ってやりたくなるような奴ですが、当の小百合ちゃんポオッとしてます。ああ、小百合ちゃん、やめといたほうが。

ともあれ、校長先生から「次郎と一緒に私のうちに遊びにいらっしゃい」と誘いというか命令されちゃう小百合ちゃん。ついでに、渡哲也も誘われ、ボーイ代わりにマサオ君もご招待にあずかることになりました。なんか、この校長先生、ほとんど学校を私物化してますね。しかし、小百合ちゃんが校長先生の家を訪ねると、なんと次郎のお母さん・民子(三宅邦子)までいるじゃありませんか。思わず、「食事の間、時々私に注がれる民子夫人の視線が何となく気になった。今日の集まりには、民子夫人と私を引き合わせる、そういう意図も含まれていたのではないだろうか」と自問自答してみる小百合ちゃん。はい、そのとおりです。

そのまま、流れで、夜の公園を散歩することになる小百合ちゃんと杉良太郎。「恵子さん。あなたに接吻したいんだけど、いいでしょうね」と杉良太郎が迫ってきます。「何をなさるんです。失礼なっ」と小百合ちゃんが頬をひっぱたいても、杉良太郎は頬をなでつつ、「あなたは怒って、ここから一人で帰ってしまうほど子供っぽくはないでしょうね」とメゲル様子もありません。思わず、うぇーんと泣き出す小百合ちゃんでした。どうも、この演出はワカラナイ。

そこに、「ようようよう、見せ付けてくれるじゃんかよ」とガラの悪い男たちがやってきました。東映ほどヤクザではなく、東宝ほどギャングじゃない、まさに「与太者」といった言葉がちょうどいい3人組です。とっさに、日系二世の振りをして、英語でまくし立てる杉良太郎。小百合ちゃんも調子をあわせて、カレハピストルヲモッテルトイッテマースとか、インチキ通訳を開始です。ヒ、ヒェーと逃げていく与太者たち。何だかなあ。

さて、翌日。校長先生に呼び出される小百合ちゃん。「次郎がね、怪我をして入院したっていう連絡を受けてねえ」。ええっ、そうなんですか。慌てて、お見舞いに行く小百合ちゃんと渡哲也。どうやら、杉良太郎は小百合ちゃんを送ったあと、公園を歩いていたら、与太者に見つかってボッコボコにされたようなのです。幸い、親切な後藤さんという人が、警察を呼んでくれたので命に別状はなかったようですが、ホント、危ないところでした。ありがとう、後藤さん。スゴイぞ、後藤さん。で、後藤さんってダレ。と、思ったら病室に、その後藤さんこと、光子(山本陽子)がやってきました。なんだ、後藤さんって女だったの。思わず、小百合ちゃんに嫉妬心がメラメラと燃え上がります。女心ってフクザツですね。

次郎の傷も癒えて、みんなでピクニックに行くことになりました。みんなが水うち際でパチャパチャ遊んでいるところに、バリバリのウエットスーツで張り切る杉良太郎。おや、マサオ君が歌いだしましたよ。さすが、演じている永井秀和は、前年のレコード大賞で最優秀新人賞を取っただけのことはあります。おっと、今度は自転車の荷台においたポータブルレコードプレイヤーで、みんながゴーゴーダンスだ。渡哲也がノソノソと踊ってるぅ。とまあ、観ていてこっ恥ずかしくなる展開の中、小百合ちゃんの目が妖しく光ります。杉良太郎と山本陽子がゴーゴーを楽しそうに踊っているんです。ムカムカ。

「私、今劣等感にぶちのめされてるの」と渡哲也相手にクダを巻いている小百合ちゃん。グデングデンに酔って、「菅原さん。光子さんとあたしと、女としてどっちがスキ」とか口走っていますよ。まったく、人の気持ちの分からない人です。ほら、渡哲也もガツンと言ったれ、言ったれ。「要するに、キミは次郎さんと光子さんのことを妬いてるんだよ」「バカバカ、あなたとは絶交よっ」。しゅーん。

しかし、小百合ちゃんは次郎の母には気にいられていたもよう。呼び出されて、「うちの次郎と結婚していただけませんでしょうか」と言われました。えーと、「それはご両親の意思なんでしょうか。それとも次郎さんの意思なんでしょうか」と聞いてみる小百合ちゃんですが、「もちろん、それは私たちの望みでもあり、次郎の意思でもあるんですの」と、ムニャムニャした答え。だ、か、ら、?、「だったら次郎さんから直接、あたしに仰ってくださるべきではないんでしょうか」。えっ、なになに。杉良太郎は今まで、女の子とたくさん付き合って、また浮気するかもと自信がない。ほほう、って何ですとー。ま、それはともあれ、「ごもっともですわ。では次郎から直接、あなたにプロポーズさせますから。次郎。次郎」。って、そこにいるんかい。やあ、いらっしゃい、とネコを抱きつつ杉良太郎、登場。「恵子さん。ママからたっぷりと聞かされたと思いますが、僕はあなたが好きなんです」。

もうママとか言う奴のプロポーズなんか断ればいいのに、小百合ちゃんは悩みます。とりあえず、渡哲也に相談にゴー。「ところで、僕に相談って何ですか」「何だと思う。あててごらんなさい」。っていうか、どうしてそんなに高飛車なの。売り言葉に買い言葉で、たとえ失敗しようが結婚するんだと息巻く小百合ちゃん。「あたし、高畠次郎さんと結婚します。そして、たとえあの人との結婚が失敗だったとしても、人生というところはあなたが仰るようにやり直しがきく余裕があるところだって信じますわ」。なんで、そんなに気合が入るんだか。

そして映画の冒頭の結婚式のシーンに。内心で悩みまくっている小百合ちゃんをよそに、杉良太郎がやらかしてくれました。「あなたはあなたの新婦を二人がこの世に生きる限り、愛し敬うことを誓えますね」「誓うことができません」。一同、ドッヒャーです。「誓うとおっしゃい。恵子さんなら、お前に従順ないい奥さんになること請け合いなんだから」とお母さんが、後ろからヒソヒソ言いますが、みんなに聞こえまくってますよ。

なんだか、シーンとした式場に、「はいっ」と元気な声が響きます。おや、渡哲也です。「ぼくだったら、その誓いの半分。いや75パーセントは守れると思いますっ」。はぁ、何言ってんの。「たいへん突然ですが、ぼくにその誓いを立てさせてくださいっ」と言い出す渡哲也に、杉良太郎も「菅原君、よく名乗り出てくれた。この人を幸せにできるのは君の他になかったんだ」とか勝手なことを言ってますけど。その上、男二人、ガッシリ握手とかしてるし。

そんな中、校長先生がいきなり起立しましたよ。「みなさん、お静かに願います。わたくしは高畠次郎が最後の瞬間において、神のみ前に正直であったことは、褒められるべきだったと思います」「そこで、わたくしは、せっかく設けられた、この席上であらためて菅原謙一と沢村恵子の結婚式を執り行いたいと思いますが、菅原さん異存はありませんか。恵子さん、異存はありませんねっ」。つまり、自分の甥っ子が、部下である若い女性にやった仕打ちをごまかしちゃおうという腹ですね。もちろん、自分が強引に紹介したことも含めて。よーく分かります。しかし、ぼくが新婦の父だったら、とりあえず激怒して、娘を連れて帰りますけどね。

ウヤムヤのうちに結婚式は終わりパーテイに突入。「次郎は決して軽はずみな青年じゃなかったわ」と、相変わらず言い訳モードの校長先生。と、その次郎は、「高畠さんって、土壇場になってあんな勇気を奮いなされる人とは思わなかったわ」と光子に褒められイチャイチャしてますよ。やっぱり、軽はずみな青年な気もしますけど。おや、マサオ君が彼女に尻に引かれてます。おっと、向こうではケンサク君が、やっぱり彼女に尻に引かれています。そして、肝心の若い二人はというと……

海を疾走する高速船。その船上にいました。風に髪をなびかせながら、「あたしの今の気持ち。あー生まれてきて良かったって、それだけだわ」と小百合ちゃんは嬉しそう。渡哲也は答えます。「ぼくもそうだよ。ただし、初めのほうに断りがつくけどね。これからは少しうるさくなるだろうけど、あー生まれてきた良かった」。「あなたにはうるさい人が必要なのよ。あたしみたいに」とクスリと笑う小百合ちゃんです。


えーと、ぜんぜん分からん。タイトルからして意味不明だし、そもそも主人公たちに感情移入できません。石坂洋次郎の民主主義的な方向性が、ヘンな方に流れたみたいです。これじゃ、自由と放埓を履き違えているとしか言いようがありません。そもそも、青い山脈だって、戦後のある時期、と限定するから物語として成立するんであって、その世界をずっと引きずっているのは、ちょっとオカシイんじゃないかと。それに、教師と生徒の目線の高さが同じ、つまり同じ人間として振舞うというのも、先生のレベルが低いだけじゃないの、と思います。
もっとも、小百合ちゃんの授業シーンなどは、1分1秒たりとないので、果たして、これが先生を主人公にしていると言っていいものか、とも思いますけどね。

じゃあ、これはなんの映画なのか。うーん、それが良く分かりません。ありていに言ってしまえば、粗製濫造された方の「小百合映画」の一本、ってことなんでしょうが。当時のファンには、これがウケたんでしょうか。

ちなみに、杉良太郎は昔から、杉良太郎なんだなあ、とヘンなところでいたく感心しました。







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【映画】海は見ていた

2008-11-10 | 邦画 あ行
【「海は見ていた」熊井啓 2002】を観ました



おはなし
深川の岡場所で働くお新。ちょっといいなと思った若侍には裏切られたものの、新しく好きな人ができて……。

山本周五郎の原作を黒澤明が脚本化。その遺稿を、社会派監督の熊井啓が撮った。とりあえず、これだけ聞くと、スゴそうな作品です。実際、初めて観たときには、あまりな展開にのけぞりました。えっ、こうなるの。こ、これはスゴイ。

江戸・深川。葦ばかり生い茂っている、この海沿いの集落を、カメラは空から捉えています。まあ、それがとてつもなくCG以外の何ものでもないにしろ、これは深川の岡場所なのです。さらにカメラは下がっていき、道行く客の袖をひく女郎たちが見えてきました。吉原のような、幕府に認められた遊郭とは違い、どことなく庶民的な雰囲気のただよう歓楽街です。

昼の喧騒とはうって変わって、夜の岡場所には人影もまばら。ここ、葦の屋では女郎たちが手持ち無沙汰そうにしています。菊乃(清水美砂)が読む本に、じっと耳を傾けているおその(河合美智子)にお吉(つみきみほ)。どうにか、客が取れないものかと、店の外に立っているのはお新(遠野凪子)です。そこに女将のおみね(野川由美子)が出てきました。「お新ちゃん、そろそろ閉めようか。今夜、もうダメだよ」。

と、そこにやってきたのは、まだ若い侍(吉岡秀隆)。「上がれないか。泊まりたいんだ」と、どうにも焦った様子です。「初めてなんだ」という言葉がなるほどと頷けるほど、オドオドした様子の若侍は、お新に言うのです。「実は今、喧嘩をして追われてるんだ。誰か探しに来るかもしれないが、その時は……」。

「はい」と答えたお新。こんなことは、初めてではないんでしょう。菊乃とテキパキと示し合わせ、若侍を指物師の馴染み客ということにしてしまうのです。部屋に招きいれ、刀を隠し、元結を切って、髷を町人風に。カチンコチンの若侍の横に、裸になって滑り込めば、準備完了というものです。

さあ、案の定、地回りの梅吉に連れられて、追っ手がやってきました。うまいことトボけて、さらに当て付けてみれば、ほーら。追っ手は帰ってしまいましたよ。まあ、確かに人の濡れ場なんて、バカらしくて見てられませんものね。

翌朝、お新に折り目正しく挨拶をして帰っていく若侍。お侍から、いいえ他人から、そんなにキチンと挨拶なんかされたことないのでしょう。思わずドギマギしてしまうお新です。そんなお新に菊乃が声をかけてきました。「で、あれからどうしたの」「あの人、着物をキチンと着て、両手をついて"ありがとう"、そう言うとそのままジッと座ってるの。仕方がないから、私もお辞儀をして座ってたの」「朝まで?」「ええ」。

おやまあ、と去っていく菊乃。お新は幸せそうに外を眺めます。ポワーン。と、菊乃が戻ってきました。「あのお侍、ウブでいい子らしいけど、惚れちゃダメよ。惚れる相手じゃなくってよ」「分かってるわよ、そんなこと。だいいち、もう来る人じゃないわ」。また、外を眺めるお新。でも、今度は悲しそうな表情です。ドヨーン。

女将さんと、常連のご隠居さん(石橋蓮司)が話し込んでいます。話題は、今、菊乃の部屋に上がっている男のこと。「ところで、馴染みの客って、例のやくざっぽい男かい」「ええ、あんな男とは、早く切れたほうがいいって言ってるんですけど、なかなかねえ」。と、言ってるそばから、その男、銀次(奥田瑛二)が階段をトントンと降りてきました。苦みばしった顔に、隙のない目つき。やはり、どうみてもタダモノではなさそうです。「じゃあ、考えといてくれ」と菊乃に行って去っていく銀次。どうせ、ロクなことじゃないんでしょう。案の定、「考えといてくれって、何の話」と女将が聞くと、菊乃は「住み替えの話よ。あたし、もうイヤだってきっぱり撥ね付けたの」と答えるのでした。

さて、ある日のこと。ひと目を避けるように笠を目深にかぶった侍が、葦の屋を訪ねてきました。誰かと思えば、あの時の若侍です。思わぬできごとに、ビックリするやら、嬉しいやらで、呆然とするお新。その若侍は井原房之助といい、刃傷沙汰の結果、親から勘当されて、叔父の家に厄介になっているそうです。「これから時々、来るよ」という房之助に、二度と来ちゃダメです、と言い出すお新。勘当中の身分で、こんな悪所に出入りしていたらタイヘン。というのは建前で、その実、そんな房之助に惚れてしまいそうな自分が怖いのでした。なにしろ、自分は女郎。相手は勘当中とはいえ歴としたお侍さん。身分が違います。たとえ、金で買ってもらえたとしても、それだけのこと。その恋が、祝言といった形に実を結ぶことはないんですから。

その後、何度となく房之助が訪ねてきても、病気だ、泊りの客がいる、と言いたて、決して会おうとしなかったお新。とは言え、そんな我慢が長く続くわけもなく、とうとう去っていく房之助を追ってしまったのです。橋の上で見つめ合う二人。もう、どうにでもなれ、といったところでしょうか。

予想通り、房之助はとても良い人でした。私は汚れていますと言うお新に、「お前は汚れているものか」と断言する房之助。考えてもご覧、人の体は髪だって歯だって抜け替わるじゃないか。人の体は日々変わるんだ。だから、消せない汚れなんかない。「でなくちゃ、ひどすぎるじゃないか」。感涙に咽ぶお新。しかし、それ以上に感激したのは、その話を立ち聞きしていた仲間の女郎たちだったのです。自分たちのいる場所を悪所といい、その境遇を苦界と呼ばれる彼女たちの立場。仮に、どんなに着飾ることができても、おいしいお酒が飲めたとしても、彼女たちを貫くのは、宿命であったり運命と呼んだりする、逃れようのない鎖です。しかし、房之助の言葉は、そんな彼女たちに勇気を与えたのでした。

そんなお化粧、もうやめちゃいなさい、と言い出すお吉。実は私たち、あのお侍の話を聞いちゃったの。これからは、私たちが代わりにお客を取る。だから、あなたはキレイな体で、あのお侍さんに会うのよ。おそのも言い出します。あたしたちの中から、お侍のお嫁さんが出るなんてステキだわ。「姉さん、この気持ち、よく分かるでしょ。元はお侍の奥方だったんだから」、そうおそのに言われ、渋々うなづく菊乃。ということで、お新は、仲間のおかげで客を取らなくて済むようになったのです。

もう客を取っていないと言うと、房之助も「こんなにうれしいことはない」と喜んでくれました。どうやら、房之助自身も、近々勘当が許されそうということで、そうなったら、いよいよ……。思わず自分の両肩を抱いて、震えを懸命に抑えるお新。かつて、幸せというものを感じたことのないお新は、幸福の予感に体が震えだすのだということに、初めて気づいたのです。

大川端の桜が咲き、そして青葉が目にまぶしいくらいに萌え盛るころ、紋付をパリっと着た房之助が喜び勇んでやってきました。「実はやっと勘当を許されてね」。「まあ」とわが事のように喜ぶみんな。じゃあ、お祝いに、みんなでお酒を飲みましょうよ。「いや、そうもしてられないんだ。この機会に婚礼もしてしまおうということになってね」。ふーん。で、「どなたのご婚礼」と聞いてみる菊乃。「もちろん私のさ。相手は次席家老の娘でね。二年前から許婚で……」。あれ、あれれ。みんなは完全に固まっています。「どしたんだ、みんな」と房之助。プチーン。お吉が完全にキレました。「あたし言うわ。言ってやるわ」、やめてよ、モガモガ。そのまま仲間に引きずられていくお吉。女将がそっとそばによって、カクカクシカジカと房之助に説明をします。「まさか、みんな、私がお新と一緒になると……」と絶句する房之助。完全に凝固しているお新、そして切れ切れに聞こえてくるお吉の「殺してやるー」という叫びを背中に、房之助はほうほうの体で、陽のあたる世界に帰っていくのでした。

青い空にポッカリと浮かぶ入道雲。ジリジリと照りつける太陽。夏がやってきました。房之助の一件以来、葦の屋にはロクなことがなかったようです。女将さんは体を壊し、湯治に行ってしまい、お新もまた寝付いていたのです。でも、ようやく体調の戻ったお新は、今日から見世に出る(客を取る)ことができそうです。そんなお新の復帰後、初めての客は、良介(永瀬正敏)という暗い目をした職人崩れでした。鶏の朝を告げる声に、目を覚ましたお新。ふと隣を見ると良介が部屋の隅でうずくまっているじゃありませんか。見れば、泣いているようです。自分が不幸なのに、不幸な人間を見るとたまらなく同情してしまうお新は、良介のことが気になって気になって仕方ありません。

相変わらず房之助のことを怒っているお吉。その怒りの矛先は菊乃に向かいます。姉さんは武家の出なんでしょ。だったら房之助が何を考えていたかくらい分かったはずだわ。まあ、八つ当たりですね。もちろん、負けずに言い返す菊乃。き、気まずい。と、良介がまたやってきました。ホッとして、出迎えるお新。さあ、荷物を預かって……。おや、これは。良介は匕首(あいくち)をもっていました。こんなもの、危ないわよ。それに見回りが来て、見つかったらタイヘンなことになるわ。それにしても、この良介の暗い目は何を見ているんだろう。「ねえ、あんたのこと知りたいわ。あんたって、どんな人」。

「俺か、俺なんか虫けらみたいなもんよ」と言い出す良介。問わず語りに、身の上を話し始めました。五つの時に、母親と死に別れたこと。それからは乞食になって、大きな犬と冬の寒さを暖めあい、食べ物を分け合って暮らしたこと。「やめて、もうやめて」、人のいいお新は、もう涙をポロポロ流して同情しています。「でもな、俺の不運はそれからだぜ」。番小屋の爺さんに拾われ、商家で奉公することになったものの、十八になってその商家を出たら、それまでの給金はすべて爺さんに騙し取られていたこと。今度は料理屋に拾われ、包丁を握れるようになるまではタダ働きという条件で働き始めたこと。しかし、五年の奉公で腕もあがり、包丁を持たせてくれといったが最後、
「翌朝、俺の荷物が店の表に放り出してあった。俺は阿呆だ。間抜けなのさ。間抜けだからいつも、貧乏くじ、引くのさ。畜生、何か無茶なことしてやりてぇ。そういう気持ちになって匕首買ったんだ」。

もう、こうなるとお新は止まりません。心の奥から噴き出してくる同情が、恋に変わってしまいます。「当分のお金なら、私がなんとかするわ。死んだお父っあんや兄さんにする代わりに、あんたにするわ」と言い出しました。「考えてみると言って。お願いよ、一生のお願いよ」。

早速、女将さんの代わりにお金を預かっている、菊乃姉さんに相談するお新。しかし菊乃は「止した方がいい。とんだ目に遭うよ。そういうのが大抵、終いにはヒモになるのよ」と一蹴です。なにしろ、実体験から出ている言葉ですからね。でもお新だって負けてはいません。「あの人に大事なのは今なのよ。この一時なのよ、姉さん。たった今、その横丁を曲がるか曲がらないかで、あの人が死ぬか生きるかが決まるの。そして私はただ、その横丁を曲がらせたくないだけなの。それだけなのよ、姉さん」。

かねてから菊乃を落籍そう(身請けしよう)としているご隠居と、まったり飲んでいる菊乃。お新の態度に、何か感じるものがあったのでしょう。私もここらへんで、あの男と手を切って、ご隠居さんと暮らすのもいいかもと思い始めています。しかし、それを見抜いたかのように銀次がやってきました。やっぱり、菊乃を鞍替えさせようという魂胆を諦めていないようです。「今度はどこ行けっていうの」「八王子だ」。これには菊乃の我慢の緒もキレました。「冗談じゃない、イヤですよ。まさか、もう話はできているんじゃないでしょうね」。金をジャラリと見せて、嫌な笑いを浮かべる銀次。「あたしはね、もうあんたなんかの言いなりにはならないよ」と啖呵を切る菊乃。と、今度は銀次がキレました。「なにぃ。おめえ、まさかあのジジイと」と言うが早いか、菊乃を殴り飛ばし、押し倒すのです。

ドタンバタン。キャーッ。そんな音が聞こえて、ゲッソリとした表情のみんな。なんだか、たまらないな。血の気の多い良介なんかは、今にも匕首を抜きそうな不穏な顔です。とは言え、音もやがて静まり、ボロキレのように横たわる菊乃を残して、銀次は去っていきました。と、その時です。ゴロゴロ、ドッシーン、雷が鳴り始め、波がザッパーンです。どうやら台風が近づいてきたようです。「これじゃ、とても帰ぇれねえな」と言う良介を残し、他の客たちは、あわてて葦の屋を出て行きました。

ヒュー、ガタガタ。雨混じりの突風がものすごい勢いで吹き付けます。どうやら、向かいの店は逃げ支度を始めたようで、アチコチで避難する人たちのザワメキも聞こえてきます。「おーい。廓橋も八幡橋も流されたぞぉ」「大水だぞぉ。上流から水がどーっと来てるんだ。今は大潮だ、海も危ねぇー」。偵察にでていたお吉は、引きつった顔で戻ってくると、黙って身支度を始めました。慌てて、おそのも逃げ支度を整え、出て行きました。後に残ったのは、女将さんに店を頼まれたと、頑張っている菊乃と、お新、良介だけです。

メキメキ。各所で屋根が剥がれ始めました。バリバリ。黒塀が吹き飛んでいきます。さすがに、この状況に「逃げたほうがいい」と言い出す良介。しかし「あんた、お新ちゃんを連れて逃げてくださいな」とあくまで菊乃は意地を張っています。「姉さんも逃げるんだ。充分、やったよ。さあ支度しよう」。えーと、そうお。逃げてもいいかしら。じゃあ、早速。慌てて、身の回りの物やら、金やらを集め始めるお新と菊乃。しかし、なんてことでしょう。このディザスター真っ盛りに銀次が戻ってきたのです。もちろん、菊乃を心配してではなく、女将さんの銭函目当てに。まさに火事場泥棒ならぬ水場泥棒です。返して、と絶叫する菊乃。返ぇしてやれ、と凄む良介。しかし、とことんワルな銀次にとって、そんな言葉は、蛙の面になんとやら。それどころか、良介を階段から叩き落すのでした。ヨロヨロ。再び階段を登ってくる良介。匕首を片手に侮蔑の笑みを浮かべている銀次の横を通り、そのままお新の部屋に。それ見ろ逃げやがった、と得意顔の銀次ですが、再び出てきた良介を見てビックリです。なんと匕首を構えているじゃありませんか。

完全にイッテしまっている良介の迫力にジリジリと後ずさりをする銀次。ヘンな奇声を発してみても、良介は一歩、また一歩と近づいてくるのです。そのまま、外に出る二人。土砂降りの雨の中、死闘が始まったようです。少しして、葦原の中からヨロリと姿を現したのは良介でした。「もう済んだよ。あいつは片付けた。ああいう奴は勘弁ならねえ」。お新が喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からないでいる間に、良介は奉行所へ行くと言い出しました。罪は罪として償わなければ。

「あんたっ。お逃げなさい」と菊乃が言い出します。「上方へでも行って、ほとぼりを冷まして帰ってくるのよ。あたし、それまでお新ちゃんを預かってるわ。さあ、早く」。お新も「あたし待ってるわ」と声をそろえます。えーと、そうですか。じゃあお言葉に甘えて、「じゃあ姉さん、頼んだぜ」と走り出す良介。

先ほどまでの突風・豪雨が嘘のように、気持ちのいい夕焼け空が広がっています。岡場所全体が水につかり、半壊の家、全壊の家であふれています。「とうとう逃げ損なっちゃったね。ごめんよ、お新ちゃん」と頭を下げる菊乃。「何を言うのよ、姉さん。あたし、姉さんと一緒なら平気。でも何だか気味が悪いわね。急に静かになって」。どうも、お新はこの状況をいまいち理解できていない様子です。それならば、これでどうだ。「川の暴れ水は収まったけど、今度は海の水がゆっくり上がってきてるのよ」、ズゴゴゴゴ。

切羽詰った様子で、「お新ちゃん、一番いい着物はどれ。私はこれを着るから、お新ちゃんも」と言い出す菊乃。ええっ、姉さん、どういうこと。思わず、口をへの字にして「あたしたち死ぬのね」とつぶやくお新。うぇーん。

なんだか水位がグイグイと上昇し、とうとう屋根の上に逃げた二人。見上げれば、空は降るような星空です。思わずデカイ声で「荒海やぁ、佐渡によこたふあまのがわぁ」と叫んでみる菊乃。「姉さん、武家の出だから、何でも知ってるのね」とお新は尊敬のマナザシです。

「ハハハ。あれは嘘。武家育ちなんて、真っ赤な嘘よ。ここまで身を落とすと、生きていくのはタイヘン。毎日、毎日、とてもツライ。その気持ちにツッカエ棒かわないと、生きていけないのよ。武家育ちなんで、そのツッカエ棒よ。ああ、これでサッパリした。嘘をついたまま死ぬのはイヤだからね」。「死ぬって、姉さん」と愕然とするお新。そういえば、あたしたちピンチだったわ。荒海やぁとか、やってる場合じゃなかったわ。ボコボコ、なんだか下の方で崩れる音がしてくるし。いやぁーーーー。

「おーい」「おーい」。誰かが舟を漕いできます。「おーい、そこの屋根のお人ぉ。葦の屋の人のこと知らねえかぁー」あっ、良介です。良介が戻ってきました。「姉さん、良さんよ。良さーんっ
「おしーーーん」。これには、男性不信な菊乃も感心します。「お新ちゃん、お前さん、今度こそ本当に立派な男を釣り上げたね」。

「早く乗ってくれ。この舟、沈みそうなんだ」。確かに、お新に続いて菊乃が乗ろうとすると、舟は危険なほど沈んでいます。「さあ、姉さん乗ってくれ」「ダメだよ。この舟、三人乗ったら沈んじゃうよ」。えーと、とりあえず立派な男と言ったのは取消しね。もう、この役立たず。と、そんな顔はおくびにも出さず、お姉さんぶってみる菊乃。戻ってくるという良介に言います。「それよりあんた、よくお聞き。お前さん、もう大丈夫だよ。何にも心配することはない。何もかも、海が飲み込んで隠してくれた。何だかお前さんたちのこと、海が見ていて、助けてくれたみたい。さあ、ッ早くお行き。そして二人でしっかりやるんだよ。そうだ、二人にこれをあげる。長いことかかって貯めたんだ。ズッシリあるよぉ」。腰巻から、虎の子の貯金を出して渡す菊乃。でも、女将さんの銭函はしっかり、足元に置いておくかたりが、とても律儀です。

「姉さーん」「姉さーーーーん」。お新の声がだんだん遠ざかっていきます。「こんばんは」とかかれた提灯を振って、それに答えている菊乃。二人は行ってしまいました。「これでホントの一人ぼっちでござんす。いっそ、いい気持ちだぁ」。菊乃はうーんと伸びをするのです。


前半は「いかにも山本周五郎」みたいに始まり、最後はハリウッドばりの「ディザスター映画」に早変わり。なんだか、スゴイ映画です。昔、クリスチャン・スレイターとモーガン・フリーマンが、洪水の起こった町で大金を巡ってあらそう「フラッド」って映画がありましたけど、それを髣髴とさせます。

ところで、黒澤明は、この脚本を映画化しようとして暖めていたものの、製作コストが合わなくて寝かしていたそうです。いやあ、実現しなくて、本当に良かったですね。もしクロサワだと、絶対に巨大オープンセット作っちゃいますよ。それも寸分違わぬものを2個。1個はもちろん海沿いですね。で、役者に衣装着せて、ひたすら台風待ちですよ。もう、とことん待っちゃいますから。もう1個は山間部に。その上の川をせき止めて、きっと人造湖を作りますね。で、一気にそれを決壊させて、撮影すると。多分、スタッフの2~3人は奥田瑛二のように海まで運ばれるんじゃないでしょうか。もう間違いなしです。

冗談はさておき、役者ははまっていました。清水美砂の姉さんっぷりをはじめ、気の強いお吉のつみきみほ、頭は軽いけど人のいいおその役の河合美智子、まだ硬さの残るものの、そこがかえっていい味を出している遠野凪子。もちろん、誰も江戸時代の深川にある岡場所なんて見たことないわけですが、いかにも「いそう」「ありそう」な雰囲気です。

奥田瑛二のヘビのような目付き。永瀬正敏のキレたら何をするか分からないたたずまいも見事。しかし、それより「いい人」オーラを発散しながら、やっていることはエゲツない吉岡秀隆が最高です。無頓着なまでの善意で、人を持ち上げて叩き落す。これができるのは、本当に「いい人役」が板についてる吉岡秀隆をおいて、他には無理でしょう。中途半端な善人ぶりだと、かえって白々しくなりますから。

ともあれ、基本はとてもシッカリした映画です。木村威夫の美術も見事ですし、岡場所という名の牢獄に閉じ込められた女性の、心の動きや葛藤もうまく表現されていました。その上、パニック大作なんですから、これは色んな意味で、面白いです。







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【映画】若親分千両肌

2008-11-07 | 邦画 や~わ行
【「若親分千両肌」池広一夫 1967】を観ました



おはなし
人ちがいで撃たれてしまった若親分(市川雷蔵)は、奇術師の辰丸に助けられ……。

市川雷蔵の若親分シリーズ最終作です。わざわざ「市川雷蔵の」とつけたのは、松方弘樹でも若親分が一本撮られているから。まあ、そんな黒歴史はさておき、終わるとなると寂しいのが、市川雷蔵のシリーズ作品の常。なんだか、映画から死の影が漂ってくるような気がするんですよね。


霧の中を若親分こと南條武(市川雷蔵)が歩いてきます。おや、ウンウンうめいている人を発見しましたよ。急な腹痛だそうでかわいそうですね。おお、ちょうど人力車が来たので、乗せて貰えるように頼んでみましょう。もし、もし。バーン。うわっ、若親分イキナリ人力車の中から狙撃されました。しかし、撃った悪者・ドラゴンの鉄(伊達三郎)は、「人違いだ、こいつは栄吉じゃねえ」とか言ってますけど。「どうする兄貴」、うーん撃ち殺しちゃおう。撃ち殺されたらタマラナイので、若親分は必死の反撃。悪者たちは、ヒーッと逃げていくのです。

ここ宇島では、昇天斎辰丸(長門勇)の一座が奇術の公演を行っています。振袖娘(坂本スミ子)がアラブ美女(やっぱり坂本スミ子)に変身とか、しょーもない奇術ですが。まあ、それはおいといて、お手伝いをしているのは若親分。撃たれて転がっているところを、辰丸に助けてもらったので、そのご恩返しに、この奇術一座で働いているのです。と、このままだと「奇術師若親分」みたいな、別の映画になっちゃいそうなので、ヤクザでも来ないでしょうか。おっと、来ました、来ました。ショバ代を上げろと、青柳組のヤクザがやってきましたよ。よっしゃ、若親分の活躍だ。と、思ったら辰丸が追い返しちゃいましたよ。その上、事務所に掛け合いにまで行ってしまう豪傑っぷり。もちろん、腕の方も、態度に恥じない強さで、ヤクザたちを一蹴です。

と、そこに「おやかたー」と若親分が走ってきました。「こんなとこでフザケてる場合じゃありませんよ。出番ですよ」。おっ、そうか。じゃあ、あと頼む。へいっ。

と、代わりに若親分が代貸しの黒崎(北城寿太郎)と対決です。「てめえじゃ話が分からねえ。オヤジさんに会わしてもらおうか」。なにぃこの野郎、と怒る黒崎。しかし、そこに君江(藤村志保)が「父がお目にかかると申しております」とやってきました。奥に入ってみると、青柳のオヤブン(東野英治郎)が病床についているようです。「南條の。立派になんなすったなあ。あんたの声はオヤジさんにそっくりだ」と言い出す青柳オヤブン。そう、ここ宇島でも、南條の二代目の勇名は轟いているみたいですね。さすが若親分です。

ともあれ、色々話を聞いてみると、海軍の仕事を請け負っている青柳組は、オヤブンが病気のため、代貸しの黒崎が仕切っている状態。オヤブンの実の息子で、捨て子だった君江の許婚な栄吉は、カフェの女給に入れ込んだあげく、刑務所に入っているそうなのです。えっ、栄吉ですって。若親分を襲った男たちも、その名前を口にしていましたね。これは、なんかありそうです。

ブー。ダンプが二台ほどヤクザ満載で、青柳組の工事現場に乗り込んできました。ダイナマイトを投げつけたり、なんだか東映風のカチコミです。そんな中、ライフル片手に、果敢に応戦する代貸しの黒崎。おや、こいつはいい人なんでしょうか。いいえ、そんなことはありません。シーンが変わると、料亭の一室。ライバルの赤松組のオヤブン(織本順吉)、それに若親分を襲ったドラゴンの鉄と一緒に黒崎が飲んでいました。どうやら、あの襲撃はヤラセだったようです。これも、全て黒崎が青柳組を乗っ取り、赤松組の傘下に入るための布石のようです。あとは、ムショを出所した栄吉をバラしてしまえば、悪者たちの計画は完璧です。

はい、その栄吉(山口崇)はムショを出所したその足で、カフェに愛人の葉子(久保菜穂子)を訪ねていました。しかし「葉子、大阪に行って結婚しよう」と哀願する栄吉に、「所帯持つにしたって、先立つものはお金よ」と葉子はツレナイ返事。どう見たって、これは片思いな雰囲気ですよ。

しかし、そんな栄吉を一途に想っているのは君江。たとえ、栄吉が女給に入れあげていても、いつまでも待つつもりです。と、そんなことを聞いては黙っていられないのが若親分。自分を撃った相手も、栄吉という名前を口にしていたし、どうしても気になります。

ということで、若親分は、家に帰るように栄吉を説得するため、カフェに向かいました。ところが、栄吉とはすれ違い。その上、葉子に言い寄られて、いい雰囲気なのを見られて、その葉子に惚れている上等水兵と乱闘になっちゃいましたよ。まったく若親分のいるところに揉め事のタネは尽きませんね。ピーッ。ピーッ。海軍の警備隊が駆けつけ、そのまま、全員逮捕です。

幸いなことに、警備隊には同期の水上少佐(藤巻潤)がいたので、お咎めなしの若親分。ついでに、マジメな顔をして、「何となく世界情勢が騒がしいようだが、これからの日本はいったいどうなるんだろう」とか、ロンドン軍縮条約がどうのとか、熱く語っちゃいます。よくぞ聞いてくれました、と水上少佐はうれしそう。「南條、貴様に見せたいものがある」。ジャジャーン。おおっ、ピカピカに光っている魚雷があります。「酸素魚雷」と自慢げな水上少佐。49ノットで2万メートル走るんだ。ぷっしゅー。ドカーン。ほらね。感心した若親分が「今、青柳組が建設してるのは、あの魚雷を作る工場か」と尋ねると「うん」と水上少佐は素直に答えるのです。もう、この段階で、どれだけの軍機を漏洩していることやら、分かったもんじゃありません。ほら、江藤技術少尉(木村玄)も、こちらを苦々しげに見ていますよ。あれ、それにしては、目付きが悪すぎるような気もしますね。えーと、江藤少尉はきっとワルイヤツです。そうに違いない。

さて、若親分と行き違いになった栄吉は、早速、君江を呼び出して金の無心。自分のフィアンセに、別の女との生活資金を出させるというのも、そうとうな厚顔無恥ですね。「葉子さんって人、おにいさんのためには、良くない人じゃないかしら」と君江が諫めても、「葉子の悪口は言うなっ」「俺の孤独を救ってくれるのは、葉子だけなんだ」とか逆ギレしてる始末ですし。君江がかわいそうです。ほら、悲しげな顔してるし。

それはともかく、金を貰った栄吉が、青柳組の工事現場付近を歩いていると、工事現場から代貸しの黒崎ほか数名が飛び出してくるのを目撃しました。と、その直後、海軍秘密工場(建築中)は大爆発。目撃された黒崎たちは、栄吉を襲ってきましたよ。ひーっ、慌てて逃げ出す栄吉です。ちょっと情けない。

と、そんなこんなは全て、赤松オヤブンと黒崎、そして謎の「先生」の仕組んだ悪事。そして、さらに「次の手はず」が用意されているようです。その手はずとは、青柳オヤブンと若親分がスパイで、破壊工作をしたという投書を憲兵隊に送りつけることでした。青柳オヤブンが連行され、奇術一座にいた若親分も憲兵に捕まりました。ブブー。若親分を乗せた車が走ります。と、そこに海軍警備隊が完全軍装で立ちはだかりました。南條武を渡してもらおう。この男の身柄は海軍が預かった。やった、良かったね、若親分。やっぱり持つべきものは、兵学校の同級生です。

しかし、どうも雰囲気が違いますよ。空き地で、5人の同期生に囲まれ、つるし上げを食らう若親分。なんと酸素魚雷の設計図が盗まれ、責任者の水上少佐は謹慎。そして、それを盗んだのは若親分だというのです。「目撃者もいる」「それは誰だ」「技術士官の江藤少尉だ」。ガガーン。ショックを受ける若親分。「貴様たちは俺をスパイだと疑っているのか」と同期生たちに聞くと、「断定はせん。しかし否定する証拠がなければ、いかに海兵同期とはいえ、我々としては疑わざるをえない」と冷たいお返事です。うわーん。「貴様たちは俺が軍籍を離れたから、ヤクザ稼業だから信用できんと言うのだな。世間の人と同じように一着の軍服と短剣で左右されるほど、貴様たちの友情は薄かったのか。俺が海軍を去るとき、どんなことがあっても、生涯同期生として付き合おうと言ってくれたのは貴様たちじゃなかったのか」。ほとんど泣きそうな若親分は、「俺に一週間の猶予をくれ。かならず犯人を探し出して、身の潔白を証明してみせる、そして、ふたたび諸君らと、あいまみえたい。南條武を信じてくれっ」と、懸命に頼むのでした。

まずは謹慎中の水上少佐にリサーチです。で、江藤少尉ってどんなヤツ?。ふーむ、神道無想流の道場に出入りしていて、大杉という男に心服しているんそうです。次は、証拠不十分で釈放された青柳親分にもリサーチ、リサーチ。ふーむ、この事件の裏には赤松組がいるかもしれないですと。そして、その後援者は大杉ですか。よし、分かった。その大杉が怪しいぞ。

と、ここで密かに調べりゃいいものを、神道無想流の道場に乗り込んじゃうのが、若親分スタイル。どりゃあ。思いっきり道場荒らしをしてます。むむっ、デキル。大杉はそんな若親分の強さを気に入ったようです。どうだ、ワシの片腕にならんか、とスカウトしてきましたよ。「しょせんヤクザは人生の裏道だ。人間のクズだ。そんな境涯を捨てて、どうだ。この大杉の仕事を手伝わんか」。人間のクズと言われて、ムカッとした若親分。どりゃっ。いきなり諸肌脱ぎになって、刺青を見せつけ言います。「無職(ぶしょく)だろうが、ヤクザだろうが、人間のクズだろうが、この体に流れてんのは親からもらった日本人の血だぜ」「何をっ」「お前さんと俺と、どっちが本当の日本人かいずれ分かる時がくるだろう」。スタスタと去る若親分。さぞ気分が良かったでしょうが、これで思いっきり敵も警戒態勢を高めちゃうんじゃないでしょうか。一週間しか猶予がないのに、ダメですよ、若親分。

ほら、敵がスゴイ勢いで栄吉を追っていますよ。バーン。ウッ。倒れこむ栄吉。そこに若親分登場。ちっ、逃げろっ。スタコラと敵は逃げ出します。「もしや、おめえさん、栄吉さんじゃ」と栄吉を助け起こす若親分。そういえば、二人は初対面でした。

若親分は栄吉に、爆破事件の時、黒崎がいたことを聞聞きました。よし、これで分かった。黒崎、赤松、大杉とつながるラインこそが、悪の巣窟だったのです。じゃあ、これを海軍の警備隊に証言してくれないか。しかし栄吉は冷静。「あの工場は青柳組なんだから、黒崎がいても不思議じゃない。ぼくの証言はムダでしょう」。えーと、若親分はそんな簡単なことにも気づいていなかったようです。と、そこに君江が駆け込んできましたよ。「お父さんが、お父さんがピストルで頭を撃って」。どうやら、工場爆発で海軍に迷惑をかけたこと、そしてスパイの汚名を雪ぐために、覚悟の自決をしたようです。家に帰ってください、と懇願する君江に、帰ると跡継ぎにされちゃうので「絶対にイヤだ」と断言する栄吉。若親分から「バカっ」と引っぱたかれて、「ほっといてくれぇ」とダッシュで走っていっちゃいました。あーあ。

定期船乗り場。栄吉は女給の葉子と故郷を捨て、何もかも捨てて旅立つのです。あばよ、俺のふるさと。あばよ、君江。と、思ったもつかの間、栄吉は待ち構えていた赤松組に捕まっちゃいました。なんと、葉子は黒崎の情婦だったのです。「次の仕事、忘れるんじゃねえぞ」と葉子に釘を刺す黒崎。葉子はさすがに、気がとがめるようですが、まあ毒を喰らわば皿までな気分です。

早速、青柳組にやってきた葉子。嘘泣きをしつつ、栄吉は、赤松組が工事している海軍倉庫に捕らわれていると君江に伝えます。な、なんですって。よっしゃ、栄吉さんを助けに殴りこみましょうと張り切る黒崎。子分たちは、すっかりイケイケモードです。と、そこに若親分がやってきて、こいつが獅子身中の虫だ、と黒崎をピッと指差します。ギ、ギクッ。な、なにを言ってやがるんでぃ。ち、ちっくしょー。覚えていろよ。ぴゅーっ。逃げちゃいました。

もし、黒崎の言葉に踊らされ青柳組が海軍倉庫に殴りこんでいたら、どうなっていたでしょう。待ち構えてた赤松組に一網打尽にされるまでもなく、警備をしている海軍に撃ち殺されるところでした。いやあ、危なかった。しかし、栄吉は救い出さなければいけません。数が多くては目立ちますから、ここは少人数で。

ということで、義理人情でお付き合いを申し出た辰丸に海軍上等水兵のカッコをさせ、水上少佐の軍服を借りた若親分が、サイドカーで海軍倉庫に乗り込みました。もちろん警備の兵は、若親分の軍服を見ただけで、誰何もせずに素通りさせちゃうのは言うまでもありません。

どりゃあ。バスッ、バキッ、ボコッ。はい、赤松と黒崎を捕まえ、栄吉を救い出しました。やけに簡単ですね。と、思ったらスタコラ逃げ出す赤松と黒崎。なんか、逃げ足だけは速いんだから。

大杉と江藤少尉が、これ見よがしに酸素魚雷の設計図を眺めています。そこに、黒崎と赤松が逃げ込んできました。先生のために死ねっ。ドリャっ。師範代に斬られる赤松。ちっくしょー。バンバン。黒崎が師範代を撃ち殺します。その黒崎は江藤少尉に撃ち殺されました。バンバン。しかし、これはかなり尻に火が付いた感じです。逃げましょう。スタコラ逃げ出す大杉と江藤少尉。っていうか、この映画、みんなやたらと逃げまくっている印象があるんですけど。ま、それはともかく、逃げる二人を若親分が追います。ここでのポイントは、若親分が軍服から裾はしょりの渡世人ルックに着替えていること。いったい、いつの間に。

立ちはだかる門弟たちを、辰丸が爆弾投げつつ牽制してくれたので、心置きなく悪者を追いかけることができた若親分。待てーっ。くるっ。江藤少尉が振り向いて、ピストルを構えましたよ。危ない、若親分。バーンバーン。ササッ。おお、全てかわしました。軍刀を抜き放った江藤少尉を、若親分は三太刀で斬り斃します。よっしゃ。えーと次。待てーっ。くるっ。今度は大杉が振り向いて、ピストルを構えましたよ。危ない、若親分。パシュッ。おお、辰丸の投げた短剣が、大杉のピストルを跳ね飛ばしました。さすが奇術師。すかさず、若親分もドスを投げます。ひょい、グサッ。うががが。大杉も斃れました。えーと、これで勝ち?。酸素魚雷の設計図を取り戻し、意気揚々な若親分です。

今は立派な青柳組のオヤブンとなった栄吉と、横に寄り添う君江。若親分はどこにいったんだろう、と噂をしています。

「タケちゃん、もう戻ってきーへんつもりかなぁ」と嘆いているアラブ美女(な坂本スミ子)の横で、「タケさん、もう一度会いたいぞっ」と虚空を睨んでいる辰丸。

「もう一度、ここで会って、俺は詫びを言いたかったよ」と、車座になってショボーンとしている海軍士官の皆さん。

そんな、みんなの思いを背に、若親分はひとり船に乗っています。ぽーっ、汽笛が響いたりしてね。「みんな勘弁してくれ。軍服を脱ぎ捨てた南條武はひとさまの埃をかぶって、流されていくのがサダメなんだ」。ぽーっ。船はいずこともなく航海を続けます。

おや、藤巻潤の熱唱する主題歌が聞こえてきましたよ。♪南條武とどこへいくーぅ♪、そこに女声コーラスがかぶります。♪たーけーしーーぃ。たけしーーーぃ。なんじょうたぁけーしぃーー。わわわ、わー♪。


なんか、最高にバカな終わり方なのに、心の中に湧き起こる寂しさはなんでしょう。組を無くしても、信頼した子分に死なれても、元気だった若親分。それは常に海兵の同期だけは味方だったからです。そして、止せばいいのに、海軍のためにコスプレまでして、若親分はガンバッテきたのです。しかし、そんな同期に疑われちゃった若親分は、深く絶望してどこかに旅立ったんですね。なんだか、雷蔵の末期の作品は、すべて観ていると悲しくなってしまいますが、この作品も思わず、色んなことを考えてウルッときてしまいました。もう、これは条件反射ですね。

この時、雷蔵の体調がどの程度だったのか分かりませんが、アクションはかなり少なめです。長門勇の好演や、アクションシーンの吹き替えを使って、やっとどうにか形をつけた感じが漂っていました。そのため、純粋に一本の映画としてみたときには、かなりヌルイ作品と言わざるを得ません。でも思うのです。「若親分」というキャラクターの終わりは、こんな形がよく似合うんじゃないかと。ズタボロになって、仲間からも裏切られ、寂しくどこかに消えていく。きっと、それでいいんです。でも、、、、うわーん。







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【映画】忠直卿行状記

2008-11-05 | 邦画 た行
【「忠直卿行状記」森一生 1960】を観ました



おはなし
豪勇を謳われた松平忠直(市川雷蔵)は、自慢の槍で、家臣がわざと勝ちを譲っていたことを知り…。

菊池寛の原作を映画化したものです。いつものお約束ですが、原作じたい史実と異なりますし、映画化にあたってもかなり改変されていますので、ご注意ください。

「天守近くに火が付いたぞぉ」「燃えるぞぉ」「落城じゃぁ」。メラメラ。ドッカーン。ボッカーン。よくわかんないけど、大阪城が落城した気配。

「元和元年五月八日」、使い番の騎馬武者が前後して二騎、徳川家康(中村鴈治郎)の待つ本陣に飛び込んできました。「一番乗りは越前少将忠直卿の手勢にござります」「恐れ入ります。忠直卿の軍勢、大阪方の軍師、真田幸村を討ち取ってございます」。あいつぐ朗報に、「あの忠直が、あの孫めが」と喜ぶ家康です。

「天晴れ、でかした」と松平忠直(市川雷蔵)を褒めている家康。「そなたの父秀康、世に在りし頃は、よく忠孝を尽くしてくれたものじゃ」と、孫の凛々しい武者ぶりに目を細めた家康は、「当座の引き出物に初花の茶入れをつかわそう」と言いだしました。「初花の茶入れを。何ものにも代えがたく、秘蔵されている初花の茶入れを」と、感激の面持ちの忠直。家康はさらに、樊カイ(昔の中国の強い人)になぞらえて、日本ハンカイという称号まで、忠直にくれるのです。居並ぶ大名たちの前で、すっかり面目を施した忠直は、勇躍、領地の越前北ノ庄に帰国するのでした。

領地に帰っても、戦場の興奮が抜けない忠直は大宴会を催します。「なんと申しても、大阪陣第一の手柄は殿じゃ。御三家も、伊達も前田も黒田も、殿のおみ足の爪にも及ばぬわ」と言い出す家臣がいると思えば、「日本ハンカイ」と言い出す家臣もいて、忠直は「もうよせ」と言いつつ、満更ではありません。よし、明日は槍試合をやろう。日本ハンカイの名に恥じぬ武勇を家臣たちにみせてやるのだ。

ということで、翌日、紅白に分かれて槍試合が行われました。忠直の白軍は形勢悪し。しかし、大将の忠直が出たからには、負けるものではありません。あっという間に、赤軍の家臣を倒し、迎えたのは赤軍の副将、大島左太夫。槍の無双と呼ばれる男です。しかし、そんな大島も忠直の前には歯が立ちません。そして赤軍大将の小野田右近。「いくら殿でも、指南番の小野田殿には勝てまい」という大方の予想を裏切り、忠直は小野田までをも、その槍の下にくだすのでした。

その夜はまた宴会。「殿の強いのは恐れ入りました」「お強い。お強い」。家臣たちはもうベタ褒めです。「殿様はもう人間ではない。鬼人じゃ。摩利支天の再来じゃ」とまで言うものもでてきて、忠直、すっかりご満悦です。

宴会を中座した忠直は、ひとり庭に出ました。煌々と輝く月の下で、思わずつぶやきます。「母上、ご覧ください。忠直は臣下の者が誰一人打ち負かすことのできない、強い男になりました。家来ばかりではない。大阪の陣では、日本中の大名、誰もが及ばない手柄を立てて、おじいさまから日本ハンカイをいう名誉をいただきました」。と、庭の向こうから、なにやら話しつつ歩いてくる家臣がいます。おお、あれは大島左太夫と小野田右近じゃありませんか。二人は、どうやら忠直の噂をしているようですよ。

「時に、殿の腕前をどう思う」と言う左太夫に、「殿のお噂か。聞こえたら切腹ものじゃでのう」と軽くたしなめる右近。しかし、左太夫は真剣です。「陰では公方さまのお噂もする。どうじゃ、、殿のお腕前は。本当のご力量は」。ピクッ。忠直も耳をそばだてます。「さればじゃの。いかいご上達じゃ」と答える右近。思わず忠直はニンマリです。しかし、続く言葉に愕然です。「以前ほど、勝ちをお譲りするのに、骨がおれなくなった」。それに答えて、「なにしろ、相手は日本ハンカイ殿じゃ」と、冗談めかす左太夫。ガーン、ガーン。忠直はショックを受けています。なにしろ両人が去っても、「なにしろ、相手は日本ハンカイ殿じゃ」という言葉が脳裏でリフレインしちゃうくらいですから。

翌日、いきなり予定を変更して、槍試合をやると言い出した忠直。試合は、前日と同じような展開で進み、いよいよ副将の左太夫との対戦です。と、ここで忠直はトンデモナイことを言い出したのです。「左太夫、槍といい剣といい、まことの腕前は、真槍真剣でなくては分からん。俺は偽りの試合はイヤだ。大阪の陣で手馴れた真槍を持って立ち向かうから、その方も真槍をもって相手をせい」。「殿、お気が狂わされたか」と止める家臣たちを、「止めたて、一切無用じゃ」と一喝する忠直。左太夫も何かを察したのでしょう。そのまま、真槍をとって対峙するのです。テヤー。たあっ。グサっ。左太夫は内股を刺されて敗退です。うーん、これでは良く分かりませんね。

「右近、その方の番だ。立てい」。まさか、忠直自身が聞いていたとは思わないにしろ、主君に対して不忠の言葉を吐いたのは事実。もはや、これまでと覚悟した右近は、忠直と槍の穂を合わせます。えいっ。やあ。打ち合うこと数合。しかし、忠直だって、決して武勇の腕がないわけではありません。むしろ、衆を圧しているといってさえ良い腕前ですから、右近が手を抜いているのは分かります。「右近はわざと隙を作っている。どうして、俺の心が分かってくれんのだ。俺はただ、自分の真の力量を知りたいだけなのだ」。えいっ。忠直の突き出した槍に、自ら飛び込んだ右近は、肩を刺されて、そのまま敗退。この瞬間、忠直の運命は決まったのです。

左太夫、右近が相次いで切腹して果てた、と報告をうけた忠直。「きやつらは、命を賭けて、おのれの嘘を守ったのか」と暗い顔です。「生まれてこの方、俺の身に注いでくれた賞賛は、みな偽りのモノだったのか」と言いつつ、昔を思い出す忠直。剣術で褒められ、書で褒められ、弓で褒められ、誇らしさで胸をいっぱいにした少年時代の記憶が、すべて嘘に思えてきました。「幾たびかの試合や遊戯、俺が占めた勝利や優越の中で、どれだけが本当に俺のものだったのだぁ」。

さて、忠直には、兄弟同然に育てられた浅水与四郎(小林勝彦)という家臣がいます。そして、その妻に与えたのは、やはり忠直に誠心誠意仕えた腰元の志律(山内敬子)でした。つまり、忠直にとっては、何にも代えがたい忠臣たち。しかし、そんな与四郎をも遠ざけて、忠直は酒色にふけるようになりました。もはや、かつであれだけ好きだった武芸の稽古も、一切しようとはしません。

とは言え、そんな酒色も忠直のささくれた心を癒すには足りませんでした。「注げ」と酒盃を差し出す忠直。しかし、連日連夜の酒宴に、寵姫もうたた寝をしていたのです。そんな女を見ているうちに、忠直の心にまた、どす黒い疑念が湧きおこってきました。
「この女は俺を愛しているのではない。美しい笑いも媚びも、うわべだけの技巧に過ぎないのだ。ただ領主としての俺の権力に靡いているに過ぎないのだ」。もう、疑念が疑念を呼んで止まりません。「愛の代わりも服従だ。友情の代わりも服従。信頼の代わりも服従だ。俺と家来の間には虚偽の膜がかかっている。その膜の向こうでは、人間が人間らしく付き合っているのだ。俺は膜のこちらに、ひとりだけ取り残されているんだ。俺の周りにあるものは、全て服従だ。服従、服従、服従だ」。

それからの忠直はもうやりたい放題。佞臣・小山田多聞(稲葉義男)の甘言にのって、婚儀の決まった家臣の娘を犯し、家来を殴りつけ、もはや乱心したといわれても仕方のない状態です。えてして悪い噂は、広まりやすいもの。とうとう幕府の重臣、土井利勝から家老たちに詰問状が届きました。慌てる家老たち。どうしよう、どうしよう。誰か殿に諫言しなければ。いやいや、誰がやるというのだ。うーん、それもそうだ。ならば、ともかく土井さまに弁明の使者を送り、あわせて、江戸にいる忠直卿の実母、清涼院に取り成しをお願いしようではないか。

そんな、重要な役目をこなせるのは、小身ながら忠直と兄弟同然に育てられ、将軍家へのお目見えも済んでいる与四郎しかいません。与四郎自身も、忠直の乱行に、深く心を痛めていた忠臣ですから、否やはなく、早速江戸に出府することにしたのです。そうと決まれば、まずは忠直に出府の挨拶をしなければ。まさか、詰問状が届いたとも言えませんから、清涼院さまにご機嫌伺いということにしておきましょう。

会ってみれば、そこは二人の仲。穏やかなようすの忠直は、「俺も、俺も会いたい」と母の清涼院を懐かしみ、切々と諫める与四郎の言葉も素直に聴いています。これなら、安心。あとは、自分自身が江戸で頑張るだけ、と思う与四郎です。

「美しい女性(にょしょう)がいます」と下卑た顔を向けてくる佞臣・小山田多聞。今度は人妻ですよ、とニヤニヤ笑いです。しかし、与四郎と会って、なんだかサワヤカな気分の忠直は、「よそう。与四郎のつらを見てから、俺もどうやら、心の手綱を取り戻したような気がするわ」と答えるのでした。しかし、これで諦めたら佞臣の名が廃るというもの。小山田は、悪相に邪悪な笑みを浮かべて言うのです。「殿には、与四郎出府の目的をご存じないと見えまするな」と、土井から来た密書のことを話すのです。あとは、もう簡単。全て嘘だと見破られますが、真実に嘘のフレークをふりかければ、人は簡単に騙されるものです。「あいつら、あいつら。与四郎、おのれまで」。

ささいなことを理由に、家老の本多土佐に手傷を負わせる忠直。家老は、もはやこれまでと、自害してしまいました。もう、誰も忠直をとめられません。乱行はますますエスカレートです。

一方、越前からはるばる江戸にやってきた与四郎。早速、清涼院(水谷八重子)に目通りをして、忠直の行状を報告します。「あの子は不幸せな星の下に生まれた子です」と嘆く清涼院。学問も武芸も手を尽くして一流の師につけ、修めさせた。それに、あの子の父は将軍秀忠の兄じゃないか。本来なら、あの子こそが将軍の座についているべきなのに。ああ、母の。この母の悲しみを。
ダメだ。自分のことばかり、語っていますよ。と、そこに土井利勝の使者が与四郎を探して、訪ねてきました。至急、評定所に出頭するようにと言うのです。「えっ、評定所へ」と驚く与四郎です。

評定所に行ってみると、なんだか気まずい雰囲気。「浅水、困ったことになったわい」と土井利勝は苦りきった表情です。「由々しき一大事となったぞ、浅水。忠直卿は国家老本多土佐を手にかけられたのだ」。「いえ、信じられません」と答える与四郎。それはきっと、あやまりでございます。もう少し、時間をくださいませ。「猶予はならん」と声を高めたのは、やはり重臣の本多正純。ほれ、ここに証拠がある、と小山田多聞からの密書を出してくるのでした。してみると、小山田はただの佞臣かと思ったら、本多正純の密偵だったのですね。いえ、密偵というよりは、忠直を陥れるために使わされた間者なのかもしれません。

それからしばらくして、越前に噂が聞こえてきました。公儀の討っ手が越前に向かっているらしい。さらに隣の藩でもくに境に兵を集めているらしい。「将軍家が何だ」と俄然張り切る忠直。「討っ手を向けるなら、向けるがよい。日本中の兵を引き受けて戦ってやるぞ」。

そんな事態に心を痛めたのは、与四郎の妻・志津。あのお優しかった殿様が、そんなに変わるわけはない。お諫めすれば、きっと聞いてくれるはず。しかし、忠直は既に心が少し壊れていたのかもしれません。まるで「シャイニング」のジャック・ニコルソンみたいな顔で迫ってくるのです。「志津、俺のものになれー」。キッとした顔で懐剣を抜く志津。「志津、俺を殺す気か」「いいえ、殿様に罪を犯させようとする、この私を殺すのです」。「志津、お前は」と絶句する忠直。その表情に真実を見たのでしょうか。志津はポロリと懐剣を落とし、「殿。どうか昔の殿様に返ってくださいませ」と忠直の足にすがり付いて泣くのでした。

失意のままに越前に戻ってきた与四郎。しかし、留守番のじいやに、志津がお城にあがったまま三日も戻ってこないと聞いて、顔色が変わりました。ドタドタ。城に乗り込む与四郎。佞臣・小山田は忠直に、成敗いたさせましょう、と囁きますが忠直はそれを許しません。むしろ、「貴様たちは遠慮せい」と人払いをして、二人きりで会うのです。

「与四郎、そちは犬になったそうじゃのう」と皮肉な笑みを浮かべる忠直。しかし、与四郎だって負けてはいません。「犬畜生は殿でござろう。殿、志津はどこにおります。志津は。志津を何となされた」。しかし、忠直はあくまで与四郎を疑っています。「幕府のタヌキどもと腹を合わせ、この忠直を陥れ、家安泰。おのれらの安楽を首尾よく謀ってきたかと聞いておるのだ」と、与四郎の弁明をいっさい聞こうとしません。その上、「与四郎、俺は志津が愛おしゅうなったぞ。もう、お前には返してやらんぞ」とまで言い出しました。

プチン。恋女房を返さぬ、と言われて完全にキレた与四郎が刀を抜きました。槍はともかく、刀では、この与四郎も藩内屈指の腕前。かたや忠直は丸腰。勝負になりません。しかし、飛燕のようにスイスイと刀を避ける忠直。あまつさえ、刀をとりあげ、与四郎を組み伏せたのです。あとは、与四郎の首がぽーんと飛ぶ……ことはなく、忠直はうれしそうな表情で与四郎を見ています。「与四郎、お前こそまことの男だ。俺を主君としてではなく、一個の人間として扱ってくれたのは、お前だけだ。俺は、俺はうれしいぞ。この忠直、心から礼を言うぞ」。話の展開が見えずに戸惑っている与四郎に、「似たもの夫婦じゃ。志津めはな、殺されても俺の言うことは聞かんというぞ」と笑いかける忠直。もちろん、志津は無事でした。手を取り合って喜ぶ、与四郎と志津です。

忠直の鬱屈は晴れました。一つには藩内有数の使い手、与四郎の剣を交わし得て、自らの技量が決して人に劣るものではないと確信できたのです。そして、もう一つ。少なくとも与四郎と志津は、真実、自分を人間として見て、泣いて怒ってくれる。決して、自分は孤独ではない、そう心の底から納得できたのです。めでたし、めでたし。

しかし、時既に遅しです。上使の一行がくに境を越えて、越前領内に入ってきたのです。延々と松明を点しつつ行軍してくる上使の行列。いえ、その物々しさは軍勢です。精鋭徳川本隊が、やってきたのです。「皆の者、合戦の用意じゃ」と叫ぶ忠直。こういう時は、身分が低い侍ほど素直なもの。「はっ」と返事をするや、城門を閉ざし、篝火をたき、合戦用意が進んでいきます。しかし、慌てたのは重臣と呼ばれるひとたち。口々に忠直を止めはじめました。まずは上使の言い分を聞いてからでも、合戦は遅くありません、エトセトラ、エトセトラ。それもそうか、と忠直は上使に会うことに。

いくら国主とはいえ、上使の前では下座に座り平伏しなければなりません。家臣と共に平伏して待つ忠直。スルスル。着物のすれる音がして、どうやら上使が上座に座ったようです。表をあげる忠直。と、ビックリです。なんと、上使は母清涼院その人だったではありませんか。「母上っ」「忠直殿、やつれましたのう」。そんな親子の会話もつかの間。清涼院は威儀を正しました。「上意っ。その方儀、大国を領する身でありながら、施政を忘れ放埓に耽り、家来どもを非道に殺害し、婦女を掠めるなど、悪行を挙げて数うべからず。よって、領地を召し上げ、豊後府内竹中釆女正に預け、終生押し込め申しつくるものなり」。「押し込め」と絶句する忠直。片方で合戦といいつつも、どこかで甘えがあったのでしょうか。まさか、この自分に押し込めという処分が下るとは思っていなかったようです。しかし、いったん上使と対面するという選択をして、今から合戦ができるのか、いいえできません。清涼院が「忠直殿、身一つになって城を出てくだされ」と懇ろに説得をした結果、忠直は「母上。忠直、謹んで仰せに従います」と答えるのでした。

密かに本多正純のもとに逃げようとしていた佞臣・小山田多聞が、家臣の者に斬り殺されるという一幕を境に、越前家の戦意は急速に低下しました。そして、朝を迎え、「いく久しく、こんなに清々しい朝を迎えたことはない」と憑き物が落ちた表情の忠直。家康からもらった初花の茶入れを与四郎に渡します。「このような尊いものを」と固辞する与四郎に、「俺は六十七万石を投げ出して、もっと尊いものを得たんだ」と、苦く笑う忠直。確かに、授業料としては、あまりに高すぎる失敗だったようです。

家臣たちが泣いて見送る中、忠直の駕籠は遠い豊後に向けて旅立ちます。「心も軽く、身も軽い」、そんな忠直の呟きをよそに、駕籠を見送る領民たちの表情は、よそよそしく冷ややかです。


まあ、一言でいってしまえば、スポイルされて育ったお坊ちゃまが、ひょんなことから自信を喪失して家庭内暴力に走っただけ、といえるかもしれません。ただ、その家庭が、67万石の大藩であったことが問題なだけです。その点では、忠直が家臣との間に感じる「膜」というのも、思春期の若者が感じる孤独感と異なるところは無いように思います。つまり、これは間違いなく、青春映画なのです。

鬱屈した青春期の悩み、という点から考えると、同じ市川雷蔵の演じた「炎上」で描かれた青年像の、いちバリエーションともいえるでしょう。ですから、いわゆる髷モノとしての評価には馴染まない部分があるのも事実です。

すいません、ちょっとコムズカシイ言い方しました。要は、歴史モノとして見ると不満が残るけど、青春モノとして見たら、悪くないんじゃないの、ってことです。

ちなみに、この映画ではとっても優しいおじいちゃんだった家康ですが、忠直のお父さんの秀康を嫌っていたみたいです。なにしろ、嫡男(次男だけど)なのに、他家に養子に出しちゃったくらいですから。ということは、この忠直のことだって、内心でどう思っていたか。むしろ、今回の一件は全て家康の差し金ではないかという邪推すら浮かんできます。そうなると、中村鴈治郎の家康というキャスティングがグッと効いてきます。なんか、企んでそうですからね。鴈治郎って。







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