いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】若親分兇状旅

2008-10-31 | 邦画 や~わ行
【「若親分兇状旅」森一生 1967】を観ました



おはなし
自決した友人の、死の真相を探るべく、若親分(市川雷蔵)は調査を開始します。

「薄桜記」をはじめ、雷蔵と多くの作品でコンビを組んだ森一生監督の作品です。しかし、どうも「若親分」のなんたるかを勘違いしているような。

オカメの面を後頭部に貼り付けて歩いている男。って、これは南條武こと若親分(市川雷蔵)じゃありませんか。なんでオカメなんだか、さっぱり分かりませんが。それにしても、どうせなら、どどーんと天狗の面でもつけていればいいのに。ともあれ、そんな若親分を襲ってくる黒門組のヤクザたち。しかし、若親分強いです。どりゃあ、とヤクザたちをコテンパンにしちゃうのでした。オカメの面をポイっと投げ捨てたところで、タイトル。おっと、今度の主題歌を歌うのは、橋幸夫に替わって藤巻潤だ。っていうか、どうして藤巻、なぜに潤。

「海軍少佐 高木一郎自決」というテロップとともに、割腹自殺をして果てている海軍士官の姿が映ります。はい、そのまま高木少佐のお葬式です。と、その後、席をあらためたところで、井川少佐(藤巻潤)をはじめとする海軍士官たちが、宗念和尚さん(加藤嘉)の持ってきた高木少佐の遺書ををネタに話し合っています。遺書にはただ一言、「己れに恥ずるなかりしか 高木一郎」と書いてあるのでした。もちろん、この言葉は兵学校の五省のモジリですが、なんでこんな遺書を残して高木は死なねばならなかったのでしょう。

うーむ。地元の運送会社社長で、元兵曹長の金杉(垂水悟郎)に、そこらへんの事情を聞いても、ハッキリしませんし、謎は謎を呼んじゃいます。そうそう、謎といえば、高木と親友だった若親分がお葬式に来なかったのも気になります。高木の死を聞いたら、真っ先に飛んできそうなものですが、若親分はいったいどこに。

おっと若親分がいました。地元の有力者、土屋(渡辺文雄)のところに、ユスリにきているようですよ。ウチの土地を、お前の先祖が奪ったから、5000円を出せと要求しています。ただし、450年前の話だそうですけど。そんなムチャな要求ですが、どうみても若親分はタチの悪そうな男なので、苦々しい顔をしながらも金を出す土屋です。

土屋のところを出た若親分が道を歩いていると、土方さんのほうった土が、足元にかかってしまいました。いきなり難癖を付け始める若親分。土方の大将の小山千代子(江波杏子)にまで、「手の付けられねえじゃじゃ馬だな」とネチネチと絡んでいます。どうしちゃったんでしょう、若親分は。そんな子に育てた覚えはないのに、こんなにグレちゃって。

ま、それはともあれ、宗念の寺に戻って、ゴロゴロしている若親分。ほとんど、ノリは浄閑寺でゴロゴロしている眠狂四郎といった趣です。と、そこに金杉がやってきました。なあんだ、やっぱり、ここにいらっしゃったんですね、と曰くありげな顔をしています。そう、この二人には因縁があったのです。ぽわわーん。はい、回想シーン。それは、少尉候補生だった若親分たちが、初の遠洋航海に出ていたときのことです。嵐にゲロゲロしている仲間を助けていた若親分のところに、「鬼杉」と呼ばれるくらいオッカナイ兵曹長だった金杉がやってきました。何をしとる、持ち場につかんか、とパンチ一発の金杉。しかし、それを上官に見とがめられてしまったのです。いくら候補生とはいえ、士官待遇の若親分を下士官の金杉が殴るとは言語道断。あやうく処分されそうになった金杉を若親分は弁護して、どうにかその場は収まったのでした。ぽわわわーん、回想おわり。

「あの晩のことは、一生忘れられないと思います」とシミジミ述懐する金杉に若親分は、「よそうや、もう海軍の話は。ところで、俺が来てるのどうして分かった。蛇の道は蛇か」と言い出しました。退役してからずっと海軍フェチのくせに、若親分もよく言うよ、と思わないでもありません。ま、それはそれとして金杉もまた、若親分と同じように、退役後は渡世の道に入った男のようで、それなら話は早い、ぜひウチの組に来ていただけませんかと、頼みだします。なにしろ、南條組の若親分といえば、ひとつのブランドらしいですよ、どうも。しかし「断わる。きっぱりとお断りだ」とツレナイ若親分。おやっ、そんな若親分をみる金杉の目がどうも怪しい感じですね。これはなにかありますね。

さて、高木の下宿に捜査にいく若親分。気分は特捜最前線です。しかし下宿のおばさんは、口を濁して、何も語ろうとしません。ちぇっ。トボトボと辞去した若親分のあとを、下宿おばさんの姪である北川早苗(葉山葉子)が追っかけてきましたよ。高木にしょっちゅう謎の電話があったこと、それも女の声だったと証言する早苗。さらに、高木が死んで、警察が捜査に来る前に、高木の部屋に上がりこんでなにやらゴソゴソやっていた男までいるというじゃありませんか。ピピーン。やっぱり高木の自決には、裏があると確信する若親分。「高木の行きつけの飲み屋は?」。

はい、飲み屋に若親分がやってきました。為次とあけみ(都はるみ)の兄妹がやっている、狭いながらもいごごちの良さそうな飲み屋です。しかし、都はるみですか、いやーな予感がしてきた。ともあれ、どうしてあんな明るい人が、と嘆くだけの二人。うーん、どうも手がかりがつかめそうにありませんね。

この後、イチャモンをつけてきた黒門組をドツキたおしたり、土方の大将な千代子にカラんだり、さらには金杉と一触即発になったりと、どうにもワイルドな行動をとりまくる若親分。そんな子に育てた覚えは……。と、そんなグレた若親分が、高木のお墓参りをして気を静めていると、そこに早苗がやってきましたよ。どうやら、新たな事実を思い出してくれたようなのです。それは高木が自決する十日前のこと。「ぼくは近々、海軍を辞めるって言い出すんです。どうしてですかってお聞きすると、海軍にいるよりずっとお国のためになる仕事が待っている。生きがいのある素晴らしい仕事なんだって、目を輝かせておっしゃいましたわ」。うーん、と考え込む若親分。分かったような。分からないような話です。ともあれ、名前を教えてください、とかなり不自然に言い出した早苗。若親分は"いやぁ"とトボけていますが、これは何かの伏線ですか。はい、そうですか。

さて、飲み屋の為次です。彼はかつて地元ヤクザの黒門組の構成員だったもよう。しかし、妹のために足を洗って、カタギの飲み屋をしていたそうです。しかし、黒門組にイチャモンを付けられ、やむなく他の町に逃げることに。じゃあ店を閉める前に、常連さんにせめて楽しいひと時を過ごしてもらいましょう。酒の肴は、心づくしの料理と、そして妹の歌。ああ、やっぱり。都はるみの熱唱が始まっちゃいましたよ。コブシがすんごいイキオイで回ってます。グルグル。グルグル。おっと、そこに黒門組がやってきました。へへへ、店を売った金をよこせ。いやだ、バコッ、うわーっ。額を割られて流血ダラダラの為次。そこに若親分登場。とりゃあ。ひぃーっ。黒門組、またもスタコラ逃亡です。

慌てて、為次を病院に連れて行く若親分。おーまいがっ。受付によると、先生は往診でいないそうです。その代わり、有能な看護婦さんがいるそうで、その人に処置を任せましょう。早速、礼儀正しく自分の名前を名乗る若親分ですが、現れたのはなんとビックリ早苗じゃありませんか。そのうえ、早苗は若親分の名前を聞いて、なぜか顔を曇らせていますよ。どうしたんでしょう。

と、それはともかく、早苗の適切な処置もあり、命びろいをした為次。しかし、また黒門組がやってきたらタイヘンです。妹とともに、他の町に逃がさなくては。へい、人力車。あらよっ。二人を乗せた人力車が朝焼けの港を走り出します。もちろんBGMは都はるみ熱唱の「涙の連絡船」。トホホ。人力車はマイクロバスやら、ガードレールの前を思いっきり走ります。まあ、このシリーズ、もともと時代考証はイイカゲンでしたが、ここに至って、ヤケッパチな雰囲気さえ漂ってきちゃいました。まあ、ガンバレ。

寺でなぜか座禅している若親分。と、そこに土方の大将な千代子がやってきて、横に座って座禅を始めちゃいました。お互いに無言です。しかし、どうも千代子は若親分に惚れたもよう。女のクセにとか、罵られているうちに愛を感じちゃったみたいです。ほら、そこ。そんなムチャなとか言わないように。書いているぼくも、そんなムチャなと思ってるんですから。

まあ、そんなワケで(どんなワケで?)、地元の有力者の土屋、金杉、それに陰のボス、兵藤先生やらが、とうとう正体を現してきましたよ。よく、分かりませんが、高木少佐を騙して汽船を手に入れた悪人たちは、武器の密輸を企んでいるそうなのです。そして、邪魔になった若親分には消えてもらうことに。実行部隊としては、金杉組の組員さんやら、先代からの義理で縛っている千代子配下の土方さんたちが用意されているみたいです。危うしっ、若親分。

そんなことを知らずに、ノコノコと病院にやってきた若親分。目当ては、儚げな美しさを持つ早苗です。しかし、早苗はいきなり悲しげな顔で、「あなたは私の兄を殺したの。兄は北川明。覚えていてっ」と言い出しました。ガガーンな若親分。北川と言えば……。ぽわわーん、回想シーンに。

陸戦装備に身を固めた南條少尉こと若親分が「匍匐前進」「とつげーき」と声をからしています。言われるままにトテトテ走り出す兵隊さんたち。しかし、ひとりコケテいるやつがいますよ。北川二等水兵(平泉征)のようです。「なんだ、そのざまは」と怒鳴りつける若親分。しかし、おやっ、すごい熱です。と、ここで男気溢れる若親分は一計を案じました。この者を休ませてあげてください、はぁと。と、そんな内容のメモを書き、北川二等水兵に伝令を命じたのです。これを北川二等水兵が持っていけば、そのまま軍医のところで休憩できる。きっと、北川二等水兵は感激しちゃうぞ。俺ってカッコイイかも。くすくす。

そんなことを知らずに、メモを後生大事に持って、伝令に向かう北川二等水兵。しかし、なにしろスゴイ熱なので、朦朧としたまま、そのメモを落としてしまったのです。落としたメモを必死に探し回る北川二等水兵。しかし、それが悪かったんでしょう。うがあ。そのまま倒れて死んじゃいました。

「伝令にさえ出されなかったら、兄は死ぬようなことはなかったんです」。兄の死にショックを受けて、お母さんも死んだという早苗。「あなたは、私からたった二人の肉親を奪ったんですぅ」。ガーーーーン。ヨロヨロな若親分の姿がそこにはありました。

まあ、ガーンはともかく、悪人たちも派手に動き出し、いよいよ話はクライマックス方向に。業を煮やした悪人たちは二段構えの作戦をとることにしました。まず、金杉が若親分に喧嘩状を出し、若親分をひきつける。その隙に、千代子配下の土方さんたちが、汽船に武器弾薬を積み込み、出航してしまえというのです。名づけて「引き付け作戦」。どう考えても、危ういうえに、しちメンドクサイ計画ですが、まあやりたいならなどうぞ。

ワラワラ。約束の場所に集結する金杉と愉快な子分たち。ザッザッ、夜の街を行進していく千代子と愉快な土方たち。おっと、「そっちじゃないよ。黙ってついといで」と千代子が方向転換しました。いったい、どこに。

喧嘩場にやってきた若親分。しかし、金杉は卑怯にも早苗を人質にしていたのです。「金杉、これが海軍で飯を食った者のすることか」と憤る若親分ですが、「俺は渡世人だ。ヤクザだ。海軍のことなんか知っちゃいねえ」と金杉は悪びれるようすもありません。さあ、ドスを捨てろ、さもないと。「きさまあ」「ひとーつ。ふたーつ」。「みっつ」と声をかけたのは千代子。なんと、カワイイ土方軍団を連れて、若親分を助っ人にきたのです。早苗は千代子に助けられ、あっというまに形勢逆転。「ありがとう、おめえさんやっぱり」と千代子に流し目を飛ばす若親分。「そんなことより、船が出るわ。あんたをこっちに引き付けといて、船を出すはずだったんだけど、ウチの人数を止めたから、まだ積み込みは終わらないわ」。おっと、そうだった流し目飛ばしている場合じゃありませんでした。「早苗さん、井川(少佐)に知らせて、船を止めるんだっ」。はいっ、と走り出す早苗。はいっ、と走り出す千代子。おうっ、と走り出す土方軍団。おやっ、こっちは一人ですか。敵がワラワラいるのに。えーと、うわーん。気を取り直して「海軍仕込みの抜刀術。忘れはしねえ」とタンカを切る若親分。バッサバッサと今日も快調に、死体の山を築きます。そして、金杉が残りました。「どうしてもやらなきゃならねえのか」とためらう金杉に、「そうだ。どっちかが死ぬんだ」とにべも無い若親分。とりゃーっ。ばさっ。

斬られた金杉は苦しい息の中で、全てを告白しました。満州と蒙古の軍閥を戦わせ、両方に武器弾薬を売って、大儲けしたこと。高木少佐の国を思う気持ちに付け込み、だまして汽船を買わせたことなど全部です。なんだか、最後はいい人になって、死ぬ金杉です。ガクッ。

そのまま、黒幕のところに乱入して、「話すことはない。死の商人には死があるだけだ」と、問答無用で斬り殺す若親分。おっと、そこに井川少佐が公用車に乗ってやってきましたよ。どうやら、井川少佐の尽力で、密輸船も止められたようで、まずは万々歳です。おっと、井川少佐に連絡をした早苗、千代子が若親分を探して、頬を上気させて走ってきましたよ。慌てて、井川少佐の公用車に勝手に乗り込む若親分。「すまんが、警察の前で止めてくれ」と公用車をタクシー代わりに使ってます。

警察の近くに止まった車。そこから若親分が降り立ちました。じゃっ、と井川少佐と握手をして、歩きだす若親分。ビュービューと吹きすさぶ風の中、若親分は歩きます。♪南條武よどこへ行く~ぅ」♪と、いう藤巻潤の歌声をバックに、どこまでも、どこまでも。


まずは不満を。若親分のお友達、竹村(戸田皓久)が出てきませんでした。なんか、心にポッカリ穴が開いたような寂しさです。彼こそ、若親分の本当のお友達だったのに。なんてこったい。あと、回想シーンはともかく、若親分のコスプレもないし、どーしろというのか(いや、別にどーもしないと思いますが)。

その上、若親分がヘンにワイルドだったり、都はるみが歌っちゃったりと、なんだか東映くさいんですけど。もちろん、東映の映画は好きですが、何も大映がマネをすることはないと思うんですけどね。

ストーリー的にも、黒門組ってナンだったの、とか、伏線を回収しきれていない感じがして、どうも分かりにくいです。ということで、中だるみもいいとこの若親分シリーズ。いよいよ次回は若親分シリーズ最終作です。若親分も疲れたでしょうが、書いているコッチも疲れてきました。さあ、明日はどっちだ、若親分。







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【映画】零戦燃ゆ

2008-10-29 | 邦画 さ行
【「零戦燃ゆ」舛田利雄 1984】を観ました



おはなし
世界に冠絶した完成度を誇った零戦。しかし、徐々に旧式化していき……。

柳田邦男の原作を、笠原和夫が脚本化したものです。さすがに調査魔の笠原和夫だけあって、零戦の発進シーンなどは、かなり細かく書き込まれています。もっとも、それでもかなりカットされたらしく、舛田監督にぶーぶー不満をもらしていますけど。

夜中の飛行場。居並ぶ零戦にとりついて点検に余念のない整備兵たち。ブー。搭乗員起こしのブザーが鳴り、興奮で寝られなかっただろう搭乗員たちが、次々飛び出していきます。「台湾 高雄基地 午前三時」、整備員たちの手によって、一斉に零戦のエンジンが始動しました。轟々と響く爆音。全開テストも問題ないようです。増槽をつけ、20ミリの60発ドラムをガチャっと取り付ける整備兵たち。いっぽう、搭乗員たちは、おにぎりをほお張り、別杯をかわし、さあ出撃です。時間の整合をし、「かかれ」の合図。浜田正一(堤大二郎)は、三舵の点検をしたあと、友人の整備員、水島(橋爪淳)と笑顔をかわしました。「頼むぞ」「まかしとけ」。

操縦席に乗り込んだ浜田は、さっそく三舵の動きを確認して、命じます。「イナーシャ回せー」。整備兵が二人がかりで、イナーシャの重いハンドルを回しはじめます。「前、離れー」「前よろし」。「コンタクト!」。ズドドド。零戦の栄一二型エンジンが唸り始めました。

スルスルと列線に並んだ零戦たちは、轟音とともに、一機、また一機と飛び立っていきます。朝焼けの空を進撃していく零戦。OPLのスイッチを入れ、照準器の具合を確認します。そして機銃の試射です。まずは、7.7ミリ。タタタタタ。そして20ミリ。ドドドド。ここまで、やってようやく、操縦員たちは、一息ついて、これから始まる戦いに、思いを馳せるのです。

って、ここまで書いたことは、興味のない人にとっては、どーでもいいこと。「零戦が台湾から飛び立った」で、いいじゃんと思われそうです。しかし、ここにこそ、この映画の真髄があります。というか、笠原和夫脚本の真髄、といったほうが正確かもしれません。

「昭和十六年十二月八日 太平洋戦争 開戦第一日」、零戦と一式陸攻からなる戦爆連合が一斉にフィリピンにある米軍基地に襲い掛かりました。迎撃にあたったカーチスP40なんて、あっさり撃破です。しかし、マッカーサー将軍は、事実を認めることができません。参謀長に「シェンノート将軍のレポートをご存知ですか」(中国にいた合衆国義勇軍「フライイングタイガース」の親玉)と、言われても、まさか日本軍が高性能機を持っているだなんて、信じられないのです。「デタラメだ。自動車も満足に作れん日本人に、航続距離の長い戦闘機が作れるはずがない」。まあ、そうはいっても、実際にやってきちゃった日本軍。実際に落ちてきちゃった爆弾。そして機銃掃射。まあ、そういうことです。

さて、お話はいきなり戻って、昭和14年。二人の水兵が夜の町を走っています。浜田と水島です。「おい、ホントに脱柵(脱走のこと)するつもりなのか」とビビっている水島に、浜田は言います。牛みたいに殴られているのはマッピラだ。おまえ、怖いのか。えーと、そりゃまあ怖いです。と、いきなりやってきたサイドカーから、「待てっ。こんな時間に何をしとる。官姓名を名乗れ」と声がかかりました。ギクッ。タイヘンです、相手は海軍大尉みたいですよ。「横須賀海兵団、第18分隊、海軍四等航空兵、浜田正一であります」「同じく、海軍四等航空兵、水島国夫であります」。背中に鉄の棒でも入れられたように、直立不動で申告をする二人。しかし、海軍大尉(加山雄三)は、「初めての外出で、帰る道が分からなくなったのか」と、意外と優しい感じです。「俺は横須賀航空隊の下川大尉だ。道を教えてやるからついてこい」。

つれてこられたのは格納庫。そこには、ジュラルミンの地金の銀色もまぶしい、ピカピカの戦闘機が静かに羽を休めていました。見たこともない戦闘機に、口をアングリ開けている二人。下川大尉は愉快そうに言います。「ハハハ、お前たちは初めてだろ。これは、わが海軍が近々、正式採用することになっておる新型の戦闘機だ。来年は我国の皇紀2600年にあたるので、その末尾のゼロをとって、零式艦上戦闘機と呼ぶことになっておる」。超々ジュラルミンでできた全金属製。1000馬力のエンジン。500キロを越える速度。引き込み脚。そして、20ミリ機銃の凄さ。しかし、そんな説明は、二人の耳に入っていません。ただただ、その零戦の美しいたたずまいに圧倒されていたのです。

「お前たちが、何を考えながら夜道をうろついておったのか分かっておる」。ガーン。いきなり現実に引き戻される二人。そうだった。脱走しようとしていたんだった。もし、下川大尉がコトを荒立てたら、二人は身の破滅です。しかし、下川大尉は言います。「よーく、聞け。今のお前たちの身分で月給いくらもらえるか知っておるか。四等水兵の月給は5円60銭だ。この零式戦は一機、5万5千円する。お前たちの月給だと880年、働きづめに働かないと、こいつは買えないワケだ」。ポンポンと浜田の肩をたたく下川大尉。「しかしだ。お前たちが、ここ一二年辛抱すれば、国がお前たちに、この零式戦の新品を一機ずつ、黙ってタダでくれるのだ。どうだ、欲しくはないか」。そりゃ欲しいに決まってます。零戦を欲しがらない男の子が、この世に存在するでしょうか。しかし、二人は気づいていません。零戦を手に入れる代償は、5万5千円なんかではなくて、まさに命そのものだということに。「こいつに乗って、田舎の空、飛んでみてえな」とつぶやく浜田。水島も言います。「海兵団に戻ろう。なっ、浜田」。

適性検査の結果、浜田はパイロットに。そして、水島は整備に回されることになりました。猛訓練が続きます。そして、2年経った「昭和十六年四月」、二人は久々に再会したのです。二人の目的はひとつ。かつてお世話になった下川大尉にお礼がてら、今の自分たちを見てもらいたい、それだけです。おう、と優しく迎えてくれた下川大尉。しかし、今はちょっと時間が取れないんだ、とのお言葉です。というのも、零戦には、補助翼のタブバランスが起こすフラッターという厄介な症状があり、これからテストで飛ばなくてはならないのです。

やはりテストパイロットの小福田大尉(あおい輝彦)や、浜田、水島が見守る中、下川大尉の零戦は蒼穹に舞い上がっていきました。高度2千からの急降下。急激なGの変化に、下川大尉は失神しそうになりながらも機体を引き起こします。そして、もう一度。「下川さん、無理しないでください」という小福田の声が、無線で聞こえたのかどうか。最再度、急降下をした下川大尉の零戦は、補助翼が吹き飛び、キリモミ状態になって海に突っ込むのでした。

早速、設計主務の堀越次郎(北大路欣也)や、副主務の曽根嘉年(大門正明)たちは、風洞実験を始めました。確かに、補助翼のフラッターは深刻です。しかし、欧米の飛行機に比べ、ギリギリまで軽量化を進めた零戦にとって、強度不足は宿命だったようです。食って掛かる浜田に、堀越は言います。「先進国の欧米に比べたら、国産機はエンジンひとつ取ってみても、まだまだ力不足です。特にアメリカと戦争にでもなったら……」。

はい、戦争中です。真珠湾で、南の島々で、そして南方資源地帯で、零戦はP39、スピットファイア、F4Fといったライバルたちを叩き落しています。しかし、そこに登場したのが、空の要塞B17でした。いくら銃弾を叩き込んでも落ちないB17。業を煮やした浜田は、ギリギリまで接近して、自らの翼で相手の尾翼を叩き切ったのです。

フラフラとした姿勢で降りてくる零戦。隊長・宮野善治郎(目黒祐樹)の「体当たりしたんか」という質問に、「いえ、避け損なってぶつかっただけであります」と元気に答える浜田。宮野は笑って、「これから気をつけろ」と言うだけでしたが、しかし、問題は別のところにあったのです。

それは墜落したB17の防弾板をテストしてみたところ、一目瞭然に明らかになりました。なにしろ零戦の誇る20ミリの九九式一号銃では、防弾板を撃ち抜けないのです。「これじゃ落ちんな。かすり傷しか、付いとらんやないか」と嘆息する宮野です。と、「緊急ちゃくりーく」と声が響きます。どうやら、負傷した搭乗員が着陸してくるようです。滑走路を猛然と走り出すトラック。って、これはサニー。サニートラックじゃありませんか。戦前に、こんなものがあるかあ。まあ、いいや。ともあれ、ほとんど墜落と大差ない着陸をした零戦に、みんなが駆け寄ってみると、搭乗員はすでに絶命していました。「ペラペラの紙みたい」な防御版は、搭乗員の命を守らなかったのです。

ミッドウェイで大敗した日本軍は、大量の機体と、そしてなにより大切なベテラン搭乗員を数多く失いました。ここ、海軍航空本部では緊急の対策会議が行われています。飛行機が足りない、と文句を言う参謀たちに、小福田大尉は発言します。今は防弾板の充実など、搭乗員の生命を守る方策が必要じゃないんでしょうか。しかし、空技廠担当官(森次晃嗣)も、航空本部の担当官(中山昭二)も否定的です。というか、ここは絶対に狙ってますね。セブンとキリヤマ隊長を出してくるなんて、嬉しすぎです。ともあれ、結局のところは、軍令部参謀(神山繁)の鶴の一声で会議は終わりました。「防御など気にすることはない。攻撃こそ最大の防御だ。アメリカは個人主義の国だから、消極的な防御力に頼っているだけだ。こっちには大和魂があるじゃないか。攻撃力を犠牲にしてまで、余計な改修などする必要はない」。

さて、たまたま内地に帰ってきた水島は、自転車のチェーンがはずれて困っている少女を見つけ、助けてあげました。そして、曽根技師や、東条輝雄技師(宅麻伸)と意見を交換している時にも、その少女・吉川静子(早見優)と再会。もう運命感じちゃいます。ま、それはそうとして、天下の三菱の技師と、堂々と論じ合う若い下士官っていうのも、かなり設定としてはスゴイと思うんですが。

ま、それはともあれ、静子(しーちゃん)にひと目惚れした水島は、やっぱり内地に帰っていた浜田に頼み、零戦の曲芸飛行をみせてあげることに。すっかり大喜びのしーちゃんの笑顔には、水島も癒されちゃうのです。

なんて、楽しい時も夢のように過ぎ去り、二人はまた最前線に。ガダルカナル島を巡る日米の戦いは、ラバウルの海軍航空隊を消耗させ、ソロモン海をまさに零戦の墓場にしていきました。というか、ハッキリ言って、日本はジリ貧になりつつあります。そんな中、前線激励のために、山本五十六長官(丹波哲郎)がラバウルを訪れます。浜田たちが食べていたウミガメスープに舌鼓をうつなど、気さくなおじさんの山本は、そのまま、さらに前線のブインに視察に行くことに。えーと、ラバウルまででも危ないのに、やめてくださいよ長官。護衛はいらないと言い出した山本に、どうにか納得してもらって、わずか6機の零戦が護衛につくことになりました。もちろん、その中にはエースの浜田も入っています。

ブーン。うわっ、敵機だ。なんと暗号を解読していた米軍は、双発双胴の悪魔P38を送り込んできたのです。奮闘する浜田たちですが、衆寡敵せず。哀れ、山本長官の乗った一式陸攻はブーゲンビル島に墜落していくのでした。

長官を守れなかったと、暗い顔の零戦搭乗員たち。そんなみんなに、浜田は言います。「長官への詫びは、俺たちが明日も明後日も生き残って、一機でも多く敵機を撃墜することだけです。他に何がありますかっ」。「浜田の言うとおりや」と宮野隊長。「ただし、海軍には海軍の伝統がある。出処進退の伝統いうもんがな。誰も何も言わんが、俺たちの進むべき道は、ハッキリ決まっとる。生きている限り、内地の土は踏めんという覚悟だけは決めておけ」。ますます、ドヨーンとする搭乗員たちです。

それからは連日の出撃。サニートラックも、ますます元気に走りまわっていますよ。そして櫛が欠けるように、死んでいく仲間たち。もちろん、死んでいくのは零戦搭乗員だけではありません。一式陸攻の搭乗員たちは、火の吹いた機体から、悲しそうにこちらを見て死んでいきます。逆に、零戦が庇ったおかげで助かった一式陸攻の搭乗員たちは、悲しそうに墜落する零戦を見送ります。まあ、いずれにしても一式陸攻に乗っている搭乗員たちは、なんだかやるせない気分いっぱいのようです。

そんな中、まずは水島が負傷して内地に帰り、そして浜田もF4Uコルセアとの戦闘中、大火傷を負って内地に帰ることになりました。水島の方は怪我も軽傷で、そのまま内地の小福田のもとで働くことになりラッキーです。なにより、しーちゃんと再会できたので、ルンルン気分がスロットル全開な雰囲気。

一方、浜田の方はひどい火傷で、もう二度と飛べない体になってしまいました。傷心のまま実家に帰る浜田。しかし、貧乏なお母さん(南田洋子)を見ていると、とても、ここで厄介にはなれません。それに、そもそも、ここは俺のいる場所じゃない。俺のいる場所は空なんだ。浜田は懸命にリハビリに励むことにしました。

水島、浜田、しーちゃんの夢のような日々が始まりました。戦時中、楽しいことの少ない青春が、つかの間燃え上がった瞬間でもあります。三人一緒に、自転車をこいで、ただもう楽しく笑っている。たった、それだけのことでも、彼らにとってはかけがえのない時間なのです。

リハビリを終え、前線に戻るという浜田。水島としては、どうして内地で教官にならないんだ、なんで前線に戻りたいんだ、と不思議でたまりません。きっと、結婚でもすれば浜田の考えも変わるんじゃないか。そう思った水島は、一計を案じて、しーちゃんと浜田をくっつけようとするのですが、浜田はそれにのらず、そのまま前線に戻っていくのでした。

サイパン、テニアンが失陥しました。米軍がフィリピンに上陸を開始します。さらには特攻が始まり、B29は本土を爆撃。菊水作戦で大和は轟沈。日本は急坂を転げ落ちるように敗戦への道をまっしぐらです。しかし、そんな中、浜田は不死身の戦いを続けていました。そして、再び、水島と再会したのです。補充機を取りに来たと笑っている浜田に水島は言います。「お前、まだ零戦に乗るつもりなのか。あいつじゃもうB公(B29のこと)もグラマンも落とせんぞ。紫電改なら太刀打ちできるだろうが」。「バカ。ここが違うよ、ここが」と腕を叩いてみせる浜田。「ヘタクソなジャク(若年搭乗員)が零戦に乗ったら、たちまち棺おけだがな。第一、この期に及んで零戦を見捨てたんじゃ、下川大尉に会わせる顔がねえよ」。

自然と、二人の話は、しーちゃんのことに。こんな火傷だらけの男に惚れる女はいない、と言う浜田。「あの人は、お前がしっかり捕まえていてやれ」。怒る水島ですが、浜田の屈託のない笑顔を見ると、何も言えなくなってしまうのです。

と、しーちゃんこと静子は、三菱の工場にいます。折からの空襲で、工場は疎開することになったので、九州にいる浜田を追いかけていくつもりです。結局、しーちゃんは水島ではなく浜田を選んだようです。曽根技師に祝福されるしーちゃん。しかし、突然の空襲で、しーちゃんは爆死です。

九州の築城基地では、連日の邀撃戦闘が行われています。浜田も、非力な零戦で立ち向かっています。高空の薄い空気の中、なかば失神しながらの背面急降下。ぶつかる直前まで接近して20ミリの連射。やった、落ちました。しかし、基地に降りると、すぐにまた敵襲が。「発進急げ」の命令に、「まわせー」と愛機に駆け寄る搭乗員たち。いかん、敵はすぐそこです。これでは間に合わない。「発進中止」「発進中止」「搭乗員たいひー」、命令が変わり、バラバラと退避壕に駆け込む搭乗員たち。しかし、浜田はただ一人、離陸しました。敵は大馬力のF6F。相手にとって不足はありません。速度の乗らない状態で、すれ違いざまに一機撃墜する浜田。しかし、浜田にできるのはここまででした。大量の機銃弾が浴びせかけられ、浜田はズタズタになって機上で死んだのです。

第5航空艦隊の宇垣纏中将(加藤武)が、感状を読んでいます。個人撃墜70機、共同撃墜40機。母の前で、浜田の功績が称えられ、そして「よって、ここにその殊勲を認め、全軍に布告する」だそうです。お母さんは泣き崩れ、そして帰りの汽車の中、鉄橋の下で無心に遊ぶ子供たちを見たとき、また涙するのでした。

そして迎えた8月15日。プロペラを外された零戦が、一機、また一機と整備兵に運ばれていきます。もはや、飛ぶ力を失った零戦たちです。そんな有様を見ていた水島は、小福田に直訴することにしました。「小福田少佐。お願いがあるんですが、零戦を一機いただきたいんです」。なにっ、と目をむく小福田に、水島は続けます。「私の手で最後を飾ってやりたいんです。あいつが、あんな古道具みたいに処分されたんじゃ、あいつに乗って死んでいったやつら。浜田のやつだって、泣くにも泣けんでしょ。最後くらいは使い捨てじゃないと言って、逝かせてやりたいんです」・

ブロロロロ。エンジン音を轟々と立てている零戦。燃料コックを開き、水島は機関銃を撃ちました。ボッとガソリンが引火します。メラメラ。炎が零戦をおおっていきます。主翼が火に包まれ、エンジンカウルにも火が回りました。水島、小福田、そして整備兵たちが泣きながら敬礼するなか、零戦は、死にたくない、まだ空を飛びたい、と訴えるかのようにプロペラを回し続けるのです。


この映画のために零戦のレプリカが作られたそうです。それも三菱で。ということは、ある意味、ホンモノと言っても差し支えないかもしれません。そのため、冒頭の発進準備シーンなどは、とてもリアル。一方、空中戦などは、過去作品の流用らしく、かなりチープ。このギャップがものすごいです。とは言え、イナーシャを回したり、20ミリのドラム弾倉を装着するシーンなど見所も多く、かなりの満足度でした。

堤大二郎が演じる浜田正一は、杉田庄一という実際の人物がモデルになっています。実際に70機撃墜の戦果を誇り、最後は離陸中止命令を無視して離陸、被撃墜というところまで同じです。もっとも、杉田さんは、最後は紫電改に乗っていたそうで、それだと「零戦燃ゆ」にならないので、架空の人物ということにしたんでしょう。それにしても堤大二郎は、いかにもヤンチャなパイロットという感じがよく出ていました。俳優としてウマイヘタの部分はともかく、浜田正一という人物になりきっていたように思います。

一方、しーちゃんこと早見優。えーと、初々しいですね。もっとも、ぼくは同い年なので、リアルタイムのアイドルだったイメージが強くて、イマイチ評価が甘くなるんですけど。まったく早見優を知らない人からしたら、「なんだこりゃ」という演技かもしれません。

映画としては、ポイントはただ二つ。三人の若者の青春ストーリーという側面と、プロジェクトX、零戦版の側面です。前者は、ジャニーズの映画を多く手がけた舛田監督が得意とするところ。後者は笠原和夫という脚本家の得意とするところ。結果、それぞれの、持ち味がうまく出て、良かったんじゃないかなあ、と思うんですが。

ちなみに、浜田のお母さんが、鉄橋下の川で遊んでいる子供を見て、涙するシーン。これは笠原和夫が、実際に杉田さんのお母さんに会って聞いた実話だそうです。しかし、舛田監督は、お葬式でお母さんに泣かせてしまった。そうじゃない、それじゃダメなんだ。葬式からしばらくして、ふっと無心に遊ぶ子供たちを見て、泣くのがキモなんだと笠原和夫は怒っています。その著書で「本当にお前はバカか」と舛田監督に言ったとまで、書いています。一方、舛田監督の本では、わざわざ、そのことに触れ、「でも、そんな話は本人からは、いっぺんも聞いたことなかったけどね」だそうです。

まあ、娯楽映画の巨匠と、脚本界の大御所。言ってることは、正反対ですが、これでいいんだと思います。とにもかくにも、それだけアツクなるくらい、映画が好きだという証明ですから。







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【映画】何故彼女等はそうなったか

2008-10-27 | 邦画 な行
【「何故彼女等はそうなったか」清水宏 1956】を観ました



おはなし
四国のあるお城の近くにある「少女の家」では、生徒たちの更生を願って、小田先生(香川京子)が日々奮闘中。しかし、世間の無理解から……。

協力に丸亀市がクレジットされていますので、この映画のモデルになったのは、「丸亀少女の家」だと思われます。現在も国立女子少年院9つのうちの一つとして、残っているそうです。

お城が映ります。そして、カメラが下がっていくと、そこにはバレーボールをしている女の子たち。小田先生(香川京子)の声でナレーションが始まります。

「ここに収容されている女の子たちは、終戦後の混乱が産んだ、それぞれ悪い癖を持った女の子ばかりです。盗癖のある子。嘘をつく癖のある子。覚せい剤常習の子。放浪癖のある子。賭博や放火の癖のある子。まだ、他にも売春行為を……。もう洗いたてるのはやめましょう。生まれながらにして、この子たちがそうであったのではないから。」

カメラはグングンと動いていきます。バレーボールをしている女の子たちから、やがて建物の中に。こじんまりとしているものの、清潔な建物です。カメラが教室に入っていくと、そこにはたくさんの少女たち。

「ここでの生活は、午前中はそれぞれの程度に応じて学習をさせておりますが、中にはぜんぜん勉強をしたがらない子もおります。午後は手内職をさせておりますが、ここの子供たちは、まだ本当に笑うということを知りません。それで、オカメの面の絵付けの仕事を貰ってきたのは、せめて、この子供たちがオカメの笑いにあやかるようにという、親心でもあったのです」

「少女の家」に、新しい生徒がやってきました。畑弘子(中村雅子)といって、放浪癖のある子のようです。家はお金持ち。両親もそろっているのに、どうして。そう訝しがる園長先生(高橋豊子)と、小田先生ですが、何はともあれ、この子にも早く学園に馴染んでもらわなければなりません。

しかし、心配していたとおり、早速問題がおきました。弘子の高飛車な態度に、同室の米子(三重明子)がキレたのです。取っ組み合いの喧嘩を始める二人。慌てて止めに入った小田先生は、弘子に優しく言うのです。「ほら、怖い顔してるでしょ。笑ってごらんなさい」。ニッと笑ってみる弘子。でも口角が歪むだけで、なかなかうまく笑えません。何回か繰り返すうちに、ようやく少女らしい笑みを浮かべることのできた弘子に、小田先生は言うのです。「ほら、かわいい顔になったでしょ。ねっ」。思わず、小田先生に抱きつく弘子でした。

夜、小田先生の部屋に忍んでいった弘子。ビックリして起きた小田先生に「あたし、先生好きっ」と言って、弘子は布団にもぐりこんできました。添い寝をして、優しく肩をたたいてあげる小田先生。やがて落ち着いた弘子は、ポツリと言うのです。「あたし、お妾の子なの」「産んでくれたお母さん、生きているのか、死んでいるのか、誰も教えてくれないの。あたし、本当のお母さんに逢いたい」。しばらくして、落ち着いた弘子は部屋に戻っていきます。しかし、その後には、クシャクシャになったタバコの箱が落ちていたのです。小田先生は辛そうに眉を顰めるのです。

翌日、二人の少女が歩いています。一人は弘子。そして、もう一人は君子(三ツ矢歌子)です。「どこまでいくの」「いいんだよ」。お城へと続く道を登っていく二人。「あんた、夕べどこ行ってたの」と君子に聞かれ、何も答えられない弘子。夜、部屋を出るのは規則違反ですし、なにより、小田先生に甘えていたなんて、恥ずかしくて言えません。「まあ、いいや。何も聞かないでおくから、タバコ出しな」。「そんなもの持ってないわ」とウソをつく弘子ですが、君子は一枚も二枚もうわて。弘子の手をグイッと握り、「ここヤニ焼けしてるじゃないの」と言うのです。「出さないの。出さないんだったら、夕べのことバラスわよ」。

部屋に戻り、タバコを探す弘子。でも、おっかしいな。確かにパジャマのポケットに入れておいたはずなのに。と、そこに「何してるの」と小田先生がやってきました。「弘ちゃんが何探しているか、私は知っているのよ。このパジャマのポケットに入っていたものでしょ」。思わず俯いてしまった弘子は、「先生、ごめんなさい」と走り出してしまうのです。やれやれ。おやっ。何の気なしに押入れを見た小田先生は、そこに夏みかんの食べ残しがあるのを見つけました。これは、同室の米子(ヨネちゃん)が食べていたんでは。ということは、もしかして。

「ヨネちゃん、ちょっと」。しかし小田先生の質問に、ヨネちゃんは何も答えようとはしませんでした。園長先生に相談する小田先生。「これが、押入れから出てきたんです。園長先生が言ってらしたように、やっぱりそうだと思うんですけど」「本人は何て言ってるの」「何でもありませんって、言ってるんですけど……」。

また、書類が映し出されました。氏名は宮井トミ子。性質、凶暴性あり。放浪中窃盗三件。ちょっと凄そうな経歴ですね。しかし、出てきたトミ子(藤木の実)を見れば、とても大人しそうな女の子。どうして、こんな子が、といった雰囲気をかもし出しています。実はトミ子の実家から、お父さんが病気だという連絡が来て、園長先生と小田先生は一時退院を認めるかどうか話し合っていたのですが、成績も優秀だし、退院を認めることにしたのです。とは言え、「いい、お母さんに逆らっちゃダメよ」「いい、分かった。悪い癖出しちゃダメよ」と、口々に言う小田先生と園長先生。いくら成績がよくても、外の世界に出すとなると、心配でたまりません。

案の定、明朗快活だったトミ子は、家に近づくにつれ、口数が少なくなってきました。近所のおばさんたちの冷たい視線が、トミ子に刺さるようです。そして、引率の小田先生が挨拶をして帰ってしまうと、お母さんの態度も一変しました。「帰ってくるなら帰ってくるで、前もって知らせてくれたら、奉公先探しといたんだよ。突然、家に帰ってきて」。さらには、お父さんにも「あんた、病気だなんて手紙出すもんだから」とあたっています。「お母さん、あたしいい子になって帰ってきたのよ。これからはお母さんの言うこと何でも聞くわ。ウソもつかないし、悪いこともしないわ。だから、うちに置いてください」とトミ子は懸命に訴えますが、お母さんは完全無視です。「ね、お父さんからもお願いして」と、トミ子がお父さんに頼んでも、お父さんもやっぱり困った顔で無視。トミ子は居たたまれなくなり、家を飛び出すのでした。

繁華街でウロウロしているトミ子に、「あら、トミちゃんじゃないの。どうしたの。あんたも、あそこズラかっちゃったの」と声をかけてきたのは、「少女の家」を脱走していた秋枝。意気投合した二人は、大阪に出ることにしますが……。

「はい、そうです。えっ、宮井トミ子が」と受話器を握って絶句している小田先生。「すぐに迎えに参りますから」と、慌てて警察に向かいます。と、そこには、トミ子のみならず、秋枝までもが補導されていたのです。泣きじゃくるトミ子に、小田先生だって泣きたい気分です。

少女たちは、オカメのお面に絵付けの作業中。と、いきなり秋枝と弘子が喧嘩を始めました。新入りの割りに態度の大きい弘子と、補導されて戻された秋枝とでは、やはり水と油だったようです。「秋ちゃん、やれやれ。私も手伝うよ」「私も手伝う」と少女たちははやし立てます。タバコをもらえなかった君子まで、「そうよ、ちょっとお灸すえてやらないと、癖になるからね」と言い出し、なんだか一触即発な雰囲気。と、そこに一人の少女が「みんな、みんな、素晴らしくいい話よ」と教室に飛び込んできました。聞けば、町のうちわ屋さんが人手不足のため、「少女の家」から二人ほど住み込みで採用したいと言ってきたそうなのです。ここを出て、外で働ける。うわーい。みんな喜んで飛び出して行きました。

跡に残された格好の、弘子や秋枝、そして君子たち。一番の古株の君子は、成績が悪いので、とても出してはもらえないでしょう。なんだか、みんなショボンとして、喧嘩する気分じゃなくなってしまいました。

結局、成績順ということで、あやちゃんととしちゃんが、うちわ作りに行くことになりました。みんなの代表、ということで、意気揚々と出かけていきます。しかし、行ってみると、ベテランのオバサンたちはイヤな顔。「いくら忙しいからって、私ら、あの子たちと一緒に仕事するのゴメンですよ」。小田先生が「学園でもいちばん成績のいい子たちを連れてきましたし、けして皆さんにご迷惑をおかけしませんから、どうか一緒に働かせてやってください」と頭を下げても、聞こうともしません。頭を下げ続ける小田先生を無視して、ひとり、また一人と作業場を出て行ってしまうのです。

トボトボと歩く二人の生徒と小田先生。「世の中なんていうのは、こういうものよ。でも、こんなことに負けちゃダメよ」と小田先生は二人に言いますが、多分、自分自身にも言い聞かせているんでしょうね。

女の子たちは、すっかり萎縮してしまいました。かつてなら奪い合いになっただろう、美容院の住み込みという仕事も、一人断わり、二人断わりします。そして、成績が三番目の千代(池内淳子)に、君子は聞きます。「成績の順からいうと、今度は千代ちゃんの番よ。千代ちゃん行く?」。「あたし、お母さん、体弱いし、弟や妹もおおぜいいるし、うちへ帰って勤め(に)出たいわ。それに、勤め口が見つかったらお母さんが迎えに来てくれることになってるの」。

と、そんな会話を聞いていて、ハッとしたのは清子。ってことは、勤め口があって、家族が迎えにくれば、ここを出られるのね。早速、清子は手紙を書き出しました。「おばさんだと言って、迎えにきてください」。いったい、誰に手紙を書いているんでしょうね。

「私、こちらにご厄介になっている田中清子のオバでございます」と挨拶をしている女(浪花千栄子)。なんか、舌が調子よく回りすぎで、いかにも胡散臭い感じですが、人の善意を疑わない園長先生と小田先生は、コロっと騙されてしまいました。それというのも、この女は赤線の女将。かつて働かせていた清子を受け取りにきたのです。「あんた、何でもっと早う、手紙くれへなんだ。しょーもない。あんなとこ入ってしもてからに」「だけどね、女将さん。あたし、これでもマトモな女になろうと思ったのよ」「ハハッ。あほくさ」。

ヨネちゃーん、ヨネちゃーん。生徒たちは、懐中電灯を片手に、いなくなった米子を探しています。小田先生は、荷物のチェック。着物も荷物も、そして履物もあるので、遠くにいったはずはないんですが。と、ひとりの生徒が、「先生、先生。物置小屋でうめき声がします」と走りこんできました。行ってみると、確かに米子が物置小屋にくずおれて、苦しんでいるではありませんか。「誰かお産婆さんに電話かけて。園長先生、呼んでちょうだい」と、いつになく厳しい調子の小田先生です。

どんどん陣痛が激しくなっていきます。お産婆さんは、まだ来る様子がありません。固唾を飲んで、見守っている生徒たち。その顔に浮かぶ表情は、新しい生命に対する畏怖の感情でしょうか。それとも、明日、自分をも襲うかもしれない運命への恐怖なのでしょうか。

「オギャア」。赤ん坊の泣き声が響くと同時に、「ばんざーい」「ばんざーい」と叫びだす生徒たち。赤ん坊の誕生は、米子はもちろん、他の生徒たちも変えていくかもしれません。

「さよーならー」「さよーならぁ」。お母さんに迎えに来てもらった千代は、園を出て行きます。仲間が手を振っているのを、ちょっと恥ずかしそうに見た千代は、それでもニッコリとうれしそうにバスに乗り込むのでした。しかし、帰ってみてビックリ。新しい勤め口というのは、赤線にある娼家だったのです。3万円を、目の前に積み上げている女将。「お母さんっ。お母さん、あたしすぐ勤め口を探して働くから。うちへおいてちょうだい。どんな辛い仕事でも、どんな苦しい仕事でもするから、うちへ置いて。ねっ、お母さん」。しかし、「でもねえ」と曖昧な返事をしたお母さんは、結局、女将の出した契約書にハンコを押してしまうのです。

小田先生に連れられ、町まで遠足にいく生徒たち。好奇の視線がぶつけられますが、生徒たちは、それよりなにより、久しぶりに見る町の風景に興奮しているようです。と、弘子が小田先生に言い出します。「先生。今そこでちょっと見たんだけど、千代ちゃんらしかった」。しかし、その千代は、どうも普通の仕事をしているような格好ではなかったと言うのです。顔色が変わった小田先生は走り出します。「千代ちゃんっ」。それを見て、逃げ出す千代。追いつ追われつしているうちに、千代は赤線の中にある一件の娼家に逃げ込みました。それを追って、娼家に入った小田先生はビックリ。おばさんに連れられ園を出たはずの清子までいるじゃありませんか。なつかしいオカメの面をかぶって、「お面、とっちゃイヤ」と泣いている千代。「千代ちゃん、帰りましょ」。そんな小田先生の言葉に、女将が出てきて言い返します。「この子にはスゴイお金がかかってまんねん」。そのお金を先生が出してくれはるんですか。何も言い返せない小田先生は、泣いている千代を残して去っていくのです。

ハンカチで鼻をすすりながら、生徒たちを引率している小田先生の姿は寂しそうです。小田先生の独白が聞こえます。「いったい、こうした女の子たちをどうしたらいいでしょうか。世の中の暖かい協力がなくしては、増えるばかりではないでしょうか。みなさん、どうか、この子たちを温かい手で抱いてやってください」。小田先生と生徒たちは、トボトボと歩き去っていきます。


出演した少女たちは、新東宝の若い女優さんたち。裏バン的な三ツ矢歌子(ピッタリ)、薄幸な池内淳子。それに台詞はほとんどありませんが、三ツ矢歌子と同じ第4期スターレットの原知佐子や北沢典子さんも出ていました。

しかし、何より良かったのは、香川京子。どこまでも優しく、気高く、そしてひたむきな先生を演じています。そして、プラスして無条件にキレイ。いや、清楚な美人というのは、こういうことかと、シミジミ思います。多分、この映画を観た人は、自分が小学校の時、こんな先生が担任だったらなあ、と思っちゃうんじゃないかと思います。というか、自分はそうでした。

監督は、児童映画に定評のある清水宏監督。さすがに清水監督だけあって、とても実写的かつ直球勝負な映画でした。更生を誓う少女たちへの、世の中の無理解と妨害を告発し、テライも気取りもなく、「この子たちを温かい手で抱いてやってください」と訴えかける姿勢は、とても好感が持てます。

もちろん、そこに「洗練」はないかもしれません。でも、どんなすごいテクニックよりも、熱い魂のこもった映画は、それだけで心打たれるものを感じます。







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無事、研修が終りました

2008-10-25 | お知らせ・お詫び
なんていうか、ツライ三日間でしたよ。いかに日ごろ、自堕落なサラリーマン生活を送っていたのかをシミジミ思い知ってしまいました。
研修は、基本的に座学などはなく、ひたすら実践的なものばかり。
部下のつきあげをくらって、和を乱す部下を説得するハメになったプロジェクトリーダーとしての、面接演習。
合併後も、もともとの2社の社員が対立を繰り返している会社の、新任営業所長として、部下を鼓舞する演説を行わなければいけないプレゼン演習。
前任課長が病気休職になって、もうグッチャングッチャンになっている営業所を、建て直さなければならない新任課長としての、意思決定演習。

などなど、本職の管理職だってイヤんなっちゃいそうな、危機的状況のオンパレードです。それを、まず膨大な資料を元に、各拠点の営業成績や経費の使用状況、さらには部下たちの細かいプロフィールなどを検討。改善計画を作っていかなくちゃならないんですが、なんていうか時間が少なすぎです。2時間、3時間はあっというまに過ぎていき、気づけばプレゼンの時間が迫っている。うわーん。さらに、資料を読み込むと、ある社員の不正が書類の背後から浮かび上がってきたりして、ほとんど火サスとか土ワイな展開がっ!

さらに各プレゼンなり面接はビデオに撮られていまして、後からみんなで、ソレの鑑賞大会。当然、各参加メンバーのそれを批評というか、突っ込み合いをするという、これまたツライ展開。なんていうか、瞬間たりと気の抜けない三日間でした。しばらく、こんな研修はイイや。もう、お腹一杯です。

ゆうさん、コメントありがとうございました。
>私など図々しく質問して嫌がられてます
ぼくは、基本的に質問とかしない方ですが、この研修は別です。江戸の敵を長崎で討つ、というか、さっき突っ込まれた報復を質問攻めでやり返すみたいな。ホント、メンバー同志があとで憎み合うんじゃないかと思うほど、ギスギスした展開で、胃が痛くなりました。

takeoさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
>ってこれをお読みになる頃には、クタクタかと思いますが
はい、クタクタでした。というか、グッタリ。三日間で、真っ白に燃え尽きました。ところで、サイト拝見しました。個人で、あんなにスゴイ星の写真が撮れるとは思いもよりませんでした。こういう言い方もヘンかもしれませんが、夢のある趣味だなあと憧れました。

シャケ師匠、コメントありがとうございました。
>明日はどっちだ、いくらおにぎり、って感じ。
明日が見えない三日間でした。レインボーマンのように、ヨガの眠りに入って、人事不省のまま過ごせたら良かったんですが。もっとも、気づけば競争心を煽られて、研修にのめり込んでいるところなんか、丸っきり日本のサラリーマンなんですけどね。

ねぎろんさん、コメントありがとうございました。
>岸田今日子はもう亡くなっているので襲ってこないと思うけど、田中邦衛はわからないヨ~。
イヤなことを言わないでくださいよ。本当になっちゃったじゃないですか(笑)

自分のプレゼンなりをビデオで見るのは、とてもツライものがあります。例えば、録音した自分の声を聞くのだって違和感アリアリですよね。その上、映像まで。ところで、セルフイメージというか、自分で思い描く自分の姿(想像)って、割と若いころのまま固定化しているような気がします。しかし、あらためてビデオで見ると、なんだか「ヘンなおっさん」がそこにいるじゃありませんか。えー、自分って、こんなにオッサンだったんだ、と軽い衝撃を受けつつ、なんだか、誰かに似ているような気がしてきたんです。うーん。うーん。ハッ! こ、これは田中邦衛だ。なんだか、プレゼンしている自分の姿が田中邦衛に見えました。えーと、これはネタじゃありません。本気でそう思いました、そして軽くウツになりました。やっぱり、田中邦衛に襲われたみたいです。
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うわーん

2008-10-21 | お知らせ・お詫び
明日から三日間、研修です。そのため、次回の更新は(多分)土曜日になりますので、ご了承ください。
というか、本気で行きたくない。人見知りなうえに、そういった研修の場では、緊張して何も話せなくなるので、明日からの三日間は、まさに「地獄」な感じです。もっとも、岸田今日子や田中邦衛とかは襲ってこないと信じたいですが。
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【映画】地獄(1979)

2008-10-20 | 邦画 さ行
【「地獄」神代辰巳 1979】を観ました



おはなし
姦通の罪で地獄に堕ちたミホ(原田美枝子)の娘、アキ(原田美枝子)。彼女もまた、近親相姦の罪で地獄に真っ逆さま。

「地獄」というと、中川信夫監督版、石井輝男監督版も存在するわけですが、なんていうか、そのテーマが映画監督のイマジネーションを怪しく刺激しちゃうんでしょうか。とにかく、全開バリバリな怒涛の展開に、唖然とするばかりです。

「人はいつか死なねばならぬ。死に至るまでに多くの罪を犯す。法の裁きは仮の罰となる。死後の世界そのものが、真の刑罰として存在するのではないかと、人々は何千年もの長きにわたって夢想してきた。それが地獄である。地獄は恐怖の夢である。人は今も地獄を道連れにして生きているのだ」。地獄絵を映し出しつつ、そんなナレーションが語られます。語っているのは、天本英世。って、その段階で怖いんですけど。

「昭和30年」、山崎ハコの歌をバックに、手に手を取って逃げている二人の男女が映し出されました。お腹の大きな女は生形ミホ(原田美枝子)。そして男は生形竜造(西田健)です。ミホにとって竜造はダンナのお兄さん。つまり、二人は不倫の果てに子供ができてしまい、こうして道無き道を逃げているのです。

「あの人が追ってくる。殺される、私たち」と心配するミホに、「大丈夫だよ。誰も山越えなんかすると思っちゃいない」と宥めすかして、山小屋に逃げ込んだ竜造。しかし、全然、大丈夫じゃなかったようです。いきなり踊りこんできた雲平(田中邦衛)が猟銃をぶっ放し、さらには猟銃を棍棒代わりに竜造をボッコボコ。哀れ、竜造は撲殺されてしまうのでした。ひぃー。小屋を逃げ出したミホですが、いきなり獣罠(トラバサミ)に足をバックリと挟まれてしまいました。なにしろ、大型のトラバサミは人の足の骨だってくだいてしまうくらい強力ですからね。これは痛い。ついでに追いかけてきた雲平に腹を足蹴にされ、これまた痛い。「腹の子は兄貴の胤だ」と腹をグリグリされたミホは、そのまま雲平に見捨てられ、野垂れ死にを待つしかないようです。

家に戻った雲平は、竜造の妻のシマ(岸田今日子)に報告です。「ミホは獣罠にかかったまま死にかけてる。朝まで持つまい」。しかし、「殺さなかったの」とシマは不満げ。早速、死にかけてるミホを見物に出かけます。いるいる。ミホが死にかけてます。「許して、子供だけは」と哀願するミホに、「地獄で産めばいい」と悪態をついたシマは嬉しそうに去っていくのでした。

ここからが最初の驚愕シーン。「ミホさんがいたぞー」「見つかったぞー」。ワラワラと村人たちがやってきました。時既に遅し。ミホはすでに死んでいるようです。しかし、股がぐぐぅっと開き、羊水があふれ出し、赤ん坊が股間からせり出してきました。オンギャア。そして、赤ん坊を残したまま、ミホの死体がスルスルと滑り出しましたよ。それも坂の上の方に。そのままミホの死体は断崖絶壁からジャーンプ。まるで、鳴門の渦潮みたいなところに、ドンドンと落ちていくのです。

はい、ここは地獄です。正確に言うと、三途の川と賽の河原なので、まだ冥途になりますけどね。そこには、懸衣翁(浜村純)と懸衣嫗(毛利菊枝)が、ミホを待ち構えていました。衣領樹という、罪の重さを測る樹に、ミホの着物を引っかけてみます。ぐぃー。うわっ、思いっきりしなっていますよ。うわーん。これだけ衣が重いと、ミホの地獄行きは間違い無さそうですよ。ぽわわーん。空のスクリーンに、現世の光景が映し出されました。ミホに懸衣翁が言います。「生まれながらに地獄を背負った赤子の生き様、見届けるのだっ」。

ということで、赤ちゃんは、村人の手によって、生形の屋敷に運ばれました。「まさか、死人から子供が生まれるなんて」と愕然としているシマ。シマの幼い二人の息子は、母の愕然っぷりをよそに、突然の妹出現に大喜びです。え、雲平ですか。雲平は「似てる。ミホに似てる」と言いながら、横でゲロを吐いていますよ。しかし、連れてこられた以上、いりません、とは言えずに赤ん坊を引き取るシマ。しかし、見れば見るほどムカツキます。赤ん坊のお尻にある、赤い牡丹の痣も気に入りません。いっそ、このまま風呂に沈めてやろうかしら。そぉーっと。と、いきなり風呂の窓から使用人の山尾(加藤嘉)が顔を出しました。「いけません、奥様。それでなくても村の連中は奥様が赤ん坊をどんな具合に育てるか、面白がって見物してるんだ。その赤ん坊が風呂の中で溺れ死んだりしたら、みんな何て言いますかね」。この山尾というのは、とても気の利く召使というか、悪人なので、背中の駕籠に、ちゃんと身代わり用の赤ん坊を運んできていたのです。持つべきものは、加藤嘉ですね、まったく。じゃあ、赤ん坊をすりかえて、ミホの子供はどこかに捨てておきましょう。

「20年後」。いきなりですが、ここは鈴鹿サーキット。今しもフォーミュラ選手権が始まろうとしています。ここに出場するのは、水沼アキ(原田美枝子 二役)や、生形松男(石橋蓮司)といった面々。もちろん、もうお分かりですよね。アキは、ミホの子供が大きくなったもの。松男は、シマの息子のお兄さんの方です。さあ、因縁の対決、いったいどうなるでしょうか。ブオンブオン。排気音が高まり、レース開始。周回遅れのアキのマシンに、「どけえ。一周遅れ」と怒鳴り、抜きにかかる松男のマシン。しかし、その時、どこからか「アキィ。アキィー」と不気味な声が響いたかと思うと、いきなり白い霧が立ち込めてきちゃいましたよ。あっ、デカいミホが登場しました。その上、アキのマシンのノーズに、(多分)ミホの生首がチョコンと乗っています。うわーん。接触したアキの松男のマシンは、そのまま爆発するのでした。それも、かなりいいイキオイの大爆破です。

事故のショックを癒すために、ローカル線に乗って、センチメンタルジャーニーなんかしちゃっているアキ。しかし、デッキで外を見ていたところ、いきなり「アキィ。アキィー」と不気味な声が再び聞こえてきましたよ。ガタン。いきなりドアが開いて、外に転げ落ちそうになるアキ。ウギャーッ。しかし、捨てる神あれば拾う神があるもので、列車にぶらさがって絶叫するアキの声を聞いたハンサムな青年が走ってきて、落ちそうになっているアキを救ってくれたのでした。

行く当てのないアキを、自分の出身地に誘ってくれたハンサム青年。名前を生形幸男(林隆三)と言います。もちろん、シマの息子で、松男の弟だったりするのは、言うまでもありません。

都会での生活に疲れ生形村に戻ってきた幸男を、喜んで迎えるシマですが、連れてきた娘の顔を見てビックリ。まるでミホに生き写しじゃありませんか。まあ、一人二役だから当然ですけどね。その上、幸男とアキはいきなりイチャついているので、怒りすら覚えちゃいます。ど、どういうこと。早速、入浴中のアキの裸をノゾキ見る、忠実な使用人の山尾。おお、あるある。お尻に見事な牡丹の形をした痣が。「説明して、どういうことなの」と山尾に食って掛かるシマ。「まさか、お前が呼んだんじゃないでしょうね」。「そんな。私は奥様のためを思って、赤ん坊を取り替えて、東京の養護施設に預けてきたんですぜ。しかも、こっちの身元も何も明かしちゃいねえんです」とベランメエな口を聞く山尾ですが、なんだろうなあ。ベランメエ口調で、やたらと風呂場を、あの黒目がちの目でウルウル覗いている加藤嘉っていうのが、とりあえずオカシクてたまらない気分です。

ま、加藤嘉の子犬のような目付きは横に置いて、シマはアキが村から出て行くように、山尾に命じました。「村には若い者が大勢います。精力を持て余した若い男がね」と言って、ニヤリと笑う山尾。うーん、やっぱり、加藤嘉には似合ってない。

さて、生形村の名物と言えば、笠卒塔婆と金輪。よく分かりませんけど、卒塔婆の真ん中に、鉄の回転する輪っかがついているものです。で、この金輪と呼ばれる鉄の輪っかを回して、そのまま止まれば良し、逆回転を始めると、その人は地獄に落ちるそうなのです。なんか、よく分からないけど怖いですねえ。ぞろりとした母の形見の着物を着て、墓場に行き、その金輪の回転にチャレンジしてみるアキ。止めとけばいいのに。案の定、金輪は思いっきり逆回転です。ぎゃあー、と叫ぶアキ。ついでに地面までがグラグラ。うわっ、地震です。あれー。崖から落ちたアキは、たまたま首に巻いていた包帯で、宙ぶらりんになってしまうのです。首が絞まり、クラクラするアキ。鳴門の渦潮な地獄の入り口が見えてきちゃいましたよ。遥か下方の地獄では、針山地獄にいる母のミホが叫んでいます。「アキィー。私は雲平に殺されたのよぉー(ちょっと違う、見捨てられただけ)」「アキィー。私をこんな目に合わせたのはシマよぉー(いや、自業自得)」「アキィー。よくお聞き。お前は私の分も生きるのよぉー。私の恨みを受け継ぐのよー」。

はっ。気がつくとアキは、小屋に横たわっていました。横には大事故以来、久々に再会した松男が「大丈夫か。また会ったな」と心配しています。はあはあ。いきなり喘ぎ始めたアキは、「早く抱いて。骨が軋むほどに」と松男にむしゃぶりつくのです。いったい、何事が。

はっ。もう一回、目覚めたアキ。「どこなの」とか寝ぼけたことを言っていますよ。そして、自分の体の異変というか、情事の名残に気づいた様子です。「あたし、何てことを。あたし、どうしたんだろう」と言うアキに、「首つってたんだよ。ガケっぷちで」と極めて冷静な松男。とりあえず、「地すべりがして、地獄を見たんだわ」とアキは、自分の世界に没頭しちゃうのです。

そのまま松男につれられ、生形の屋敷に帰るアキ。幸男は、アキと松男の間になにかあったんじゃないかとイライラ。シマは、またも帰ってきたアキに、「汚い」と言い捨てムカムカ。そして、アキの代わりに娘として育てられた久美(栗田ひろみ)は、大好きなお兄ちゃん(幸男の方)がアキに取られそうでツンツンです。

そんな久美にアキは言い出しました。シマに借りていた着物がミホの形見だったこと。そして、袂に入っていたお守りを落としてしまったことをです。「お守りは久美さんが探してくださいね」。そう、あなたが本当にミホの「実の娘」なら、あなたがミホの着物を着て、ミホのお守りを探さなければならない。まあ、よく分からないリクツですが、負けじ魂で、着物を着て出かける久美。しかし、そこには山尾こと加藤嘉が手配した、村の「精力を持て余した若い男」たちが、精力マックスで待ち構えていたのです。わっしょい、わっしょい。顔に布切れをかぶせ、お神輿のように久美を担いでいって、レイプする村の精力あふれる若い男たち。かわいそうに、さっきまでアキが着ていた着物で出歩いたため、久美はズタボロにされてしまうのでした。ちょっと、展開が強引すぎるような気が、しないでもないんですけど。

廃人のようになった久美の頭をナデながら、「久美はうちの子よ。赤ん坊の時から育てた娘なのよ。百倍にして、あの女に返してやるわ」と気合を入れているシマ。さあ、だんだん怖くなってきましたね。

さて、タタリを恐れて、人里離れたところにポツンと一つだけ建てられたミホのお墓。そこに、アキはやってきました。おっと、たまたま通りがかった尼さん(佐藤友美 特別出演)が、「ミホさんのお墓です」とか、案内を始めましたよ。それを聞いて、卒塔婆についた金輪をそっと回してみるアキ。「信じておいでですか。カネの輪を回して、止まれば極楽。もし逆に回ったら地獄」と尼さんが言っている側から、ものすごいイキオイで逆回転を始める金輪。止めようとしたアキの手から血しぶきが飛ぶほどのイキオイです。ごごー。

思わず、ちょっとビビル尼さん。アキが言い出しました。「私には地獄が見えるんです。血のつながった兄を愛して、愛してもいない別の兄と、男と女の交わりをしたり。地獄に落ちないんですか。地獄に落ちないんですかああああぁぁぁぁー」。そのあまりの迫力に、完全にビビって、尼さんはスタコラ逃げ出しちゃいました。「分かったわ、母さん」と言いつつ、猛回転する金輪をパシッと止めたアキ。「救いなんて、ありゃしないってことが」。

開き直ったアキは、幸男を誘うことにしました。イヤイヤと言いつつ横たわれば、あっけないほど簡単に、幸男は欲情しちゃったみたいです。と、そこに久美が棍棒を持って乱入。ドカスカ。二人を殴り始めましたよ。もう、完全に瞳孔が開ききっています。「殺してやる、殺してやる」と殴りかかってくる久美に、さすがに辟易した二人は川に逃げ出し、そこでイチャイチャ。さらに、カットが変わると、いきなり滝つぼで、裸になって抱き合っていたりするのです。しかし、そんな二人を、遠くからグワーッと久美が睨んでいたりするので、物騒でしかたありません。とりあえず、「久美さんが見てる。今夜来てっ。離れで。約束して」と幸男と約束をして、アキはその場を去るのでした。

さて、シマに呼び出されたアキは、蔵に出かけました。「ミホさんの形見を見せてあげようと思って」と三味線を取り出すシマ。「ミホさん、温泉を流れて歩く女芸人でね。この辺にやってきたのは、あなたの生まれる三年前」と語りだすシマ。アキの写真を見せつつ、罵詈雑言の嵐です。思わず髪を掻き毟りながら、それを聞いているアキ。「母親だけ見せたんじゃ不公平ね。父親も見せてあげなくちゃね」と言って、床下をあけるシマ。なんと、床下には大きな地下室があるじゃありませんか。とりゃっ。アキを突き落とすシマ。「竜造は?父親はどこっ」「そこよ」。ふぎゃー。なんと、そこにはミイラ化した竜造がいるのでした。「体の中は防腐剤でいっぱーい。だけど、こうしておけば、いつまでたっても、私だけの竜造。もう浮気も駆落ちもできやしない」と言いながら、クスクス笑い出したシマは、三味線を地下室に投げ捨てるのでした。岸田今日子ちょっと怖すぎ。

一方、約束の時間になっても離れにやってこないアキを、ぼけーっと待っている幸男。と、そこに松男がやってきました。寝転がっている幸男にまたがり、「どこが気に入ったんだよ。体か」と、腰をグラインドしたりしてますよ。さすがに石橋蓮司に、そんなことされても嬉しくともなんともないので、パンチを繰り出す幸男。そのまま、拳と拳で語り合う兄弟げんかの始まりです。ドカッ。ボコッ。バシッ。あ、シマがやってきて、絶叫しています。「やめなさい。やめて、久美がかえってこないのよー」。「匂う、匂う」と言うシマにくっ付いていく兄弟二人。陶芸用の窯にやってきた三人は、ドッカン、ドッカンと窯を壊し始めます。あ、いました。久美がいました。と、その瞬間、ズゴーッと久美は燃え上がるのです。どうしてなんて、聞かないでくださいね。

地下室のアキは三味線を弾いています。「母さん、不思議だわ。あたしにも三味線が弾ける」。ついでに歌い始めます。「この歌、なにっ?」「地獄が呼んでるの?」と、デンパな発言を繰り返していたアキですが、ふと気づくとミイラが泣いていますよ。メキメキ。おや、ミイラが急速に白骨化しはじめ、あわせるように壁が崩れてきましたよ。ドカーン。なんと、ミイラの奥には、どこまでも広がる地下道が続いているじゃありませんか。もう好きにして。穴から洞窟に入ったアキは三味線を弾きながら歩きます。「地獄に行く道なの。うがあ」。しかし、それは地獄への道ではなかったようで、気づけば古井戸の真下に出ていました。「助けて、誰か助けてぇ」。「誰かいるのか。アキじゃねえか」と答えたのは雲平。そう、竜造を殺した雲平です。

なんか、いきなりキレイな着物に着替えて、雲平と座敷に座っているアキ。もう、さっぱり分かりません。ともあれ、そこで雲平はアキに欲情しました。「殺してぇなあ。抱きてぇなあ」とアキにのしかかる雲平。しかし、そこに「アキィ。アキィー」と不気味な声が響き、力を貰ったアキは、三味線のバチを横一閃するのでした。バシュッ。両目を切り裂かれる雲平。しかし、欲情しているので、ゾンビのようにアキに迫ってきますよ。ボロン。ボロン。三味線を弾きながら後ずさりをするアキ。ボロン。ボロロン。いつのまにか、三味線だけがズルズル、ズルズルと進み、それを追っていった雲平は、ガケから真っ逆さまに転げ落ちるのでした。

久美の葬式に、雲平の死体が担ぎこまれました。そして、三味線の音がボロロン。「ミホっ」と呟きつつ、フラフラ歩き始めるシマ。そのまま蔵に行き、「まだ生きてたのね、ミホっ」と階段を降ろして地下室に降りていきます。見れば、夫のミイラは白骨化しています。ズゴゴ。いきなり地震が起きて洞窟が埋まりました。そして、頼みの階段も上に、引き上げられてしまいます。ボロロン。ボロロン。地下室を見下ろしているのは、ミホじゃなくて三味線片手のアキ。「あなたが瀕死のミホを見殺しにしたように、私もあなたを見殺しにする」ボロロン。「負けない。あなたには絶対、負けないっ」と夫の頭蓋骨を抱きしめて叫ぶシマ。「地獄で待ってるわ」というシマに、アキも負けじと言い返します。「そうよ、ミホが地獄で待ってるわ。私はあなたを、そこへ送る案内人なのよ。ミホの恨みの落とし子なのよ。私はあなたをミホと同じ苦しみを味あわせるために生まれてきたのよ。私はミホなのよ。死ねばいい。死んで地獄に行けばいい。死んでしまえばいい。死ねーっ。死んでしまえーっ」。髪を振り乱しているアキ。「あたしはどこにもいなくて、ミホだけがここにいるのよ。死ね。死んでしまえ。死ね。死んでしまえーーーーーーーっ」。こ、怖い。

幸男と逃げ出したアキ。岩場だらけの荒野をひたすら歩みます。そして、それを松男たちが追ってきました。やめましょうよ、と説得する山尾こと加藤嘉を猟銃でボコボコに殴り殺して、気勢を上げた松男は、ドッカンドッカン、猟銃を乱射しはじめましたよ。目の前には、いかにも危なっかしげな岩の塊。ズゴゴゴ。ほら、言わんこっちゃない。松男たちはみるみるうちに岩に体を潰され、一人、また一人と息絶えていきのでした。

さて、どうにか危機を脱した幸男とアキは、岩場に張り付くように建っている、これまたイカニモな小屋に入りました。止めておけばいいのに、そこで愛し合いはじめる二人。ズモモモモ。うわっ、小屋が、小屋が。山を滑ってる。「落ちていく」「いいの、いいの、殺してぇ、いやああああ」と絶叫するアキ。もう、小屋はなんだか尋常じゃないスピードで地面に落下していくのでした。

はい、鳴門の渦潮を抜けて地獄にやってきたアキ。ここからは、いよいよお楽しみの地獄めぐりの始まり。とりあえずアキは閻魔大王(金子信雄)に、どんなヒドイ地獄に落とされてもいいから、ひと目だけでもお母さんに会いたい、とお願いをしてみたところ、OKをもらえました。ということで、茶吉尼天(天本英世)を案内人に歩きだすアキ。石臼で、グチャグチャにミンチにされているシマや山尾がいます。幻のアキを求めて、体をズタズタに切り裂かれつつ木登りをしている幸男、松男、そして竜造、雲平兄弟もいます。さらに進む、アキと茶吉尼天。「やっと着いた。ここがお前の母の地獄。そこだ」。おお、確かに、そこにはケモノと化したミホがいるじゃありませんか。角が生えているけど、どちからというと、ミュージカル「キャッツ」っぽいです。

「これが地獄だ。ひと目会いたいと願った母親は、もはやわが子の判別さえつかぬ。ただのエサにしか思えぬのだ。戦え、さもないと餌食にされるぞ」と言って、剣をくれる茶吉尼天。しかし、アキは母と戦う気はありません。「お母さん」、返事の代わりにパクッと噛まれるアキ。「声を出すな。戦え」と茶吉尼天が言うと、ミホがアキをさらにパクッ。そう、地獄では声を出しちゃいけないお約束みたいなのです。そんなことを無視して、「お母さん」と絶叫するアキ。何てことでしょう。アキの足が木になっていくじゃありませんか。見る見るうちに一本の桜の木になってしまうアキ。うごー、うごー。ケモノ化したミホが、桜の木に体当たりをかまします。うごー、ドカン。うごー、ドカン。ペキッ、ペキペキッ。木が割れて、そこからまばゆい光がほとばしります。やがて、その光は全てを覆いつくし……

どこかの、陽光降り注ぐ海岸。生まれたばかりの赤ん坊が砂浜で泣いています。オギャー、オギャー。お尻には赤い牡丹の痣が。「あきーーーぃ」とどこかから声が聞こえます。


まあですね、ムリヤリまとめれば、男と女の愛の行き着くところは地獄。そして、親子の愛の究極は天国に通じるとか、言えないこともないと思うんですよ。でもね、それはあくまで比喩的な話であって、閻魔大王がいらないような気もします。ということで、やっぱり、この映画はなにかトンデモないものを観てしまった、という満足感に浸るのがよろしいんじゃないでしょうか。なにしろ、矢島信男のチープでいながら、ツボをおさえた特撮は、一見の価値がありますしね。

それにしても、原田美枝子ですよ。ダメな母と、その犠牲になった娘。それを一人二役で演じるというのが凄い。まんま平山秀幸監督の「愛を乞うひと」そのまんまですから。「愛を乞うひと」はぼくにとって、お気に入りを越えた、本当に感動に心震えた作品なんですが、その20年前に、こんなことやってたなんて。なかったことにしたい。観なかったことにしておきたい、そんな風に思ってしまいます。

もちろん、それは原田美枝子さんの名演技を汚したくないという意味からで、この映画の原田美枝子さんだって、怒涛の迷演技ではあるんですけどね。「愛を乞うひと」が、自陣から果敢に打ち込んだ、猛スピードのシュートだとすれば、この映画は、自分のゴールに向かって打ち込んだ猛スピードのシュートな感じです。壮烈な自爆点とでも言えばいいんでしょうか。いずれにしろ、原田美枝子さんが素晴らしいことには変わりないので、結果オーライということにしておきます。

ちなみに、岸田今日子、田中邦衛、石橋蓮司、加藤嘉などの助演も、ヘンな方向にピカピカ光っています。うーん、素晴らしい。







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【映画】若親分を消せ

2008-10-17 | 邦画 や~わ行
【「若親分を消せ」中西忠三 1967】を観ました



おはなし
出所した若親分を出迎えてくれたのは、亡きお父さんのお友達、三野のオヤブン。しかし、そのオヤブンが何ものかに殺され、復讐を誓った若親分は……。

前作のおじいちゃん監督に代わり、今作はこれが監督デビューの中西監督。きっと若々しいセンスで、池広監督や井上監督ばりにキレ味鋭い演出を見せてくれそうですよ。えっ、この映画のあと、また助監督に戻されて、そのまんま。うーむ。若干の不安を抱えつつ、どんな映画だか観てみることにしましょう。

ギギーッ。重々しい音をたてて、おおきな鉄扉が開き、若親分こと南條武(市川雷蔵)が、ムショを出所しました。と、人の良さそうなおじさんが、ニカーッと笑みを浮かべて立っています。「三野のとっつあん」と驚く若親分。「二代目さん。長いことご苦労さんだったな」と三野のオヤブンは優しげな顔。「へい、どなたかお身内の方でも」「おまえさんを迎えにきたんだよ」。「えっ」と絶句する若親分。こんなボクを迎えに来てくれたなんて、身内の誰も来てくれないのに。若親分、感動しています。もう泣いちゃいそうです。

帰りの汽車で、「どうだい。当分、わしの組に落ち着きなさったら」と誘ってくれた三野のオヤブン。一応は遠慮しつつも、若親分はやっぱり感激。もう泣くぞ、泣いちゃうぞ。しかし、そんな優しい三野のオヤブンは、汽車のトイレで何ものかに刺されてしまったのです。イヤな予感がしてトイレに行った若親分は、虫の息のオヤブンを発見。「とっつあん、相手は。相手は覚えていなさるか」「よ、よろい組」バタッ。その場にうち捨てられた匕首の鞘をじっと見つめる若親分。これだけ、特徴的な鞘ならば、絶対に仇を見つけることができそうです。仇は、仇はきっと取ってあげるからね、とっつあん。

ということで、若親分は水上駅に降り立ちました。早速、鎧組の賭場に乗り込んでみます。ワザと揉め事を起こして、鎧組三羽烏の高野(守田学)を挑発してみる若親分。ヤロウっ、と高野は怒って、匕首をテーブルにグサッと刺しましたよ。じぃーーーーっ。うーん、違うみたいだ。この匕首じゃない。とりあえず、下手に出て、ペコペコしつつ、その場を去る若親分。これは、もっとじっくり捜査しなくちゃダメだな。

はい、若親分は、水上の観月楼という料亭に板場(板前)として勤めることにしました。ここにいれば情報も手に入りやすいし(建て前)、働かないと食っていけませんからね(本音)。意外だったのは、若親分は包丁捌きが上手かったこと。さすがドスを振り回しているだけあります。もっとも、得意料理は海軍仕込のライスカレーなんですけど。まあ料亭でライスカレーはないだろ、と百回くらいツッコミを入れたいところです。

さて、この観月楼の女将・神部さだ(木暮実千代)には、自慢の一人息子が。勝巳(平泉征)といって、なんと海軍兵学校の生徒さんなのです。ついでに言うと、勝巳のカノジョは小日向英子(柴田美保子)という女学生で、小日向のオヤブン(佐々木孝丸)の一人娘。ここらへんの名前は、いちおう覚えておいてください。

鎧組では鎧のオヤブン(安部徹)が、三羽烏筆頭の北村(草薙幸二郎)に、若親分を調べるように命じています。イカサマを見破るとは、ただの板場じゃあるまい。使えそうなヤツだったらスカウトしてくるんだ。へい、オヤブン。その足で調査にいく北村。「どうだい、おめえ渡世で生きる気はねえか」「ところで、もう一人の三羽烏、三田村鉄平さんは旅にお出かけと聞きましたが」。えーと、調査するつもりが、逆に若親分にヘンな探りを入れられ、思いっきり疑わしそうな目をする北村です。そりゃそうだ。

お休みで、勝巳が海軍兵学校から帰ってきました。「坊ちゃん、お帰りなさい」と出迎える若親分。「ん、君は」「へい、先月から厄介になっているタケと申します」。実は兵学校の大先輩とも知らず、そうかガンバレよ、と偉そうな態度を取る勝巳。しかし、若親分からしたら、勝巳はとってもカワイイ後輩です。まるで、キラキラ輝いていた若い頃の自分をみるような、まぶしさすら感じちゃったりして。思わず、「承知しましたっ」と敬礼をしたりして、ちょっとオチャメな若親分でした。

鎧組と小日向組が喧嘩をしています。そこに行き会った若親分は自慢の啖呵で、喧嘩を仲裁しました。その上、ポロッと刺青も見えちゃったりして。うーん、やっぱり怪しいやつ。三羽烏の一羽目と二羽目は、思いっきり疑っています。そういえば、匕首を見る目も尋常じゃなかったし、何かあるよね。うん、気をつけよう。ちなみに、そんな喧嘩の風景を見ている美しい芸者(藤村志保)がひとり。もちろん、ただの通行人じゃありませんからね。当たり前ですが。

「何をなさるんです。やめてください」「へっへっへ。いいじゃないか」。美しい芸者こと千代竜が、イヤラシイお客の佐藤に迫られていますよ。いやーっ。逃げ出す千代竜を、その逞しい背中で庇ったのは、もちろん我らが若親分。チッと舌打ちをして去っていく佐藤に、千代竜はほっとひと安心です。「どうもありがとうございました……昨日の板場さん?」、タイヘンです。千代竜の若親分を見つめる視線が熱いです。藤村志保の妖艶な視線が雷蔵に絡み付いていますよ。と、そのワリには紙入れを落っことしていくウカツな千代竜。若親分はそれを拾い、中を開け写真をマジマジと見ています。そこに入っていたのは、海軍中佐とその一人娘らしい女の子の写真。「あの人は秋月中佐のお嬢さんだったのか」と若親分は遠い目です。

たまたま勝巳と一緒に歩くことになった若親分。こうなったら、聞かずにはいられません。「坊ちゃん、海軍兵学校ってのは厳しい学校だそうですが、さぞツライでしょうね」。「ツライ。君は何も知らないんだなあ。俺たちは海軍魂で鍛え抜かれてるんだ。兵学校五誓の前にツライことなぞ、あるはずがない」と勝巳は意気盛んです。「へえ、五誓ね」「うん、五つの教えだ。至誠に悖(もと)る勿かりしか」。いやぁん、もうこの子ったら。思わず、目を細めて勝巳を見ちゃう若親分でした。

「♪澎湃寄する海原のぉ♪」。時ならぬ江田島健児の歌(兵学校の校歌みたいなもの)が、観月楼に響き渡っています。どうやら、艦隊が入港して、士官さんたちが宴会を開いているもよう。思わず部屋の前をウロウロしてみる若親分。と、手水を使っている旧友の竹村少佐(戸田皓久)がいましたよ。「竹村っ」「おお、南條」。久しぶりの再会に喜び合う二人。何をしてるんだ、と竹村少佐に聞かれて、「板場だよ」と答える若親分。「で、目的はなんだ」。さすが親友の竹村少佐。「伊達や酔狂で、そんなカッコしてるわけじゃあるまい」と若親分のことなら、上から下まで全部、お見通しです。「貴様には隠すこともないな。古風に言えば仇討ちだ」と事情を説明する若親分。竹村少佐は聞くだけ聞いて、「止めてもムダだな」と一言です。えーっ。ほら、いままで若親分は色々海軍粛清のため頑張ってきたじゃないですか。なのに「止めてもムダだな」でオシマイですか。よし、俺が30センチ砲をぶち込んでやるよ、くらい言ってくれてもいいのに。ま、それはともあれ、若親分は別のお願いを竹村少佐にしてみます。ほら海軍粛清に命をかけた秋月中佐っていただろ。おう、いたいた。あのお嬢さんが身を落として芸者やってるんだよ。それは(グッスン)。助けてやりたいんだ。よっしゃ、まかせとけ。みんなから金集めるよ。とまあ、こんな感じです。まあ、海軍少佐といえば、兵隊さんの10倍くらいの給料を貰っているので、どうにかなりそうですね。

と、そこに千代竜がやってきました。なにしろ、海軍粛清の鬼、秋月中佐のお嬢様となれば、若親分も竹村少佐も威儀を正しちゃいます。お酌、とんでもない。「でも、ここにいるのは芸者の千代竜」と寂しく笑う千代竜。「あたくしのこと、誰にも仰らないでください」。自分はともかく、亡き父の名前は汚したくないんです。分かりましたと、深くうなづく二人。もっとも、これから誰も彼もに話をして、金集めをするんですけどね。

さて、鎧組が動き出しましたよ。勝巳と、彼女の英子がイチャイチャお散歩しているのを見つけ、イチャモンをつけた挙句、勝巳を拉致したのです。あわてて、観月楼に急を知らせる英子。「ええっ、勝巳が」と驚いている女将の横で、若親分はそっと席を立ちました。ワクワク。

コツコツ、靴音を響かせ鎧組にやってきた海軍士官。いきなり「当家の責任者は貴様か」と鎧のオヤブンを叱り付けています。えーと、あなたは。「海軍中佐、秋月シンジロウ、当家に海軍兵学校生徒、神部勝巳なる者が来てるだろ」。とりあえず、トボケまくる鎧のオヤブンですが、そこに子分が勝巳の制帽を嬉しげにかぶってきたもんだから、バレバレです。その上、軍法会議にかけるぞ、と言われては、仕方ありません。くそーっ。「連れて来い」と命令する鎧のオヤブン。海軍中佐は意気揚々と、ズタボロの勝巳を連れて帰るのでした。

いいかげん、鎧組から離れたところで、「タケさん」と声をかける勝巳。しかし、若親分は「今の私は秋月中佐だ。輝かしい未来を持つ兵学校の生徒が、板場なんかに窮地を救われたとあっては、その恥辱は一生離れはしまい」と、屁理屈をこねつつ中佐気分を満喫しちゃっているのです。なんか、よく分かりませんが感激してメソメソ泣き出す勝巳。「神部勝巳っ」「はいっ」「これから貴様の海軍魂を質す。兵学校五誓を唱えよっ。至誠に悖る勿かりしかっ」「至誠に悖る勿かりしか。言行に恥づる勿かりしか。気力に缺くる勿かりしか。努力に憾み勿かりしか。不精に亘る勿かりしか」。よーし、よく言えた。じゃあ、ちょっとお説教するぞ。「中には海軍士官となっても、こと志と違い、途中で軍籍を離脱し、軍服に別れを告げる愚かな男もある。だが君は……君はどんなことがあっても、そんな男の轍を踏んではならぬ。分かったか」。

「分かりましたっ」ぴしっ。去っていく勝巳。それと入れ違いに千代竜がやってきましたよ。早速、礼を言う若親分。「お父様の軍服、ありがとうございました。おかげで前途有為の一人の青年を助けることができました」。そんな若親分の熱っぽい目で見つめる千代竜。「これがあなたの本当のお姿だったんですね」(違う、違う)「でも、そんなあなたがどうして板場なんか」。しかし、断固として打ち明けようとしない若親分。「せめてお名前だけでも」という千代竜の願いも聞いてあげません。自分は千代竜のことペラペラ話したのに、ちょっとズルイですね。

海軍中佐が帰ったあとに、もしかしてアレは若親分だったんじゃないか、と疑いだしたオマヌケな鎧組のみなさん。でも今ひとつ確信が持てないらしく観月楼に探りを入れにきました。すると若親分の方だって気づきます。「鎧組もいよいよ感づいてきた。グズグズはしておれん。三田村鉄平はどこにいるのか」。
はい、グッドタイミング。旅に出ていた三羽烏の三羽目三田村(五味龍太郎)が鎧組に帰ってきましたよ。見るからにキレやすそうな、危ない雰囲気を漂わせてて、分かりやすいったらありゃしません。

海軍士官の皆さんの愛の募金が集まり、千代竜はめでたく自由の身になり、観月楼で働くことになりました。しかし、納まらないのは、千代竜を身請けしようとしていた高利貸しの佐藤です。ちくしょー、これもすべて観月楼の女将のせいだ。早速、鎧のオヤブンに女将を殺しちゃってね、とお願いです。鎧のオヤブンが調べると、さらに女将の背後には海軍が、そしてタケこと若親分が絡んでいることがわかりました。よーし、メンドクサイから二人とも殺してしまおう。そうだ、それがいい。まずは観月楼の借金の証文を手に入れるところから始めるよう。って、どうして、そういうメンドクサイことをするんだか、さっぱり分かりませんけどね。そんな動きを察知したのは、英子のお父さんで、正義の味方な小日向のオヤブン。鎧組に乗り込み、「おめえ、それでも渡世人か」と啖呵を切って、あっという間にで殺されました。あれ。

若親分の海軍パンチで、鎧組のチンピラが全てを告白したため、若親分は小日向オヤブンの遺体を引き取りに。トボケル鎧オヤブンですが、チンピラが全てを告白したと言われれば、もうトボケテもムダというもの。「そうか、知ってたのか。じゃあ、拝ましてやれ」。小日向のオヤブンに取りすがってシクシク泣く小日向子分たち。じゃあ、そっと連れて帰ろう。と、思ったら鎧オヤブンが本性むき出しにしましたよ。「野郎、このままで帰れると思ってやんのか」。「ただじゃ帰さないと言うのか」と凄みをきかせた若親分は、キメ台詞です。「実は俺の方でも、ただでは帰りたくない」ギロリ。おお、若親分カッコイイ。しかし、若親分は利口なので、俺たちが帰らないと、自動的にチンピラが警察に渡されることになってるがどうする、と言い出しました。おお、若親分、頭いい。「野郎っ」、キレた三田村が匕首をピュンと投げつけました。きわどくかわした若親分は、壁に刺さった匕首をじっと見つめます。間違いない、これは。「やっぱり、貴様だったな、鎧。おめえ、三野のとっつあんや小日向のオヤブンまで」「き、貴様はいったい」。「俺は南條組二代目、南條武だっ!!!」。シーン。えーと、反応ゼロ。みんな、若親分のこと知らなかったみたいです。

ともあれ、遺体を引き取りお通夜をするみなさん。仇を討つと張り切る子分を抑え、若親分は例によって例のごとく、一人で出撃をすることにしました。神社にお参りをして、濡らした紙を腹のさらしの下に巻きつける若親分。おお、これはアーマーですね。さらに長ドスを抜いて、お星様に祈ります。「小日向のオヤブン。しばらくの間、このドスをお借りします」チャキン。

アーマーを身に着けてることからも、今宵の若親分は一味も二味も違うことが分かります。そのテーマはニンジャ。先手をうって、若親分を探し回る鎧組を闇に潜んでやり過ごし、シュタッとやってきたのは佐藤金融。まずは、佐藤を脅迫して、借金の証文ゲットです。そして、また裏道から裏道へ、鎧組の裏をかきつつ神出鬼没です。

渡辺岳夫のパンチの効いた音楽とともに闇を疾駆した若親分は、狙い通り、鎧組を港の倉庫に集結させました。「よく出かけてきたな。三羽烏、やるかっ」と啖呵を切り、上から物を落としたり、わりと策略系で勝負をする若親分。もちろん、長ドスの切れ味を冴え渡り、隙を見ては、一人また一人と敵を斃していきます。しかーし、敵もさるもの引っかくもの。なんと、鎧オヤブンは、こんなこともあろうかと、千代竜を人質にしていたのです。ドスを捨てろっ。くっ、卑怯な。しかし、千代竜さんの命には換えられない。ぽろっ、ドスが落ちます。と、思わせておいて、どりゃ、どりゃどりゃ。血しぶきを上げて斃れる三羽烏の一羽目と二羽目。幸い、思わぬ若親分の所業にビックリした鎧オヤブンが手を離したため、千代竜はダッシュで安全地帯に避難できました。これぞ天佑神助というか、何と言うか。ただ若親分は勝つためには、何でもするナイスガイだということは良く分かりました。これぞ肉を切らせて骨を断つでしょうか(違う違う)。

次は三羽目の烏、三田村を成敗してくれる。とりゃあ、チャキーン。お互いの長ドスが弾き飛ばされます。ビュン。おっと、うなりを上げて三田村の匕首が飛んできました。それを危うく避けて、投げ返す若親分。うぎゃーっ。長ドスを拾って、若親分は二度三度トドメに斬りつけます。うぎゃぎゃーっ。

バーン。パキーン。今度は鎧オヤブンの銃弾でせっかく拾った長ドスを弾き飛ばされる若親分。小日向のオヤブンの遺品なんだから、もう少し大事にしてもらいたいですね。ささっ、ドラム缶の陰に隠れた若親分を銃弾が襲ってきます。バーンバーン。ぷしゅー。出た。いつもの、ドラム缶からガソリンぷっしゅータイムです。どこから取り出したのか、バーナーでドラム缶のガソリンに火をつける若親分。「たまたま」ドラム缶はトロッコの上に置いてあり、なおかつ「たまたま」そのスイッチが近くにあったので、若親分はスイッチポン。轟音をあげて走り出したトロッコは。「たまたま」線路の上に立っていた鎧オヤブンにドスーン。鎧のオヤブンは燃え盛るトロッコに体を潰されて死ぬのです。む、無念。

千代竜が駆け寄ってきます。「タケさん、せめて本当の名前を教えてください」。「元海軍少尉。南條武」と名乗って、去っていく若親分。「南條さん。たけしさーん」と千代竜は追いかけようとしますが、若親分は厳しい顔で「来るんじゃない。あなたは自分の幸せの道を行くんだ」と止めるのでした。ポロリ。千代竜の目から大粒の涙が零れ落ちます。

「♪恋もいらなきゃ名前もいらぬ。仁義ひとつが俺には信条。元をただせば海軍仕込みぃー♪♪」。なんで6作目の今頃作るかな、と思わないでもない、橋幸男熱唱のテーマ曲にのって、若親分はなんだかすごくマッスグな道をテクテク歩いていくのです。


えーと、正直言って池広監督や井上監督に比べれば落ちるかもしれませんが、なにも助監督に戻されるほど悪くもなかったですよ。少なくとも前作よりは確実にマシ。ミニ若親分とでも言うべき、平泉征と雷蔵の掛け合いも楽しいし、どことなくホノボノ風味の演出が心地よかったです。

あと藤村志保がいいです。今までも、このシリーズには出ていましたが、他の人の恋人役だったり、どちらかというと脇役でした。しかし今回は、堂々の雷蔵と惚れあう役です。うーん、やっぱり雷蔵と藤村志保が組むと、ぐぐっと芝居が締まる気がしますね。いやあ、満足満足。

それにしても若親分のコスプレも海軍中佐まで出世しました。シリーズはあと2作。どこまで出世できるのか。めざせ海軍大将だ、若親分。







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【映画】宇宙人東京に現わる

2008-10-15 | 邦画 あ行
【「宇宙人東京に現わる」島耕二 1956】を観ました



おはなし
謎の円盤目撃報告が相次ぎ、人々の関心が頂点に達していたころ、謎の美女が現れ……

宇宙人には悪い宇宙人と、いい宇宙人がいますが、この映画の宇宙人はいい宇宙人です。とはいえ、岡本太郎造形の宇宙人は、なんていうかスゴイの一言。口があんぐりです。

青い蛇の目傘のアップ。傘が翻ると、そこは雨のそぼふる駅。おや、列車が入ってきました。そこから降りてきたのは、冴えない中年男。男は駅前の飲み屋に入り……。

溝口健二監督が「楊貴妃」を撮ったさいに、古代中国が舞台の映画なんて、どうやって撮ったらいいか分からずパニクっていたと、当時助監督だった増村保造監督が語っていました。で、同じく戦前からのベテランである島耕二監督が、この宇宙人モノを撮るにあたって、やっぱり悩みがあったんじゃないかと思います。

で、この導入部ですよ。渋すぎます。飲み屋には、ちょっと崩れた感じの京マチ子か若尾文子あたりがいそうな感じです。でも、これは「あくまで」SF特撮映画ですから。

なので、島監督の渋い映像は、ちょっと脇において、物語の登場人物を簡単に説明しますね。冴えない中年男は小村博士(見明凡太朗)。こう見えても、城北天文台の所長です。博士には、多恵子(永井ミエ子)という娘がいて、愛弟子の磯辺徹(川崎敬三)とはラブラブな関係です。そして磯部徹のお父さんは、生物学の泰斗、磯部博士(南部彰三)。ついでに言うと、小村博士の従兄弟には、物理学の権威、松田博士(山形勲)がいたりします。

つまり、小村、磯部、松田の三博士、そして、多恵子、徹の若いカップルが、お話の中心にいるのです。

さて、世の中は円盤の話でもちきり。世界各地で、円盤が目撃されています。しかし、小村博士は、そんな噂をバカにしきっているようですよ。なにしろ、望遠鏡命、望遠鏡バカですからね。しかし、そうは言っても、世界の天文台でも目撃されたと聞いては、黙っていられません。城北天文台の沽券に関わるというものです。幸いなことに、従兄弟の松田博士の同僚がロケットの打ち上げ実験を行うと聞いた小村博士は、早速、便乗して宇宙の撮影をお願いすることにしました。

まあ、ロケットといっても、アポロみたいなものを想像してはいけません。なにしろ河川敷で打ち上げられる程度の小さなものですから。「よーい。発射」「発射」。ぷっしゅー。じみーに飛んでいくロケットです。ここでひとこと。昔、糸川博士の作ったペンシルロケットという、超小型ロケットがありまして、その実験が行われていたのが1955年。そう、この映画の前年の話です。なんていうか、映画は現実を映す鏡だなあと思います。

打ち上げの結果、確かに謎の発光物体の写真は撮れました。しかし、これじゃあ、実態がよく分かりません。ところが、事態は、予想を上回る勢いで進行していたのです。それというのも、日本各地で相次ぐ、謎の生物の発見報告。港でカッコつけてるマドロスさんから、宴会中の芸者さん、さらには、磯部博士のおうちや、小村博士のおうちでも、不気味な生物は目撃されたのでした。そして、いずれも、後に残るのは、怪しく光るヌルヌルな液です。

そんな謎の生物が、一気にメジャーに伸し上がる日がやってきました。帝都劇場で公演中の人気スター青空ひかり(刈田とよみ)の目前に現れたのです。キャーっと失神する青空ひかり。もう、これで世間は大騒ぎです。

海からいきなり円盤が浮上して、天空かなたに飛び立っていきました。円盤は、そのまま地球を周回する母船に吸い込まれていきます。その母船の中には、なんと宇宙人がいっぱい。えーと、一言でいうとヒトデですね。それも、かなり安い部類の。シーツが2枚と、針金2メートルくらいあれば、ご家庭でも簡単に作れそうな感じです。

そんな宇宙人たちは、ポヨンポヨンと会話を始めました。もちろん、ポヨンポヨンじゃ意味が分からないので字幕付きです。

「視察の報告を聞こう。我々パイラ人の訪問の意図を傳えたか」と偉いパイラ人。「傳えるどころか、地球人は私どもを一回見るなり、激しい恐怖を示すのです。それはまるで醜悪極まりないものを見た様な目です」と平パイラ人は憮然とした面持ち。って、ヒトデの表情なんか分かりませんけど。「何?彼らは我々パイラ人を醜いと云うのか。それ程、彼等は美しいのか?」と偉いパイラ人はビックリ。「とんでもない、ご覧ください。彼らの理想の美人と謂うのはこれです」。おや、いきなり風に吹かれて、青空ひかりのブロマイドがヒラヒラと飛んできましたよ。パイラ人、もしかしてマルベル堂で買ってきたんでしょうか。「これが!?これが美人か?」と驚く偉いパイラ人。まあ、美醜の基準っていうのは、曖昧ですからね。国によっても違うし、時代によっても違う。まして、宇宙人と地球人の基準が異なるのは当たり前です。

「しかし、このま〃地球の危機を見捨て〃は、宇宙道徳に背くというものだ」と偉いパイラ人は悩みます。しかし、そこに一人のパイラ人が、自ら地球人に変身することを志願するのでした。「君の犠牲的精神はパイラの歴史に残るだろう。では、変身機の用意をし給え」。ぽわわわん。はい、勇敢なヒトデは、めでたく青空ひかりの姿に変身したのです。

円盤騒ぎや、宇宙人騒ぎがひと段落したので、日光、中禅寺湖旅行を楽しんでいる三博士と令夫人。そして若い二人のカップル。しかし、若い二人が中禅寺湖でボートを漕いでいると、いきなり、若い女が溺れているのを発見したのです。顔はと言えば、青空ひかりソックリ。とは言え、青空ひかりは東京で舞台に立っていますから、これはきっと単なるソックリさんなんでしょう。ともあれ、記憶喪失だという女には、天野銀子(刈田とよみ 二役)という名前をつけてあげて、子供のいない松田博士が代表して引き取ることになったのです。

しかし、この銀子というのは不思議な女。なにしろ、テニスをすれば3メートルくらいウルトラジャンプをしたり、さらにはドアをスルっとすり抜けたりするんですから。そんなことを知ってか知らずか、磯部博士は息子の徹に密命をくだしました。銀子の使ったラケットと帽子を持ってこいというのです。「うーん、やっぱりそうか」とムズカシイ顔をしている磯部博士です。

さて、書斎で研究に余念の無い松田博士。そこにドアをすり抜けて銀子がやってきましたよ。と、いきなり松田博士のノートを引きちぎって、言い出しました。「どうして、こんな恐ろしいものを書くんです」。「それは僕の研究材料だ。君なんかには関係ない」「私には関係なくても、この地球に住んでいる人たちにとっては、重大なことなんです」。呆れつつも、松田博士は言い返します。「なにぃ、君にその方程式が分かるもんか」「分かります、ウリウム元素101でしょ。地球なんか、これっぽっちですっ飛ぶくらいの爆発物です」。松田博士はもうビックリです。自分のやっている最先端の研究、その方程式をチラっと見ただけで見抜いてしまうとは。「君はいったい何ものだっ」。しかし銀子は、それに答えず、すぅっと消えてしまうのでした。

額を集めて相談中の三博士。もちろん話題は銀子のことです。望遠鏡バカな小村博士は、ひとり懐疑的ですが、もう銀子が宇宙人なのは間違いないように思えます。と、そこにいきなり銀子がテレポートしてきました。「ご推察のとおり、私は地球人じゃありません」と言い出す銀子。「私はパイラという星に住むパイラ人です」。「どうして、あなたは地球に来たんですか」と丁寧語で聞いてみる徹に、銀子は答えます。「地球上に何度も爆発による原子雲を見たからです」。「バカな。そんな遠い所から見えるはずがない」と口を挟む小村博士。やっぱり、俺の望遠鏡が宇宙一とか思ってるんでしょうねえ。こういう人は好きです。しかし、「いいえ、パイラの文明は地球は問題でないくらい進んでいます。天文台から地球が見えることからも、パイラの文明が進んでいることがお分かりでしょう」と銀子に反論されて、ガックリしていますよ。お、俺の望遠鏡がぁ。

まあ、望遠鏡は置いておいて、過去に原水爆の危機にさらされたパイラ人は、地球が同じ轍を踏もうとしていることに気づき、親切にアドバイスをしにきてくれたようです。それも、原水爆の恐ろしさを本当に知っている日本にです。さすが、パイラ人の調査網は素晴らしいですね。そういえば、偉いパイラ人が青空ひかるのブロマイドを見て、「これが!?これが美人か?」と驚いていたことからも、パイラ人が地球人の顔なんか見たことなかったのはバレバレですが、そのワリに近現代史には妙に詳しいのがおかしいですね。

さて、「俺の」望遠鏡ショックから立ち直った小村博士は、当然の疑問をぶつけてみました。「しかし、日本が原水爆の廃止を叫んだところで、どうなるもんですか」。うんうん、とうなずきつつ銀子は答えます。「どうにもならないことも知っています。しかし、地球上にある原水爆を全部使ってでも対抗しなければ、地球が壊滅するという事実が、数刻前に宇宙に起こったんです」。ふーん、って、何ですとぉ。どうやら、軌道を外れた星が、今まさに地球への衝突軌道を進んでいるというじゃありませんか。おーまいがっ。

ピンポンパンポーン。「臨時ニュースを申し上げます。本日、松田、小村、磯部、三博士連名の書簡が世界会議に提出されました」。臨時ニュースは恐るべき内容を告げています。新天体Rが地球に接近していること。そして、この星を撃破、あるいは軌道を変えさせるためには、世界中の原水爆を集めて打ち込む必要があるということです。しかし、三博士の書簡は、世界会議であっさり黙殺されてしまったようですよ。きっと、デンパ系のたわ言と思われちゃったんでしょうね。しかし、小村博士はマスコミ相手に自慢します。なあに、松田博士の発見したウリウム元素101は、もっと強力なんですよぉ、と。このおかげで、松田博士はトンデモない目にあってしまうことに。というのも、ウリウム元素101の価値に目をつけた某国の工作員に拉致されてしまったのです。まったく、小村博士はマイ望遠鏡だけを相手にしてればいいのにね。

いきなり速度をあげたR。地球衝突まで、あと20日。そこで、世界会議がようやく日本の提案を認め、原水爆をRに撃ち込むことになりました。チカッ、チカッ。真っ赤に燃え上がるRの表面に、小さな白色の光が瞬きます。それだけです。原水爆をいくら撃ち込んでも、巨大なRには、いささかの変化も認められなかったのです。どうしよう。

俺の望遠鏡にしがみついて、観測を続ける小村博士。あと5日というところで、とうとう暑さのためにダウンです。というのも、Rの熱で地球の温度は急上昇。さらに、その引力の影響で、河は氾濫し、津波がザッパーンなのです。空は赤く染まり、なんだか阿鼻叫喚な雰囲気になってきましたよ。

小村博士、磯部博士、徹と多恵子、そしてついでに多恵子の教えている幼稚園の園児たちが、天文台の地下室にこもることになりました。暑いよぉ、うわーん。怖いよぉ、うわーん。それにしても松田博士はどこへ行ってしまったんでしょう、心配ですね。

はい、松田博士はビルの一室で、椅子に縛り付けられています。世界平和のために、頑として方程式の秘密を話さなかったため、某国のスパイたちに置き去りにされたもよう。ガラガラ。タイヘンですビルの外壁が崩れています。ギャーッと叫ぶ松田博士ですが、それを聞いている者は、誰もいません。

「松田くんのウリウムがあったらなあ」とボヤいている小村博士。と、そこに、銀子とスーツをばっちりキメたパイラ人1号から3号までがやってきました。「皆さん、元気を出してください。松田先生はどうしましたか」。いや、どうしたじゃないよ、行方不明なんだよ。「松田先生は私たちが探します。先生には私たちの指輪を渡してありますから、私たちのレーダーでその指輪を探せば分かります」、スタスタ。

はい、ビルの一室に銀子たちがテレポートしてきました。「地球を救うのには、先生のウリウム元素より他にありません。早く方程式を言ってください」。わ、分かったから、このロープをほどいて、お願い。ってか、せめて、ひっくり返った椅子を起こして、プリーズ。

もうヨレヨレのボロボロで、天文台まで歩いてい帰ってきた松田博士。「松田っ」と小村博士が駆け寄ります。大丈夫ですか、と心配するみなさん。と、指輪からピーンという音がしたかと思うと、銀子よりの通信が入ってきました。

「地球のみなさま、地球のみなさま。松田博士の発見された新エネルギーの爆弾が、やっとパイラ宇宙船の中で完成されました。今、発射の準備をしております」。

なるほど、パイラ宇宙船から、ミサイルがヒョロヒョロと飛び出しましたよ。ヒョロロー。ドカーン。やった、Rは大爆発です。その衝撃波はすごい勢いで天文台地下室も襲い、壁が崩れるわ、みんな失神しちゃうわ、もう大騒ぎ。

気づけば、真っ赤だった空も、いつもの青空に戻っています。巣穴からウサギが顔を出します、タヌキも顔を出します。カニは横に歩き、カメはのっそりと歩きます。「♪よい子が住んでる よい町は 楽しい 楽しい 歌の町♪」。園児たちの歌う「歌の町」は、どこまでも続く青い空に、高らかに響くのでした。


結論。パイラ人のみなさん、どうせ親切にしてくれるなら、もうちょっと機敏に動いてください。


川崎敬三と永井ミエ子の恋愛が、もう少し前面に出てくるのかと思いきや、中盤以降、二人の出番が激減したのが、残念といえば残念です。というのも、永井ミエ子さんっていう女優さんが、香川京子風で、かなり可愛かったので。

あと、「俺の望遠鏡は宇宙一」な小村博士。演じるのが見明凡太朗っていうのが、なんともはや。他に人がいなかったのかなあ、と。ゴジラの志村喬や平田昭彦。ガメラの船越英二に比べて、見た目の偏差値がすごく低いんですけど。

とはいえ、渋く始まり、異星人侵略モノと思わせておいて、「妖星ゴラス」みたいな話にスイッチ。そのくせ、最後はホノボノと「歌の町」で終わる。どうしても岡本太郎デザインの、スットコドッコイなパイラ人の造形にばかり、目が行ってしまいがちですが、どうしてどうして、お話も愉快で楽しいものでした。









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【映画】若親分あばれ飛車

2008-10-10 | 邦画 や~わ行
【「若親分あばれ飛車」田中重雄 1960】を観ました



久しぶりに大浜市に帰ってきた若親分。しかし、町は北門組に牛耳られていて……。

基本的に前の4作は、ストーリー的につながりがありましたが、この5作目は全然つながりがありません。さすがパラレルワールドらしく、若親分のキャラも微妙に違っていて、ちょっと「ガッカリだよ」な感じです。

まずはテロップがドーン。「数年前、隣接地に海軍鎮守府が設置されて以来、急速な発展を遂げた大浜市は、今また新築港の建設が決定して、市中は喜びにわきかえっていた」。それと同時に、港の起工式が賑々しく行われている風景が映し出されます。いずれも偉そうな人たちでいっぱいですが、この中に悪者がいるんですね。よく分かります。で、どの人ですか。それとも全員が悪者ですか。

とりあえず、ぱっと見では、北門組の北門辰造(二本柳寛)、地元政治家の大貫(早川雄三)、この二人は人相が悪いし、悪者決定。海軍の西原少将(北龍二)あたりは微妙かな。で、大物政治家の田所先生(龍岡晋)、これはいい人でしょう。はい、次いっちゃってください。

光あるところに影がある。と、大げさな言い方する必要もないんですが、特需に沸く大浜市には不正がいっぱい。すると、そこに正義が芽生えるのも、また当然です。どうやら、この大浜市では市役所に勤める青年グループが、その「正義」を担っているみたいですね。とはいえ、北門組にボコられて大事な書類を取られたりしているので、あんまり強くなさそうですが。

さて、そんな青年のひとり、五郎のお父さんは猪之助(見明凡太朗)といって、もと南條組の代貸し。えー、そんな人いたっけ。代貸しはいい味出してる仙之助で決まりじゃないの、とか思いますが、まあパラレルワールドですしね。ともあれ、その猪之助は息子が危ないことをしているので、心配でたまらないようですよ。「すっカタギの若けぇ連中が五六人集まったくらいで、ケダモノのような北門組を向こうにまわして何ができるんだい」と、五郎を叱り付けています。まあ「自分だって元ヤクザ」というのは、無しの方向で。

と、そこに元南條組(今は魚屋)の若い衆が飛び込んできました。なんと駅で若親分を見かけたというのです。今さっき、北門組がケダモノとか言っていたのに、若親分が帰ってきたとなれば、もうカタギの生活なんて真っ平ゴメンというものです。年甲斐もなく喜んじゃう猪之助。おっと、車引きの三吉(山田吾一から三夏伸にスケールダウン)がやってきました。三吉にも、このめでたいニュースを教えてあげましょう。「三吉、ワカ帰ぇってきなすった」「バカ?バカって」「バカやろう。若だよ。二代目だ」。うわっ、ワカとバカ。ぼくもそれをブログで書きたかったのに、さすがに「それはないだろ」と遠慮していたのに。こんなコテコテギャグを入れてくるとは。むむーん。
ともあれ、元の子分衆は、みんな総出で「にだいめーーっ」と町を探し回っていますが、若親分はいったいどこに。

はい、若親分は同期の竹村大尉(戸田皓久)や井川大尉(藤巻潤)など同期のみなさんと料亭で楽しく会食中でした。「貴様には信じられないのは当然だ。だが現実に鎮守府部内は腐敗している」と、海軍の現状を切々と訴える竹村大尉。「まず、第一は鎮守府の納入品に不正が行われている形跡のあること。第二は潜水艦の秘密訓練基地建設という、軍の極秘事項が民間の一部に漏れていると察せられることだ」。ほら、こうやって話しまくるから、極秘事項が漏れるんだよ、と思わないでもありませんね。相変わらず海軍の機密保持はなっとらん感じです。ともあれ、その納入業者は北門組だそうで、おなじヤクザのよしみで若親分に調査してほしいというのが、竹村大尉たちの願いだったのです。

もちろん、調査を快く引き受ける若親分……と思ったら断ってますけど。「誰も知らない土地で、自分の身をじっくり見つめ、新しい人生を切り開きたいんだ」と、明日になったら満州に行くとか、ぬかしていらっしゃいます。そんなこと言わずに、海軍のためによろしく頼むよ、とお願いするみんな。しかし井川大尉はひとり怒り出しましたよ。「よせ竹村。海軍部内のことは、海軍軍人が処理すべきだ。もともと南條に期待した我々が間違ってたんだ」。言ってることは、スゴク立派ですが、態度が「お前なんか、お前なんか、うぇーん」ですから、何だかなあといった雰囲気。海軍大尉といえば、軍人として中堅どころだと思うんですが、これじゃ子供の喧嘩です。

料亭を辞した若親分が夜道を歩いていると、おやっ、青年たちがヤクザに襲われていますよ。義を見てせざるは勇無きなり、とりゃーっ。あっという間にヤクザたちをコテンパンにする若親分。青年の一人は足に大怪我をしているようですが、命に別状はなさそうだし、いやあ、いいことをした後は気持ちがいいなあ。おや、手ぬぐいが落ちていますよ。さっきのヤクザが落としたものでしょう。手ぬぐいには思いっきり「北門」と書いてあるので、あのヤクザたちは北門組の面々だったようですね。なんだか、とても分かりやすい演出です。

怪我をした青年こと五郎は、仲間に担がれておうちに。「確かに北門組だな」と逆上した猪之助は出刃包丁を持ってダッシュです。と、一歩遅れてやってきた若親分。子分たちが、「わかぁ」「にだいめぇ」とジャレつくなか、若親分は「猪之助は?」とまっさきに出迎えてくれそうな代貸しの名前を尋ねました。あれ、おっかしいなあ、と頼りにならない子分たち。まったく、もう。

慌てて若親分が北門組に乗り込むと、案の定、猪之助がとっ捕まってますよ。腰を低くして、猪之助を帰してくれるように頼む若親分。先に息子を斬ったのはソッチでしょ。猪之助を返してくれないと、警察に言っちゃうよーん。なんだか若親分らしからぬヘタレっぷりです。当然「妙な言いがかりをつけるじゃねえか」と怒る北門オヤブン。しかし「言いがかりですかねえ」と若親分は忘れ物の手ぬぐいを取り出すのです。うわっ、とことんヘタレだ。

猪之助と家にもどった若親分。子分たちは、久しぶりに出稼ぎから帰ったお父さんを囲むように、今までのことを説明しはじめました。えーとね、若親分が沢木組のオヤブンの片腕を落としてからですね。そうそう、沢木のオヤブンも死んで、北門が乗り込んできて。うんうん。それから、大浜はあいつらに牛耳られちゃって。

はいはい、分かった分かった、といい加減に話を聞いてあげた若親分は、しばらく厄介になるよ、と言いだしました。わーい。南條組再興だぁ、と子分たちは大喜びです。「おい、待ってくれ。お前たちにはすまないが。俺は南條組をやる気はないんだ」。しょぼーん。子分たちはかわいそうなくらいにガックリです。

竹村大尉を始めとする海軍士官たちが、北門組のダミー会社、東南商事の建物から出てきました。と、いきなりヤクザたちにからまれちゃいましたよ。「おう、ちょっと待ちな。海軍さんよ、顔を貸してもらおうじゃねえか」。なんかヤクザに絡まれる海軍大尉5人っていうのも、スゴイ展開ですが、とにかくそうなってるんだから仕方ありません。と、そこに駆けつけたのが若親分。「竹村っ」「おう、南條」。どうも、紋次(杉田康)を始めとするヤクザたちは、海軍大尉のことはちっとも怖くなかったようですが、若親分の中からにじみ出る威厳にでも打たれちゃったんでしょうか。「ちっ、今日のとこは二代目の顔を立ててやる」ぴゅーっ、と逃げて行ってしまいました。スゴイな若親分。

お礼と、あらためて協力して欲しいという野望を秘めて、料亭で若親分を接待する竹村大尉。しかし、若親分はなかなか首を縦には振りません。「くどいようだが、俺はあきらめんぞ」と竹村大尉は納得できない様子ですが、とりあえずお仕事があるので、先に帰るのでした。と、そこに紋次と、さらに「人斬り政」やらが襲ってきましたよ。ドスの一本も持っていませんが、若親分には海軍仕込みのパンチがあります。とりゃーっ。しかし、武器の無い身の悲しさ。やっぱり防戦一方に。危ないっ、若親分。後ろ、後ろ。

ささっ、ふすまがあいて、料亭の女将代理な鶴代(瑳峨三智子)が登場しました。ひょいっとドスを投げてくれます。よっしゃ、長ドスを拾った若親分は、人斬り政の長ドスを長ドスで受けます。チャキーン。「ちくしょー。覚えてやがれ」と芸の無い台詞を吐いて、北門組のみなさんは退散していくのです。ありがとう、と精一杯ヨソ行きの笑顔でサワヤカに笑う若親分。南條武です、とこれまたサワヤカに名乗ってみます。さっと、顔の曇る鶴代。えーと、なんかありましたかね。若親分が帰ったあと、自分の部屋にある父の遺影を見つめる鶴代。も、もしかして、沢木オヤブンの娘では。そう、渡世の掟とはいえ、若親分が片腕を叩ききって、死なせてしまった沢木オヤブン(もちろんパラレルワールドの世界の話)の一人娘が、この鶴代だったのです。ぽわわーん。思い出すのは、まだ女学生だった自分が父の臨終の床に立ち会っている風景。でも、瑳峨三智子の女学生姿(ハイカラさん)はかなりムリがありますけど。というかムチャ。ともあれ、「鶴代、決して南條の二代目を恨むんじゃねえぞ」という父の声が、鶴代の脳裏に響くのでした。

と、そこに舞い戻ってきた北門組の紋次。「お嬢さん。お嬢さんはオヤブンの仇と知りながら、南條を助けたんですかい」。おや、紋次はもともと沢木組の子分だったようです。組が潰れてから北門組に移り、いつか沢木組を再興しようと孤軍奮闘しているのでした。しかし、この分だと、大浜市には「組の再興」を願っている人がいっぱいいそうですね。

さて、ここでお話は3方向に分裂。ひとつは、正義派の青年たちの動向です。必死の思いで海軍秘密基地建設にからむ秘密書類を手に入れたものの、北門組に取られてしまいシオシオでしたが、ここは一発、大逆転を狙うことにしました。やっぱり正義派の政治家、田所先生に全てを打ち明けることにしたのです。こころよく、青年たちの願いを聞いてくれる田所先生。「早速、調査しよう。しかし、コトがコトだけに私が連絡するまで絶対極秘だ。いいね」。もちろんです、田所先生。ところが、連絡を待っている間に、青年たち全員が、市役所を馘になってしまうという緊急事態が。早く、早く悪事を暴いて、田所先生。

二つ目は海軍士官たちの動向。とりあえず、鎮守府の西原少将に北門組の悪事をぶちまけ、善処をお願いしてみます。しかし、どうも証拠が足りなくて、少将も渋い顔。それならと、張り切る井川大尉ですが、証拠を渡すと騙されて、美人局(つつもたせ)に引っかかってしまうというピンチに。恥ずかしい写真を撮られたうえに、北門組に拉致されて大ピンチ。早く、早く、誰か助けて。

三つ目は、我らの若親分。こちらは、すっかり鶴代に夢中です。でも、せっかく会っても、なんだかギコチナイ雰囲気にとまどい気味。今日は冷たいですね、と中学生男子みたいなスネかたをしてみたところ、「あのドスは父の形見ですわ。沢木仙吉です」と言われてガガーンです。ってことは、俺が鶴代さんの親の仇。うわーん。

そんな三者三様の思いを抱えつつ、お話はいよいよ佳境へ。ここまで、若親分はいまいち活躍の場がありませんでしたが、これから頑張ってくれますよね。

なぜか猪之助の家に集合している、青年グループ、竹村大尉、そして若親分。まず、そこに青年五郎のガールフレンドからの一報が。ねえねえ、田所先生と西原少将が密談してたわよ。「西原閣下がそうだったのかぁー」とガッデムな竹村大尉。「ちきしょー。最後の最後まで信じきっていたのにぃ」と嘆きまくる五郎。若親分は、えーと、とりあえず関係ないですね。
と、そこに血まみれの猪之助が転がり込んできました。たまたま井川大尉が拉致されるのを見かけた猪之助は、後を尾けて人斬り政に刺されちゃったのです。築港工事の現場小屋に井川大尉が連れ込まれたと、苦しい息の中で告げる猪之助。「若っ、みんなを……」ガクッ。仲間がさらわれたとあっては、このままにしておけません。早速、飛び出そうとする竹村大尉ですが、若親分に「待て、竹村。井川は俺にまかせろ」と言われちゃいました。お前は軍人。ヤクザを相手にするのは、俺で充分だ。いや、俺が行くと頑張る竹村大尉、と思ったら、「ありがとう。俺は矢部たちに連絡を取る」とえらくアッサリ引いちゃってるんですけど。おいおい、竹村大尉ったら。

早速、ドスを準備しはじめた、元南條組のみなさん。しかし、もうお分かりですよね。「お前たち、さっき猪之助が言った言葉を忘れたのか。賭ける命はひとつ。行くのは俺ひとりだ」と若親分は、やっぱり単独出撃なのです。

とりゃーっと現場小屋に乗り込む若親分。長ドスを一閃すると、ハラリ。井川大尉を縛っていたロープが真っ二つに切れました。よっしゃ、と制服の短剣を取ろうとする井川大尉。しかし、若親分の叱声が響きます。「陛下から賜った短剣だ。汚すなっ。ヤクザはヤクザが片付ける。鎮守府を腐敗させたのは西原少将だ。竹村たちが待っている。行けっ」。「南條っ!」と言いつつ、スタスタ逃げていく井川大尉。まったく、この人たちに日本の国防を任せるのは心配でしかたありません。

と、そんな緊迫した状況を、北門オヤブンは、料亭にいる田所先生と西原少将に電話で中継中。「まずいな」と西原少将がつぶやいたとき、竹村たち若手士官がドヤドヤと乗り込んできました。「あなたたちの罪状は全てハッキリしたんです」。先生と少将はガックリです。

さあ、黒幕は捕まりました。あとは若親分、全開で行っちゃってください。バッサ、バッサ。快調に敵を倒していく若親分。なぜか黒の網シャツで乳首を強調している人斬り政には、もろ肌脱ぎの刺青見せびらかしで対抗だ。とりゃとりゃ。これはマズイと北門オヤブンは、若親分を狙撃してみることにしました。よーく狙って。バーン。うがあ。血しぶきをあげてもんどりうつ子分。えーと、もう一回、よーく狙って。バーン。プッシュー。うわっ、ドラム缶に穴が空いてガソリンが。ドッカーン。いきなりの大爆発に、散り散りばらばらになる子分たち。こうなっては、若親分の長ドスで各個撃破されるのみです。もちろん乳首政も倒され、子分は全滅です。

仕方ない。俺の実力をみせてやる。長ドスを上段の構えで振りかぶる北門オヤブン。いやあ、これはどうですかねえ。別名火の構えといわれる上段の構えを、その及び腰で構えるのは、ムチャじゃないでしょうか。キェーッ。バサッ。ほら、若親分にあっさり一撃で斬られちゃったし。だから言ったのに。

ヒーッと逃げ出す、地元悪徳政治家の大貫。「このとおり許してくれ」と、ひたすら土下座を繰り返していますよ。うーん、こんな相手を斬るのも気が引けるしなあ。しばし悩む若親分。しかし、そこに油断がなかったと言い切れるでしょうか。いいや、言い切れますまい。そぉーっと後ろから紋次が近づいてきましたよ。危ない若親分。後ろ、後ろ。エイッ。グサッ。しかし、刺されたのは若親分ではなくて紋次のほうでした。なんと、紋次の後ろに隠れていた鶴代が紋次を、父の形見のドスでぶっ刺していたのです。そのまま鶴代を斬り返す紋次。なんていうか、若親分は蚊帳の外って感じです。

「なんじょーっ」。海軍士官の皆さんが走ってきましたよ。長官に全てを話して少将たちは捕まったと嬉しそうに報告する皆さん。若親分としては、大好きな鶴代さんが死んでしまって、それどころじゃない気分ですが、ここは男らしく井川大尉とガッシリ握手です。ピー、ピー。あっ、警察の呼子がなっています。どうしましょう。でも大丈夫。ほらっ。なんと仲間が、海軍の軍服を一着持ってきてくれていました。若親分を警察に渡すとトンデモないことになるので、このまま憲兵に渡すそうですよ。もちろん、長官も全てを知っているので、あとはナアナアに済むみたい。よかったね、若親分。

ザッザッ。隊伍を組んで歩いていく海軍士官6人。もちろん、そこには若親分のコスプレ姿も。警察官の「お待ちください」という声を、「緊急の命令で時間がないっ」と海軍士官の権威で押し切り、行進していく士官のみなさんです。

そんな士官のみなさんを見送るのは、南條組の元子分のみなさん。また、どこかに行っちゃう若親分を、なみだ目で見つめるのです。


パラレルワールドなのは、まあヨシとしましょう。瑳峨三智子の女学生コスプレも、かなりギリギリいっぱいですが、許してもいいです。でも、若親分の活躍の場がほとんどないのはなぜ。これじゃ若親分はただの人斬りマシンじゃないですか。それに、若親分が海軍の軍服に着替えてひと暴れ、これがないのもサミシイです。違う、違うんだよぉ。軍服姿でただ逃げるなんて、若親分シリーズじゃないやい。

1作目から3作目までは、俊英の池広監督。そして、前作の4作目は期待の若手、井上監督。それに比べて、今作は戦前からのおじいちゃん監督、田中重雄さんなので、どうも勝手が違ったようです。なんていうか、当たり前の任侠モノという認識しかなかったみたいですね。もともとが、元海軍士官のヤクザという、企画自体が色モノなんですから、ここは思いっきり派手にぶちかますべきだったと思うんですが。

ともあれ、明日はどっちだ、若親分。







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【映画】秘密

2008-10-08 | 邦画 は行
【「秘密」久松静児 1952】を観ました



おはなし
槙家に仕える女中の美代。主人、次女(若尾文子)、長男には好かれているようですが、なぜか長女にだけは煙たがられて……。

もしかしたら、心洗われる感動作なのかもしれませんが、ぼくにはどうも、ダークな部分が目に付く作品でした。やっぱり、心がヒネクレテいるからでしょうか。反省しなくちゃいけませんね。

池のほとりを歩く納豆売りの声。一生懸命走っている新聞配達の少年。平和な朝の風景です。そして、ここ槙家でも、いつものように家族の朝食が始まろうとしているのでした。食前の祈りを捧げているのは、ミッションスクールの校長先生をしている信太郎(千田是也)。毎度のごとく、他愛のない言い合いをしているのは、次女で高校生の眞梨子(若尾文子)と、長男で中学生の秀樹(渡辺鉄彌)です。ちょっとムッツリした顔をしているのは、長女でタイピストをしている由紀子(宮城野由美子)。そんな家族を愛おしそうに見ているのは、主婦のいない槙家に15年も仕えている美代(田中絹代)です。

お母さんが早くに亡くなって、以来15年間、3人の子供を母代わりに育ててきた美代。しかし、最近になって長女の由紀子は、どうもよそよそしい感じです。なにか「秘密」があるのかもしれません。通勤電車に乗っている由紀子は、ひとりの遊び人風の男(船越英二)を見つけて、表情を強張らせました。どうも、ここらへんに秘密がありそうです。職場についた由紀子に、ボーイの少年が「水上さんから電話」と声をかけてきます。「いないって、言ってちょうだい」と怖い顔をする由紀子。そうか、多分、あの遊び人は水上といって、由紀子と何かあったに違いありません。

眞梨子には、仲良しのお友達がたくさん。川崎くん(江原達怡)、中村くん(入江洋佑)、それに英子ちゃん(南田洋子)など。そんなみんなは校長先生のために、一計を案じることにしました。川崎くんのお母さん(市川春代)もずっと未亡人だし、二人を結婚させちゃえー。そうなると、何となくお互いに意識してる眞梨子と川崎くんは、きょうだいになってしまうけど、でもお父さんそしてお母さんの幸せのためなら、仕方ないよね。

なーんて、眞梨子が青春している間に、お姉さんの由紀子はタイヘンなことに。会社から帰るなり、お腹を押えて、倒れてしまったのです。あわてて、お医者さんを呼ぶ美代。美代の脳裏にイヤな予感が広がります。「流産の後、動きすぎたのが良くなかったんですね」。ガーン。予感的中です。

秘密を知られた由紀子は、「どうしてお医者さんなんか呼んだの」「一人にしておいて。あっちに行って」と、ますます美代を煙たがるようになりました。もちろん、今回の件は、美代の心の中だけに秘めるつもりです。主人の信太郎はもちろん、眞梨子にも秀樹にも話すつもりはありません。しかし、由紀子は美代を口を交わそうとも、しなくなってしまったのです。思わず、3人のお嬢様、お坊ちゃまの、幼い頃の写真を見て涙ぐんでしまう美代です。

一方、眞梨子たちは、校長先生に新しい奥さんを見つけちゃおう作戦を発動。まあ、みんなでハイキングに行くだけなんですけどね。幸いというか、何というか、川崎くんのお母さんも満更では無さそうだし。

さて、ある日のこと、槙家の前に怪しい男が立っていました。もしや、この男がお嬢様を。色めきたつ美代。しかし、男は富田(三田隆)という由紀子の同僚だったのです。しかも、「ぼく、由紀子さんとは、まだそれほど親しくないんです。でも、本当は由紀子さんが好きなんです」と恥ずかしそうに語る姿は、朴訥さ満点。さらに、富田が忘れていったお弁当箱に、梅干の種が3つコロンと転がっているのを見て、なんだか高感度がマックスに。やっぱり、こんな方がお嬢様の恋人に相応しいわ。

翌日、流産の後遺症も癒えて、会社に出勤した由紀子は、お弁当箱を富田に返します。もちろん、その中には、美代の作った心づくしのお弁当が。感激して、「とてもいい方ですね」と美代を褒める富田。しかし由紀子は、「ええ、とっても立派すぎて、あたしたちきょうだい、みんな頭が上がらないんです。ことにあたしは、どっちかってば苦手なんですの」。「どうしてですか。あんな優しそうな方に」と唖然としている富田に、由紀子は「あなただって優しすぎるわ」と走り去っていくのでした。ぴゅー。

美代のもとに、田舎のお兄さんから手紙が来ました。縁談の手紙です。以前来た時には、美代が断わったようですが、今度は同様の手紙が、主人の信太郎宛にも来ていることから、田舎のお兄さんも本気のようです。そうなると寂しいのが眞梨子。「美代さんねえ。お兄さんから来た手紙、読んでるわよ。また縁談かしら。今度はねえ、お父様宛にももう一通来たのよ。きっと縁談だわね。美代さん、お嫁に行く気かしら」。しかし、由紀子は「あの人も、もう結婚した方がいいんだわ」と冷たい顔。しかし、純粋な眞梨子は、それを思いっきり善意に解釈します。そうか、わたしたちの世話で美代さんの一生を台無しにしちゃいけない。美代さんの幸福を考えてあげるべきなんだわ。「お姉さん、このごろ、何となく美代さんに、よそよそしく冷たいのは、そんなこと考えたからなのね」。

その縁談話にショックを受けている人がもう一人。お父さんの信太郎です。「美代、ちょっと話したいことがあるんだ」。黙って、信太郎の前に座る美代。「私は不正直者だ。本当は美代に行ってもらいたくないんだよ。はっきり正直に言うと、私のために行ってもらいたくないんだ」。美代はドキドキです。「美代、私と結婚してくれないか」。美代はヨロヨロ。「美代は私が嫌いかね」。美代は、黙って突っ伏し、ただただ涙をポロポロと流すのです。

子供たちに美代と結婚したいんだが、と切り出す信太郎。しかし、予想外なことに由紀子が断固反対をしています。「女中があたしたちのお母様になるなんてヘンなことだわ。不潔だわ」。世間がどう思うかしらとか、お父様の学校での立場も悪くなるわとか、いろいろ理屈をつけて、譲ろうとしません。長男の秀樹が「美代さんがいつまでもうちにいてくれたら、ぼくはうれしいな」と言い、眞梨子も「あたしも美代さんがうちにいてくれたらうれしいと思うわ。ううん、賛成。大賛成よ。絶対に結婚すべきだと思うわ」と言っても、もう何が何でも反対なのです。「あたしはイヤ。永い間うちにいた女中が、今度はお母様になりましたからって、あたし恥ずかしくてお友達にも言えないわ」。

眞梨子は由紀子に、「あの人も、もう結婚した方がいいんだわ」と、お姉さんは美代さんを心配してたはずなのにおかしいわ、と矛盾を突いてみますが、由紀子はそのままダッシュで部屋を出て行ってしまうのです。ぴゅー。

そんな一部始終を立ち聞きしてしまった美代は大ショック。信太郎の「聞いていたのか、美代」という言葉も耳に入っているのか、いないのか。しかし、お嬢様の言うことも分かります、と気丈な態度を見せる美代。私は、もうお嬢様たちにとっては必要がない。「田舎に帰らせていただきます」と信太郎に言う美代なのでした。

お兄さん(東野栄治郎)も迎えにやってきて、いよいよ明日には、美代は田舎に帰ることに。由紀子は顔を出しませんが、信太郎、眞梨子、そして秀樹の心づくしの宴に、思わず昔のことが走馬灯のようによぎって、涙がこぼれる美代です。

ブー。ブー。ブザーが鳴り、由紀子が玄関に出ると、そこには遊び人の水上が。「あなたとはキッパリお別れしたはずだわ」と声を潜める由紀子に、水上は「別れるなら、別れるようにゆっくり話し合おうじゃないか」と悪びれる様子もありません。その上、「そんなにゴネルと君のオヤジに、おれたちの関係、話しちゃうぜ」と言い出す始末。

「お待ちなさいっ」、と現れたのは美代。「娘はやりません。お帰りなさい。ヘンなマネをすると警察を呼びますよ」。美代の迫力にタジタジとなる水上。さらに、美代が15年間の間に貯めた、虎の子のお金を渡して、「二度と娘に近づかないでください。今度来たらユスリで訴えますよ」と言うと、スゴスゴと立ち去っていくのでした。

部屋にこもって泣いている由紀子。「大丈夫、ご安心なさい、帰りましたよ」と美代が言っても、ただただ泣いています。アッケラカンと「しまった、お金をあんなにたくさん、ありったけ、あの男にやっちまうんじゃなかったのに」と言う美代。美代の心残りは、15年間の貯金で、お嬢様たちに買ってあげようと思っていたプレゼントが買えなくなってしまったことだけのようです。しかし、いくら話しかけても返事をしない由紀子に、美代がため息をついて立ち去ろうとした時。ガバッ。「美代さん、ごめんなさい」と、美代は由紀子はすがりついて泣き出すのでした。

「川崎さん、ちょっと、ちょっと」と言っている眞梨子。「なあに」「あのね、お父様とお母様の話ね。あれ、取りやめにしたいの。あたしたちのとこね、とってもいいお母様ができちゃったのよ」。川崎くんが「じゃあ、ぼくたちきょうだいにならなくてもいいんだね。ああ、安心した」と大喜びです。

会社の屋上で、朴訥な富田とお話をしている由紀子。その顔には、もはや屈折した影はなく、燦々と降り注ぐ太陽のような笑い顔があるのです。ニッコリ。


えーと、イジケテた由紀子が、美代の中に真実の愛情を見つけて立ち直った話、ってことでいいんでしょうか。でも、そういう風に素直に観れなかったんですよね。自分の秘密を知っている美代を、女中、女中と蔑んでおいて、いまさら何だよ、と思ってしまいます。その上、遊び人の水上とうまく手を切れたら、今度は何もしらない富田と平気な顔で付き合うというのも、なんだかズルイ気がするし。なんだか、主人公に感情移入ができませんでした。

もう一人の主人公というべき美代のキャラクターにも違和感が。なんか押し付けがましいというか、したり顔で由紀子と秘密を共有するくだりや、自分の貯金でプレゼントを買ってあげたかった云々のところに、なんだかダークな匂いを感じてしまいます。

そういった由紀子と美代の話の間に挟まれる眞梨子と友達のエピソード。若尾文子に南田洋子、それに入江洋佑といった面々の繰り広げる世界は、まるっきり「十代の性典」シリーズ、そのまんまです。正確に言うと、そこから妊娠とかヘビーなテーマを除いた部分が共通している、ということですけど。当然、デビューイヤーの頬がパッツンパッツンの若尾文子、そして初々しい南田洋子はカワイサ抜群で、この映画の中で、一服の清涼剤でした。

主役の由紀子役の宮城野由美子は、宝塚出身の美人さんですが、すごく華がなくてガッカリです。もちろん、鬱屈した役なので、ある意味、逆に演技力があるともいえるわけですが、それにしてもねえ。なんか暗すぎです。

一方、田中絹代はさすがの演技力。成瀬監督の「流れる」でも見せましたが、女中役「も」ぴったりハマリます。もっとも、これまた上手すぎて、微妙に鼻につくのが、困りものですけど。

結果的に、若尾文子の「性典」パート以外は、面白いんだか面白くないんだか、よく分からない映画でした。









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クルマのおはなし

2008-10-06 | 日常
今日は映画のお話を離れて、クルマのお話をひとつ。とはいえ、バイクについてはブログにカテゴリーを作ってしまえるくらい思いいれがありますけど、クルマについては、まあ「いちおう買っとくか」みたいな、他人事な部分があるのも事実ではあります。



日産ラングレー(型式不明)

これが、最初に乗ったクルマ。いい加減、かなりのオンボロで、買値はコミコミで20万くらいでしたから、車両本体はゼロ円かもしれません。とはいえ、型式不明で済ませてしまうくらい、このクルマについての記憶がない。というのも、あっというまに壊れてしまったからです。買ってから3週間(もしくは3ヶ月)くらいで、右直事故に巻き込まれて大破・廃車になりました。


マツダ ファミリア(インタープレー)

事故の精神的ショックが薄れたころに、買ったのがファミリア。ディーラー登録の新古車という触れ込みで、それなりにお安かったのを覚えています。本当は、日産のパルサーが欲しかったんですが、値段がぜんぜん違っていたんですよね。それはともあれ、このクルマはとてもいいクルマでした。いまでも、自分の中のメートル原器みたいな存在です。手ごろなボディサイズのハッチバックで、エンジンもそれなり。ハンドリングも、まあそれなり。悪い意味ではなく、全てにわたっての「それなり」感が心地よいクルマです。


マツダ(アンフィニ) MS-8(V6 2.5l)

前車を買ったときは、本当にビンボーでしたが、その後、父親が死んで生命保険が入ったりして、ひとりバブル状態に突入。となれば、バブリーなクルマを買わなくてはなりません。ということで、チョイスしたのが、このMS-8。いや、これはバブリーでしたよ。普通の2倍はあろうかというガラスサンルーフには、太陽電池が仕込まれていました。これで、何をするかというと、炎天下の駐車時に強制換気をする。もしくは、バッテリーに補充電をするかを選べるんです。これは、今のクルマにも欲しい機能ですね。クルマに乗らずに、バッテリーをあげがちなぼくにとっては、特にビビっときたナイス機能でした。それ以外にも、ボーズのサウンドシステムが付いてまして、このウーファーがトランクの半分を占領しているという、なんていうかメーカー純正とは思えない「頭の悪さ」が魅力でした。とは言え、このクルマのスタイルは今でも、カッコイイと信じています。


シトロエン エグザンティア(SX)

いきなり、今度は外車を買ってみることに。しかし、ここでフォルクスワーゲンとかに行かないのが、いくらおにぎりクォリテイ。というか、要は同じマツダのディーラーでシトロエンを売っていて、MS-8の下取りが良かったからというだけの、安直な理由なんですけどね。
しかし、このクルマは本当に素晴らしかった。デキのいいシートとハイドロニューマチックの生み出す乗り心地の良さは、まさに絶品でした。エンジンも、なんてことのない2リットルSOHCですが、ZFのオートマと組み合わせた時の、ピッタリ感が良かったです。必要なときに必要なだけのトルクが湧いてくるエンジン。加速しようとアクセルを踏み込んだときに、中途半端にキックダウンをしないオートマ。バビューン、という速さとは無縁ですが、結果的に速く走れてしまう不思議なクルマです。もっとも、ハイドロニューマチックの不安定さに泣かされたのも事実。さあ走ろうと思うと油圧が上がらず、車高も上がらないとか、山道を曲がっている最中にいきなりエンストするとか、
根本的な信頼性という部分で、かなりヤバかったのが残念でした。


シトロエン シャンソン(SX)

シトロエンはキライじゃない。しかし、ハイドロニューマチックとかは、どうも信頼性に欠けるんじゃんないか。やっぱり、スプリングのサスペンションの方が「故障」しにくいんじゃないか。そもそもサスが「故障」するって概念自体がヘンだろ、と考えこんでみました。よし、ならばオーソドックスなクルマにしよっ。ということで、シャンソンを買ってみました。これは本国ではサクソと言われていたモデルで、プジョー106の兄弟車に当たります。排気量は1.4リットルで、シトロエンの中では最小クラス。うーん、どうだろ。トヨタで言ったら、マーク2の、ここが気に食わないから、ヴィッツに買い換えてみました。といったノリでしょうか。ディーラーの人からは、かなり真剣に、「アホちゃうか」みたいな感じで止められましたけど、思い立ったら即実行がポリシーですから、気にしないのです。ゴーゴー。


スバル レガシーB4(RSK MT)

シャンソンはいいクルマでしたよ、ノンビリ走るには。しかし、人生は短いのです。バリバリ走らないと、青春はどこかに行ってしまうのです。なに言ってるんだか、自分でもよく分かりませんが、このときのボクも、そんなワケの分からない衝動に突き動かされました。は、速いクルマが欲しい。
はい、ということでスバルにゴー。このクルマを買いました。
マニュアルが初めて、四駆も初めて、ついでにターボも初めてと、初めて尽くしのこのクルマ。なるほど速かった。さすが280馬力はダテじゃありません。ここではとても書けないようなスピードで志賀草津ルートを爆走したときも、ビルシュタインダンパーはへこたれる気配も見せず、なるほど一級のスポーツセダンだと感心しました。しかし、ダンパーはへこたれないかもしれませんが、乗ってる自分がへこたれてしまったのです。やっぱり、このクルマに乗ると、軽くアクセル踏むじゃないですか。すると、なんだかあっという間に、すごいスピードが出るんですよね。あれ、あれれ。あそこにいるのはネズミ捕り、みたいな。
はい、捕まって赤切符です。青じゃないので、そのまま裁判やらナンやらありまして、ぼくは思いました。速いクルマに乗ってるから、捕まるんだ。遅いクルマに乗ろう。なんだか、書いていて涙出そうです、わが事ながらヘタレ過ぎる。


フォルクスワーゲン ポロ

まあ、遅いクルマでいいや。ということで、候補を三菱コルトとルノーカングーに絞ってみました。とは言え、ディーラーっていうとこは、このクルマが欲しいとキメうちで行くと、足元を見られるらしいですよ。じゃあ、嘘でも他の車の見積もりくらい用意しておいた方が良さそうです。ということで、家から一番近くにあるフォルクスワーゲンのディーラーに出かけました。ちわっ、見積もりください。そのまま、何の気なしにポロの見積もりを出してもらいます。この段階ではポロを買う気はゼロ。まあ、それなりの見積もりを貰って、三菱に行きます。うわっ、なんだか下取り価格が鬼のように高く設定されています。もう、これは買うしかないかも。しかし、まだまだカングーの見積もりも出してもらってません。即決は禁物です。しかし、この段階で中途半端に高いポロの見積もりは不必要になりました。早速、断わりに行きましょう。ちわっ、ポロ高いんですよね、やっぱりいりません。じゃあ、いくらまで下げたら買ってくれますか、と粘るディーラーの方。うーん、最初から欲しくなかったし、ムチャな金額言ってみよっ。○○万円なら、買ってもいいんですけどね。ちょっと、お待ち下さい、と事務所に消えるディーラーの方。えーと、どーしよう。ヤバイんでは。あっ、ディーラーの方が満面の笑みでこっちに。いやん、バカン。

まあ、そんなこんなでなし崩しに近い状況で買うことになったポロ。しかし、そこはフォルクスワーゲン。とてもいいクルマです。手ごろなボディサイズのハッチバックで、エンジンもそれなり。ハンドリングも、まあそれなり。なんか、10年以上の時を越えて、久しぶりにファミリアに出会えたような気分です。

ああ、スタート地点に戻ってきた。そして、これからは。


はい、ポロを売り払いました。下取りとかではなくて、ただ売却。
もう、クルマに乗る気はありません。もちろんエコだとか、ガソリン価格がどうしたとか、いろいろ理由は付けられると思いますが、結局のところ、バイクが好きなほどは、クルマのことを好きになれませんでした。もちろん、田舎に住んでる人にはクルマって必需品でしょうが、ぼくにとっては、あれば便利。でも、なくても困らないくらいの存在だったみたいです。

実は、ポロがいなくなって、もう一月ちかく立ちますが、クルマがなくて困ったという状況は当然ゼロ。むしろ、庭が広くなって、なんだかいい気分です。なあんだ、もっと早めにクルマを止めとけばよかった、などと考えてしまう毎日なのでした。
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【映画】若親分乗り込む

2008-10-03 | 邦画 や~わ行
【「若親分乗り込む」井上昭 1966】を観ました



おはなし
旅先で、憲兵を抱きこんだ不正を繰り返すやくざに憤った若親分は「乗り込む」のでした。どこに乗り込むかって?。それは後のお楽しみ。

みんなに愛される若親分ですが、今度はちょっと寂しい感じ。なにしろ、前作で「若、若」と慕ってくれる仙之助を死なせてしまいましたからね。でも、大丈夫。頼りになる同期はいるし、ガンバレ若親分。

ポッポー。汽車が走っています。ずかずか、客車に憲兵が入ってきました。それを見て、怯えた様子で逃げ出す男。「待てっ、西野」と、憲兵が追いかけます。西野という男は、そのまま汽車からジャーンプ。憲兵たちもジャーンプ。とんだ捕物騒ぎです。

「何かあったんですか」と隣の男に聞いてみる若親分こと南條武(市川雷蔵)。「はあ、脱走兵らしいですね」と親切に教えてくれる男(本郷功次郎)。揃いも揃って着流し姿なのに、会話が単なる野次馬なのがオカシイです。

さて、津の崎という駅に降り立った若親分は、その足で磯田組を訪ねました。もちろん、磯田の親分は若親分を大歓迎。ついでに娘の柳子(藤村志保)まで、若親分を見て、頬を赤らめちゃってますよ。「ところで二代目、今度の旅は」「へい、今年はちょうどオヤジの七回忌にあたりますんで、生前お世話になりましたこちらさまへご挨拶に」。まあ、ホントは食い詰めて、アチコチ放浪しているのかもしれませんが、それを言っちゃオシマイですよね。「それだけでワザワザ」と聞き返す磯田の親分。だから、追求しないでよぉ。

そんな虚々実々な話をしていると、いきなり憲兵たちがやってきて、磯田の親分を連れて行ってしまいました。それにも関わらずノンキモードの若親分に、柳子は「もう、お気づきでしょうけど、組の方がうまくいかないもんですから」と言い出しました。えーと、そういえば子分が仙吉という男一人しかいないようですね。おお、そういえば。「駅で郷田組っての見かけましたが」「その組のために?」。柳子は「いいえ、それだけじゃないんです」と、なんだか暗い顔です。き、気まずい。話題を変えなくちゃ。「ああ、政吉さんどうしてます。三人で海に泳ぎに行ったときは、たしかまだ15くらいでしたね。元気ですか」と、柳子の弟の消息に話を振ってみる若親分。しかし、柳子は「ええ、あの兵隊に行っています」とますます暗い顔でどよーんです。

さて、若親分と汽車で一緒だった男はそのまま郷田組に。そう、男は三次郎といい、磯田組の子分をやっつけた罪で服役していたのですが、今日オツトメを終えて帰ってきたのです。早速、お帰りなさいパーティを開いてもらい、その席で幹部昇進も果たしたので、ルンルンの三次郎です。と、そこに子分がひとり駆け込んできました。「親分、磯田のオヤジが憲兵隊に引っ張られたそうですぜ」。「そうか、小島さんもとうとう業を煮やしたらしいな」とニヤリの郷田親分(北城寿太郎)。出所したばかりの三次郎にとっては、サッパリな話ですが、観てる方も何が何やらです。誰でしょう、小島さんって。

それはともあれ、挨拶を終えたら、あとは彼女に会うのみ。お峰(松尾嘉代)待ってろよー。バーンと真っ赤な背景の前で見つめ合う三次郎とお峰。ヒシッ。抱き合います。カメラが引いていくと、それは料亭の赤塀の上の部分でした。こういうドキっとするような演出を、さりげなく入れてくるところが、井上昭監督のスゴイところです。

磯田組に憲兵がやってきました。「磯田新兵衛は取調べ中に死んだ。すぐに死体を取りに来い」。ガーンとする柳子。さすがの若親分も厳しい表情です。そのまま、死体を引き取りにいった若親分は小島憲兵曹長(守田学)に「新兵衛、喚問の容疑は何です」と直談判です。しかし、小島は「いいか、新兵衛は心臓麻痺で死んだんだ」と木で鼻をくくったような返事しかしないのです。いったい、この背後には何が。

誰も来ない寂しいお通夜の席で、柳子はポツリポツリと語りだします。弟の政吉が死んだこと。それも、上官暴行、危険思想の容疑で、憲兵に拷問で殺されたそうです。以来、磯田の親分も憲兵の目の敵にされたびたび呼び出しを受けるようになり、子分は一人去り、二人去りして、今では仙吉ただ一人になってしまったというのです。なるほど、そういったワケがあったんですね。親分の四十九日を終えたら、母の田舎に帰るという柳子。「父には済まないと思います。でも……」。「それでいいのです」と力強くうなづく若親分。ただ、それまではここに置いてください。必ず、憲兵による拷問死の真相を明らかにしてみせましょう。さすが、若親分。任侠精神に溢れてます。

さて、調査の結果、複雑なカラクリが見えてきましたよ。どうやら、話は磯田の親分、それと政吉の死だけには留まらないようです。ちょっとヤヤコシイので端折って説明すると、郷田組は、土地のボス河村(遠藤辰雄)と結託。憲兵隊の北川隊長(垂水悟郎)と小島曹長を抱きこみ、河村が軍の御用商人になれるように画策をしていたのでした。当然、今までの御用商人と、荷役を請け負っていた磯田組は邪魔で仕方ありません。そのため、御用商人を殺害し、それを目撃した磯田の政吉も殺し、さらには、身の危険を感じて脱走した御用商人の息子を追っているのです。ついでに言うと、この悪の三者連合は、こんど近所にできる海軍航空隊の土地買収も計画しているようなので、まったくもって悪い奴らです。

当然、料亭に乗り込んで、郷田や河村に啖呵を切ったり、お説教したりする若親分。なんだか、不必要に敵を作っているというか、手の内をさらしだし過ぎているんじゃないか、と思わないでもありません。でも、それが若親分なので、ここは生ぬるく見守ってみましょうね。

さて、お説教も終わったし帰るか。と、料亭を出ようとした若親分に、「南條。南條じゃないか」と声がかかりました。「おお竹村か」とうれしそうな若親分。そう、海軍兵学校時代の同期、竹村少佐(戸田皓久)です。誘われるままに、部屋に入ると、兵学校時代の同期たちが楽しく、お酒を飲んでいますよ。いや、ホント同期の絆は大事にしたいものです。でも、どうしてこんなとこに、みんないるんでしょう。「これは軍極秘なんだが、ま、南條ならいいだろう」と言い出す竹村少佐。同期たちもウンウンとうなづいています。ホントにいいのか。

「今、海軍では星が浦に航空隊を設置する計画を立てているんだ」と竹村少佐。「いやあ、ところが現地の空気が、どうもおかしいんだ。海軍の用地買収に先立って、買占めを策している奴がいるんだ。この計画はごく一部しかしらない。漏れるはずはないんだが。いや、その件で、我々は明日星が浦に行くんだ」。

えーと、なんだかツッコミどころ満載すぎです。漏れるはずがないも何も、こうして漏らしているじゃないかとか、調査前日に、なんでみんな料亭でドンチャンしているんだよと思いませんか。でもいいのです。全ては若親分の魅力がなせるわざ。漏らしちゃうのも、若親分に好かれたいからですし、みんなが料亭に集まったのも、きっと若親分に会える「予感」がしたからなんです、きっと。

それはともかく、人の話だけ聞いてるなんて、若親分には我慢できません。俺の話も聞け、とばかりに語りだしました。「この土地のボスとヤクザが相当アクドイことをやってる。ま、こういうことは、どこの土地でもあることなんだが、その裏に権力が控えているということになると、これは見過ごすワケにはいかん」。「権力というと」と竹村少佐のナイスフォローに若親分の舌はますます軽やかに。「今のところ、俺の勘だけだが憲兵だ」。「憲兵」「憲兵」と心配そうな同期たち。「うん、ボスとヤクザの結びつきは、今この目で確かめたところだ。実は、俺のかつての遊び友達と、そのオヤジが憲兵の拷問にあって殺された」。えーん、若おやぶーん、といった表情で、同期たちは顔を見合わせています。なんだか、一まとめにして、この人たちカワイイな。とても、海軍の中堅将校たちには見えませんよ。ともあれ、竹村少佐が一同を代表して、「最後の最後まで自重してくれよ」と若親分にお願いするのです。もちろん、若親分の辞書には、「自信」とか「自慢」はあっても、「自重」はこれっぽっちもないので、ムダだとは思いますけどね。

早速、その帰り道に、郷田組に襲われる若親分。「何かというと、こんなバカな真似をするから、世間からヤクザだ、無頼漢だと蔑まれるんだ」と若親分の鉄拳がうなります。ひー、と逃げていく郷田組の皆さん。パタパタ、悠然と埃を落とし、カラコロとゲタを鳴らして若親分は歩いていきます。しかし、敵もさるもの引っ掻くもの。若親分が磯田組に戻ると、憲兵たちがやってきたじゃありませんか。「いいか、三日以内に退去しなさい」、しないと逮捕するぞと脅しをかけてきました。当然、ビビる若親分ではありません。むしろ、逆にお説教モードに入っちゃいます。辟易して帰っていく憲兵たち。しかし、こんな態度を取るので、憲兵隊長は「場合によっては非常手段をとらねばならんぞ」と部下の小島に命令をするのです。

命令は隊長から小島、郷田、そして三次郎へと順調に伝わりました。「どうして、そんな役目引き受けたの」とお峰は悲しんでいますが、「この渡世にはよくあることだ」と三次郎は聞く耳を持ちません。たとえ、恨みはなくとも、これが男の生きる道なのです。早速、物陰に隠れて若親分を待つ三次郎。おっ、やってきました。とりゃー。グイッ。ああ、カッコ悪い。三次郎は逆に腕を捻りあげられて、身動き取れません。「もっと自分を大切にしろ」と言うやいなや、若親分パンチを炸裂させて、去っていく若親分。「三次郎さんっ」と隠れていたお峰が駆け寄り、三次郎は介抱してもらうのでした。ちょっと情けない。

「親分。この野郎ドジ踏んじまいましたぜ」と、郷田組事務所に連れてこられた三次郎。バカにされた挙句、みんなからリンチです。と、そこに若親分がやってきました。物陰からスッと現れたと思うと、もう郷田にドスを突きつけています。「三次郎さん、よーく分かったろ。こんなところに長居は無用だ」。三次郎は返事の代わりに、鼻を抑えている始末。モガモガ。いや、ホント、情けない。しばらく歩いて、ようやく鼻血が止まったのか、「なんだって、あっしを」と若親分に聞いてみる三次郎。「おれはただ、あの人に悲しい思いをさせたくなかっただけだ」と若親分カッコよくキメています。「二代目さんっ」と感激して、去っていく若親分を見つめる三次郎。ついでに、憲兵も若親分を見つめてますが、これは感激してるワケじゃなさそうです。

憲兵たちがワイワイガヤガヤしています。どうやら中央から特命査察官の吉村少将がくることになって、戦々恐々としているようです。「秘密保持に万全を期するんだ。いいか」「はい」。じゃあ、とりあえず邪魔者はどんどん消しておかないとマズイですよね。

早速、その標的になったのは三次郎。お峰の差しかける赤い傘に相合傘で、さあこれから他の町に逃げよう、とシャレこんでいるところに、スススッと別の傘が近づき……グサッ。反射的に三次郎もグサッ。よく分かりませんけど、三次郎は重傷ながら、刺客を返り討ちにしたようです。転がった赤い傘が、降りしきる雨に打たれています。

「二代目さーん」とお峰が、磯田組に駆け込んできました。ビックリして「三次郎さんは」と訪ねる若親分に、お峰は言います。「自首して出ました。二代目さんに言づてがあるんです。郷田組は憲兵隊長と小島曹長を抱きこんで、米の買占めや星が浦の土地買収までしてるって」。「星が浦の土地を」と怒りに燃える若親分。お峰はそのまま、泣きながら走っていってしまいましたけど、若親分は愛しの海軍までもがコケにされて、それに気づく様子もありません。

泣きながら走っていくお峰の後を追ったのは柳子。お峰に追いついて傘を差し出します。触れ合う手と手。しっとりと濡れた二人の顔はおそろしく色っぽいです。ハッ。柳子はお峰の手にしているドスに気づきました。「まさか、これで郷田を」とつぶやき、ドスを投げ捨てます。ヨヨヨ、と泣き崩れるお峰。ヘンに色っぽい女二人に、雨は振り続けます。もちろん、そんな顛末を一切知らないのが、われらが若親分ということで。

たまたま逃げ込んできた脱走兵に、憲兵たちの悪逆非道から、なにもかも聞いた若親分。もう疑いもなく、あいつらは悪です。もう、スゴイ悪です。許さん。そんな、若親分の心の動きをテレパシーで察知したのか、「南條の奴、どうするつもりかなあ」と心配している海軍士官、それも少佐クラスの皆さん。「奴のことだ。土地のヤクザや憲兵と対決するに決まってる」「奴を見殺しにはできんぞ」、そうだそうだ、わー。なんていうか、スゴク仲が良いのね。仲良きことは美しきかなと武者小路先生も言っていることだし、イイコトです。

仙吉がさらわれたこともあって、最後の決着を付けに、港に行く若親分。あんなことやこんなことがありつつ、「郷田っ。不正な権力や堕落した任侠道はそのままにしておけん」、ザシュッ。うぎゃあ。はい、郷田組の始末、終わりっ。しかし、その時、憲兵隊長は若親分の緊急逮捕命令を出していたのです。「状況いかんによっては、射殺してもかまわん」、それに答えて、ワラワラと出動していく憲兵たち。さあ、若親分はどうなる。

「敬礼っ」ピシッ。たまたま通りがかった海軍士官に敬礼しつつ、ワラワラと若親分を探す憲兵たち。もう、お分かりですよね。海軍士官は若親分のコスプレです。しかし、さすがに小島曹長は、そんな若親分の変装を見破って、待ち伏せをするのでした。とりゃっ。しかし、小島曹長ごとき、若親分の敵ではありません。「敬礼はどうしたっ」とキック、パンチを浴びせまくる若親分。ヨロヨロの小島曹長の階級章をむしりとり、「貴様こそ、この星を汚す非国民だぞっ」と説教してみます。バタッと気絶する小島曹長。どうやら、聞こえていなかったみたいですよ。と、今度はサイドカーが若親分を襲ってきました。若親分ピーンチ。そこに、気絶したショックでフラフラと出てくる小島曹長。ドンッ。うわっ、サイドカーに撥ねられてるし。ついでにビックリしたサイドカーは壁に激突して爆発炎上してるし。えーと、ま、いいか。あんまり気にしないことにする若親分なのでした。

そのまま、スタスタと陸軍の駐屯地にやってきた若親分。いきなり、特命査察官の吉村少将(三島雅夫)に面会を求めちゃってますよ。「ん、貴官は」と訪ねる吉村少将に「海軍少佐、南條武っ」と答えるやいなや、憲兵隊長の悪事をすっかりばらし始める若親分。さすがにエライ人はどこか違うようで、吉村少将も若親分をひと目見て、こいつは信用できると思ったんでしょう。「分かった。その意見具申取り上げよう」。と、そこにやってきた憲兵隊長が吉村少将に言い出しました。「この男、海軍士官ではありません。閣下、この男は海軍士官どころか、南條組なる暴力集団つまりヤクザのたばねをする無頼の徒であり、かつまた危険思想の持ち主として憲兵隊で手配中の男であります」。さあ、どうする。ニヤリと笑う憲兵隊長。しかし、若親分は「危険思想の持ち主は貴様だぁー」と、隊長が予想もしない驚きの反応です。止せばいいのに、ここでまた、懇々とお説教を始める若親分。ぬぬぬ。ちくしょー。キレた隊長が、若親分の軍服をむしりとると、そこには。じゃーん。刺青登場です。「閣下、ご覧ください」と鬼の首をとった表情になる隊長。「閣下、いかにも私は一介の市井無頼の徒であります。しかし、私の申し上げたことがあくまで事実であります」と反論する若親分ですが、吉村少将の心証はグッと隊長に傾いていそうですよ。危ない若親分。ピンチだ若親分。どうする若親分。

ツカツカ。そこにやってきたのは竹村少佐。「緊急の意見具申あってやってまいりました」と、後ろには生き証人の脱走兵まで連れています。すっかり形勢逆転して、焦る隊長。ここは攻め時です。若親分もちょっと図に乗ってみました。「ジタバタするねえ。貴様も軍人なら軍人らしく潔く往生したらどうだ」。ガクッと肩を落とし、逮捕される隊長です。

「南條武とかいったな。ワシはお前に礼を言わねばならん、しかし……」と口ごもる吉村少将。「官名詐称の罪は覚悟しております」と若親分は自分から言い出したので、ちょっとホッとした表情です。良かった、じゃあ、潔く捕まっておくれ。「南條、すぐ迎えにいくぞー」という竹村少佐の声に送られ、護送されていく若親分。港を通る車を、柳子が手をぐっと握り締めながら見守っています。車に揺られる若親分の横顔で「完」。


とりあえず、若親分の官名詐称も、お友達の昇進とともにスケールアップしていくのがオカシイですね。だって、もとは少尉で退役しちゃってるのに。まあ、このまま竹村少佐が順当に出世すると、そのうち若親分は中将のコスプレとかしちゃうんでしょうか。どんどん罪が重くなっていきそうな気もしますが。

しかし、それよりなにより困ったのは、若親分が若親分でないこと。この映画では、とうとう若親分を若親分と呼ぶ人はいませんでしたよ。なにしろ、組を解散して7年。さらに、忠義一徹の子分、仙之助も前作で失い、今じゃただのプーですから。つまり正確に言うと、もと海軍少尉にして、元若親分な無職。これが若親分の実態なのでした。

監督は初期三作を撮った池広一夫から、井上昭監督にスイッチ。池広監督もいいですが、この井上昭監督の凄さはちょっと並じゃありません。スピーディな展開に、凝りに凝りまくった映像。本当に魅せます。ストーリーの荒唐無稽っぷりを補って余りある面白さでした。なにしろ、画面を見ているだけでワクワクしますから。

さあ、次の映画で、若親分は若親分に返り咲けるんでしょうか、それともプー太郎のままか。明日はどっちだ、若親分。







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【映画】新選組始末記

2008-10-01 | 邦画 さ行
【「新選組始末記」三隅研次 1963】を観ました



おはなし
近藤勇に惚れこんで新選組に入った山崎烝ですが、土方歳三の陰険な策略に遭って……。

もちろんフィクションなので、現実の歴史とは違うことを念頭においてください。これから書くのは、あくまでこの映画の中の「新選組」ですから。

四条河原(多分)では、群集が集まって磔を見物しています。どうやら、磔にされた侍は、新選組の天誅に遭ったようです。「崩壊寸前の徳川幕府と、それに代わろうとする新勢力との激突地帯となった京の巷では、暗殺事件が横行していた」というテロップが流れます。

さて、それを見ていた志満(藤村志保)は、家に帰り、想い人の山崎烝(市川雷蔵)に不満をぶちまけています。「分かりません。あなたが新選組に入るというお気持ちが。いいえ、勤皇方が正しいのか、徳川を守るのが良いのか、それも私には分からないんです。ただ、どちらも気が狂ったように人を殺して、中でも新選組は、あれが武士の集まりでしょうか。町の人たちが新選組を何と呼んでるか知ってるでしょ。壬生狼、壬生狼。牙をむいて野良犬のように。イヤです、イヤ、イヤ。あなたがそんな人殺しの群れに入るなんて。ねえ、何のためにあなたは自分を殺しに行くんです」。と、志満の顔のアップのまま、山崎の声だけが聞こえます。「違うよ、志満さん。俺は今日、見たんだ。そして心が定まった」。

偶然、二人の侍が斬りあっている現場に出くわした山崎。どうやら勤皇方と新選組の隊士が戦っているようです。勝負は新選組の隊士の勝ちで終わったようですが、その隊士も深傷を負って助かりそうにありません。それを見て介錯を申し出る山崎ですが、隊士は、死ぬのはイヤだと見苦しく転げまわるのでした。

それから数刻。隊士の遺品を持って、新選組の屯所にやってきた山崎。しかし局長の芹沢鴨(田崎潤)は、隊士の死を嘆くわけでもなく、はたまた山崎の労をねぎらうでもなく、とにかく傲慢なイヤーな男だったのです。しかし、そこに「あっ、君」と現れたのが、新選組副長の近藤勇(城健三朗=若山富三郎)でした。「ありがとう、わざわざ届けてくれて」と、行き届いた挨拶をする近藤に機嫌を直した山崎は、隊士は立派に死んだと報告するのです。

しかし、そんな山崎に近藤は言います。「武士らしく、武士らしく。私は百姓の生まれだから、よけいそれにこだわるんですなあ」。「なぜ、それを私に言うんです」といぶかしげな山崎に近藤は続けます。「君が森を立派に死んだとかばってくれたが、あれはそういう男ではなかった」。そういうことか、と納得した山崎は答えます。「腑抜けが立派に死ぬこともある。百姓が武士らしく死ぬこともあるように」。これには、今度は近藤が呵呵大笑する番です。「これはまいった。私のいつものお株を取られてしまった。山崎君。私は言っているんだ。武士というやつは形じゃない。男子の心意気だとね」。

「武士とは心意気だと、その男が言った。俺は京に来て、あのように澄んだ目を初めて見た。近藤という男が信じられる気がした。このままでは俺は駄目になる。志満さんは女ながら医術という人の命を救う仕事がある。生きる道がある。俺にあるのは剣だ。それしかないんだ」と、今度は山崎のアップのまま、志満の声だけが聞こえます。「捨てて、捨てて欲しゅうございます」「俺に武士を捨てろというのか。俺にはできん」。

そんなこんなで、新選組に入った山崎烝。しかし、芹沢鴨、新見錦(須賀不二男)といった、いわゆる水戸派の腐敗は目を覆うばかりで、山崎は今日も理由を告げられないまま豪商のところに使いに遣らされるのでした。行ってみれば何のことはない、隊費の名目での押し借りです。もちろん、その金が隊のために、ひいては徳川のために使われるならまだしも、実際は芹沢や新見の遊興費に充てられるのですから、真面目な山崎としては、やってられないよ、といった気分でしょう。

芹沢に金を渡しに行くと、部屋では犯された女が泣いています。なにやってんだ、こいつ。憤然として立ち去ろうとする山崎に「どうした」と近藤が声をかけてきました。「中に獣がいるんです」と答える山崎です。

これは見過ごせない。近藤は芹沢に直談判をすることに。しかし芹沢は金を前にしながら、「わしは知らん。山崎に新見が命令したんじゃろ、新見が」と責任逃れなことを言うのです。「局長、借用金の取立てに来た商家の女房を力ずくで犯す。この件については、返答がありますか」。さすがに、これについては芹沢も言い逃れができません。なにしろ横で女が泣いているんですから。うがあーっ。とりあえず、金をぶちまけて、暴れてみることにする芹沢でした。

道場で、隊士たちが汗を流しています。そこに、「やめろ、稽古をやめて座に戻れ」と土方歳三(天知茂)の声がかかりました。ガヤガヤ、ガヤガヤ。何事だろう。土方は言います。「隊規によって、新見さんに切腹していただくことになりました」。ワナワナしている新見。激怒する芹沢。しかし、土方が理路整然と新見の悪行を述べ立てるに及んでは、芹沢も何も言い返せません。「局長、裁決を」と近藤が迫ります。見れば、隊士たちがスゴイ目で芹沢を睨んでいます。ウカツなことを言うと、自分の身にも危険が及びそうな不穏な雰囲気。うーん。うーん。「切腹っ」。

しかし、新見が切腹させられた後も、芹沢の放蕩はやむことがありません。山崎も近藤、土方に、またも直談判をしたりしていますよ。「歳さん、あの男の言うのは道理だね」と土方に言う近藤。土方も「この機会にやりましょう」「粛清するなら今です」と同意しました。「局長らしく最期を飾らせるんだね」「立派に切腹させるんだよ」と念押しする近藤に、「そうです。隊の規約ですから」と答える土方。ところが、蓋を開ければ思いっきり闇討ちで芹沢は死んだのです。

そんな卑怯な振る舞いに怒り出す山崎。さらには、芹沢の葬式を利用して、近藤、土方一派が自分たちの権力を磐石なものにしようとしているのを見て、すっかりイヤになってしまいました。ということで、隊を抜け出し志満に会いに行っちゃうのです。まあ、それもどうかと思いますけど。

恋をしている女は敏感。まして、シャーマンというかイタコ体質な藤村志保です。志満は山崎に会った瞬間に「何かあったんですの。新選組に入ると言った時、あなたの目は生きて光っていました。だのに今は……死んでいる」と言い出しました。「あなたは新選組にいても幸せじゃない。いいえ、嘘っ。分かります。近藤勇という人は信じられる相手ではなかったんでしょ」。「近藤さんはそんな人じゃないんだ。立派な武士だぞ。立派な武士だ」と、自分自身の迷いを切り捨てるかのように、言ってみる山崎。しかし志満に「では、なぜそんな悲しい目をして、仰るんです」と言い返されて、思わず絶句しちゃうのでした。

とりゃーっ。いきなり勤皇方の侍がひとり斬り込んできました。果敢に立ち向かい、それを斬り斃した山崎。しかし、志満はギャーッ、グワーッと絶叫中です。別に斬られたわけじゃないんですけどね。なんか狐でも憑いたんじゃないかと思うくらいのイキオイですよ。「志満さん、志満さん」と山崎が抱き起こしても、志満は絶叫中。パシッパシッ。二三回引っぱたいて、どうにか志満は落ち着いたようです。そんな志満と思わず抱き合ってしまう山崎ですが、大丈夫かなあ。かなりエキセントリックな性格っぽいですよ、志満は。

高級料亭で飲んでいる「局長」の近藤勇と、「副長」の土方歳三。田舎を出てから10年。ようやく、ここまでのし上がることができました。「あんたは何にも言わず、そうやって微笑んでいさえすれば、自ずから衆望は集まり、やがて天下一方の頭領になる」と遠慮の無いことをいう土方。「ハハっ。まるで俺は木偶(でく)だな」と言う近藤に、さらに遠慮のないことを。「木偶でいながら、俺はいつまでたっても、何となくあんたが怖い。これも格というもんかねえ」。

一方、山崎も場末の飲み屋でいっぱい引っかけています。こっちは、鬱屈したマズイ酒です。と、そこに沖田総司がやってきました。「君は腕が立つのに、どうしてそう物事にムキになるかなあ。結局、損だよ」。ムカッ。小僧っ子のくせに、妙に老成したことを言う奴です。ますます酒がまずくなるじゃないですか。

ある日のこと、沖田が「おーい、山崎。手を借りたいんだ」と言ってきました。ある隊士が力士を問答無用で斬り殺して捕まったので、報復に奉行所の役人を斬り殺そうというのです。しかし、いくら「近藤さんの命令だよ」と言われたって、できないものはできません。と、思ったら沖田の姦計にハメられてやむなく、山崎は役人を斬り殺すはめに陥ってしまうのです。その上、土方は会津藩の叱責に、「犯人は山崎という男ですが、とにかく隊規に反抗しがちな暴れ者でしてね」などど言い出す始末。やっぱり江戸からの仲間じゃないと、こんな扱いしかしてもらえないんでしょうか。

役人を斬り、脱走したことにされてしまった山崎は、そのまま探索方(スパイ)をやらされることに。まあ、うがって考えれば、山崎を探索方にするために土方が仕組んだ深謀遠慮と言えなくもありませんが、実際のところは行き当たりばったりに探索方にさせられてしまった感じです。とは言え、仕事は仕事。助手の大津の協力も受け、薬売りにバケて勤皇方の動静を探っていた山崎は、とんでもない情報を入手しました。それはなんと、勤皇方が祇園祭に乗じて、御所に火を放って帝を拉致し、ついでに一橋慶喜たちを暗殺するという、仰天の計画だったのです。

早速、それを隊に報告して、そのまま志満のもとに身を隠す山崎。いやあ、こうしてみると、志満と暮らしているのも平和だなあ。ぼけーっ。「何を考えてらっしゃるの。ねえ、ねえ」「ん、何か言ったか」「いやん、知らない」。しかし、「やっぱり私のところに帰ってきてくれたのね」と言われて、サッと素に戻っちゃいます。そうだ、志満は俺が隊を辞めたと思っているんだ。でも、俺はしがない探索方。そして、今さら、俺が密偵をしてますなんて、志満に言ったら……。はい、とりあえず置手紙を残して、志満のところから逃亡する山崎です。もちろん置手紙を見た志満は、ハァーンッ。アッハァーン。ヘンな泣き声で号泣です。いや、ホントにヘンな泣き声なんですよ。というか泣き声というより鳴き声、いや咆哮かも。さすが藤村志保、一味も二味も違います。

山崎の報告で、長州間者の親玉、古高俊太郎を捕らえることに成功した新選組。土方が嬉々として拷問を開始しました。「俺はな。腹が立つとどんなことでもできる男だぞ。吐けば命だけは助けてやる。誓って助けるが、どうだ」。しかし、古高も筋金入りの志士ですから、簡単に吐くものじゃありません。「おい、足の甲から五寸釘を刺せ。それに蝋燭を立て、火をつけろ」。いやあ、なかなか吐きませんね。むしろ、勤皇方の策略で、食中毒になった隊士たちが、次々に吐いている始末です。これはこまった。しかし、しばらくして土方が喜色満面で出てきました。「とうとう吐きましたよ。やつらが今夜集まるのは、三条繩手の四国屋です」。しかし、近藤はちょっと困り顔。「いや、今、大津が山崎からの報告をもたらした。それによると池田屋だが」。ぷぅーっとする土方。「四国屋に間違いない。古高は俺が責めたんだ。あの血みどろの告白に偽りはないよ」。それでも近藤は言うのです。「やはり俺は池田屋を取りたい」と。

「総司。出動できる隊士は何名残っているんだ」と聞いてみる近藤。「我々を含めて二十七人」。むう、いかにも少ないです。その上、応援を頼んだ会津藩も、いつまで経っても来やしません。仕方ない。隊を割ろう。「君は二十名連れて四国屋に行け」と土方に言う近藤。「大丈夫か、あんた。六人で」「君の判断が正しいかもしれん。俺はアホかもしれんが、やはり侍よ。山崎を信じよう」。

その頃、池田屋の向かいで、いつまで経っても来ない新選組に山崎と大津がジリジリしています。私が連絡に行ってきますと、飛び出す大津。と、いきなり勤皇方とバッチリ目が合っちゃいましたよ。うわっ。そのまま池田屋に引きずり込まれる大津。山崎はあわてて、隠れ家を飛び出し、池田屋に飛び込みます。しかし、その時、既に大津は斬られて虫の息だったのです。バラバラ。敵に囲まれる山崎。まさに絶体絶命。どうしよう。

ドンドン。ドンドン。新選組だ、開けろ。ああ、その声は懐かしの近藤じゃありませんか。山崎が戸を開けると、「山崎よくやった」と近藤がのっそりと入ってきました。良かった、これで助かった。「局長、味方は?」「俺たち六人だ」「えっ!」。敵は二十名以上で守ってるのに、こっちは六人ですか。えーと、ダメだ、死亡だ。

とは言え、そこは市川雷蔵の華麗なる剣さばき。そして若山先生の変幻自在な体さばきです。とりゃー。それー。負けてません。いや、むしろ押してるかも。それに遅ればせの土方隊も到着して、戦況は一気に逆転です。「一人も逃がすなー」。

「俺の負けだ、山崎。近藤さんはあくまで君を信じぬいた。兜を脱ぐよ」とサワヤカに言う土方。「私も脱がなくちゃなりませんかね」と沖田も笑っています。沖田と握手をしつつ、近藤勇を見る山崎。ぽわわーん。やっぱり、やっぱり、この人について行こう。山崎は今までの行きがかりを忘れて、初めて新選組のみんなと一体になったような気がするのです。

夜が明け、隊伍を組んで京の町を行進する新選組。京の町人たちが、その様子を恐るおそるうかがっています。もちろん、その中には志満もいます。隊列について歩く志満。しかし山崎はわき目も振らずに歩いていき、残された志満はトボトボと家路につくのでした。


いやあ、主役にもかかわらず市川雷蔵がぜんぜん目立てない映画でした。なにしろ相手が悪すぎるというものです。新選組、さらには近藤勇さえも自分の「作品」として扱い、極めて怜悧に策謀を巡らせる土方歳三を演じた天知茂は、まさにハマリ役。それに、豪放磊落なようでいて、あえて土方歳三に「乗せられてみせる」近藤勇のズルさ。これを演ずるには、大胆なようでいて慎重。粗暴なようでいて繊細な若山先生以外には、やっぱり考えられません。その上に、藤村志保の何かに取憑かれたような演技が加わってしまうんですから、雷蔵としてはどうしたらいいのか、ってところでしょう。

さらに、ここに芹沢鴨を演じる田崎潤の、野獣派な演技まで加わり、さながら、どれだけ目立てるかを競う場と化したこの映画。文句なく、傑作の予感です。あ、傑作じゃなくて、あくまで傑作の「予感」ですからね。ぼく個人としては、今挙げた俳優さんたちはみんな大好きなので、最高だなあと思いますが、特に思い入れがない人に取っては、まとまりのない映画な予感がするので。







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