いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】幻の湖

2006-12-09 | 邦画 ま行

【「幻の湖」橋本忍 1982】を観なおしました。



おはなし
雄琴のトルコ嬢道子(源氏名はお市)は、ランニング好き。いつも愛犬のシロと琵琶湖畔を走っています。しかし、シロが何者かに殺されてしまい、復讐を誓うのですが……


カルト映画として名高い、この映画。観た人は例外なく「何で周りの人は止めなかったんだろうか」と唖然とする作品です。今回、見直してみましたけど、やっぱり訳が分かりませんでした。ストーリーは、戦国時代から現在、琵琶湖から宇宙までと、複雑怪奇に絡み合っていて「おそらく原作の橋本忍以外、誰にも本当には分からない」作品だと思われます。筋をそのまま追っていくとあまりにも意味不明なので、パートごとにわけて語ってみることにしますね。

<ペットロス映画>
トルコ嬢のお市(南條玲子)は愛犬のシロ(ラウンドウェイ・KT・ジョニー号)ととても仲良し。いつも一緒にランニングを楽しんでいます。しかし、ある日シロが何者かに殺されてしまいました。抜け殻のようになるお市。警察に執拗に捜査を依頼したお市は、湖畔に集められた目撃者たちの証言から、犯人が東京にいる若手作曲家の日夏であることを知りました。さっそく、シロを殺した出刃包丁を持参して東京に行くお市。しかし、日夏には逢えず、日夏の自宅すら分かりません。
「憎い、日夏が憎たらしい」うんうん、分かります。「東京中の人間が日夏をかばっている」いや、それは。頼むから手当たり次第に出刃包丁は振り回さないでね、怖いから。
その上、幻聴まで聞こえてきてきたお市の目の前に、ローザが現れました。

<スパイ映画>
ローザはお市のトルコ嬢仲間。しかし、この子が謎の女。飛行機の爆音が聞こえると「ファントムではなく、イーグルだ。イーグルはすでに実戦配備についている」とか言ってますし、タイプライターで日本の風俗産業についてのレポートなんかを書いています。トルコを辞めたローザはアメリカに帰ったはずでしたが、偶然、お市と東京で再会。早速、誰にも秘密だった日夏の住所からプロフィールまでを調べ上げ、アメリカ大使館で、それをお市に教えてくれました。「ここは?ローザは何のために?」とお市も少し疑問は感じたようですが、まあ復讐の前にはささいな問題ですよね。おそらくローザはCIAという設定なんだと思いますが、それにしても何で琵琶湖のトルコ嬢をしていたのかは謎です。

<ランニング映画パート1>
ローザのおかげで日夏の住所を知ったお市は、早速、日夏のマンションを張込みます。そこにランニングをするために日夏が出てきました。マンションの前で準備体操をしています。そして、ランニング開始。さっきまで、ワンピース姿だったお市もТシャツ、短パンで追撃開始です。どうやって着替えたかは謎ですが、まあ路上でそのまま着替えたんでしょう。
走りながらお市はつぶやきます。「疲れてきたら、つめて競りかけ、とことんまで走らせ……」でも日夏はかなり速いペースで走っていきます。「おかしいな。2キロ、まだ2キロも走っていないのに」
お市はバテて来ました。
「日夏には後ろに目があって、私を引きずり回して楽しんでいる」
そんなこと無いって。
字幕によると二人は駒沢オリンピック公園に来たそうです。字幕なんか入れるなよ、と思わないでもありませんけどね。
「さあ、シロ。行くわよゴー」と気合いを入れるお市。「よーし、距離はこのままで保つ」「ここだ、この直線でくっつく」「よーし、ぶっ倒れるまで走らせてやる」とレースの組み立てに余念がありません。しかし、日夏からすれば、変な女が、いきなり真後ろにくっついてきたわけですから、当然ペースアップします。あっさりチギられるお市。
「シローっ、走らせてぇー」と叫びますが、もちろん無理。芥川也寸志の感動的な音楽で無意味に盛り上がります。泣きながら走るお市。夕陽が沈みます。これはいったい何の映画でしょう。お市は空しく琵琶湖に戻るのでした。

<恋愛映画>
お市には気になっている人がいます。それは地元の銀行員の倉田(長谷川初範)。彼に入れあげ、自分の貯金はもちろん、同僚の貯金もその銀行員経由で、銀行に預けています。トルコの支配人からは注意をされたりもしますが、なあに、気にしません。だってお市は思い込みが激しい女ですから。そもそも二人の出会いからして「私はもう一年も働いたら辞めるんです」「辞める?」「そう。辞めて結婚するんです」「じゃあ、その相手はもう」「それはどこの誰かは分からないけど」とか言った後に、身の上話を延々と始めちゃうような飛ばしっぷりですから。
でも、お市には、もう一人気になる男性がいます。それは湖畔で笛を吹いていた長尾(隆大介)。もう、彼のミステリアスな雰囲気にお市はメロメロです。しかし、ペットロスで苦しんでいるお市は、異動することになった倉田と琵琶湖のデートをして、すっかり彼と結婚をする気になりました。しかし、その直後に再び長尾と出会ったお市は、またも悩みます、「どうして、どうして私は倉田さんと」。いや、どっちでもいいけど。

<時代劇>
長尾は、お市に昔話を語り始めます。それは、昔この琵琶湖であった悲しいお話。と、映画は本格的な時代劇になってしまいました。
戦国時代、浅井長政の妻・お市の方(高橋恵子)には器量良しの侍女・おみつ(星野知子)が仕えていました。「行くゆくはどこかの大名にも嫁がせたい」とお市の方に思われるほどの才女であるおみつは、しかし笛を吹く若侍・長尾(隆大介・二役)と恋に落ちてしまいます。もちろん、お市の方は、「おみつの選んだ男なら」ということで長尾の出世の約束もしてくれて順風満帆。しかし、浅井長政が織田信長(北大路欣也 )に反旗を翻したことで情勢は一変します。戦いのすえ破れる浅井家。お市の方の息子も磔にされ、怒ったおみつは信長に対して侮辱の言葉を吐きました。当然、激怒した信長は、おみつを琵琶湖で逆さ磔にするように命じます。ぶら下がっているおみつの死体。湖面では、舟の乗った長尾がひとり寂しく笛を吹くのでした。
当然、こんな話を聞いたお市(現代の)は、わけが分からなくなります。「私は幻のみつじゃない」と絶叫。その上で「いえ、私はお市。お市の方」と言い出してしまいました。なにしろ思い込みが激しいですからね、刺激してはいけません。

<ランニング映画パート2>
結局、倉田と結婚をする決意を固めたお市。お店も、もうすぐ辞めます。しかし、そこに客として日夏がやってきました。有名人の来訪に、ほくほく顔で、案内をしているマネージャー(室田日出男)。おや、お市の様子がおかしいです。愛犬シロの遺影(トルコ風呂に飾るなよ)を前にブルブル震えています。やばいです。尋常じゃないくらいブルブル震えています。あ、いきなり出刃包丁を引っつかみました。慌てて店の外に飛び出す日夏。追うお市。
「日夏。日夏はこれから自分のペースで走る」とつぶやくお市。いや、そんなわけ無いと思います。後ろに出刃包丁持った女が追いかけてきてるんですから。
「あのトルコ嬢が白い犬の飼い主なのは間違いない、しかし」と冷静な日夏。ああ、こいつもやっぱりおかしいよ。
「東京のお返しは琵琶湖。この琵琶湖でしてやる」とお市。マラソンですか?
「駒沢の3コーナーのように、どこかでスパートし、一気に。それでレースはお終いにする」と日夏。だからレースじゃないって。
「さあ、シロ。少しずつつめるわよ」
通り掛かりの通行人のおばさんが、素で唖然としている中、二人のデッドヒートは続きます。しかし、お市は苦しそうです。
「シロ、もうダメ。走れない。シローっ」お市は泣きながら走っています。そこに現れるシロの幻。お市のペースが復活しました。走る力をありがとう、シロ。
もう、ヨロヨロ、ボロボロになって走る二人。銀行員の倉田さんの幻も「ぼくはイイから、あなたは走れ」と応援しています。
二人は琵琶湖大橋までやってきました。登り坂がキツイです。とうとう立ち止まる日夏。それを追い抜くお市。
「勝った、勝ったわよ」
「シロ、長尾さん、淀さん、ローザ、それに倉田さん。勝った、あたしが勝ったわよ」と勝利を満喫しています。良かった、良かったねえ。日夏はがっくりしています。と、本来の目的を思い出したお市。
「お前なんかに、琵琶湖に沈んだ女の恨み節なんて」と妄想全開な言葉と共に、出刃包丁を持って突進です。刺さる出刃包丁。血がプッシューと飛び出します。

<宇宙映画>
画面は唐突にスペースシャトルの発射シーンに変わりました。効果音は単なるジャンボジェットの音にしか聞こえませんが、きっと特撮の中野昭慶さんには深い考えがあるんでしょう。シーンが変わると、どう見ても60年代の東宝怪獣映画に出てくるとしか思えない、スペースシャトルのコクピットが。そこにいるのは長尾です。そうです、彼は宇宙飛行士だったのです。彼は重力バリバリのコクピットを出て宇宙へ。ちょうど琵琶湖の真上、約185キロメートルにスペースシャトルはいるようです。笛をとり出した長尾は、それを宇宙にそっと置きます。まるで、透明のアクリル板の上に置いてあるかのような笛。ちょいちょいと押して位置を調整していますが、やっぱり慣性の法則っていうものを克服しているんでしょうね、幻の力で。
「たとえ琵琶湖が無くなっても、太陽系の消滅する45億年先まで、笛はこの幻の湖の上にある」と言う長尾。そしてエンドクレジット。多分、人工衛星からの連想だと思うのですが、衛星が静止して見えるのは静止軌道、すなわち赤道の真上ということを忘れているんでしょうか。もっと言えば、高度は約3万5千キロメートル。185キロでは低すぎです。それとも、これまた幻の力?


ちまたでは、橋本忍が今まで営々と積み上げてきたキャリアを失ってしまった作品と思われている、この「幻の湖」ですが本当にそうでしょうか。
映画の中に、お市が犬小屋を燃やすシーンがありました。そして、お市が言う台詞
「さようならだわ。あの人にも、この人にも、みんなに」
これは、謎の台詞です。前後関係もないままの、突然の台詞ですから、特定の登場人物に当てた台詞ではないようです。ということは、つまり橋本忍が映画界のみんなに当てたメッセージとは取れないでしょうか。そう、橋本忍はキャリアを失ったのではなく、自ら捨て去ったのです。きっと、そうに違いありません。それとも、これは妄想?


(とりあえず出刃包丁持って追跡)


(もう走れないっ)


(勝った、勝ったわ)


(あっ、刺さなきゃ)


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2 コメント

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ある種の到達点 (シャケ)
2006-12-21 08:24:08
どうも、シャケです。

これははっきりいって、今の自分のキャパシティを越えている感じがします(笑)

ただ橋本忍が監督・脚本でよかったと思うのは、並みの人間ではこれだけの材料を一本の映画にまとめきれなかったのではないか、ということです。普通はオムニバスか何かになるとこですし、それではやはりインパクトが弱まってしまいます。あとは橋本忍監督ということで、大きなバジェットでこういうわけの分からないものを撮れたということが大きいですよね。

「トンデモ」映画というかZ級映画の可能性を開いた素晴らしい先駆けであり、今なおZ級映画の不滅の金字塔として燦然と輝いているわけで、やはり避けては通れない傑作と言うべきでしょう(笑)
これを壊れた映画と呼ぶなら、淀川長治曰く、ゴダールやロッセリーニの頃から映画は壊れ始めているわけで、その壊れていったある種の到達点(到達すべきでなかった不毛な到達点に見えるかもしれませんが)でしょうね。

この『幻の湖』を脇に置くと、黒澤の晩年のキレのなさもあながちボケではないような気がしてきます。
Unknown (いくらおにぎり)
2006-12-21 09:49:36
しゃけさん、こんにちは


さすが、黒澤ファンですね。この映画から黒澤に話が飛ぶとは思わなかった(笑)

黒澤の晩年がボケでなく確信犯だとすると、「物語の解体」という壮大な実験をしようとしていたと言うことですよね。特に「夢」なんかは。

それはそれで、気宇壮大な黒澤らしい挑戦だと思います。いや、真剣に。でも、それに付き合わされて、命を削った本多猪四郎がやっぱり可哀想(泣)

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