いくらおにぎりブログ

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【映画】紙屋悦子の青春

2007-11-12 | 邦画 か行

【「紙屋悦子の青春」黒木和雄 2006】を観ました



おはなし
紙屋悦子は、家に出入りする操縦士明石の紹介で、整備士の永予と見合いをすることになったのですが……

黒木監督の遺作です。あちこちで絶賛されているようですが、少なくとも僕にはピンと来ませんでした。

病院の屋上。ベンチに老夫婦が座っています。季節は早春。夕方になるとまだまだ冷え込む季節です。「寒うなかですか」という妻の問いに「うーん」と気のない返事をする夫。「毛布持ってきましょうか」「寒うなか」。夫は病気で入院中のようです。今はまだ春だというのに、正月に帰省してくる息子のことを楽しみに待っている、そんな老夫婦です。

夕暮れ雲を切り裂くように、ジェット機の轟音が響きます。夫がつぶやきました。「桜の木の見えるやろ」「いっぱい桜の木のあったとば、覚えとるねえ」「まだ、あるやろか桜の木」。「思い出したと、昔んこと」と答える妻。夫は「なんで死にきれんかったやろか」とポツリと言うのです。

<鹿児島県 米ノ津町 昭和二十年三月三十日>

時刻は夕方。紙屋安忠(小林薫)は心配そうに外を見ています。「遅かね、悦っちゃん」と妻のふさ(本上まなみ)が言います。二人は、帰りの遅い妹の悦子を心配しているのです。それはともかく、と食事を始める二人。話題は悦子のお見合いのこと。安忠の後輩で、海軍航空隊の操縦士明石少尉が、友人で整備の永予少尉を悦子の婿にどうか、と言ってきたというのです。

「明石さんがよかじゃないですか」と言うふさ。しかし安忠は「明石はよか人間や」と答えつつも、煮え切らない感じです。「なら、明石さんになさらんですか」とたたみかけるふさ。悦子の気持ちは明石に傾いているはずと断言しています。子供の頃から仲良しな自分には悦子の気持ちが良く分かる。「女学校の時は教室が違ごうただけで、毎日泣きよったんです。こげな仲良しならいっそのこと姉妹になったっちよかと思って、悦っちゃんの兄さんのあんたと結婚したんです」とまで言われ、「へっ」と絶句する安忠。なんか完全に尻にひかれていますね。

ともあれ、明日には明石が永予を連れてくるからと言われて、逆に絶句するのはふさ。準備があるのに、いきなりなによ、と怒り出してしまうのです。そこに役場の人が訪ねてきました。なにやら難しい話のようで、夫婦喧嘩も中断です。

さらに悦子(原田知世)も帰ってきました。なかなか見合いのことを切り出せない安忠。ふさに「まだ言うとらんですか」と散々尻を叩かれたすえに、ようやく言うことができたのですが、今度は悦子が煮え切らないようす。「どうか」「うーん」「やめとくか」「うーん」。しかし悦子は、この見合いが明石のセッティングしたものと聞いて、何かを吹っ切ったように承諾するのでした。

ところが、先ほど役場の人がもたらしたのは、安忠に急きょ熊本の工場に行く命令が出た知らせでした。「まさか明日とは言わんでしょ」と怖い顔をするふさ。「そんつもりじゃっどん」と能天気に答えた安忠は、「なんをいいやっとですか」とまたもふさに怒られるはめに。しかし、悦子は私は大丈夫だから、兄さん行ってきて、それに姉さんも、見送りに付いていってあげて、というのです。

でも、いくら戦時とは言え、いきなり徴用で、こっちからあっちの工場に行かされるような生活。もう、うんざりです。「いつまで続くんやろか」とつぶやくふさ。「勝つまでや」と安忠は答え、悦子も「そう、日本が負けるはずなかもん」と言います。しかしふさは「もう、よかとに」とひとりつぶやくのでした。

<昭和二十年三月三十一日>

紙屋家に海軍の軍人が二人訪ねてきました。明石(松岡俊介)と永予(永瀬正敏)です。ところが、紙屋家は無人。兄夫婦はともかく悦子はどうしたんでしょうね。カチンコチンの永予は「出直そうで」と言いますが、明石は勝手知ったる他人の家とばかりに上がりこんで待つことにしたのです。と、ここからの展開はコメディ風味。明石のお見合い指南を、堅物でドン臭い永予がことごとくボケ倒すという、愉快な光景が続きます。そして、そこから分かるのは、明石の快活でいながら、友を思う気持ちの深さ。そして永予の誠実さです。

と、そこに「あ痛」とコケて、ブツブツ言いながら悦子が帰ってきました。ふと、待っている二人に気づき、口をポカンと開けつつ「なんで、なんで」と狼狽する悦子。どうも、兄の安忠が待ち合わせ時間を勘違いして、悦子に教えていたようです。

ともあれ、その場をどうにか取り繕い挨拶を交わす3人。しかし、永予は固まっているばかりで、微妙な沈黙が座を流れます。「なんか喋れよ」「うん、ご趣味はなんですか」「趣味というても、別になかです」。しーん。空振りです。事前に打ち合わせたとおり明石が、任務を理由に「失礼します」というと、永予までもが「失礼します」と言い出してしまう始末です。だから、それは二人きりにするための、方便なのに。ここまで、ドン臭いと、ちょっとやり過ぎ感が漂って、笑えませんけど。そもそも、そんなドン臭い人間に飛行機の整備をされたくない気もします。

明石はトイレを理由に、そのまま去り、残された二人はやっぱり気まずいまま。しかし、いきなり自分の経歴を語りだし、そのまま明石の経歴も自慢そうに語る永予という人間は、確かにいい人ではありそうです。明石がいなくなったと知って、一瞬悲しそうな顔をした悦子ですが、やがて永予という人間の持つ善良さに惹かれ、笑いもでるようになってきました。そして、とうとう、
「父も母もおらんとです。三月十日の帝都空襲でなくしました」「親のおらん私です。両親納得されますか」「何の取りえもなか、ふつつかもんの私ですけど、どうかよろしく頼みます」と言ったのです。

そんな悦子の態度にオタオタしていた永予ですが、帰るときには、「私はもうあなたば一人にしまっせん」と、いちおうカッコよくキメるのでした。

<昭和二十年四月八日>

ふさが料理をしているところに「ただいまぁ」と悦子が帰ってきました。今日は安忠が休暇で熊本から帰ってくる日です。ふさも口では色々言うものの、やはり安忠を愛しているのでしょう。なけなしの小豆を使って、爆弾避けになるというお赤飯を作っているのです。しかし、それにしても帰りが遅い。どうせ話好きの駅長さんのところに引っかかって話し込んでいるんだ、と目が険しくなってくるふさ。あ、ようやく安忠が帰ってきました。ふさはすっかりムッとしています。赤飯を見て、「今日はなんか祝い事でんあっとか」と安忠が聞いても、「別にないもなかです」と不機嫌全開。さらに、安忠が休みは明日まで、と言った瞬間、怒りが爆発です。だったら、帰ってこなくていい、とまで言い出しちゃいました。いきなり喧嘩が勃発です。まあまあ、となだめる悦子のことなんか完全に無視の勢いで、言い合う二人。安忠は、自分が工場に行かないと武器が作れないじゃないか、「わいは日本が負けてもよかか」とトドメの台詞を。しかしふさは「よかよ、負けても」と、(当時にしては)とんでもないことを言ってしまったのです。もう激怒しまくる安忠。ワンワン泣き始めるふさ。なんか修羅場です。

と、そこにごめんください、と明石の声が聞こえます。「だいやろか」と言いつつ、顔がほころぶ悦子。しかし明石は最期の挨拶にやってきたのでした。「沖縄奪回のための作戦に晴れて参加することになりました」と安忠に言う明石。この時期の予備士官搭乗員が沖縄戦に参加するといえば、十中八九は特攻隊。つまり、明石はもう帰ってこないということです。思わず厳粛な顔つきになる紙屋家の面々です。そして、ふさは気を利かせて、悦子と明石が二人きりになれるように計らってくれました。とはいえ、月並みな言葉しか、二人には思い浮かびません。「敵艦をば、敵空母をば、沈めなさることを祈ってます」と言う悦子。そして、「どうか体をご自愛ください」とも。しかし、特攻隊員は死にに行く立場です。体をご自愛なんてできません。悦子は少し沈黙したあと、すいませんと小さな声で謝るのでした。「悦子さんもお元気で」と去っていく明石。ふさは「悦っちゃん、行ってこんね、早よう」と、明石を追うように悦子に勧めますが、しかし、悦子がただ号泣するのみでした。

<昭和二十年四月十二日>

永予がやってきました。ふさが慌てて、「悦っちゃん、悦子さん、永予さんがお見えになったよ」と大声で呼びます。ニッコリと永予を出迎える悦子。あの号泣はナンだったんだと、男としては、ここらへんの女心は分かりません。

それはともかく、「今度、勤務地の替わることになったとです」と永予は大村航空隊への転属を報告にきました。そして「それで私がこっちにおるうちに両親の出てくるというとです。会うてもらえませんか」と言うのです。「はい」とニッコリ答える悦子。「よかとですか」「はい」。

それを聞いて安心したのか、永予は懐から手紙を取り出しました。「明石大尉から預かったとです」と手紙を渡す永予。そう、明石少尉が大尉になっているということは、つまり。

「最期の頼みやけん。貴様だから、私だから頼むのだと、これで思い残すことはなか、と飛んでいきました。私のことは、私のことは気にせんでよかですけん」と手紙を渡そうとする永予。しかし悦子は「私は……」と躊躇しています。つまり「私はあなたの求婚を受けた女です」と言いたいのでしょう。

「死んだとです。もうおらんとです。そやけん、あいつの分も私はあなたのことを大事にせんばいかんとです。なんも言わず受け取ってください」と無理やり手紙を押し付ける永予です。

永予が帰るときに、「待っちょりますから」と言う悦子。大村がどうなろうと日本がどうなろうと、「きっと迎えにきてください」。

桜がハラハラ散っています。

舞台は現代に。病院の屋上です。「お父さん」と声をかける悦子。「もう日の暮れますばい」。そうだな、と答える永予。そうだな、また明日くればいい。「今日の続きがあっとですか」と聞く悦子に「ずっと続くたい」と永予は言うのでした。
おや、悦子が耳をすまします。海は見えないけれど、波の音が聞こえてくるようです。二人は黙って、遠い波の音に聞き入るのです。

そして、過去。「あ、聞こえました」と声をあげる悦子。永予と悦子は、目を閉じ波の音を聞くのでした。

戦争レクイエム3部作(「TOMORROW/明日」「美しい夏 キリシマ」「父と暮らせば」)の黒木監督が撮った、戦争末期を舞台にした映画ですから、こうあるべし、という先入観が強すぎたせいか、イマイチ乗り切れませんでした。

どちらかと言えば、この作品には「向田邦子新春ドラマシリーズ」の匂いがします。しかし「向田邦子新春ドラマシリーズ」は戦時中の庶民の哀歓、女の業みたいなものを描いてテレビシリーズとしては超一級の出来栄えでしたが、この作品は、そのレベルにまで達していないようにも思われます。

特攻隊員と整備員の友情。好きな人とは結ばれず、他の男に嫁がなければならない女の悲哀。それが、黒木監督流の長回しで、淡々と描かれた結果、どこか焦点のぼけた作品になってしまったように思います。まして、主役の原田知世は、どちらかというと少女の雰囲気を残した女優さんですから、そこには女の情念みたいなものが稀薄です。すると、結果的に、学生っぽさの抜けない親友二人が、お互いに彼女を譲り合って、お人形さんみたいな女の子があまり疑問を抱かずにどちらかと結婚するという、腑抜けた骨格しか感じられません。

これでは、悦子を永予に譲っていった明石の無念は伝わりません。そして、操縦士にでは無く、戦死の可能性が低い整備士に妹を嫁がせようとした兄の想い、そんなことを全部知った上で、押さえきれない明石への想いに悩む悦子。それを横で見つめる永予の苦悩、そんなものがすっぽり抜けてしまっています。

そもそも、この映画の若手少尉二人。そして、それにつりあう悦子というのは、20代前半のはず。それを40歳の永瀬正敏や、39歳の原田知世が演じるのは、かなりムリな話です。確かに原田知世には少女の雰囲気が残ると書きましたが、「少女」なわけではありませんから。

そして逆に、年老いた姿の二人も、かなり痛いものが。もちろんストーリー的には、二人が暮らした長い年月、それでもなお消えない傷を表現するのに必要かもしれません。でも、メイクが……。「年寄りの扮装をした若い人」以外の何者でもないので、一気に興ざめです。

結局、ムリにムリを重ねた結果、出来上がったのは、判断に悩む微妙な作品。もちろん、ぼくは戦争レクイエム三部作については傑作だと思っていますし、これが黒木監督の遺作であることも考えると、キツイことを言うのは情において忍びないですが、この作品はいまいちだと思います。

ただ、兄嫁を演じた本上まなみについては、とても良かった。嫉妬もするし口も悪いけど、本当に家族を愛し、いかにも一家の「お母さん」といった雰囲気をかもし出して、名演技でした。






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