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【映画】第三の影武者

2007-04-22 | 邦画 た行

【「第三の影武者」井上梅次 1963】を観ました



おはなし
戦国武将の影武者となった男の恐怖、つかの間の栄光、そして挫折を描いた作品です。

主演の市川雷蔵が一人二役で奮戦。脇には新東宝の残党、天池茂、万里昌代。さらに東映城のお姫様の高千穂ひづるが松竹から出演(ややこしいけど)と、なかなか充実した出演陣でじっくり見せる映画でした。

戦国時代。山また山に囲まれた飛騨では、武田、上杉、それに織田の侵入が無かった代わりに、小領主の小競り合いが絶えませんでした。
小さな村で暮らす貧乏郷士の倅・二宮杏之助(市川雷蔵)は、そんな小競り合いを見るたびに、侍になりたいと胸を熱くしていたのです。

「そして、ある日その若者の運命は馬に乗ってやってきた」のです。
篠村左兵太(金子信雄)という騎乗の武士は、杏之助に「その方、武士になりたくはないか」と言い出しました。もちろん杏之助はうれしくて天にも舞い上がりそうな気分です。そのうえ、新参の若者を百石で召抱えるという好条件。金子信雄がいきなりうまい話を持ってきたら「絶対に」裏があるので、気をつけましょうね。

篠村に連れられて三谷城に行った杏之助は、ひっそりとたつ小屋に連れ込まれます。薄暗い中に見えるのは、自分にそっくりの二人の男。ビックリする杏之助に篠村は、おまえはこれから殿様の影武者になるのだと言われました。先に座っていたのが、影の一番・桑野源太と影の二番・石原庄作。そして杏之助は今日から影の三番になったのです。
その日から猛特訓が始まりました。殿様のビッコをまね、気短でムチをバシバシ叩く癖を練習し、家臣の名簿を見て名前を丸暗記です。そんな日々が過ぎ、杏之助は殿にソックリになってきました。というか、雷蔵の二役なんで、似てて当たり前なんですけどね。

さて、いよいよ殿様の池本安高(市川雷蔵・二役)との対面です。
「うーん、よく似ておる。わしは気に食わん。面白くない」と安高が言うほど、そっくりな二人。あとは、最終試験を残すのみです。
「いいか二宮、これは褒美も兼ねてじゃ」と下卑た笑みを浮かべる篠村。これから安高の愛妾、小萩(万里昌代)と杏之助が床入りをするのです。これでバレなければ完璧、というわけです。粗暴な安高に比べて優しい杏之助を、最初は不審そうに見ていた小萩も、結局燃え上がっちゃうのでした。

さて、合戦が起こりました。勇猛果敢な安高は先頭にたって突撃していきます。と、矢がヒューっと安高の目に突き立ちました。タイヘンです。慌てて物陰に安高を運ぶ側近の篠村たち。
「三番、殿の身代わりに立て」と言われた杏之助は「者ども、余は健在であるぞー」と部下たちを叱咤激励します。さっきまで目に矢が刺さっていたのに、元気に采配を振るう殿に、部下たちは勇気百倍、あっさり合戦に勝つのでした。

勝利の祝宴では、殿はさすがだ、と部下たちが興奮気味です。もちろん、その時、本当の安高は床でウンウンうなっているんですけどね。そして影武者1番から3番までは、当然華やかな席に顔を出せるわけも無く、小屋でしんみりと酒を飲むばかりです。と、一番がポツリと「俺は怖い」と言い出しました。何が?と不審げだった2番と杏之助の顔色がサッと曇ります。「まさか」

そこに篠村が酒を持って、やってきました。ありがたく酒を飲む三人。と、篠村はこの酒には痺れ薬が入っていると言うのです。げげっ。これで痛くないから目を潰しちゃおうね、と言う篠村。「これも出世の糸口。ありがたいことではないか。目ぐらい何じゃ。一つ潰しても、まだ一つ残っておるわ」
ドヨーンと沈む三人。医師が刃物を持ってやってきました。どうしましょう。思わず「イヤだー」と叫んで飛び出す二番。もちろん、あっさりと篠村に切り殺されてジ・エンドです。観念した一番は、痺れ薬入りの酒をさらにグイグイあおって、目を潰されました。杏之助は思わず腰を抜かしています。「二宮立て。それでも武士か」と怒る篠村。刃物が迫ってきます。うぎゃあーっ。とりあえず、今回の件で杏之助は二十石の加増を受けました。「この果報者めが」と言う篠村ですが、いくら加増されたって目は潰されたくないですね。

同盟を組んでいた広瀬宗城が裏切って攻めて来ました。負けじと出陣した安高ですが、不意打ちを喰らったため、味方の将士は次々と討たれていきます。安高もまた腕に深手を負いました。味方は総崩れです。篠村は杏之助に、殿を連れて桜洞城に落ちよ、と命じます。桜洞城の三木自綱とは、息女の照姫(高千穂ひづる)を嫁に貰い受ける約束をしている間柄ですから、きっと助けてくれるでしょう。
安高を抱えるように落ちていく杏之助。しかし、安高の腕の傷は思いのほか深いようで、このままではばい菌が体に回りかねません。剛毅な安高は杏之助に「俺の腕を切れ」と言います。躊躇した杏之助ですが、ものすごい剣幕の安高には逆らえません。バサっ。安高の腕は斬り落とされました。「恩賞を取らす。わしを助けて、三木の城へ」「加増して使わすぞ」という安高。「加増?」杏之助の脳裏に悪夢がよみがえります。「また加増して腕を切ろうと言うのか」

「おのれ下郎の分際で叩き斬るぞ」と脅す安高に、「俺を斬ろうというのか。お前のためにこんな片輪になった俺を。きさま犬畜生だ」と口答えする杏之助。二人はもみ合った結果、安高は死に、杏之助が生き残ったのです。慌てて逃げ出す杏之助ですが、途中で篠村に見つかり、安高の代わりに殿となってみないかと誘われてしまいました。
「これくらいの大博打が打てなくては、この世に男と生まれたかいは無い。どうじゃ。これほど面白い話は無い。イヤなら・・斬る」とまで言われては、嫌も応もありません。

さて、三木城では今回の安高の敗戦について話し合っています。自綱の謀臣、三木定光(天池茂)は安高を助けようと言います。所領を失った小領主を助け、大義名分と広大な領土を得た上杉謙信の例に倣って、安高を助けつつ、実質的に三木家で飛騨を制圧してしまおうと言うのです。
城境に続々と集結する安高の家臣たち。今は城を失ったとは言え、この家臣団と安高の武勇が合わされば、広瀬宗城などは鎧袖一触でしょう。

実は照姫と深い仲の定光は、巧みに安高こと杏之助を操ります。杏之助としては篠村に操られ、定光に操られと、操られまくり。いい加減、そんな生活が嫌になっても、篠村から「この辺で秘密をバラして、二人でクビをくくられようじゃねえか」と脅されると、何も言えないのです。鬱憤を晴らすために馬で走る杏之助。と、そこに「殿様。殿様」と声をかけてくる女がいるではありませんか。それは最終試験で抱いた小萩でした。しかし、杏之助をマジマジと見つめた小萩は「やっぱりあなた、安高の殿ではない」と言い出します。ギクっ。「私は嬉しいのです。殿様ではない、あの夜のあなたに会えて」と杏之助を見つめる小萩。名さえ知らぬあなたをお慕いしていました、と切々と訴える小萩に、杏之助はメロメロです。だって、初めて「安高」ではなく「杏之助」を認めてくれる人が現れたのですから。
「ねえ、杏之助さま。もうお城には帰らないで。このまま他国に行って、静かに暮らしましょう」と言う小萩。しかし、男心は複雑です。杏之助は初めて自分の意思で、強くなりたい、飛騨の王者になって小萩を迎えに来たい、と決心をするのでした。

行かないで、行かないでと泣いて止める小萩を振り切って城に戻った杏之助は出陣を宣言します。それに反対していた篠村は「殿、策をお授けください」と嫌味を言いますが、なあに策なんかあるわけありません。というか知りません、殿じゃないんだから。とりあえず無闇に突撃するだけです。そのため被害は甚大です。篠村も矢にあたり倒れました。チャンス。杏之助は怪我をしている篠村の喉に矢を突き立てて殺したのです。これで、もう秘密を知っているものはいなくなりました。
合戦の帰趨が、杏之助側に傾き始めたことを確認した定光は、自らの軍勢を動かし始めます。これで流れは完全に変わりました。多くの家臣を失ったものの、お味方勝利です。えいえいおー。

三谷城に照姫が輿入れしてきました。勇猛な部下を多数失った杏之助のために、三木家からは定光率いる軍勢が引き出物としてついてきています。迎えた新婚初夜。杏之助は「姫、約束どおり飛騨の王者になりましたぞ」と自慢げです。と、そこにふすまがガラリと開いて定光が入ってきました。「安高殿、ご苦労。御身の役割はここまでじゃ」とバカにしたような笑いを浮かべています。無礼であろう、と怒る杏之助に定光は、もう正体はバレていると言い放ちます。死に瀕した篠村が、旗に血で書き残した「影の三」という言葉から、杏之助の正体を探り出したそうです。もう秘密を知っている人は誰も残っていないはずですが、まあ話の都合ということで。

自分が、その杏之助だという証拠がどこにある、と最後の抵抗を試みる杏之助ですが、
「たわけっ。真の安高ならあんな下手な戦をするものか」と言われてしまうと、何も言い返せません。しかし、ズルそうな笑みを浮かべながら、命は助けてやらんことも無いと、猫なで声を出す定光。姫は俺のものだ、と言うのです。「本当の所は前から夫婦になっておる」っていうんですから、たいした男です。その代わりにお前には良い物をやろう、と言って連れ出されたのは小萩。「問いただしても吐かぬが、どうやらお前のことを知っている様子」と定光は言います。なみだ目で、黙って杏之助を見つめる小萩。
定光は嵩にかかって、夜はわしの部屋に姫を寄越せ、朝になったら返してやる、つまり「昼はお前が城主で、夜はわしが主」だと言いました。「夜のあるじ 天池茂」。うーん、ピッタリですね。怒りまくる杏之助を小萩が泣いて止めます。部下も遠ざけられて、この城にいるのはほとんどが定光の部下。杏之助にも、本当はどうしようもないことが分かっているのです。高笑いをして照姫と共に去っていく定光。

「偽者が、本物の名と地位を得たとき、本当の偽者に突き落とされてしもうた」とガックリする
杏之助に小萩は切々と訴えます。
「いいえ、これでいいのです。たとえ偽者でも、心は本物より安らかに」
そして、愛おしげに自分の腹をそっとなでるのです。まさか。そう、お腹には杏之助と小萩の子供が宿っているのでした。
突然、目の色を変える杏之助。勝った、勝った、と部屋を飛び出していきました。
定光と照姫の寝室のふすまをガラっと開けた杏之助は「定光、俺が勝ったぞ」と叫びます。たとえ自分は偽者でも、その子供は本物の城主になる、だから俺の勝ちだと言うのです。しかし、定光は冷たい笑いを浮かべながら、照姫のお腹にも子供がいる、というのです。ただし、俺の子だがな、と。そして、余計なことを杏之助が言ったばかりに小萩は定光に斬られてしまうのでした。

もう完全にヤケになった杏之助。「みんな出会え、わしは安高ではないぞ」と叫びながら城中を走り回り始めました。驚きあきれる家臣たち。しかし定光が、安高殿は乱心なされた、と言うと、そんなものかな、と思ってしまうのです。いくら騒いでみても、誰も相手にしてくれません。そうじゃ、と思う杏之助。篠原なら、わしの正体を知っている。ふと、見ると壁に篠村がいます。おお、篠村、と駆け寄ると、消える影。壁に映る自分の影が、全部篠村に見えてしまう杏之助は、もはや完全に発狂してしまいました。

それから20年後。飛騨の地には秀吉の命を受けた金森長近が攻めて来ました。定光も安高の子(とされる)青年も殺されたそうです。そして、城の座敷牢には一人の気が狂った老人がいたと伝えられます。その老人は、衰弱のため、その日のうちに死亡。名前も分からない老人の墓は、ただ影塚と言われたのでした。

いや、これは面白い。先の読めないストーリー展開。激変する主人公の境遇。全体を通じてにじみ出る緊張感と悲しさ。素晴らしすぎます。

また、出演陣も良かった。実生活そのままの、気高く高飛車なお姫様を演じた高千穂ひづるの演技。これは演技力というよりキャスティングの勝利でしょう。わざわざ松竹からレンタルした甲斐がありました。
そして金子信雄の小悪党っぷりも、まさにはまり役です。

しかし、それ以上に良いのが新東宝組。
万里昌代は、新東宝時代にバタ臭いグラマー美人として売っていましたが、大映に移ってからは、本当にしっとりした女性役が似合うようになりました。ひたすら市川雷蔵を慕うひたむきな視線。雷蔵を思って泣き濡れて、泣き濡れて、泣き濡れるさまの神々しいまでの美しさと色っぽさ。まさに完璧です。
それに天池茂のカッコよさ。一見すると謹厳実直な風貌が、ふとした瞬間に醜く歪んで、そこからこぼれだす邪悪な笑顔。ゾクゾクするほど不気味で、でも目が離せない、そんな迫力があります。

もちろん、これは市川雷蔵の映画。ですから雷蔵の演技も見逃してはいけません。何も知らない村の青年の顔。影となった男の諦めを浮かべた表情。荒々しい戦国武将の勇壮。金子信雄を殺すときの鬼畜ぶり。万里昌代に愛されていることを知った時の、無邪気な喜び。そしてもちろん最後のシークエンスの、得意の絶頂からから絶望の底、そして再起できるという喜びから発狂へと、めまぐるしく変わる表情の演技は、素晴らしいの一言です。

日本映画の最盛期には、こうした作品が当たり前のように量産されていたのかと思うと、本当に驚いてしまいます。









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2 コメント

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すばらしい原作と映画 (海王星)
2008-05-08 12:27:58
 今ばやりのCGなど、及びもつかない、深い人生模様、面白すぎるし、悲しすぎる。これは、名作である。巧みなストーリー展開、迫真の演技、映画、小説の醍醐味があふれている。
 最近南条範夫の作品は見かけませんが、大学教授をしながら、小説を書いていたとか。
原作は未読ですが (いくらおにぎり)
2008-05-08 15:21:13
海王星さん、はじめまして

南條範夫の本は読んだことがありません。でも、この映画の原作であれば、読めばまちがいなく面白いでしょうね。

この記事を書いたのはほぼ一年前ですが、最近は眠狂四郎にこっていて、原作もポツポツ読んでいる状態です。でも、いずれ南條範夫の読もうと思います。

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