ただ静かに時間が流れていた。
南原の胸の中にいた仁子は、小さな声で涙をこらえながら
「ずっとこのままだったらいいって・・・。どんな形でも教授のそばに・・・
いられるなら・・・。」
南原は少し驚いた顔をして仁子を見下ろした。
「仁子?」
仁子は南原の顔を見上げた。
「俺のそばに?」
仁子はうなずいた。
「えっ?でもお前・・・。」
「いやそんなことはどうでもいい。ジーン?」
ん?という顔で仁子が頭をか . . . 本文を読む
そんな年月がしばらく続いていた。
南原の浮いた噂は常に聞こえていた。
それに対して仁子はまったく興味もない様子で、「教授はもてるからね。」
といつも笑顔で答えた。
「今度は本命かな。」
「ほんとに手を出したりする人じゃないと思ってたのに。がっかり。」
「この間の出張もそうらしいよ。」
いろんな噂が飛び交っていた。
そんな噂話の飛び交うカフェで仁子が浮かない顔をしていた。
「ジーン。どうしたの? . . . 本文を読む
いつまで・・・一緒にいられるのかな・・・
仁子はロンドンの分厚い雲を見上げながら、ため息をついた。
あの別れから5年の月日が経っていた。
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南原はオーストラリアを基盤に世界的科学者の地位を築き上げ、仁子は若手
研究者から日本を代表とする動物科学者の一人となっていた。
「蒼井さんの恋人はやっぱりテントウムシなのかな?」
「どう . . . 本文を読む
南原はロンドン大学の研究室で、一大プロジェクトの責任者として
任を担っていた。国連からも支援されるこのプロジェクトは、世界中から
研究者を集めた地球規模のものだった。
「南原博士、ご一緒させていただいて光栄です。」
みな深々と南原に頭を下げ、敬意の念をもって接していた。
「私はただの責任者です。形ばかりの。あなた方がいてくださるからこそ
これは地球を救うことのできるプロジェクトになりうる。よろし . . . 本文を読む
南原はあの後、ロンドンに移り海洋土壌の研究に没頭し世界的に認められる
一大プロジェクトを指揮していた。その名は、国連にも認められ日本政府は
南原の存在を称えるほどになっていた。そのおかげもあり、諫早湾は修復では
なく新しい形で海として息を吹き返し始めていた。
仁子は、吉田教授に頭を下げた。
「なんのこと?ただの休暇でしょ。」
吉田教授は預かっていた辞表を取り出し中央を破るとゴミ箱に棄てた。 . . . 本文を読む
それから1ヶ月が過ぎようとしていた・・・
ブルーマウンテン研究所での調査・論文作成は山を超えて、来年度の
国際環境学会で発表を残すのみとなった。
全員がシドニーの早乙女研究所に戻っていた。
打ち上げをかねて、シドニー湾のシーサイドにあるシーフードレストランで
夜景をバック、ワインを片手にみなそれぞれの話題で盛り上がっていた。
「ジーン、ここの研究員になるんだよね。」
スタッフの当たり前のように言 . . . 本文を読む
そのままで2ヶ月が過ぎていた。
帰ろうとする仁子を周囲は許さなかった。中途半端が苦手な仁子は
かわるがわるやってくる問題や周囲からの信頼感に逃げ出せずにいた。
『ここが自分の場所・・・。』そう感じていた。
いくら首を振っても仕方ない、離れることのない感情だった。
気がかりは南原のことだった。
時々オーストラリアに戻っているようだが、こちらには顔を出さない。
自分がシドニーに戻っている時は必ずと言 . . . 本文を読む
研究所に戻ると会議室は資料と地図、サンプルで埋め尽くされていた。
それを見るなり、南原はため息をつくと
「一からやり直しか?」と言った。
「お~!」
スタッフの気持ちは高揚し、やり直しと言う言葉も不似合いなほどだった。
「お前のせいだぞ。」
南原は仁子にため息をつくように言った。
「え、だって。」
「俺が言ったからか?俺のせいか?」
やや威圧的に言う南原に仁子はむっとして
「そんな事言ってません。 . . . 本文を読む
南原は仁子の変化を感じていた。
夕食の時、森の話をしかけてそして躊躇する。これまでなら研究に
関わるすべての事柄に仁子は全身で拒否していた。崩れてきた…
そう思った。
「なんか見つけたか?」
「えっ?」
仁子は図星を疲れて少し困った顔をした。
「図星か。」南原が微笑むと、
「でも・・・。」
「そんな資格ないか?」
仁子は南原の言葉に驚き思わず顔を上げ、南原を見つめた。
「明日は俺も調査に行く。」
. . . 本文を読む
「教授はどうして教授なんですか?」
真っ赤な顔でうつろな目になりながら、仁子が言った。
その表情にドキッとしながら、ふざけたように
「なんだ?ロミオとジュリエットか?」
仁子は顔の前で手を横に振り、そしてテーブルにバン!と手のひらを叩くと
「どうして続けられるの?どうして・・・あんなに傷つけられても・・・
わかってくれなくても・・・学者なんですか・・・。」
そう言いながら仁子はテーブルに突っ伏した . . . 本文を読む







