星のひとかけ

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30年後のお盆にミラン・クンデラの『不滅』を読んでいます

2023-08-17 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
お盆も過ぎましたね。 
台風の傷痕と世界中の猛暑の影響はまだつづいているけれども 気持ちのうえでは夏の終わりを感じる日々です。 八月になるといつも 亡き人や戦禍の跡をおもう月ですから…

先日、 ミラン・クンデラさんの訃報に触れ、 書棚から取り出した『不滅』をずいぶん久しぶりに開いて、 お盆のあいだ少しずつ読み返していました。





クンデラさんの訃報と お盆のあいだに わたしの父の命日もあり、 40代で逝った父がクンデラさんと同じくらいの年齢だったのだとも気づきました。

それで、、 というわけでもないのでしょうけど、『不滅』を読み返していくうちに、 なんだか 今この本を読むことが父からのメッセージのような、、 メッセージというほど強いものでなく ふっと空の父から手渡されたような、 そんな風に思えるのでした。 以前、なんども挫折しながら読んで、 わかったようなわからなかったような…

ひとりの女性の日常と愛、 その家族の物語を、 人間の歴史や思想や、世界がどのように動いているのかを同時に語りながら小説をつくりあげていく見事さに、 前に読んだときはただ感嘆するばかりだったけれど、、 90年に刊行された『不滅』を 30年以上経って再び読み、 いたるところ腑に落ちる部分ばかりなのを 今ごろになって驚いたり納得したりしています。。 


先程の 父からの… という意味では、 亡き父と母のそれぞれの晩年を想った時、 ふたりのあまりの違いに二人はなぜ結婚したんだろう、とか(見合いではあったけど) 結局ふたりは解りあえていたんだろうか、とか 感じていたことがあって…

『不滅』での 主人公女性の父と母にもおなじようなものを感じたり…

    そのとき、アニェスは父もまた環を締めくくったのだと考えた。 母、結婚を通過して親族から親族へ。 父、結婚を通過して、孤独から孤独へ。


これについてはごく個人的な感想なので措くとしても、 クンデラの語る人間論、 文明論の(かつてあまりよくわからなかった)部分が、 いまのSNSの時代での自我のあり方だとか、 承認欲求のことだとか、 推し活の心理だとか、 同調圧力とか、、 クンデラの時代にはまだインターネットさえ普及していなかった時に書かれた『不滅』を読みながら、 こういうことを意味していたのか… と現代の状況が想起されて納得することばかりなのを、驚きながら読んでいるのです。

 ***


  ・・・さまざまなものはその意味を九〇パーセント失って、すっきり軽くなるだろう。その希薄になった雰囲気のなかで、狂信は消えるだろう。戦争は不可能になるだろう」 …略…

 「祖国のために闘う覚悟をしているフランスの若者たちが想像できるかね? ヨーロッパでは、戦争はもう考えられないものになっている。 政治的にでなく、人類学的に考えられないものに。 ヨーロッパでは、人間はもう戦争をやれなくなっているよ」



 …軽薄さの時代についてある登場人物が語っている部分だけど、 これについては現在、 ある部分で正しいしある部分で正しくなかったと思います。。 たぶんヨーロッパの、 EUやNATOの国々の若者は誰も戦争なんかする気はないはず。。

だけど、、 ヨーロッパと国境を接した某国の指導者の、 狂信的な《不滅》への欲望のためにいまも戦争はつづいている。。 誰もしたくない戦争が。

「不滅」への欲望…  自分の死後も永遠に残る名声、栄光。 歴史上の燦然たる1ページをのこすこと。 


あぁ、、 不滅とはそういうことだったのか… と実感としてこの夏を感じています。。 そして、 もっと狭い意味での不滅への欲望、、 ひとを巻き込む殺傷とか、 ひとに知らしめるためのSNS上の暴力とか、、 自らの不滅を希う欲望。。 この国ばかりでなく、 同じような不滅をねがう欲望が世界じゅうに…


 ***


『不滅』の内容はもうずいぶんと忘れてしまっているので、 このあと後半部分を読んでいって 感想がどのように変化していくかはわからないのですけど、、 病の晩年にあって不滅への欲望とは対極にあったように私には見えた 亡き父から、 ふっと手渡されたような、 この夏に手にした『不滅』を


晩夏に向けて読んでいこうとしています。



個の不滅など願うことのない蝉の声…

風のなかに消える蝉の声…



そちらのほうが 永遠を感じるのは 何故…

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