読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

おそめ-伝説の銀座マダム- 石井妙子 新潮文庫

2009-05-22 23:46:47 | 読んだ
こういう伝記のようなものが好きだ。

裏表紙にこう書いてある。

「かつて銀座に川端康成、白州次郎、小津安二郎らが集まる伝説のバーがあった。その名は『おそめ』。マダムは元祇園芸妓。小説のモデルとなり、並はずれた美貌と天真爛漫な人柄で、またたく間に頂点へと駆け上がるが---。(後略)」

伝記というか実際にいた人の話を読んだり聞いたりするのは、現実に自分が関わったときに「厄介」な人がいい。
遠くから見ていると、素晴らしい人、がいい。
大概そういう人は、一緒にいると大変なのである。

というわけで、この「おそめ」本名は上羽秀(うえばひで)はそういう条件を満たしている人である。

彼女は大正12年(1923年)1月15日生まれである。
本のカバーや表紙の前に彼女の写真があるが、上品できれいな人である。

この上羽秀が生まれて、祇園の芸妓なって(これも紆余曲折があった)、芸妓を辞めて(落籍されて)、それから京都でバーを始め、そして東京(銀座)へ店を出す。

とまあ、これだけでも大変な人生なのである。
自分の思うままに生きていることが、成功してしまう、といううらやましい人なのであるが、それは傍から見ていたことであって、本人もいろいろと苦労をし苦悩を抱えていたんだろうと思う。

物語のクライマックスは戦後のことである。
歴史的にみればちょっと前のことだと思う。
だから、著者は本人をはじめ多くの人たちにインタビューをして本書をものにすることができたのである。

しかし、もうこういう(いわゆる昔気質の)女の人はいないし、こういう人生を送ることも不可能である。
そもそも作家が芸術家として特別扱い、いや作家だけでなく議員であれ社長であれ、特別扱いをされ、高級な店で毎日のように飲食できることができなくなった。

だからちょっと前のことなのにずいぶん昔の話、或いは日本であって日本でないようなところの話のように思えてしまう。

「おそめ」その人の魅力も本書から十分に感じ取れるのだが、私には日本という国の変化のほうが感じられた。
その変化がいいのかどうかはわからないのだが、昔は人と人との関りというのが社会の根幹であったような気がする。

それにしても著者は1969年生まれである。
これだけの年代の差があると、情熱的であって冷静にこういう対象(人と時代)に向かい合えるのだろうか。

もっと情緒的であってもよかったのかもしれない、と思いもしたが、何しろ本人をはじめ関係者がまだ生存しているのである。そういう制限を乗り越えてここまで描ければ素晴らしいと思う。

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