読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

三河雑兵心得1~5巻 井原忠政 双葉文庫(kindle版)

2021-05-02 21:46:34 | 読んだ
やっと、本をゆっくり楽しんで読む気持ちになれた。
まだ『仕事に追われている』感があるのだが、以前に比べてよろしい環境である。

今まで本を読んでいなかったのかといえば、そうではなく、今まで読んでいたものの多くは必要に迫られてというものが多かった。
何らかのヒントを得ようとか、知識を得ようとか、あるいは気分転換にというものが多く、無心で読めるものがなかったような気がする。

で、なんとなく気になっていた「三河雑兵心得」の第1巻である「足軽仁義」を読み始めたのである。
この時、2巻以降については読んで面白ければ買おうと思っていたのである。



そして、読み始めたら面白い、面白い、面白い。
1巻の途中で5巻まで購入してしまった。

主人公は「茂兵衛」、百姓である。
三河、植田村。
村人からは「粗暴」と思われている。
体格もよく喧嘩をしても勝つ。
喧嘩の理由は、弟がいじめられているのを助けるなどの理由がある。
孤立無援の戦いになるので「頭」を使う。「力」がある上に「作戦」を持ち「技術」を身に付けていく。

茂兵衛は村で人を殺してしまい、村を出ることとなる。
村を出て「夏目次郎左衛門」の家来になる。
ここから茂兵衛の足軽人生が始まる。

この物語は、青春物語とも思える。
茂兵衛は出会う人々から良いものも悪いものも教えられる。
彼のいいところは、自問自答しその時の正義を選ぶところだ。学はないが頭が良いのだ。
そして、やさしい。
戦国の世の中では優しいことはいい生き方でない場合がある。とどめを刺さずに見逃して幾度も痛い目に合うのだが、これだけは変えられない。
人を許すことができる、他人の立場を慮れる奴なのである。

この物語は「現場からみる戦国時代史」のように感じる。
これまでの歴史ものにはない、現場目線が多くある。
茂兵衛の現場目線のいいところは、与えられた仕事の目的を明確にして臨むことだ。上司や組織が何を望んで自分に仕事を与えているのか、そして上司や組織の最終的な目的を自分なりに判断している。
理想的な現場の人間である。使い勝手がいいともいえる。

そして茂兵衛は着々と出世していく。
上司は部下からもいい評価を得るために考える。考え学ぶ人間は出世する。

しかし、出世すると妬まれる。
彼は百姓出身で侍出身でないことも、妬まれる要素である。

茂兵衛は10年の間に千石取りにならなければ切腹しなければならない運命も背負っている。
結婚もし、部下を多く抱え、組織の中で神経を使い、気はやさしくて力持ちだけでは生きていけない。
あちらを立て、こちらをかばい、それでいて自分らしさをどのように発揮すべきなのかを考える。

読み始めたときは「のたり松太郎」のような破天荒な奴なのかと思っていたが、なかなかどうして世渡りも身に付けていくのである。

第5巻では約束の千石取りまで残すところ5年で足軽大将となり240石取りとなった。

史実についての解釈も新しいものもあり、それも面白い。
戦国時代の戦い方、例えば槍の使い方などこれまでこんなに詳しく書かれていたものはなかった。
これからどのように展開していくのか非常に楽しみ。










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一発屋芸人列伝 山田ルイ53世 新潮文庫(kindle版)

2020-12-29 22:26:22 | 読んだ


一発屋とは、よく聞く言葉である。
以前、歌の世界でも一発屋ということを言っていたような気がする。

一発屋は悲しい言葉でもあるが、一発屋にもなれない者には憧れである、というような印象を持っていた。

さて、本書では11人の一発屋について紹介(?)書かれている。
その中には、著者の「髭男爵」も入っている。
私的には一発屋ではないのではないかと思う「テツandトモ」も入っているのだが。

私の見解では、一発屋というのは一発で終わってその後鳴かず飛ばずの状態に陥るということ。しかし、芸人はいわゆる「一発うけた芸」で終わるという事はもしかしたら少ないのではないか。その後も活動を続けている、それがうけなくなった、あるいはうけが少なっただけではないのか。

少なくても、本書で紹介されている11人の中にも、一発の芸で受けたがその後は自分なりの仕事を継続しているものが多い。
なので、髭男爵はこの本で「一発屋」という芸人ジャンルを作ろうとしているのではないか、なんて疑ったりなんかする。

一発屋芸人を集めた会というのがあり、発起人はレイザーラモンHGだそうである。
「一発屋にはキャラ芸人が多く、キャラに入り込むタイプの人間は社交が苦手で孤立する人が結構いる。
故に、先輩一発屋芸人として、経験してきたものをこれからの一発屋に伝える役目がある。」
というのが会発足の理由だそうである。

ふーん、という感想。
もっとふざけた理由であれば、面白いのに。

紹介された人たちは「練り上げた芸=苦労=下積み=真面目+変人」という形が多い。
肝心なところが正気でない部分がある人なんだなあ。

一発芸はあきられる。その芸の衝撃が大きければ大きいほど、衰えていくのが急速なのだと思う。
問題はそのあとである。
その芸を「古典」としていくか「小出し」にするか「封印」するか、いずれかを選択しなければならないのだが、その芸の質や爆発力、更には芸人のタイプによって何がいいのかはわからない。
故に、芸人たちは戸惑い悩むのだろう。

レイザーラモンHGはそのあたりを伝えたいのではないか。
そんな気がする。
「うけたとき」「あてたとき」こそ次を考えておけと・・・

そしてこれは、芸人だけではなく、我々にも当てはまるもの、つまり生きるうえで選択を迫られたときに選択するのではなく、選択をしなくてはならない時が来ることをあらかじめ想定し、少なくても覚悟だけはしなくてはならないのではないだろうか。

面白かった。ふぅ・・・
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コロナ接近の恐怖

2020-12-13 22:45:23 | 日々雑感
私の住んでいる町でコロナ感染が拡大している。

当市では7月11日に1名の感染者がでて以来ずっと感染者がでていなかった。
12月4日に2人発生、その後毎日感染者が確認されていたが、介護関係の感染ということで、のんびりと構えていたのであった。

ところが、飲食店での感染が確認された時から事態は急展開する。

12月10日、私に近いところから感染者が発生し、近いとは「感染者→A濃厚接触者→B→私」ということ。

12月11日、AのPCR検査結果が出る前に、その飲食店から23名の陽性者を確認したのであった。
その飲食店がクラスターに指定された。

私の周辺は騒然となった。

私と私の周辺にいる人たちにとって、陽性者には知人が多くいた。
そして、濃厚接触者に指定された人にも知人が多い。

幸い、12月12日、Aの陰性が確認され、とりあえずそのルートは消えた。
しかし、陽性者とその濃厚接触者は拡大している。
どのようなルートで私にくるのか予測ができない状況である。

もし、感染したとしたら、その2代前の人は知らない人。
あるいは、全然知らない人からの感染もありうる。

濃厚接触者となれば、自分の周辺に大きな影響を与える。
いや、濃厚接触者となったものと接触した場合でも影響は大きい。

このような状況では、いつどこから感染するかはわからない。

念には念を入れた備えが必要である。

なんだか気分の晴れない日々が続いているのである。
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キラキラ共和国 小川糸 幻冬舎文庫

2020-12-07 17:45:13 | 読んだ


読み終わるまで、相当の時間を要してしまった。

この物語を読むのには、自分の心が穏やかでないといけない。バタバタ読んではいけない。
味わい深く読みたい。

前巻の「ツバキ文具店」では、主人公・鳩子は、祖母の跡を継ぎ文房具店を営みながら「代書」を請け負い多くの人の心を読み解き、本音と建て前を上手に使い分けた手紙を書いた。
鳩子の人生が縦糸で、代書を依頼する人の人生が横糸となって交わり、穏かな物語となっていた。
そして、鳩子はミツローさんと結婚し、ミツローさんのこどもQPちゃんと生活を共にすることとなった。

と思っていたら、アララ、とりあえず別居婚であった。
本巻では4つの章というか物語が描かれている。

横糸の代書もあり、縦糸の鳩子の人生も、関わる人も増え、関わり方も深くなっていく。

ああ、鎌倉っていいなあ、という描写もあり、おだやかにおだやかに、ゆるやかにゆるやかに、時が流れていくというのもいいなあ、と思うのである。

なんだかあわただしい時と日々を過ごし、つまらないことに腹を立て、なんか楽しいことはないかと険しい目つきで探している、そんな自分の日々が憐れに満ちているようだ。

だからこそ、おだやかな気持ちの時に読みたい物語である。




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家康 安部龍太郎 kindle版1~5 

2020-12-05 18:59:09 | 読んだ


「徳川家康」は、歴史上の人物の中で最も好きな人物の一人である。もう一人は「勝海舟」なので、徳川幕府の創設者と幕引きをした男が好きだという事になる。

徳川家康の生涯を描いた小説として、山岡荘八の「徳川家康」全26巻がある。
この物語を初めて読んだのが高校1年生の時だった。高校時代にはもう1回読んでいる。
社会人になってからは、月賦で文庫本を購入しこれも2回ほど読んでいる。

その山岡荘八版の家康に次いで、今回の安部龍太郎の「家康」が発表された。

読もうかどうか迷った。
若い時からの家康のイメージが大きく変わって描かれていたらイヤだな。というのがそのココロ。
多くの歴史小説、時代小説において家康は悪・負の象徴のように描かれている。
それはそれでいいのだが、今回は「主人公」なのである。

では、kindle版で試し読んでイヤだったらやめよう。
という結論に至り、読み始めた。

そうしたらなかなかに面白い。
続けざまに購入して、今の私にとっては相当に速いペースで読んだ。

厭離穢土 欣求浄土 (おんりえど ごんぐじょうど)
は、家康の「旗印」であり、この旗印を掲げて家康は戦い続けた。

山岡版においては「仏」へのかかわり方が、登場人物それぞれに描かれていた。
昔は「何かに縋る」あるいは「心の支えを求める」ということが生きていくうちで大切なことなんだなあ、と思ったものである。
それぞれの「仏」あるいは「神(キリスト教)」への関りが人生なのだなあ、と思ったものである。

これは安部版においても継承されている。
家康は「仏」を通して、他の人を観て理解する、そして自分の求めるもの、自分がなさなければならないことを悟っていく、そんなありさまが描かれている。

今回は「本能寺の変」までが描かれているが、この間の読みどころは「桶狭間の戦い」からの織田との同盟、今川との決別。領内の一向一揆、武田との闘い「三方ヶ原の戦い」「高天神城の戦い」、その間の「金ヶ崎の戦い」「姉川の合戦」などの戦に臨む家康の心境、あるいは嫡男・信康、妻・築山御前の死などにおける心の迷いである。

山岡版では読んでいる時が若かったからか、スパっと割り切れて解釈していたような気がする。
家康の心境を家康が語るのではなく、家臣などの考えや行動などから表現する方法であったことにもよると思うのだが。

安部版は、家康自身の考えを表している。苦渋と悔恨に基づく決断。Aタイプを選択しようにも、BやCタイプを選択しなければならなかったやりきれない人生を家康は生きている。

安部版では、信長の目指すものを家康が解釈し、その解釈のもとに、叡山焼き討ち、一向一揆との闘い、信康・築山御前事件を、飲み込み納得させている。
更に、これまでの歴史解釈とは違った解釈をしているので、読んでいて「どうなる、どうなる」とワクワク感がでてくる。

今のところ第5巻までしかkindle版では出ていないが、次が待ち遠しい。







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