京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

麻の糸玉に見える?

2021-04-29 07:52:57 | 雑学・蘊蓄・豆知識
出町柳近くの住宅街の細道の路肩の隙間に根を下ろした、おそらくセイヨウオダマキ(西洋苧環)だと思いますが、桜色にも見える桃色の花を咲かせているのを1週間ほど前に見つけました。




セイヨウオダマキは現在、ヨーロッパ原産であるアクイレギア・ブルガリスを元にして北アメリカ原産で大輪の花を咲かせる数種と交配した園芸種を指すことが多いようです。在来種のミヤマオダマキ(深山苧環)やその園芸種に比べてセイヨウオダマキは草丈が50〜70センチメートルと高くて花や葉も大きく、花色も豊富で、株の中心から伸びた花茎にたくさんの花をつける違いがあります。

ちなみに、こちらは2年前に京都府立植物園の植物生態園で咲いていたミヤマオダマキの花です。こちらは草丈が30センチメートル程度だったと覚えており、一輪だけ花を咲かせていました。


ミヤマオダマキ(過去記事より再掲。京都府立植物園の植物生態園にて2019年4月撮影)


なおオダマキの漢字表記である「苧環」の1文字目の「苧」とはカラムシ(苧麻)のことであり、日本では古くから狭義のアサ(麻)だけでなくカラムシやコウゾ(楮)なども広い意味で麻とみなされていました。苧麻は「ちょま」という読み以外に「まお」という読みもあり、コウゾはもともと「紙麻(かみそ)」と呼ばれていました。


カラムシ(過去記事より再掲。高野川河川敷にて2018年9月撮影)


そして、苧環とはこの広義の麻の糸を巻いて玉状もしくは環状にした糸玉のことを指すとされますが、じつは糸を巻く糸枠(四つ枠)のことも指します。

糸玉と見る場合は咲き開いた花というより蕾がそのかたちに似ていることが由来だと思われます。蕾だけトリミングしてみましたが、いかがでしょうか?




そして、糸枠の「四つ枠」に似ていることを和名の由来とするならば、開きかけた花の状態にちなむと言えるでしょうか。こちらの花がもう少し開けば飛び出た花弁の距と萼が四つ枠みたいに見えるかも。でも、オダマキの距(花弁)や萼は5枚ですが。




ついでながら、糸玉としての「苧環」は「麻績(おみ)」や「綜麻(へそ)」とも呼ばれ、糸を細く長く紡げば紡ぐほど良い糸がとれるため、糸繰りの腕が上達した手練れが綜麻を繰ると余分に手当が増えて副収入になることを「綜麻繰り(へそくり)」と呼び、これが現在の「へそくり」の語源とされています。ただし本来は「綜麻繰り」という字でしたが、後世に伝わるにつれ「綜麻」が「臍」と混同され「臍繰り」となったとされているそうです。でも、この「臍繰り」は腹巻きにお金を隠したことが由来ともされているようですね。


脱線ついでに、もうひとつだけ。糸枠や糸玉といえば、私の父方の祖父母や若かりし頃の父が西陣織に携わっておりました。父や叔母が織り子を務め、祖母が糸繰りをしていましたので、幼い頃は糸車や糸枠、美しい絵柄や紋様を出すために縦糸を調整する紋紙、そして織機で横糸を通すために使われる杼(ひ)といった関連道具は身近なもので、特段珍しいものではありませんでした。

この横糸を通す「杼」と言えば、日本で今も杼を作っている職人さんはただ一人だけしかいらっしゃらないそうです。しかも88歳とかなりのご高齢で後継者もいらっしゃらないとのこと。その職人さんの功績を称えて後世に残そうと、地元住民の方が杼をかたどった和菓子の開発を進めているそうです。昨日に配信された京都新聞のオンライン記事で見つけました。



西陣織に不可欠「杼」を和菓子に、住民が開発 88歳職人の功績伝える|文化・ライフ|地域のニュース|京都新聞


京都市上京区の西陣地域で、西陣織の制作には欠かせない道具「杼(ひ)」を作る唯一の職人長谷川淳一さん(88)の功績を残そうと、地元住民たちが…


 


そうそう、今日は「昭和の日」でしたね。幼い頃は西陣織が盛んな地域に住んでいたので、私にとっては日常の環境音でまちなかの音風景(サウンドスケープ)だった「ガシャンガシャン」という織機の音は昭和の良き思い出のひとつかもしれませんが、今や耳にすることはほとんどなくなり、もし音がしていても今のご時世だと環境音どころか騒音として苦情の対象になるでしょうね。そういえば先日、とあるマンションの住人が、隣室の住人が飼育しているアマガエルの鳴き声を騒音だとして苦情を訴えた裁判があったという記事を見ましたが、判決は騒音とは言えないとして原告の訴えを退けたようですね。何とも世知辛い世の中になりましたよね……
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なぜか花の内側がよく見える

2021-04-27 06:37:48 | 園芸・植物・自然環境
1週間以上前のことですが、本満寺の境内ではボタン(牡丹)の花が咲き誇っていました。でも、なぜか今年は心惹かれる花が少なく、私の気を引いたボタンはこの花だけでした。




何という品種名だろうと思っていると、購入されたときにつけられていたものか、品種名等が記載されているタグがあることに気づきました。ただ裏向きになっていたので「読めないね」と思いながら花壇の縁から手を伸ばしてみると届いたので、めくると「島根長寿楽」と書かれていました。桃色というか淡紫色に少し白い覆輪の入った気品のある姿に思えました。

また、品種名とともに3年生との記載もあったので、シャクヤク(芍薬)を台木に接ぎ木して3年目の苗として流通しているようですね。

この時期は本堂裏の中庭にもボタンが植えられていることから、普段は閉じられている中庭への入り口も開放されており、参道から中庭へと続く道の横手ではアマドコロ(甘野老)の花も咲き始めていました。




ふと見ると、たいていはぶら下がるようにして咲くアマドコロの花が一輪だけ上向きに咲いています。




いつもは下から覗き込まないと見えない花の内側を今年は容易に見ることができました。この花だけかなと思いましたが、よく見ると横向きに咲いたりしている花がいくつもありました。




いつもと違う咲き姿に少しびっくりしながらも、普段見られない箇所を簡単に観察できたことは幸運だったのかもしれません。本堂に手を合わせていた御利益でしょうか。

さて、その後少し足を伸ばして西陣聖天で知られる雨宝院に行きましたところ、こちらではホウチャクソウ(宝鐸草)が咲いていました。




見た目はアマドコロに似ていますが、アマドコロはキジカクシ科アマドコロ属に分類されますがホウチャクソウはイヌサフラン科チゴユリ属に分類され、属名のとおりチゴユリ(稚児百合)の仲間です。

ホウチャクソウの和名の由来については昨年の投稿で紹介していますので、お時間があればこちらの記事をご覧ください。



桜の木の下で風に揺られていたのは… - 京都園芸倶楽部のブログ


昨日、雨宝院の桜を紹介しましたが、そのうちのひとつである歓喜桜の根元には、斑入り葉の宝鐸草の花が咲き始めていました。難しい漢字ですが「ホウチ...


 
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今年は咲き始めが早いですね

2021-04-23 06:38:20 | 雑学・蘊蓄・豆知識
数年前に花壇で咲いていることに気づいてから、この季節になると楽しみにしているのが日本キリスト教会吉田教会のスズラン(鈴蘭)の花です。




おそらくドイツスズラン(独逸鈴蘭)の園芸種だと思いますが、例年は大型連休を前にして咲き始め、連休中にゆっくりと花を楽しんでいたと記憶しているのですが、今年はすでに咲き始めています。この花を撮影したのは先週末のことでしたので、昨年より2週間ほど早いでしょうか。ちなみに昨年の連休中に投稿した記事はこちら。



チリンチリンと鳴り出しそう? - 京都園芸倶楽部のブログ


志賀越道が川端通に出合う角にある教会の花壇で今年も咲き始めていたスズラン(鈴蘭)の花。今にもチリンチリンと鳴り出しそうですね。どうやらこれは...


 


スズランはこのドイツスズランの他にニホンスズラン(日本鈴蘭)もありますが、ニホンスズランは山野草扱いで一般の園芸店で見かけることは少ないでしょうか。

ドイツスズランが葉より高く花茎を伸ばして花を咲かせるのに対し、ニホンスズランは葉に隠れるようにして花を咲かせるという違いがありますが、もうひとつここを見れば違いがわかるという箇所があります。それが花の内側です。




ドイツスズランの雄しべの基部は赤紫色を帯びていて、ここを見れば違いがわかるかと思います。ただし下向きに咲いている花をひっくり返して内側を覗き込むようにして確認しなければならないので、少し無粋で野暮な行為になりますね。この花は偶然に横向きに咲いてくれていたので、そのままカメラを構えて撮影することができました。ひょっとして「しっかり撮影して、ちゃんと紹介してね」と協力してくれたのでしょうか。
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鯛が一挙に何匹も釣れて大漁なり?

2021-04-19 06:35:09 | 園芸・植物・自然環境
先日、建仁寺のヒメリンゴ(姫林檎)の花を観賞した後、四条通まで戻るために少しでも人の少ない道を通ろうと思い、花見小路通のひとつ西側の通りである西花見小路通を歩いていると、道中にあったカフェの軒先に置かれた鉢にフジ(藤)の木と一緒に寄せ植えされていたケマンソウ(華鬘草)が花を咲かせているのを見つけました。




中国から朝鮮半島に分布するケシ科の多年草で、花のかたちが仏道の荘厳具のひとつである「華鬘」に似ていることが和名の由来です。




よく知られている別名には、花茎を釣竿に、花を釣り上げた鯛に見立てたタイツリソウ(鯛釣草)があり、園芸展などで流通している苗はこちらの名前で販売されていることが多いかもしれません。英名は、この花のかたちを「血の垂れる心臓」と捉えて「Bleeding Heart」とつけられています。鯛それとも心臓? 私には天日干しされたイカのようにも見えますが、飲んだくれの酒のつまみにしか見えていない?

なお、他にはフジボタン(藤牡丹)という別名もあり、葉がボタン(牡丹)に似ていて花がフジのように見えることが由来だそうです。




あまり絵にならなかったのでフジの花の写真は撮影しませんでしたが、この別名を知っていてフジと寄せ植えされていたのでしょうか。だとしたら、ちょっと粋ですね。
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3年ぶりに観賞できた建仁寺のヒメリンゴの花

2021-04-17 06:12:50 | 園芸・植物・自然環境
ひさしぶりに観賞できた建仁寺境内に植えられているヒメリンゴ(姫林檎)の花。初めて見たのが3年前の春。じっくり観賞するのは、じつはそれ以来です。先月末に通りがかった際には蕾がほころび始めていた状態ですが、花を観賞したのは先週末のことですので、10日も経つと盛りを過ぎて少し散り始めていました。




初冬の訪れとともに鳥たちがまだ食べ残していた実を観賞できたのは昨年11月下旬のこと。そのときの記事はこちら。



まだ少しだけ残っていました - 京都園芸倶楽部のブログ


先月、11月下旬に建仁寺の近くを通りかかった際に、少し時間があったので境内に入り、参拝がてらヒメリンゴ(姫林檎)の木を見に行ってみたら、少し...


 


ひとかたまりになって咲いている花もあれば、ぽつぽつと咲いている花もちらほら。今春は大人の背丈の高さの位置で咲いている花が多く、よくよく見ると大きな花だということをあらためて認識しました。




立ち寄ったのは先週土曜日のお昼過ぎですが、建仁寺の北側を走る花見小路は「まん延防止等重点措置」の適用前の週末だったからか、例年ほどではないとはいえ観光客の姿が目立ちました。

新型コロナウイルス感染症が急激に拡大して、およそ1年が経ちました。1年前と比べれば新型コロナウイルスに関して知り得る情報は増えましたが、全体的にコロナ禍に対する心構えがだれてきて、おざなりな行動しかとっていないようにも見えます。おそらく、国や都道府県等が対策を取ればコロナ禍はいったん収まるもののの、手を緩めると元の木阿弥というような動静で、いたちごっこのような実情に飽き飽きしていることもあるのかと思います。もちろん経済的なことなど、諸問題が複雑に絡み合っていることも事実として存在しています。

それでも、この数年はしばらく「辛抱」の時期が続くのだと思います。大方の人は「我慢」と思ってらっしゃるかもしれませんが、我慢というのは嫌なことを強制的に堪えるよう強いられている状況で、受動的な態度だと私は思います。逆に辛抱とは「世のため人のため」になるなら自らの志でもって積極的に嫌なことも可能な範囲で受け入れて堪えるという、能動的な態度だと思っています。一人ひとりが少しばかし辛抱し、辛抱し合っていることをお互いに感謝して支え合うことで、みんなで乗り越えていきましょう。
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