本日、2012年3月31日付けの主要各紙の社説。
【朝日】
税制改革の法案提出―やはり消費増税は必要だ
政府が消費増税を柱とする税制改革法案を国会に提出した。
消費税率を今の5%から14年4月に8%へ、15年10月には10%へと引き上げる。税収は社会保障の財源とする。
高齢化が急速に進むなか、社会保障を少しでも安定させ、先進国の中で最悪の財政を立て直していく。その第一歩として、消費増税が必要だ。私たちはそう考える。
しかし、国会でも、国民の間でも異論が絶えない。
まず、こんな疑念である。
■なぜ増税が必要なのか、なぜ消費税なのか
この問いに答えるために、国の財政の状況を整理しよう。
12年度の一般会計予算案で、歳出の総額は90兆円を超す。ところが、税収は42兆円余りしかないので、国債を発行して44兆円以上も借金する。
こんな赤字予算を続けてきた結果、政府の借金の総額は1千兆円に迫り、国内総生産の2倍に及ぶ。
財政悪化の最大の要因は、社会保障費の膨張だ。一般会計では26兆円を超えた。高齢化で医療や年金、介護の給付が伸び続け、国の支出は毎年1兆円余りのペースで増えていく。
多額の借金で社会保障をまかなう構図だ。この財源の「穴」を埋め、将来世代へのツケ回しを改めなければならない。
むろん、むだを省く工夫が必要だ。分野によっては、給付の大幅な削減も避けられない。
一方で、「穴」の大きさを考えると、医療や年金、介護の保険料ではとても追いつかない。ここは税の出番だ。
社会全体で支え合う社会保障の財源には、一線を退いた高齢者から、働く現役組まで幅広い層が負担し、税収も安定している消費税がふさわしい。
その際、低所得の人への対策を忘れない。所得税や相続税も見直し、所得や資産の多い人への負担は重くする。税制改革の重要なポイントだ。
■増税に頼らなくても、財源はあるはずだ
行政改革を徹底し、予算の配分を見直し、歳出を絞っていくのは当然のことだ。
この点で野田政権と財務省の無責任ぶりは甚だしい。昨年末には、整備新幹線の未着工区間の着工をはじめ、大型公共事業を次々と認めた。
消費増税の実現が最優先となり、与党から相次ぐ歳出要求に抵抗もせず、受け入れた。独立行政法人や特別会計にもまだまだメスが入っていない。とんでもない考え違いである。
ただ、歳出削減に限界があるのも事実だ。一般会計の教育・科学関係費や防衛費、公共事業費、国家公務員の人件費は、それぞれ5兆円前後。大なたをふるっても、多額のお金が出てくるわけではない。
特別会計や政府系の法人が抱える「埋蔵金」も、ここ数年積極的に掘り起こしてきた結果、次第に底を突きつつある。
10兆円を超す積立金を持つ特別会計がいくつか残っているが、それぞれ借金を抱えていたり、将来の支払い予定があったりする。活用しても、一時しのぎにすぎない。
■低成長が続くなか、増税して大丈夫か
エネルギーや環境、農業などで規制緩和を進め、新たな需要と雇用を生み出し、経済を活性化する努力は不可欠だ。
だが、「景気回復を待って」と言っている間に借金はどんどん積み重なる。リーマン・ショックのような激震時には見送るにしても、増税から逃げずに早く決断することが大切だ。
欧州の債務危機では、主要先進国の一角であるイタリアまでが国債相場の急落(利回りの急上昇)に見舞われた。財政は日本よりはるかに健全なのに、投機筋の標的になった。日本の国債は大半を国内の投資家が持っているからといって、価格下落と無縁なわけではない。
イタリアはマイナス成長が懸念されるなか、増税や年金の削減に乗り出した。フランスも、ユーロ圏ではない英国も、競って財政再建に着手し、国債への信用を維持しようと必死だ。
市場に追い込まれる形での財政再建は厳しい。
国債価格が下がると、新たに発行する分には高い金利をつけないと買ってもらえない。財政はいよいよ苦しくなる。
景気の回復を伴わない金利の上昇は、企業も圧迫する。給料が下がり、雇用が失われかねない。そんな状況下で、いま以上の増税が不可避になる。
経済学者でもあるイタリアのモンティ首相は「未来のために犠牲を分かち合ってほしい」と訴え、国民の支持を得て改革への推進力としている。
野田首相は「消費増税に政治生命をかける」と言うが、そのためには、国民が納得できる政策を示さなければならない。
私たちは目を凝らし、厳しく注文をつけていく。
【読売】
消費税法案提出 首相は審議入りへ環境整えよ(3月31日付・読売社説)
◆野党と「政策スクラム」形成を◆
政府が、消費税率引き上げ関連法案を閣議決定し、国会に提出した。
野田首相が終始ぶれずに、年度内に法案を決定したことは評価したい。
首相は、記者会見で、「大局に立つなら、野党と、政策のスクラムを組むことは十分可能である」と語り、野党に改めて協力を呼び掛けた。
だが、首相が「政治生命をかける」とまで公言した法案は、成立どころか、審議入りのメドさえ立っていない。政府と民主党はまず、自民、公明両党が法案を巡る協議に応じるための環境作りに、全力を注がなければならない。
◆複数税率も検討課題だ◆
法案は、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%へ2段階で引き上げることが柱だ。
国会が現行の5%への引き上げを決めてから18年。この間、財政の悪化で、国と地方の債務残高は膨れあがり、11年度末には過去最悪の約900兆円に達する。
財政再建には徹底的な歳出削減が不可欠だが、行政のスリム化だけでは到底追いつかない。
結局、安定財源である消費税の税率引き上げは避けて通れない道である。
法案には、景気弾力条項として「名目3%程度、実質2%程度」の経済成長率を目指す施策を実施する、と明記された。
首相が、これに関連し、「税率引き上げの前提条件ではない」と述べたのは当然である。
この20年間の名目成長率はほぼゼロであり、達成は容易ではない。無論、政府は経済成長に努力すべきだ。しかし、この目標を、反対派が増税阻止の根拠に使おうとしても認めてはなるまい。
低所得者対策として、法案は、減税や現金給付を行う「給付付き税額控除」や、社会保障の合計自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」などを盛り込んだ。
民主党内には、大規模な対策を求める声があるが、必要以上に規模を膨らませ、ばらまき色の強い内容にしないことが大切だ。
欧州では、家計負担を軽くするため、食料品など生活必需品の税率を低く抑える複数税率を採用している。新聞や書籍も税率をゼロや大幅に低くする国が多い。複数税率導入も検討すべきだろう。
◆民主は大胆に歩み寄れ◆
法案の閣議決定にあたり、国民新党は、亀井代表が連立離脱を宣言した。これに同調しない自見金融相らは政権に残留した。分裂状態に陥ったのはやむを得ない。
民主党の小沢一郎・元代表のグループの一部議員は、「閣議決定は認められない」として、政府や党の役職の辞表を提出した。民主党内の亀裂の深さを改めて浮き彫りにしたと言える。
衆院での法案採決が、政治的には大きなヤマ場となる。党執行部は、衆院での採決に向け、党内の引き締めを図ることが重要だ。
同時並行で、法案成立に不可欠な自民、公明両党の協力を得る努力を尽くさねばならない。
自公両党が衆院段階で法案に反対すれば、参院で賛成に転じる可能性は小さいからだ。
膨大な財源が必要な「最低保障年金」導入など、民主党の新年金制度案に対しては野党から強い批判がある。
自公政権で導入された後期高齢者医療制度を廃止するとの方針も、制度の継続を望む自治体の反発で行き詰まっている。
ともに民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた政策だが、その実現にこだわるべきではない。撤回や大幅修正など、野党側に大胆に歩み寄る決断が必要だ。
民自公3党の話し合いで、子ども手当に代わる新児童手当創設や郵政民営化法改正が決まった。こうした合意形成を広げることが、消費税率引き上げ法案の審議入りにもプラスに働く。
◆自民も協議に応じよ◆
消費税率の10%への引き上げでは、民主党と自民党が足並みをそろえている。この機をみすみす逃してはならない。
自民党の谷垣総裁は、法案成立前の衆院解散・総選挙を求める姿勢を崩していない。
だが、法案を成立させた後の衆院解散という展開は、自公両党にとって決して不利益ではないはずだ。こうした主張は自民党のベテラン議員に少なくない。
伊吹文明・元幹事長は「国民のために必要なことを一刻も早くやるべきだ」として、政府・与党との法案修正協議を促している。
自民党は対案を示し、与野党協議に臨んでもらいたい。協議の過程で民自公3党の間に信頼関係を積み上げることが肝要である。
【毎日】
社説:消費増税法案決定 民・自合意に全力挙げよ
消費増税関連法案を政府は閣議決定した。野田佳彦首相が強調していた年度内の国会提出にようやくこぎ着けたが「ねじれ国会」のハードルに加え、民主党内にも造反の動きを抱え前途は多難だ。
小沢一郎元代表に近い複数の民主党議員が政務三役の辞表を提出、国民新党も事実上分裂するなど与党に早くも混乱が生じている。首相は党分裂も辞さぬ覚悟で国会審議にのぞむ必要がある。自民党も合意形成に協力し法案の足らざる点を改め、2大政党の責任を果たす局面である。
◇与党なら決定に従え
首相は30日夕の記者会見で「(国会に)提出した以上は全力で成立を期す」と強調、「政策のスクラムを組むことは可能だ」と野党との合意に期待を示した。
首相はさきに「政治生命を懸ける」とも明言した。民主党内には早期の衆院解散を避ける思惑から、決着を次期国会以降に先送りさせようとする動きも根強いだけに、退路を断った自らの発言は重い。
首相が望んだ野党との協議は実現しなかったが、法案の国会提出にこぎ着けたことは確かに一歩前進だ。だが、足元では理解しがたい混乱が続いている。
とりわけ、国民新党のドタバタは醜態だ。増税反対派の亀井静香代表は連立離脱を宣言、これに対し自見庄三郎金融・郵政改革担当相は法案に署名するという正反対の対応で党は事実上分裂した。
ひとつの政党に与党議員と野党議員が同居する状態が許されていいわけがない。早急に党の意思統一をはかれないようでは、政治がモラルハザードを来してしまう。
それにも増して深刻なのが民主党内の状況だ。46時間も事前審査で議論を尽くし、「景気弾力条項」に経済成長の数値目標を記すなどの修正を行ったにもかかわらず、対立がいっこうに収束しない。
小沢元代表は党の手続きに「強引」と異を唱え、グループ議員は政務三役の辞表を出すなど倒閣まがいの動きをしている。消費増税は政権を懸けたテーマであり、党にとどまる以上は決定に従うべきだ。現段階で増税に反対するのであれば「では、どうするか」をより具体的に説明しなくては無責任に過ぎる。
衆院の採決で大量造反が出れば参院はおろか、与党単独による法案の衆院通過すらおぼつかないのは事実だ。だが、首相が優先すべきは野党との合意形成だ。これ以上慎重派に安易な譲歩をすべきではあるまい。
民主党以上に国会での対応が問われるのが野党、自民党である。
谷垣禎一総裁は首相に衆院解散を求め、選挙を経れば政策合意に柔軟に対応する用意を示している。だが、消費税率の10%への引き上げは自民もまた、公約に掲げていた。
解散戦略を優先するあまり、消費増税法案を放置したまま対決姿勢をとり続ける道を選ぶべきではない。早期の審議入りに応じ、堂々と議論を尽くすことをまずは求めたい。
そのうえで政府案の不備を改めるのが責任ある野党としての役割となる。社会保障の年金改革の将来像について、民主党は最低保障年金制度の具体像も含め、説得力ある説明ができていない。
◇重たい両党首の責任
複数税率をはじめとする負担軽減策、低所得者対策の検討も不十分だ。残されるさまざまな課題を建設的な立場からただすことが、かつての与党である自民、公明両党の責任のはずだ。
衆院議員の任期満了が近づくほど、民主、自民両党の協調は難しさを増す。民主党の岡田克也副総理は自民党幹部に大連立構想を打診したという。自民の一部に呼応する意見もあるが、現実的ではあるまい。
消費増税は本来、民意を問うに足る重大なテーマだ。だが、政治を前に進めていくことの大切さも軽視できない。
民主、自民両党が合意して法案を成立させたうえで首相が衆院を解散し、国民の審判を仰ぐいわゆる「話し合い解散」も選択肢ではないか。もちろん、十分な政策協議が行われ、法案に必要な修正が加えられることが前提となる。
各種の世論調査をみる限り、消費増税をめぐる国民の視線は依然として厳しい。
社会保障の維持がこのままでは難しいと多くの人が認めながら増税への理解がなかなか広がらない背景には、民主党が政権交代にあたり消費増税はしないと事実上約束していたことへの不信がある。
社会保障の将来像への不安、不徹底な行革への不満も根強い。首相がこれまでの党の見解の変遷についてより率直に国民に謝罪すべきなのは当然だ。
「決められない政治」が印象づけられ民主、自民両党の政党支持率は低迷している。橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が次期衆院選に候補を大量擁立する準備を本格化、既成政党の脅威となっている。
国民の納得できる成果を政党が示せるかが今こそ、問われている。政界の再編にすら波及しかねない局面だ。最後に試されるのは首相、谷垣両党首の力量である。
【産経】
消費増税法案 与野党で修正し成立図れ 首相は最低保障年金の撤回を
消費税増税関連法案が年度内ぎりぎりで閣議決定され、国会に提出された。
閣議決定をめぐって連立を組む国民新党は分裂した。民主党内でも増税反対の副大臣、政務官らが辞表を提出している。結束を乱そうとする無責任な行動だ。
野田佳彦首相は一連の混乱にもかかわらず、「政治生命を懸ける」と表明していた最重要課題の今国会成立に向けた手続きを前進させた。
だが、自民党などの協力は得られず、法案成立は極めて困難な情勢である。
≪社会保障の膨張許すな≫
消費税の増税は、社会保障の安定財源を確保するために避けられない。政府案が多くの問題点をはらんでいるとしても、与野党がにらみ合っているだけでは問題は何も解決しない。
求められているのは、与野党が法案をよりよい内容に仕上げていくことだ。
自民党は、民主党がマニフェスト(政権公約)になかった消費税増税を打ち出したことを批判している。しかし、社会保障制度を少子高齢時代に安定的に維持することは、党派を超えた課題であることを忘れてはならない。
そのためにも、政府側が大胆な法案修正に応じなければ、与野党の調整は始まらない。与野党双方に「決められない政治」を打破するための努力を求めたい。
社会保障制度は政権が代わる度に変えるわけにはいかない。与野党の協議機関を国会に設け、短期と中長期に分けた議論を継続するなど党派を超えた話し合いを早急に始めるべきだ。
閣議決定されたのは「社会保障と税の一体改革」の関連法案であり、本来、問われているのも高齢化で膨張し続ける年金や医療、介護費用をどう抑制し、制度を維持するかだったはずだ。
だが、一体改革案をまとめるための民主党の議論は消費税増税の是非にのみ集中し、社会保障はないがしろにされてきた。
社会保障をどう維持するかという具体策や道筋をあいまいにしたまま、財源不足分を増税で穴埋めしようとすれば、いくら税率を上げても根本解決にはならない。社会保障へ切り込み、社会保障以外の政策分野の徹底した効率化こそ求められる。
ところが、野田政権は莫大(ばくだい)な財源を必要とする最低保障年金を柱とする年金制度改革案を掲げている。そればかりか、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げやデフレ下で年金額を下げる自動調整の仕組みの導入、年金の支給開始年齢の引き上げなど、負担増となる改革案は軒並み先送りしてしまった。
首相は非現実的な最低保障年金を取り下げるなど、大胆な修正を主導すべきだ。
≪不成立なら国債に影響≫
首相が30日の記者会見で「野党の意見でも取り入れられるものは取り入れる」と述べたのは当然である。「痛みを伴う改革」から逃げられないことを、国民にしっかり説明すべきだ。
懸念されるのは、消費税増税関連法案が今国会で成立せず廃案となった場合に想定される事態だ。米格付け会社は昨年、相次いで日本国債を1段階格下げしたが、一体改革の成立が遅れた場合にはさらなる格下げを示唆する。
わが国は先進国で最大の公的債務を抱え、今後も当面は赤字国債発行による資金調達が必要となる。だが、法案廃案で長期金利が上昇すれば、国債費の膨張などでこれからの予算編成にも悪影響を及ぼしかねない。
法案の事前審査の過程で、景気弾力条項には「名目3%、実質2%」という高い経済成長を目指す方針が明記された。増税による税収増を達成するには、名目成長率が実質成長率を下回るデフレからの脱却を最優先すべきだ。
政府・日銀は一段の金融緩和を含めて経済を成長させる責務がある。政府と日銀の政策協調のあり方について、与野党間で詰めてもらいたい。
自民党の谷垣禎一総裁は、「民主党政権の消費税増税は公約違反だ」として「衆院解散・総選挙が先決だ」との主張を繰り返しているが、選挙となった場合、自民党は一体、何を主張するのか。
政府案の問題点を突き、よりよい制度を提起することが責任ある野党のとるべき道である。
【日経】
首相はぶれずに突き進め
政府が消費増税関連法案を閣議決定した。連立を組む国民新党が分裂状態に陥るなどの混乱が生じているが、野田佳彦首相はぶれることなく、法案成立に突き進んでもらいたい。
国民新党の亀井静香代表は関連法案に反対する立場から、野田首相に連立を解消する意向を伝えた。しかし同党の自見庄三郎金融相は法案の閣議決定に署名し、下地幹郎幹事長らとともに連立を維持する考えを示している。
8人いる国民新党議員は亀井氏に同調せずに、連立に残る見通しだ。このため首相の政権運営への影響は小さいとみられる。
亀井氏は一貫して消費増税には反対してきた。最重要政策で見解を異にする以上、連立政権から離れるのは当然だ。国民新党内の亀裂が決定的になったことを踏まえ、分党や解党などの形で事態収拾を急ぐ必要がある。
民主党では、消費増税に反対する小沢一郎元代表に近い議員の間で政務三役などの集団辞任論が浮かび、黄川田徹総務副大臣らが辞表を提出した。ただ、これに慎重な議員もいて一枚岩ではない。
政府が閣議決定したこれほどの重要法案に反対なのに、政務三役などを辞めないのはおかしい。むしろ度重なる機関決定に異を唱え続けるなら、辞職辞任にとどまらずに、離党するのが筋である。
何度も繰り返される民主党の内紛劇や、今回の国民新党のお家騒動は、既成政党への信頼感を著しく損ねた。法案成立のかぎを握る自民党も百家争鳴状態で、対応が定まらない。
有権者の政治不信は深刻だが、政策を中心に離合集散が進んでいくとすれば、それは政党を立て直す契機となろう。
首相は30日の記者会見で「政局でなく大局に立つなら、政策のスクラムを組のは十分可能だ」と述べ、野党に協力を求める考えを示した。「決められない政治」から脱却できるかどうかの正念場である。与野党はそうした危機感をもって審議に臨んでほしい。
【朝日】
税制改革の法案提出―やはり消費増税は必要だ
政府が消費増税を柱とする税制改革法案を国会に提出した。
消費税率を今の5%から14年4月に8%へ、15年10月には10%へと引き上げる。税収は社会保障の財源とする。
高齢化が急速に進むなか、社会保障を少しでも安定させ、先進国の中で最悪の財政を立て直していく。その第一歩として、消費増税が必要だ。私たちはそう考える。
しかし、国会でも、国民の間でも異論が絶えない。
まず、こんな疑念である。
■なぜ増税が必要なのか、なぜ消費税なのか
この問いに答えるために、国の財政の状況を整理しよう。
12年度の一般会計予算案で、歳出の総額は90兆円を超す。ところが、税収は42兆円余りしかないので、国債を発行して44兆円以上も借金する。
こんな赤字予算を続けてきた結果、政府の借金の総額は1千兆円に迫り、国内総生産の2倍に及ぶ。
財政悪化の最大の要因は、社会保障費の膨張だ。一般会計では26兆円を超えた。高齢化で医療や年金、介護の給付が伸び続け、国の支出は毎年1兆円余りのペースで増えていく。
多額の借金で社会保障をまかなう構図だ。この財源の「穴」を埋め、将来世代へのツケ回しを改めなければならない。
むろん、むだを省く工夫が必要だ。分野によっては、給付の大幅な削減も避けられない。
一方で、「穴」の大きさを考えると、医療や年金、介護の保険料ではとても追いつかない。ここは税の出番だ。
社会全体で支え合う社会保障の財源には、一線を退いた高齢者から、働く現役組まで幅広い層が負担し、税収も安定している消費税がふさわしい。
その際、低所得の人への対策を忘れない。所得税や相続税も見直し、所得や資産の多い人への負担は重くする。税制改革の重要なポイントだ。
■増税に頼らなくても、財源はあるはずだ
行政改革を徹底し、予算の配分を見直し、歳出を絞っていくのは当然のことだ。
この点で野田政権と財務省の無責任ぶりは甚だしい。昨年末には、整備新幹線の未着工区間の着工をはじめ、大型公共事業を次々と認めた。
消費増税の実現が最優先となり、与党から相次ぐ歳出要求に抵抗もせず、受け入れた。独立行政法人や特別会計にもまだまだメスが入っていない。とんでもない考え違いである。
ただ、歳出削減に限界があるのも事実だ。一般会計の教育・科学関係費や防衛費、公共事業費、国家公務員の人件費は、それぞれ5兆円前後。大なたをふるっても、多額のお金が出てくるわけではない。
特別会計や政府系の法人が抱える「埋蔵金」も、ここ数年積極的に掘り起こしてきた結果、次第に底を突きつつある。
10兆円を超す積立金を持つ特別会計がいくつか残っているが、それぞれ借金を抱えていたり、将来の支払い予定があったりする。活用しても、一時しのぎにすぎない。
■低成長が続くなか、増税して大丈夫か
エネルギーや環境、農業などで規制緩和を進め、新たな需要と雇用を生み出し、経済を活性化する努力は不可欠だ。
だが、「景気回復を待って」と言っている間に借金はどんどん積み重なる。リーマン・ショックのような激震時には見送るにしても、増税から逃げずに早く決断することが大切だ。
欧州の債務危機では、主要先進国の一角であるイタリアまでが国債相場の急落(利回りの急上昇)に見舞われた。財政は日本よりはるかに健全なのに、投機筋の標的になった。日本の国債は大半を国内の投資家が持っているからといって、価格下落と無縁なわけではない。
イタリアはマイナス成長が懸念されるなか、増税や年金の削減に乗り出した。フランスも、ユーロ圏ではない英国も、競って財政再建に着手し、国債への信用を維持しようと必死だ。
市場に追い込まれる形での財政再建は厳しい。
国債価格が下がると、新たに発行する分には高い金利をつけないと買ってもらえない。財政はいよいよ苦しくなる。
景気の回復を伴わない金利の上昇は、企業も圧迫する。給料が下がり、雇用が失われかねない。そんな状況下で、いま以上の増税が不可避になる。
経済学者でもあるイタリアのモンティ首相は「未来のために犠牲を分かち合ってほしい」と訴え、国民の支持を得て改革への推進力としている。
野田首相は「消費増税に政治生命をかける」と言うが、そのためには、国民が納得できる政策を示さなければならない。
私たちは目を凝らし、厳しく注文をつけていく。
【読売】
消費税法案提出 首相は審議入りへ環境整えよ(3月31日付・読売社説)
◆野党と「政策スクラム」形成を◆
政府が、消費税率引き上げ関連法案を閣議決定し、国会に提出した。
野田首相が終始ぶれずに、年度内に法案を決定したことは評価したい。
首相は、記者会見で、「大局に立つなら、野党と、政策のスクラムを組むことは十分可能である」と語り、野党に改めて協力を呼び掛けた。
だが、首相が「政治生命をかける」とまで公言した法案は、成立どころか、審議入りのメドさえ立っていない。政府と民主党はまず、自民、公明両党が法案を巡る協議に応じるための環境作りに、全力を注がなければならない。
◆複数税率も検討課題だ◆
法案は、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%へ2段階で引き上げることが柱だ。
国会が現行の5%への引き上げを決めてから18年。この間、財政の悪化で、国と地方の債務残高は膨れあがり、11年度末には過去最悪の約900兆円に達する。
財政再建には徹底的な歳出削減が不可欠だが、行政のスリム化だけでは到底追いつかない。
結局、安定財源である消費税の税率引き上げは避けて通れない道である。
法案には、景気弾力条項として「名目3%程度、実質2%程度」の経済成長率を目指す施策を実施する、と明記された。
首相が、これに関連し、「税率引き上げの前提条件ではない」と述べたのは当然である。
この20年間の名目成長率はほぼゼロであり、達成は容易ではない。無論、政府は経済成長に努力すべきだ。しかし、この目標を、反対派が増税阻止の根拠に使おうとしても認めてはなるまい。
低所得者対策として、法案は、減税や現金給付を行う「給付付き税額控除」や、社会保障の合計自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」などを盛り込んだ。
民主党内には、大規模な対策を求める声があるが、必要以上に規模を膨らませ、ばらまき色の強い内容にしないことが大切だ。
欧州では、家計負担を軽くするため、食料品など生活必需品の税率を低く抑える複数税率を採用している。新聞や書籍も税率をゼロや大幅に低くする国が多い。複数税率導入も検討すべきだろう。
◆民主は大胆に歩み寄れ◆
法案の閣議決定にあたり、国民新党は、亀井代表が連立離脱を宣言した。これに同調しない自見金融相らは政権に残留した。分裂状態に陥ったのはやむを得ない。
民主党の小沢一郎・元代表のグループの一部議員は、「閣議決定は認められない」として、政府や党の役職の辞表を提出した。民主党内の亀裂の深さを改めて浮き彫りにしたと言える。
衆院での法案採決が、政治的には大きなヤマ場となる。党執行部は、衆院での採決に向け、党内の引き締めを図ることが重要だ。
同時並行で、法案成立に不可欠な自民、公明両党の協力を得る努力を尽くさねばならない。
自公両党が衆院段階で法案に反対すれば、参院で賛成に転じる可能性は小さいからだ。
膨大な財源が必要な「最低保障年金」導入など、民主党の新年金制度案に対しては野党から強い批判がある。
自公政権で導入された後期高齢者医療制度を廃止するとの方針も、制度の継続を望む自治体の反発で行き詰まっている。
ともに民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた政策だが、その実現にこだわるべきではない。撤回や大幅修正など、野党側に大胆に歩み寄る決断が必要だ。
民自公3党の話し合いで、子ども手当に代わる新児童手当創設や郵政民営化法改正が決まった。こうした合意形成を広げることが、消費税率引き上げ法案の審議入りにもプラスに働く。
◆自民も協議に応じよ◆
消費税率の10%への引き上げでは、民主党と自民党が足並みをそろえている。この機をみすみす逃してはならない。
自民党の谷垣総裁は、法案成立前の衆院解散・総選挙を求める姿勢を崩していない。
だが、法案を成立させた後の衆院解散という展開は、自公両党にとって決して不利益ではないはずだ。こうした主張は自民党のベテラン議員に少なくない。
伊吹文明・元幹事長は「国民のために必要なことを一刻も早くやるべきだ」として、政府・与党との法案修正協議を促している。
自民党は対案を示し、与野党協議に臨んでもらいたい。協議の過程で民自公3党の間に信頼関係を積み上げることが肝要である。
【毎日】
社説:消費増税法案決定 民・自合意に全力挙げよ
消費増税関連法案を政府は閣議決定した。野田佳彦首相が強調していた年度内の国会提出にようやくこぎ着けたが「ねじれ国会」のハードルに加え、民主党内にも造反の動きを抱え前途は多難だ。
小沢一郎元代表に近い複数の民主党議員が政務三役の辞表を提出、国民新党も事実上分裂するなど与党に早くも混乱が生じている。首相は党分裂も辞さぬ覚悟で国会審議にのぞむ必要がある。自民党も合意形成に協力し法案の足らざる点を改め、2大政党の責任を果たす局面である。
◇与党なら決定に従え
首相は30日夕の記者会見で「(国会に)提出した以上は全力で成立を期す」と強調、「政策のスクラムを組むことは可能だ」と野党との合意に期待を示した。
首相はさきに「政治生命を懸ける」とも明言した。民主党内には早期の衆院解散を避ける思惑から、決着を次期国会以降に先送りさせようとする動きも根強いだけに、退路を断った自らの発言は重い。
首相が望んだ野党との協議は実現しなかったが、法案の国会提出にこぎ着けたことは確かに一歩前進だ。だが、足元では理解しがたい混乱が続いている。
とりわけ、国民新党のドタバタは醜態だ。増税反対派の亀井静香代表は連立離脱を宣言、これに対し自見庄三郎金融・郵政改革担当相は法案に署名するという正反対の対応で党は事実上分裂した。
ひとつの政党に与党議員と野党議員が同居する状態が許されていいわけがない。早急に党の意思統一をはかれないようでは、政治がモラルハザードを来してしまう。
それにも増して深刻なのが民主党内の状況だ。46時間も事前審査で議論を尽くし、「景気弾力条項」に経済成長の数値目標を記すなどの修正を行ったにもかかわらず、対立がいっこうに収束しない。
小沢元代表は党の手続きに「強引」と異を唱え、グループ議員は政務三役の辞表を出すなど倒閣まがいの動きをしている。消費増税は政権を懸けたテーマであり、党にとどまる以上は決定に従うべきだ。現段階で増税に反対するのであれば「では、どうするか」をより具体的に説明しなくては無責任に過ぎる。
衆院の採決で大量造反が出れば参院はおろか、与党単独による法案の衆院通過すらおぼつかないのは事実だ。だが、首相が優先すべきは野党との合意形成だ。これ以上慎重派に安易な譲歩をすべきではあるまい。
民主党以上に国会での対応が問われるのが野党、自民党である。
谷垣禎一総裁は首相に衆院解散を求め、選挙を経れば政策合意に柔軟に対応する用意を示している。だが、消費税率の10%への引き上げは自民もまた、公約に掲げていた。
解散戦略を優先するあまり、消費増税法案を放置したまま対決姿勢をとり続ける道を選ぶべきではない。早期の審議入りに応じ、堂々と議論を尽くすことをまずは求めたい。
そのうえで政府案の不備を改めるのが責任ある野党としての役割となる。社会保障の年金改革の将来像について、民主党は最低保障年金制度の具体像も含め、説得力ある説明ができていない。
◇重たい両党首の責任
複数税率をはじめとする負担軽減策、低所得者対策の検討も不十分だ。残されるさまざまな課題を建設的な立場からただすことが、かつての与党である自民、公明両党の責任のはずだ。
衆院議員の任期満了が近づくほど、民主、自民両党の協調は難しさを増す。民主党の岡田克也副総理は自民党幹部に大連立構想を打診したという。自民の一部に呼応する意見もあるが、現実的ではあるまい。
消費増税は本来、民意を問うに足る重大なテーマだ。だが、政治を前に進めていくことの大切さも軽視できない。
民主、自民両党が合意して法案を成立させたうえで首相が衆院を解散し、国民の審判を仰ぐいわゆる「話し合い解散」も選択肢ではないか。もちろん、十分な政策協議が行われ、法案に必要な修正が加えられることが前提となる。
各種の世論調査をみる限り、消費増税をめぐる国民の視線は依然として厳しい。
社会保障の維持がこのままでは難しいと多くの人が認めながら増税への理解がなかなか広がらない背景には、民主党が政権交代にあたり消費増税はしないと事実上約束していたことへの不信がある。
社会保障の将来像への不安、不徹底な行革への不満も根強い。首相がこれまでの党の見解の変遷についてより率直に国民に謝罪すべきなのは当然だ。
「決められない政治」が印象づけられ民主、自民両党の政党支持率は低迷している。橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が次期衆院選に候補を大量擁立する準備を本格化、既成政党の脅威となっている。
国民の納得できる成果を政党が示せるかが今こそ、問われている。政界の再編にすら波及しかねない局面だ。最後に試されるのは首相、谷垣両党首の力量である。
【産経】
消費増税法案 与野党で修正し成立図れ 首相は最低保障年金の撤回を
消費税増税関連法案が年度内ぎりぎりで閣議決定され、国会に提出された。
閣議決定をめぐって連立を組む国民新党は分裂した。民主党内でも増税反対の副大臣、政務官らが辞表を提出している。結束を乱そうとする無責任な行動だ。
野田佳彦首相は一連の混乱にもかかわらず、「政治生命を懸ける」と表明していた最重要課題の今国会成立に向けた手続きを前進させた。
だが、自民党などの協力は得られず、法案成立は極めて困難な情勢である。
≪社会保障の膨張許すな≫
消費税の増税は、社会保障の安定財源を確保するために避けられない。政府案が多くの問題点をはらんでいるとしても、与野党がにらみ合っているだけでは問題は何も解決しない。
求められているのは、与野党が法案をよりよい内容に仕上げていくことだ。
自民党は、民主党がマニフェスト(政権公約)になかった消費税増税を打ち出したことを批判している。しかし、社会保障制度を少子高齢時代に安定的に維持することは、党派を超えた課題であることを忘れてはならない。
そのためにも、政府側が大胆な法案修正に応じなければ、与野党の調整は始まらない。与野党双方に「決められない政治」を打破するための努力を求めたい。
社会保障制度は政権が代わる度に変えるわけにはいかない。与野党の協議機関を国会に設け、短期と中長期に分けた議論を継続するなど党派を超えた話し合いを早急に始めるべきだ。
閣議決定されたのは「社会保障と税の一体改革」の関連法案であり、本来、問われているのも高齢化で膨張し続ける年金や医療、介護費用をどう抑制し、制度を維持するかだったはずだ。
だが、一体改革案をまとめるための民主党の議論は消費税増税の是非にのみ集中し、社会保障はないがしろにされてきた。
社会保障をどう維持するかという具体策や道筋をあいまいにしたまま、財源不足分を増税で穴埋めしようとすれば、いくら税率を上げても根本解決にはならない。社会保障へ切り込み、社会保障以外の政策分野の徹底した効率化こそ求められる。
ところが、野田政権は莫大(ばくだい)な財源を必要とする最低保障年金を柱とする年金制度改革案を掲げている。そればかりか、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げやデフレ下で年金額を下げる自動調整の仕組みの導入、年金の支給開始年齢の引き上げなど、負担増となる改革案は軒並み先送りしてしまった。
首相は非現実的な最低保障年金を取り下げるなど、大胆な修正を主導すべきだ。
≪不成立なら国債に影響≫
首相が30日の記者会見で「野党の意見でも取り入れられるものは取り入れる」と述べたのは当然である。「痛みを伴う改革」から逃げられないことを、国民にしっかり説明すべきだ。
懸念されるのは、消費税増税関連法案が今国会で成立せず廃案となった場合に想定される事態だ。米格付け会社は昨年、相次いで日本国債を1段階格下げしたが、一体改革の成立が遅れた場合にはさらなる格下げを示唆する。
わが国は先進国で最大の公的債務を抱え、今後も当面は赤字国債発行による資金調達が必要となる。だが、法案廃案で長期金利が上昇すれば、国債費の膨張などでこれからの予算編成にも悪影響を及ぼしかねない。
法案の事前審査の過程で、景気弾力条項には「名目3%、実質2%」という高い経済成長を目指す方針が明記された。増税による税収増を達成するには、名目成長率が実質成長率を下回るデフレからの脱却を最優先すべきだ。
政府・日銀は一段の金融緩和を含めて経済を成長させる責務がある。政府と日銀の政策協調のあり方について、与野党間で詰めてもらいたい。
自民党の谷垣禎一総裁は、「民主党政権の消費税増税は公約違反だ」として「衆院解散・総選挙が先決だ」との主張を繰り返しているが、選挙となった場合、自民党は一体、何を主張するのか。
政府案の問題点を突き、よりよい制度を提起することが責任ある野党のとるべき道である。
【日経】
首相はぶれずに突き進め
政府が消費増税関連法案を閣議決定した。連立を組む国民新党が分裂状態に陥るなどの混乱が生じているが、野田佳彦首相はぶれることなく、法案成立に突き進んでもらいたい。
国民新党の亀井静香代表は関連法案に反対する立場から、野田首相に連立を解消する意向を伝えた。しかし同党の自見庄三郎金融相は法案の閣議決定に署名し、下地幹郎幹事長らとともに連立を維持する考えを示している。
8人いる国民新党議員は亀井氏に同調せずに、連立に残る見通しだ。このため首相の政権運営への影響は小さいとみられる。
亀井氏は一貫して消費増税には反対してきた。最重要政策で見解を異にする以上、連立政権から離れるのは当然だ。国民新党内の亀裂が決定的になったことを踏まえ、分党や解党などの形で事態収拾を急ぐ必要がある。
民主党では、消費増税に反対する小沢一郎元代表に近い議員の間で政務三役などの集団辞任論が浮かび、黄川田徹総務副大臣らが辞表を提出した。ただ、これに慎重な議員もいて一枚岩ではない。
政府が閣議決定したこれほどの重要法案に反対なのに、政務三役などを辞めないのはおかしい。むしろ度重なる機関決定に異を唱え続けるなら、辞職辞任にとどまらずに、離党するのが筋である。
何度も繰り返される民主党の内紛劇や、今回の国民新党のお家騒動は、既成政党への信頼感を著しく損ねた。法案成立のかぎを握る自民党も百家争鳴状態で、対応が定まらない。
有権者の政治不信は深刻だが、政策を中心に離合集散が進んでいくとすれば、それは政党を立て直す契機となろう。
首相は30日の記者会見で「政局でなく大局に立つなら、政策のスクラムを組のは十分可能だ」と述べ、野党に協力を求める考えを示した。「決められない政治」から脱却できるかどうかの正念場である。与野党はそうした危機感をもって審議に臨んでほしい。