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山神・水神が怒る時/「砦に拠る」松下竜一[本に会う旅<23>]

2020年08月29日 | Weblog


「五木の子守唄」の里に計画されていた「川辺川ダム」の計画中止が発表されてrすでに10年が過ぎた。その後、静穏な日々が続いていたかに思われた五木の里に「川辺川ダムがあったら、今回の球磨川大洪水は防げたのではないか」という論が立ち上がり、昨日(8月28日)、熊本県知事が川辺川ダム容認の姿勢を打ち出した、という報が流れてきた。
私は、この案件に対しては、今年の人吉・球磨地方の水害は、球磨川流域全体の降水量によるもので、川辺川ダムという一つのダムだけで解決する問題ではなかろう、という感想を述べておいた。それは、釣り師としてこの地域を歩いたことに基づく直観によるものだったが、その後、専門の研究者から同様の趣旨の科学的分析が出た。すなわち、川辺川の水が人吉市に到達する前に、球磨川流域の水は人吉市に到達しており、ダム一個の問題ではないという趣旨である(その資料は文末に添付)。

この報に接し、松下竜一「砦に拠る」を読み返している。
本書は、1950年代後半から70年代前半へかけて大分県日田市と熊本県小国町にまたがる地域に計画された「松原ダム」「下筌ダム」という二つのダム建設事業に反対した住民たちの闘争の記録である。
当初、国家の理不尽かつ無法な事業推進に対して立ち上がったのは当該地区の住民たちだったが、その運動のリーダーに推されたのは、地元の山林地主・室原友幸であった。
当時、大学出の偏屈な大地主の当主として孤立していた室原は、地元住民の意思を無視した強引かつ無礼な手法に怒りを爆発させ、敢然と国家と対決する。そしてそれからの13年間が、室原の本領発揮となる国家との戦いである。
「蜂の巣城」と呼ばれた山砦を築き、「法には法、暴には暴」のスローガンの下、繰り出される奇抜な戦術、芝居っ気たっぷりな作戦、そして六法全書を武器として果敢に闘った室原は、自身の意志力と能力、地主としての経済力など、あらん限りを燃焼し尽くしてダム反対の鬼と化した。長きにわたる闘争の年月の中で村人たちは一人また一人と去り、ただ一人となっても国家と対決し、拮抗し、ついに屈することがなかったのである。



著者の松下竜一は、「豆腐屋の四季」という抒情性あふれる作品でデビューしたが、その後、近隣地区で起こった根福岡県豊前市「豊前火力発電所」建設反対運動などの環境権を巡る闘争を牽引した。鮮烈で尖鋭な闘争とその理論は、多くの仲間を連結し、「環境権」という一つの理念を確立したのである。この松下が、一世代前の蜂の巣城主・室原友幸翁の闘争に共鳴し、その凄絶な半生を、豊富な資料と丹念な聞き書きをもとに、躍動する文体で描ききった感動の記録文学が本書である。松下は、室原の軌跡を自身の指標とし、その掲げた旗を仰ぎ続けながら活動したのである。
松下さんは、由布院にもたびたび通って下さった。湯布院町・九重町・玖珠町にまたがる「日出生台演習場」への沖縄海兵隊の実弾演習場移転反対の運動に対する支援である。早世の主因となった重い肺の疾患を抱えながらの由布院通いに、多くの仲間が勇気づけられた。
いま、室原翁や松下さんが川辺川問題を巡る昨今の状況をみれば、烈火のごとく怒り、現場へ駆けつけることであろう。いや、いまや山神・水神となってしまわれた二人の先人は、かならずや神界からのメッセージを発し、惰弱な現代人を叱咤することであろう。

*資料








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