尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「保守本流」枝野路線の破綻ー立憲民主党考①

2021年11月16日 23時04分32秒 |  〃  (選挙)
 衆議院選挙の問題に戻って。今度は政党について考えたいが、全部の政党を論じても仕方ない。先に自由民主党の派閥史を書いたから、今度は野党第一党立憲民主党について考えることにする。与野党のそれぞれ第一党に関しては、どの国でも考えることがいっぱいある。アメリカなら民主党と共和党、ドイツならキリスト教民主同盟と社会民主党…といったように。関心が無いという人もいるだろうが、それは「関心がない」というあり方で関与しているのだと思う。

 2021年の衆院選は立憲民主党が負けたというよりも、「自民党が勝った」という選挙だった。細かい数字は別に書くが、ともかく野党第一党だった立憲民主党は議席を減らした。その責任をとって枝野幸男代表が辞任した。今後党員も参加した代表選挙が行われるが、まだ立候補者も確定していない。衆院選に関しては、共産党と選挙区協力を行ったことに象徴されるように、枝野代表の方向性が「左過ぎた」という批判がある。それが「定説」になってる感じもあるが、僕はそれには疑問を持っている。
(辞任を証明した枝野代表)
 立憲民主党は小選挙区ではそれなりの力を発揮したが、比例区で振るわなかった。それを素直に解釈すれば、有権者が政権交代を望まなかったということだ。その証拠に朝日新聞の最新世論調査では、自民過半数獲得の結果を「よかった」が47%「よくなかった」が34%という結果になっている。それは何でだろうと考えてみると、「地力の差」が大きいと思う。

 コロナ禍で2年近く地域の祭りなどもなくなり、大規模な集会や決め細かな集票活動も出来なかった。今回は直接会って投票を依頼する運動が難しかった。そうなると、もともと持っていた「地力」が出てしまう。最終盤の「維新」などは勢いで伸びたと思うが、他党の場合は概ね「こんなもの」という結果ではないか。小選挙区で野党系が勝ったところも、前回選挙で立民+共産が自民を上回っていたところが多いと思う。結局日本の政党の力具合が正直に出てしまったように思う。

 また参議院で多数を持っていなかったことも大きい。衆議院が優先する憲法の規定で衆院選で勝てば総理大臣になれるけれど、参議院で大きな議席差がある以上、公約した政策は進まないのが目に見えている。今まで自民党が政権を奪われたことは2回あるが、いずれも参議院で自民党が大敗する選挙の後だった。89年参院選に自民党が大敗し、92年は堅調だったけれど、合計すれば参院では自民が過半数を割っていた。そして93年に細川政権が誕生して自民党は野党に転落した。2007年参院選にも自民党は大敗し、民主党が過半数を占める「ねじれ国会」となった。政治が進まないことへの国民の答えが、2009年衆院選で民主党への政権交代だった。

 コロナ禍を受けて、与野党ともに経済対策を訴えたが、すぐに実行できるのは参院で過半数を持っている自民党であることは明らかだ。政策の中身を検討すれば、もしかしたら野党の訴えたものの方が優れていたかもしれない。しかし、それは参院を通過できない以上、「絵に描いた餅」になってしまう。そう有権者が判断したのではないか。日本の政治では、憲法上衆議院が優先するとはいえ、法律の制定においては衆参が同等の力を持っている。そして参議院は解散がないので、一端大敗すると6年間は回復が難しい。その意味では「第二院の力が大きい」という特殊性を持っている。だから、今後もまず参議院で先に与野党逆転が実現しない限り、政権交代は難しいのではないだろうか。

 もうひとつ大きな理由としては、直前に岸田政権が成立したことを無視できないと思う。枝野代表は2021年5月に文春新書で「枝野ビジョン」を刊行している。そこでは「左に寄る」ことではなく、むしろ正反対に「保守本流を目指す」と言っていたはずだ。これは安倍政権が長すぎて、政治の物差しが「右に寄りすぎた」という判断がある。憲法や歴史認識などで国民全体より右寄りの路線が当然のように続いて、その結果「ど真ん中」の政治勢力が無くなってしまった。そういう認識から、あえて「保守本流」を掲げて、政治・経済運営の「常識」を取り戻そうと訴えたわけである。

 ところが岸田内閣が成立して、「新しい資本主義」を掲げて「分配重視の経済政策」を訴えるようになった。安倍政権とそれを受け継いだ菅政権の評価を争うはずが、梯子を外されてしまったのである。もっとも岸田首相も安倍政権のもとで、ずっと外相、政調会長を務めてきた。甘利幹事長の人事を見ても、どうも自民党最大勢力の安倍派(細田派から代わって安倍派になった)に配慮している感じがする。だけど、菅政権で無役だったため、菅政権のコロナ対応に直接の責任を負わないこともあって、枝野氏の目指した政治が宏池会出身の岸田氏に「上書き」されてしまった。もっとも岸田氏は安倍、菅政権の「負の遺産」にちゃんと向き合う意思が感じられない。そうなんだけど、一般有権者には受けない論点だったと思う。
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