尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ジンバブエの「名誉革命」-ムガベ辞任をどう見るか

2017年11月22日 23時06分19秒 |  〃  (国際問題)
 世界最高齢の独裁者として知られていたジンバブエロバート・ムガベ大統領(1924.2.21~)がついに辞任を表明した。93歳だった。白人支配に対し独立運動を起こし、1980年に首相(当時は議院内閣制)、1987年からは大統領として独立後の37年間ずっと政治の実権を握っていた。ハイパーインフレで知られ、国内経済はとっくに破綻状態にあった。世界でも名高い圧政の独裁者だったが、まあ遠くない将来に自然的に終わりが来るだろうから放っておかれた感じだった。
 (ロバート・ムガベ)
 今回は国軍がクーデターを起こし、大統領と夫人を軟禁した。与党はムガベを党首から解任し辞任を迫っていた。ムガベはこの間大学の卒業式に出席するなど、一定の自由を得ていたけれど、事実上は軍に見放され辞任を避けられない状況だった。ジンバブエに大きな影響力を持つ南の大国、南アフリカも辞任に向け調停を進めていた。軍が弾圧に乗り出すことはないと確信した民衆は、反ムガベデモを行い、軍には感謝の意思を示した。この間、流血の事態は全く伝えられていない。一滴の血も流すことなく独裁者を辞任させたのだから、「ジンバブエの名誉革命」と言えるかもしれない。

 こうなった直接のきっかけは、11月6日にムナンガグワ第1副大統領を解任したこと。ムナンガクワも75歳だというが、長年のナンバー2として後継の最有力候補とされていた。しかし、近年41歳年下のグレース夫人が勢力を伸ばしてきた。もとは大統領府のタイピスト、秘書だったが、前妻の死亡後に結婚した。国会財政が破たんしているのにぜいたく好きで有名で、コンゴのダイヤモンド鉱山を私有したり、マレーシアに別荘を持っている。2009年には、カメラマンに対してダイヤの指輪をした手で暴行する事件を香港で起こした。世界的にひんしゅくの夫婦だったのである。

 欧米の主要国はムガベ大統領夫妻を入国禁止にしている国が多い。野党に対する弾圧、大統領選挙をめぐる不正疑惑などが問題視されてきた。安保理に制裁決議が出されたが、ロシアと中国の拒否権で実施されなかった。そんなムガベ夫妻を厚遇していたのが、なんと安倍政権。第2次安倍政権発足後、ムガベ大統領は3回来日し、特に2013年と2016年には夫妻で来日している。写真を検索すると、以下のようなものがすぐに見つかる。
 
 ジンバブエは、昔は「南ローデシア」と呼ばれていた。イギリスの植民地指導者、セシル・ローズにちなんだ名前から、独立後に改名した。昔の大王国の遺跡から「ジンバブエ」(石の家)と名付けられた。イギリスの植民地だったが、1965年に植民地政府のスミス首相が白人中心の国家「ローデシア共和国」の独立宣言を強行した。独立運動の経過は複雑なので今は省略するが、ムガベは中国の毛沢東思想の影響を受けていたとされる。選挙に勝って首相になったが、当初は穏健な経済運営を行い、識字率や乳幼児死亡率を改善して世界的に評価されていた。

 しかし、21世紀になってから白人農場主の土地を強制収容して黒人農民に配布する政策を進め、白人が大量に出国した。農業生産力は激減し、そこから経済悪化が進行した。通貨のジンバブエ・ドルは暴落に次ぐ暴落を記録し、2008年に1億ジンバブエ・ドル札が発行された後も、50億、500億、1000億ジンバブエ・ドル札と続き、ついに100兆ドル札まで発行される。インフレ率はほとんど計算不能で、物価が毎日2倍になるような状態だった。ほとんどジョークのような世界だが、結局どうなったか。

 2015年についにジンバブエ・ドルそのものが廃止になった。米ドルや南アフリカ・ランドをそのまま使うのである。それで独立国と言えるのかというありさまなのである。ちなみに、日本円も使えることになっている。法定通貨は、米ドル、南アフリカランド、ユーロ、英国ポンド、ボツワナ・プラ、人民元、インドルピー、豪ドル、日本円の9種類が指定されている。いや、ありえないでしょう。これは。

 そんな国家がどうして存立できていたか。国民の相当数が南アフリカやボツワナに出稼ぎに行く。そして、欧米諸国が経済制裁している間に進出してきた中国の援助。近年はさすがに中国もあまり援助してなかったという話もあるが、安保理で拒否権を使ってくれる中国(とロシア)は貴重である。中国も2015年の孔子平和賞をムガベに贈っている。これは劉暁波のノーベル平和賞に対抗して中国が作った賞で、今まで台湾の連戦、プーチン、カストロなんかに贈っていて、今年はカンボジアのフン・セン首相に決まったという。もらっても、どうも平和っていう名誉な感じがしない賞ではある。

 今回も解任されたムナンガグワは中国へ行ったという話もあるし、事前に軍首脳が中国を訪れていた。アメリカも事前に承知していたというし、南アフリカも知っていただろう。ある意味、米中でムガベ排除クーデタを仕組んだということなのかもしれない。そうなると、これは「北朝鮮問題」にも応用可能なのかという、非常に重大な問題につながるのだろうか。僕はそのことがすごく気にかかる。その意味でもアフリカ南部で起こった今回の事件は注目せざるを得ない。
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