尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

アメリカのシリア攻撃をどう考えるか②-アサド政権側の問題

2017年04月15日 00時09分20秒 |  〃  (国際問題)
 前回はトランプ政権の問題を見たので、今度はシリアのアサド政権側の問題を考えたい。まず、その前に「そもそも化学兵器は使われたのか」という問題がある。トルコに逃れた被害者が多く、トルコ政府はサリンを確認したと言っている。トルコは反アサド政権の立場だけど、被害住民の証言は海外のメディアも取材している。100人以上が死亡したということで、何らかの神経ガスが使用されたと考える方が自然だろう。問題はだから「誰が使用したか」である。

 「アサド政権が使用した」と米国は主張するが、その証拠の有無以前に「アサド政権が使用したとしても、そのことを認定するのは米国の権限なのか」という問題がある。世界情勢の「解釈権」が一義的にアメリカに属するなんて馬鹿げたことがあっていいはずがない。では誰が認定するべきか。国連安保理に委嘱された「化学兵器禁止機関(OPCW)」の専門的調査が必要だというしかない。

 アサド政権側は「化学兵器は廃棄して存在しない」と主張している。ないものは使えないわけだが、反政府軍が使用したという主張をしている。そうだとしたら、ここでは国際的調査を受け入れて大々的なアピールをする絶好のチャンスのはずである。だけど、アサド政権も、後ろ盾になっているロシア政府も、調査を受け入れていない。国連安保理の決議案ではロシアが反対して拒否権行使となった。空軍基地への立ち入り調査などの条項に反対ということだが、それは必要なものだろう。

 もちろん、アメリカ側にしても、それほどアサド政権使用の確証があるのなら、一方的に限定的攻撃をするよりも、国際世論に訴える方が「長い目で見て効果的」と考えられる。しかし、その場合「トランプ政権は何をするか判らない」と強く印象づけることはできなかった。北朝鮮問題や貿易摩擦を考えろと、シリア問題よりも他の問題への「副次的効果」を狙ったものなのかもしれない。

 ところで、トランプ政権は従来のアメリカのシリア政策を改めて、アサド政権存続を打ち出そうとしていた。アサド政権側がいま化学兵器を使うのは、常識的には考えがたいことだろう。混迷を続けていたシリア内戦も、昨年来ロシアの本格的支援を受けたアサド政権の勢いが盛り返していた。化学兵器使用が事実なら、なぜそうした馬鹿げた行為をしたのかの説明が必要だろう。

 化学兵器は「貧者の核兵器」というぐらいで、実際にオウム真理教が作成、使用できたわけである。シリアでも、ヌスラ戦線などには化学兵器作成能力があると言われているようだ。また、もともとアサド政権が持っているものが反体制派に流れたという主張もある。だけど、そういうことが絶対にないとは言えないと思うけど、やはりこれほど大規模な攻撃を行うというのはアサド政権にしかできないのではないだろうか。それ以外にアメリカは公にしていない直接証拠(シリア軍内部の無線傍受等)があるのかもしれない。それは判らないことだが、アサド政権側の対応に問題があるのは確かだと思う。

 もともと2013年にアサド政権が化学兵器を使ったという疑惑が生じた。その時にオバマ政権はシリア直接攻撃に踏み切る直前まで行った。それをロシアが仲介する形で、シリアが化学兵器禁止条約に加入し、化学兵器を廃棄するということでまとまった。その経緯を見る限り、シリアには化学兵器がないばかりか、新たに作ることも、反体制派に流れることもありえないはずだ。(すでに流れていたとしたら、その情報を明らかにするべきだ。)シリアの化学兵器問題は、単に使用の有無だけでなく、その廃棄プロセスが信用できるかどうかというもっと大きな問題を突き付けている。

 アサド政権に反対する立場の国は多い。トルコ、サウジアラビア、イスラエルなど、イラン以外の中東諸国は大体反アサドだと言ってもいいだろう。だから、そういう国からすれば、米国がアサド容認に切り替わったら困ることになる。だけど、だからと言って、これらの国々が謀略を仕組んで、アサド政権内で化学兵器を使わせたと見るのも難しい。独裁政権は情報疎通がうまく行かず、ちぐはぐな対応をすることはよくある。アサド政権がシリア軍をどこまで掌握しているのかも僕には判らない。

 判らないことばかりだけど、イラクのフセイン政権もちぐはぐな対応をして自滅した。大量破壊兵器がないのにあると言い張ったブッシュ政権も問題だが、フセイン政権の方も明確な対応をしなかった。アメリカの対応を読み誤ったのかもしれない。今回もアサド政権はトランプ政権の出方を読み誤った可能性もあるだろう。ロシアと協調的なトランプ政権なら、この程度までは黙認されると踏んで、対応を試したのかもしれない。アサド政権が関与したとするなら、そういう考えもあり得るということだが。

 とにかく、これで完全にシリア情勢は振り出しに戻り、出口なき状況に戻った。トランプ政権は、アサド政権打倒よりも、IS掃討を優先するとは言っているけど、さて今後どうなるか、状況は不透明である。それは次回に検討する「米国の在イスラエル大使館問題」がどう決着するかの期限が近づいていて、中東大乱もあり得るからである。
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