尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

中国は北朝鮮を抑えられるのか-北朝鮮情勢④

2017年08月18日 23時45分26秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカのトランプ大統領は、当初は北朝鮮問題への対処を中国に期待するようなことを言っていた。選挙戦中は中国を不公正な貿易をしていると非難していたのに、当選したら「北朝鮮問題で頑張っているいいヤツ」みたいないい方に変わった。(ところで、あの有名な「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」帽も中国製だというから笑える。)そこで「100日」の期限を設けたが、それはも過ぎてトランプも苛立っているらしい。でも100日で解決するわけがないじゃないか

 それでも安保理決議による「経済制裁」を中国はかつてより厳しく実施し始めているという。それで本当に北朝鮮を抑制することができるのだろうか。それは難しいというのが僕の判断である。もちろん中国が厳格に経済制裁を実施することになれば、経済的に北朝鮮は大きな影響を受けることだろう。しかし、それが核兵器や長距離弾道ミサイルの開発をやめさせる効果を持つかどうか。

 もともと朝鮮労働党は、戦前来の社会主義運動の「統一戦線」のようにして成立した。北朝鮮の建国は1948年9月9日である。大韓民国はそれに先立って、1948年8月15日に建国を宣言した。一概には言えないけど、この日付で判るように、「分断」には北以上に南の責任も大きい。それに、この段階では「北朝鮮労働党」と言っていたのである。その後、1949年6月30日に「南朝鮮労働党」と合併して現在の「朝鮮労働党」が成立した。現在の北朝鮮で一党独裁体制を敷く政党である。

 1950年6月25日に北朝鮮は韓国に侵攻して「朝鮮戦争」を起こす。それは「祖国解放戦争」であり、南朝鮮人民は歓呼して人民軍を迎え、南の「かいらい政権」を倒すはずだった。でも実際はそうならなかった。一時は韓国軍をプサン周辺に追い詰めるが、マッカーサーが「国連軍」を率いて仁川上陸作戦を成功させると、北朝鮮軍は一挙に敗走する。北朝鮮軍が鴨緑江沿いにまで追い詰められたとき、建国間もない中華人民共和国が「人民義勇軍」を投入した。そこで持ち直した北朝鮮軍と国連軍は38度線をはさんでこう着状態になり、1953年に休戦協定が結ばれた。

 この朝鮮戦争については、ソ連崩壊後に研究が進み、金日成の提案を毛沢東とスターリンが承認して始まったことが証明された。当時の「社会主義陣営」ではソ連のスターリンが権威的に支配していたが、中国革命後に東アジアの革命に関しては中国共産党の権威を認めていた。(地上軍を派遣した中国だけでなく、ソ連の空軍も参加していたことが判っている。)こういう経過を見れば、北朝鮮という国が今もあるのは、「中朝の血の絆」によると言われるのも理由があることになる。

 このような経過を表面的に見れば、北朝鮮は「反日」「反米」の国だということになる。日本の帝国主義支配を金日成が打ち破り、アメリカの介入も金日成が退けた。(それに類する誇大妄想的プロパガンダを国内向けには行っている。)北朝鮮の金日成主席が唱えた「主体(チュチェ)思想」は帝国主義的支配を受けた世界の多くの民族に訴える部分がある。(「主体思想」とは「人間が全ての事の主人であり、全てを決める」という、「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した」ものである。おいおい、マジかよという感じだが。金日成はだから人類史上の偉人になる。)

 しかし、現実に「主体思想」の持っていた意味はちょっと違うと思う。それは朝鮮労働党内部で、金日成派(満州派)の支配を確立し、個人崇拝を完成させるためのレトリックである。朝鮮労働党の歴史は、他の共産圏の支配政党と同じく、暗く陰惨な弾圧と粛清の歴史である。まず、南朝鮮労働党派が「アメリカのスパイ」として粛清され、さらに「ソ連派」「中国派」「国内パルチザン派(甲山派)と次々に粛清されていった。そこら辺をあまり詳しく書く必要もないと思う。ソ連や中国の党内抗争以上に知られていないだろうが、北朝鮮こそ最も陰惨な党内抗争が行われてきたのである。

 それは金日成後継をめぐり、金正日が勝利していく過程でもあっただろう。今はもう「三代目襲名」の時代だから、金正日後継なんか当然すぎる感じだが、70年代後半までは「社会主義国家で権力が世襲されるなんておかしなことが起こるわけがない」と多くの人が思っていた。まさかまさかの連続で、し烈な抗争を経て金正日が後継者となった。その時に「外国党」の影響を受ける勢力は淘汰されていった。「主体思想」の真の意味は、「ソ連や中国は後継問題でガタガタ言うな」だろう。

 表面的には中国やロシアとの友好関係を言うかもしれないが、戦時中の日本のような国家である北朝鮮指導部に「聞く耳」があるとは思えない。昔は中国の「残置諜者」(スリーパー)がいたと思うが、時代が変わってどこまで影響力があるだろうか。ただ「脱北者」が延辺朝鮮族自治州にたくさん流れ込んでいる。中国が北朝鮮の内部事情を相当詳細に承知しているのは確かだろう。だが、朝鮮党中央にはっきりした影響力を持っているかは疑問だ。

 中国は北朝鮮の早期の崩壊を望んでいないアメリカのトランプ政権との完全な関係悪化も望んでいない。経済制裁をテコにもう少し影響力を発揮しようとしている。でも、それは「聞き流す」という対応をされるのではないか。公然とした対立関係になることは双方が望んでいないと思うが、もうお互いに信頼関係は無くなっているだろう。そういう関係で何ができるか。あまり期待はできないという風に僕は思う。よく「北朝鮮は崩壊する」という人がいるが、そんなことを言う人が出てきてからもずっと続いている。追い詰められ孤立しても、まだまだ「大量破壊兵器の開発に賭ける」のではないか。
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