尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

安倍改造内閣をどう見るか①-岸田外相の処遇問題

2017年08月05日 22時43分14秒 |  〃  (安倍政権論)
 8月3日に内閣改造が行われた。最近いちいち政局の動きを書く余裕がなかったけれど、そろそろ今後の政治のゆくえを考えてみたいと思う。都議選で自民が惨敗し、森友・加計問題や自衛隊PKO日報問題などで内閣支持率が下がり不支持の方が多くなった。そういう中での改造で、僕が今まで何回も書いてきた「お友達内閣」がある程度封印して、野田聖子を総務相に、河野太郎を外相に登用するなどの人事を行った。今回の内閣改造をどのように見るべきか?

 今回の改造の最大の焦点は、「岸田外相の処遇」だった。それを理解していないといけない。岸田文雄外相は、第2次安倍内閣発足以来、第3次内閣を通じて、約4年半にわたって外務大臣を務めてきた。外相は重要ポストだから、これは「有力政治家」の証明ではある。でも長すぎた。岸田氏は宏池会の会長で、その由来は後で説明するけれど、名門派閥の長だから「総裁を目指す」立場にある。

 でも外相である限り、一年のうちの数か月を海外出張せざるを得ない。しかも最近は世界的に「首脳外交」の方が重要で、日本でもアメリカやロシアにひんぱんに出かける安倍外交に隠れてしまう。昔なら超重要ポストだった外相だけど、世界的にリーダーの部下的なイメージが強くなった。

 昔から自民党内では、「政務」と「党務」の双方に精通することがリーダーのあり方とされてきた。首相を目指すんだったら、財務、外務、経済産業、官房長官などの経験が求められるが、それだけでは自民党は動かない。自民党内の人脈、金脈、地方組織、選挙情勢等に通じるためにも、幹事長などの「党3役」(幹事長、政調会長、総務会長。現在は選対委員長を加えて4役ともいう)を務めることが望ましいわけである。だから、岸田氏も今回は外相ではなく、党3役を希望していた。

 はっきり言って、今回も外相に留まるようなら、単なる「安倍首相のイエスマン」イメージが強くなり、総裁候補から脱落しかねない段階にあったのである。ところが、都議選後に安倍・岸田会談が行われ、一部報道では「外相留任を受け入れた」という。朝日新聞などは、2日の朝刊になっても、一面トップの記事で「首相が『骨格』と考える麻生太郎副首相兼財務相、菅義偉官房長官、岸田文雄外相の留任が固まっている」と報じている。じゃあ、僕は岸田留任と見ていたのかというと実は違う。

 同日の東京新聞では、「首相は政権の骨格を維持する考えで、麻生太郎副首相兼財務相や菅義偉官房長官を留任させる考え」と書いていて、岸田外相留任とは伝えていないのである。全紙を読み比べているわけではないけれど、岸田氏はなお外相留任を受け入れていないのだろうと僕は思っていた。ところで、改造前日になっても、「外相留任」と伝える朝日の情報源と情勢判断はどうなっているのだろうか。加計問題を先頭に立って追及した朝日には「フェイクニュース」が伝わったのか。

 稲田防衛相が改造に先立ち辞任し、後任の防衛相を一時岸田外相が兼任していた。稲田氏の責任問題や外務・防衛兼務の問題などはさておき、僕はこのニュースを聞いたとき、岸田氏は今回外相を下りるんじゃないかと思った。だから「一週間ほど頼みます」「一週間だけなら頑張ります」と口には出さないだろうけど、そういう暗黙の合意に基づく兼務じゃないかと思ったわけである。(稲田後任は首相本人の兼務か、小野寺、中谷氏などを改造に先がけて任命すると考えていた。)

 さて、今回の改造では、岸田外相は政調会長に転じ、かねて希望の党3役になった。一方、今まで岸田派は必ずしも優遇されてはいなかった。いっぱい入閣した時もあるけど、岸田氏しかいなかったときもある。直前では、山本幸三地方創生相が岸田派の入閣者。岸田氏がずっと入閣しているから、他の部下に回らなかったのである。ところが、今回は上川陽子法相林芳正文科相小野寺五典防衛相の3人が再任、参院から松山政司一億総活躍担当相と党3役を含めて、岸田派が5人もいる。

 安倍首相もなかなかやるもんだ。岸田派冷遇の訴えを逆手に取って、「優遇しすぎ」である。宏池会(こうちかい)はもともと「政策通」が多いことになっている。国民の批判を受け丁寧な政治運営を心がける「仕事人内閣」を作ったので、「たまたま岸田派が多くなった」とタテマエ上はそう言うんだろうけど、もちろん実際は違うだろう。「岸田派丸抱え」方針ということだと思う。

 「宏池会」はもともと池田勇人首相の派閥で、その後に大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一と合計4人の首相を出している。だが宮沢後継をめぐって、加藤紘一と河野洋平に分裂し、さらに加藤紘一が2000年の森内閣時代に「加藤の乱」を起こして再分裂した。加藤紘一に従わなかったグループは古賀誠派を作り、岸田はそちらに所属した。その後一時再合同したが、2012年に再び分裂し岸田が宏池会会長となった。岸田は広島出身で、池田、宮澤両氏と同じである。

 伝統的に宏池会は自民党内では「ハト派的」とされ、旧福田赳夫系の「清和会」が「タカ派的」な体質と対照的だった。福田派系から森、小泉が出て、安倍晋三も出てくるから、安倍と岸田は歴史的には対立するところがある。実際、安倍首相が突然言い出した「9条改憲」に対しても岸田氏は慎重な構えを表明してきた。だから、安倍首相にとって、岸田氏は「潜在的な反対派」なのである。

 一方、明確な反主流は石破茂氏である。自民党が「反省」して党一丸になるというならば、もともと2012年の総裁選の第一回投票で安倍氏より得票が多かった石破氏に重要な役職を提供しないといけないはずだ。まあ断られるだろうけど、どうも打診もしてないようだ。石破は取り込めないと見切っているんだろう。一方、岸田氏が政調会長になったということは、2018年総裁選で「9条改憲不要」を旗印に安倍反対派を岸田が糾合する事態を防げたということだと思う。

 ここまで岸田派優遇となれば、逆に岸田が安倍に対抗して総裁選に出ることは難しくなると思われる。政調会長は調整ポストで、自分の意見を押し付ける役どころではない。野田聖子も来年の総裁選に出ると言ってるけど、野田は部下も少ないし、すぐに総裁選に当選する見込みはない。「女性活躍」の旗印のもと、将来の総裁候補に認知されるための立候補である。

 一方、安倍内閣の支持率が今後も大きく改善されず、安倍首相が総裁三選を目指さないという事態になった時はどうなるのか。一時は稲田朋美を後継に育てるなどと夢想していたのかもしれないけど、もう安倍と同じグループからの後継は難しい。突然の事態なら副首相の麻生がリリーフかもしれないが、本格的総裁選だと年齢的にも難しい。その際、安倍首相が岸田氏を後継に推し、自分は裏で影響力を保ち、表で改憲を実現するのは「ハト派」的なイメージの岸田にやらせるという「高等戦略」が可能になってくる。そこまで考えての岸田氏の処遇をめぐる問題があるんだと思う。
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