尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「12ヶ月の未来図」とフランスの教育制度

2019年05月06日 21時06分12秒 |  〃  (新作外国映画)
 岩波ホールで公開中(17日まで)のフランス映画「12ヶ月の未来図」は、公開から一月近くたって終わりも近いからそろそろ見ないと。今じゃ見たり見なかったりの岩波ホールだが、この映画はパリ郊外の学校が舞台というから前売り券を買ってある。パリの学校が舞台の映画には、「パリ20区、僕たちのクラス」や「奇跡の教室 受け継ぐものたちへ」があった。どっちも校外の「荒れた学校」を舞台に人種も宗教も様々な子どもたちを教える様子を描いて興味深かった。

 子どもたちの自然な演技などは面白いんだけど、この映画はちょっと予想と違った。まず主演する教師が「意に反して郊外に異動した」という設定。名門高校アンリ四世校で教えるフランソワ・フーコー(主に舞台で活躍しているというドゥニ・ポダリデスが好演)は、作家の父の出版記念会で「教育格差をなくすため、問題校へベテラン教師を派遣するべきだ」と論じる。教育省の美人官僚が聞いていて、教育省に呼ばれて言われたのは、良いアイディアだから是非先生が行って欲しいと頼まれる。なんとか一年だけでもということで、フランソワ自身が行くハメに。

 そこは郊外地区の中学校。車で通勤してみると、やる気のない生徒たちと教員たち。堅物風で文法専門のフランソワも最初は強圧的に授業するけれど、生徒は反発するだけ。というあたりはかなり類型的で大体先が読める。ところでパリの名門高校から郊外の中学へって、それは教育省が関与することなのか。調べてみるとフランスの教育制度は完全に中央集権のようで、そういうこともあるのかと思った。日本だって戦前の旧制教育制度では同じである。

 もう一つ不思議なのは、中学でもどんどん退学させること。義務教育は6歳から16歳までで、小学校は5年、中学は4年だそうだ。親に義務があると言うことで、学校としては秩序を乱す者は退学ということか。この映画ではセドゥというアフリカ系の子どもが退学の危機になる。そのときは関係者が集まって評議会が開かれる。それは「パリ20区 僕らのクラス」でも描かれていたが、法律で定められた公的な制度のようだ。一度は退学の危機にあったセドゥは、地元の犯罪少年に巻き込まれそうになってしまう。日本では義務教育の学校に退学、落第がないことが「犯罪予防」になっている。

 教育方法に悩むフランソワは、ある日「レ・ミゼラブル」を教材に使うことを思いつく。本を読むことが人生でいかに大事か。それをヴィクトル・ユゴーを通して学ぶ。映画もあるよと言われたが、本を読んでからといなす。そして「レ・ミゼラブル」を皆で調べ学習しながら、学ぶ面白さを見つけてゆくのだった。という展開はどうなんだろう? 「レ・ミゼラブル」は長大だから、一冊を与えるのはフランスでもダイジェスト版があるのだろうか。これはこれで面白そうだけど、どうも「優れたフランス文化」にすべてが回収されてしまう構造が気になる。

 生徒たちは学期末に「おやつ教室」にしようという。中学でそんなことはどうかと思う同僚もいるけど、楽しみも必要と言う同僚もいる。フランソワもやってみたが、皆がお菓子を持ち込んでパーティのようになる。それはいいけど、ベルが鳴ると生徒たちは全部放っといて帰ってしまう。ここが日本と全然違うところで、どうしても違和感が残る。そしてその時に持ち込まれたお菓子の中には、とんでもないものも入っていた。これが日本と一番違うところで、大きな問題にならない。代わりに遠足のヴェルサイユ宮殿でのいたずらが大事になってしまう。日本だったら、「レ・ミゼラブル」に当たるものは何だろうと思いながら見ていたけど、どうも思いつかなかった。
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