尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

フランソワ・オゾン監督の傑作「婚約者の友人」

2017年12月22日 23時54分39秒 |  〃  (新作外国映画)
 東京はじめ各地でロードショー上映が終わってしまったんだけど、フランソワ・オゾン監督の「婚約者の友人」が素晴らしい傑作だったので簡単に書き残しておきたい。東京ではシネスイッチ銀座の上映が終わった後で、新宿のシネマカリテで22日まで上映された。終わる直前の21日に見たんだけど、見逃さなくて良かった。今後もいくつか上映もあるようだが、是非大きなスクリーンで見たい映画。

 1919年、ドイツ。第一次世界大戦が終わった直後で、人々はまだ戦争の傷を負って生きている。ある小さな町に住むアンナは、戦死した婚約者のフランツの墓に参ったとき、もう一人別の墓参者がいると知った。管理人に聞いてみると、フランス人だという。フランツはパリに留学したこともあるから、その時の友人が来てくれたのだろうか。敵味方と分かれたから、ひっそりと参ってくれているのか。アンナはホテルを訪ねて、そのフランス人、アドリアンへの手紙を託した。

 アンナはフランツの両親とともに、今も婚約者の父の医院を手伝いながら暮らしていた。存命ならば秋には挙式の予定だった。そんなところに「フランツの友人」が現れるが、彼は敵国のフランス人である。心穏やかではないが、それでもフランツの思い出を語るうちに心が和んでいくのだった。という筋立てが、ここまではモノクロで語られる。今は亡きフランツをめぐって、人々の心も沈み込んでいて色彩がないのを象徴するように。このモノクロ映像が圧倒的に美しくて、画面に見入ってしまう。

 ところが、アンナとアドリアンの心が少しづつ通じ合うようになると、ところどころがカラー画面になる。特に町を出てちょっとピクニックの感じで遠出する場面。鎌倉の釈迦堂切通し(鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」に出てきたところ)のようなところを通ると、そこに小さな湖が広がっている。なんと美しいシーンなんだろうか。しかし、この頃から、一体この映画は何が描きたいのだろうかという思いも出てくる。敵と味方は許しあえるということか。一体アドリアンは何者なのだろう

 ということで、一種ミステリー的な展開もあるので、その後の展開は書かないけど、「真相」とアンナの選択、アドリアンのゆくえが判らず、ついにフランスまで訪ねるアンナ。そして…? ここで描かれるのは、国家が国民に「殺人」を強制する戦争の恐ろしさである。人々は愛する者が敵に殺されたと考える。しかし、その「敵」も命じられて戦争に赴いただけなのだ。命令した国家を問わずに、多くの人は敵国への憎しみに「救い」を求めてしまう。

 今はドイツとフランスは友好国である。でも、1870年の普仏戦争から、第一次世界大戦、第二次世界大戦と70年間に3回も大戦争を経験した歴史がある。第一次大戦直後を描くこの映画では、ドイツではフランスを憎み、フランスでは国家主義が高まる様子が見事に描かれている。この映画が訴えるものは明らかだ。この憎しみの連鎖は今に通じる。「許し」はどのように可能なのか。

 芸術的な香気の高さテーマの切実さ語り口のうまさ、どれも素晴らしい。特に画面の美しさに目が離せない。アンナを演じるのは、パウラ・ベーアというドイツの女優。ヴェネツィア映画祭で新人俳優賞を受賞した印象的な名演。アドリアンはピエール・ニネで、「イヴ・サンローラン」で主役を演じた。

 監督はフランソワ・オゾン(1967~)で、新作を見るのは久しぶり。「まぼろし」(2000)や「8人の女たち」(2002)などで、新しいフランス映画の旗手という感がしたものだが、最近は何があったっけ。調べれば「危険なプロット」(2012)、「17歳」(2013)、「彼は秘密の女友だち」(2014)など、そういえばそんな映画があったなという感じで撮っている。日本でも公開されているわけだが、あまり印象になく僕も見ていない。だからうっかり見逃すところだったけど、「婚約者の友人」は傑作だと思う。
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