尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

再燃したナゴルノ・カラバフ戦争

2020年10月03日 22時44分39秒 |  〃  (国際問題)
 旧ソヴィエト連邦南西部にあるコーカサスカフカス)山脈の南北は世界でも有数の紛争多発地帯だ。北側のロシア連邦には、戦争とテロが続いたチェチェン共和国がある。南側はソ連崩壊でジョージアアルメニアアゼルバイジャンの3国が独立した。しかし、どこも複雑な民族問題があって紛争が続いている。アゼルバイジャン内のナゴルノ・カラバフ自治州(事実上は独立宣言したアルツァフ共和国)の戦争も30年以上続いていて、最近再び衝突が起こった。
(南コーカサスの地図)
 上の地図ではよく判らないかもしれないが、アゼルバイジャン西部山岳地帯に「ナゴルノ・カラバフ」がある。一方、アルメニアとイランに囲まれた一帯に「ナヒチェヴァン共和国」があって、そこはアゼルバイジャンの飛び地になっている。なお、ジョージアの中でも、アブハジア自治共和国と南オセチア自治州は独立宣言をして事実上独立状態になっている。この地域はもともと山岳地帯が多いうえ、ペルシアロシアにはさまれて複雑極まりない歴史を持つのである。

 今回は9月27日にナゴルノ・カラバフで武力衝突が起こり、すでに双方で100名を超える死者が出ていると伝えられる。どちらが先に攻撃したかは、お互いに相手を非難していて現時点では不明だ。ただし、アルメニア側はナゴルノ・カラバフと自国を結ぶ地点を事実上支配し続けてきて、アルメニア側から変える意味がない。衝突直後からトルコがアゼルバイジャンを強力に支持していて、アルメニアはトルコが傭兵を派遣していると非難している。アゼルバイジャン側がトルコの支持を背景にして紛争を再燃させた可能性が高いのではないか。
(アルメニア軍の映像)
 アゼルバイジャンはトルコ系のアゼリー人(アゼルバイジャン人)は9割以上を占める国家である。宗教はイスラム教がほとんどで、サファヴィー朝ペルシアの支配が長かったためシーア派が圧倒的になっている。言語的にはトルコ、トルクメニスタン、アゼルバイジャンは相互にほぼ理解出来るとも言われている。トルコはスンニ派だが、宗派を超えてトルコ系民族を支援してきた。トルコは間違いなくリビアに傭兵を派遣しているが、そういう背景からアゼルバイジャンに傭兵を送ることもありえなくはない。少なくとも軍事援助は行っていると思われる。

 一方でアルメニアは世界で初めてキリスト教を国教化した国で、ほとんどがアルメニア正教となっている。ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン内の西部山岳地帯だが、もともとアルメニア人が多かった。ソ連発足時もどちらに所属するかで大きく揉めた。ソ連時代はアゼルバイジャン内の自治州だったが、ソ連末期に「アルメニアへの帰属変更」を求める声が噴出し、武力衝突も発生した。1988年には完全な戦争状態になって、死者3万人、避難民100万とも言われる犠牲を出した。1994年に停戦協定が結ばれたが、それ以後も時々軍事衝突が起こっている。

 今回は中でも大きな衝突だが、はっきり言ってしまえば完全に解決する可能性はない。アルメニアは歴史的にロシアが支援する他、アルメニア系住民が多い欧米の支援を受けている。アゼルバイジャンにはイスラム教国の支援があり、特に最近はトルコの存在感が大きい。ロシアはアゼルバイジャンにも軍事援助をしていて、時々紛争が起きる事態を終わらせる必要がない。アゼルバイジャンの南にイランがあるが、イラン北部にはアゼリー人の独立運動があって、シーア派ながら反アゼルバイジャン的。周辺国の関係が複雑怪奇である。

 ところで、僕は昔から思っているのだが、ナヒチェヴァンがアゼルバイジャンの飛び地になっていることを思えば、ナゴルノ・カラバフがアルメニアの帰属になっていてもおかしくない。ナゴルノ・カラバフは事実上独立状態なんだから、アゼルバイジャンは既成事実を認める代わりに、ナヒチェヴァンへの通路をアルメニアから獲得する方がいいのではないか。しかし、そういう国際的な取り決めを作る枠組がコロナ禍で不可能になっている。ロシアやEUがコロナ禍で動けない中をねらった動きなのではないかと思う。
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