尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「風をつかまえた少年」、風力発電機を作った少年

2019年08月06日 22時35分39秒 |  〃  (新作外国映画)
 8月2日に公開されたばかりの映画「風をつかまえた少年を見た。本当は違う映画を見るつもりで、満員だったのでこっちを先に見ることにした。アフリカ東南部のマラウイを干ばつが襲い、農村社会が崩壊寸前に追い詰められる。その時に14歳の少年が廃品を活用して風力発電機を作り、そのエネルギーでポンプを回して地下水をくみ上げたのである。実話だそうで、原作の本も翻訳され、著者も来日した。すごく心動かされる物語だと思う。今どきどれだけ集客効果があるのか判らないけど、文部科学省特別選定(青年、成人、家族向け)、文部科学省選定(少年向け)に選ばれている。

 少年の名はウィリアム・カムクワンバ。映画ではオーディションで選ばれたマックスウェル・シンバという少年が実に見事に演じている。その父親を演じているキウェテル・イジョフォーが自ら脚本を書いて監督した。アカデミー賞受賞作「それでも夜が明ける」で主演男優賞にノミネートされたアフリカ系の俳優だ。原作に感動して10年がかりでこの映画を作り上げた。原作通りマラウイで撮影されていて、干ばつと飢餓の描写、学校の様子、人々の暮らし・民俗などが見事に再現されている。
(原作の翻訳本)
 僕が一番驚いたのは、学校が整備されていないことである。授業料を持って行けない子は、すぐに退学させられる。高校や大学じゃない。日本で言えば中学である。しかも成績が良くないと図書室が利用できない。この図書室がまたひどい。時代は2001年頃である。ラジオで同時多発テロのニュースが流れる。(関心のない子どもたちは、すぐにサッカーに変えてしまう。)つまり、もう21世紀なんだけど、世界にはこのような教育環境に置かれた子どもたちがいっぱいいたのである。でも、そんな図書室のボロボロの本からも、好奇心あふれる少年は風力発電機というアイディアを得られたのだ。
(原作者のウィリアム・カムクワンバ)
 干ばつだけではない厳しい現実も描かれている。例えば、「強権的政権」。1964年の独立以来、バンダ政権が30年続いた末、94年に複数政党制による選挙が行われた。だけど、その後も映画の地域は政権に無視されているようだ。それは民族的な違いも大きいようで、中央政府がある地域とは言語も違うらしい。イギリスの植民地だったから、英語が公用語になっている。誰もがみな自由に英語をしゃべっている映画ではなく、人々は自分たちの言葉を話しているが、集会や学校では英語が使われている。それが現実の状況なんだろう。姉は学校の教員と駆け落ちしてしまうが、二人は民族が違う。そういう政治や家族間の問題などからも目を背けていない。

 マラウイといっても、すぐ判る人の方が少ないだろう。マラウイ湖に沿った南北に長い国で、北はタンザニア、西はザンビア、東と南はモザンビークに囲まれた内陸国だ。それだけじゃ判らないと思うから、どこだろうと地図で確認して欲しい。でも、子ども連れで見たら、「どうやって風力発電機を作るのか」、父親の自転車を利用するんだけど、初歩の工学的知識をうまく説明できるだろうか。英語の演説なども出てくるから、ある程度理解できる。文系、理系を超え、さらに英語の知識も身につくという映画だ。しかし、そういうことよりも、この映画を見ると「教育の大切さ」、そして子どもの探究心を大人がジャマしちゃいけないと強く思う。こういう映画を親子で見るのもいいんじゃないか。
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