尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

キネ旬ベストテン2016と黒沢清の2作

2017年01月17日 10時59分22秒 | 映画 (新作日本映画)
 年初になると、各種の映画賞が発表になる。キネマ旬報のベストテンは、1924年(大正13年)からと一番歴史が長いので、それなりの権威を持っている。選者も多くて、ある程度映画批評家の考えが反映されていると思う。まあ、昔の選考の中には、「なんでこうなったの?」と歴史の検証に疑問を付けられるのもあるだろうが。(傑作ぞろいの1950年代には、小津安二郎「東京物語」が2位(1953年)、「七人の侍」が3位(1954年)という、今見るとどうなんだろうという結果も残されているが。)

 ところで、今回発表されたベストテンを見ると、僕は劇映画に関しては、全部見ていた。映画はたくさん見ているんだから、当たり前だろうと思われるかもしれないが、僕の長い映画鑑賞人生の中でも実は初めてのことである。何でかなと思うと、一つは12月公開作品がなかったこと。公開直近だと、見るつもりでも単純に時間の関係でまだ見てないことがある。

 もう一つが、これが入ったのか、それは予想しなかったというような作品が少なかったということである。内外ともに、評価が著しくズレる作品、つまりある人は大評価するものの、他の人は大批判するというような作品が少なかった。作品内容はともかく、作品の完成度は高かったということではないか。特に、日本映画は近年にない当たり年だったように思う。

 では、まず日本映画に関して。順番に書いてしまうと、①この世界の片隅に ②シン・ゴジラ ③淵に立つ ④ディストラクション・ベイビーズ ⑤永い言い訳 ⑥リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁 ⑦湯を沸かすほどの熱い愛 ⑧クリーピー 偽りの隣人 ⑨オーバー・フェンス ⑩怒り

 次点は、「64」と「海よりもまだ深く」が同点らしい。他を調べてみると、毎日映画コンクールの作品賞ノミネート5本は、「怒り」「この世界の片隅に」「シン・ゴジラ」「淵(ふち)に立つ」「64 ロクヨン」になっている。日本アカデミー賞の作品賞ノミネート5本は、「怒り」「家族はつらいよ」「シン・ゴジラ」「湯を沸かすほどの熱い愛」「64ロクヨン 前編」である。(どっちも50音順)

 まあ、大体共通性がある。では、僕のべストテンはどうなるかは、採点表が発売されてからにしたい。でも、先の10本を見ると、僕が書いてない作品がある。見てるけど、書いてない映画。それは「シン・ゴジラ」と「クリーピー」である。書いてないのは、書いてない理由がある。普通はそれは書かないんだけど、今回は書いておいてもいいかなと思って数回書いてみる。

 「シン・ゴジラ」は後にして、まず黒沢清監督「クリーピー 偽りの隣人」。これはロードショーで見逃して、秋になって早稲田松竹で見た。その頃、次回作のフランスで撮った「ダゲレオタイプの女」も見たので、合わせて書いてみようかなと思ったんだけど、気を逸してしまった。一言で言えば、黒沢清監督は苦手なんである。理由は、怖いからにつきる。
 
 大体どんなジャンルも分け隔てなく見るけれど、比較的苦手なのは、ホラー映画。内外ともにファンがかなりいるようだけど、超名作は別にして、あまり見なくてもいいかなと思ってしまうジャンルである。黒沢清でも、ホラー度が低い「トウキョウソナタ」や「岸辺の旅」はかなり好き。でも、「CURE」や「回路」「LOFT」なんかは、相当怖い。

 今回の「クリーピー」は、異界ものではなくて、現実の犯罪者を描くので、怖さも半端でない。非常に怖いと思う。よく出来ているのは間違いない。一気見できる。どこにも破綻がない。西島秀俊と香川照之の闘いは見ごたえがある。でも、香川照之はやり過ぎ的な怖さ。要するに、僕の感覚では、好きな人が一人で見ればいいのであって、おススメする気にならないということである。

 黒沢清監督は、大学は同じで年齢も近く、大学内で自主上映していた映画も見たことがある。もちろん面識はないけれど、長く見ているわけである。だけど、上記理由で見逃しも多く、作家論を書くほどの知見はない。世界的な評価は高く、記録映画「ヒッチコック/トリュフォー」でもインタビューされていた。初めて外国で撮ったのが、「ダゲレオタイプの女」。これもけっこう怖いけど、典雅な映像美の世界に浸ることができる。ヒロインもステキで、僕はこっちはかなり好きと言っていい。でも、ホラー映画は書きにくいし、まあ書かなくてもいいかと思ってしまったわけである。まずは、黒沢清監督の話から。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 辻原登「籠の鸚鵡」(かごの... | トップ | キネマ旬報ベストテン2016・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画 (新作日本映画)」カテゴリの最新記事