尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ロシアの「誤算」、侵攻の現状をどう考えるかーウクライナ戦争①

2022年03月02日 22時29分20秒 |  〃  (国際問題)
 これからしばらくウクライナ戦争について考えてみたい。ところで、ウクライナでは紛れもなくロシアの侵略による戦争が起こっているにもかかわらず、マスコミなどでは「ウクライナ情勢」などと呼ぶことが多い。その言葉自体がおかしいだろう。24日に全面侵攻が始まって、当初は「キエフは2日で制圧される」などと言われていた。それはまんざら間違いでもないようで、ロシアのRIAノーボスチ通信という国営通信社がウェブ上に「ロシアと新たな世界の到来」という予定稿を26日に載せてしまった。

 予定稿というのは、新聞記者などが事前に用意しておく原稿で、選挙の時など「バイデン勝利」「トランプ勝利」など両方用意する。決まってから書いては遅くなるから、どっちになってもいいように両方書いておくという。死亡記事なんかでも、大々的な記事になると思われる高齢者はもう書いてあるとか言われる。事情はロシアでも同じなんだろう。26日にはゼレンスキー政権が崩壊して、ロシアは世界に大々的に「新秩序」をお披露目出来るはず。だからウェブに予定稿を載せる日を26日に設定しておいたと推測出来る。掲載後すぐに気付いて削除されたというから、この推定は確かなのではないか。

 ロシア軍がキエフを攻撃し、世界は1939年のマドリードのようにキエフの状況に一喜一憂した。(まあスペイン内戦はもちろん同時代には知らないけれど。)しかし、現実には3月2日現在キエフは陥落していない。ロシアには「誤算」があったと言われている。週末には「停戦交渉」も行われた。ロシアとウクライナの求めるものは正反対なので、交渉の進展はなかなか見込めない。ロシア代表団の顔ぶれからしても、ロシアは本心では停戦する気はないと考えられる。大軍をあまりにも一気に動員して補給も大変になっていたという。この間キエフやハリコフが攻撃されているのを見ても、ロシアは時間稼ぎをしていると思われる。
(キエフのテレビ塔が攻撃された)
 このロシアの「誤算」をもたらしたのは何だろうか。まずはゼレンスキー大統領の求心力が回復したことが最大の理由だと考えられる。アメリカは亡命を勧めたとも言うが、仮にゼレンスキー大統領が国外に脱出していたら、アフガニスタンのガニ政権のように簡単に崩壊していた可能性もある。ゼレンスキー大統領の政治的手腕には今まで疑問も多かったが、今回の戦時指導で国民の支持率は91%と伝えられる。毎日のように「自撮り映像」を投稿し、首都に止まっていることを発信している。
(ゼレンスキー大統領)
 上の画像の背景の建物は「怪物屋敷」と呼ばれるウクライナ大統領公邸だという。もともと1901、02年に建てられた高級マンションで、「キエフのガウディ」と呼ばれたポーランド人建築家が設計し、イタリア人彫刻家が怪物の彫刻を施した。ウィキペディアに日本語で「怪物屋敷」の項目があるぐらいだから、ウクライナではほとんどの人が知っているんじゃないか。紛れもなく首都で呼びかけている事が伝わるから、軍の士気も高まるはずである。

 ウクライナ軍の実情はよく知らないが、2014年のクリミア事態以後、NATO諸国の援助を受けてかなり増強されてきたとも言う。「祖国防衛」だから士気も高いと伝えられる。一方、ロシア軍は演習と言われて、そのままウクライナで実戦に巻き込まれた若者が多く、士気も今ひとつだという話だ。補給線も途絶えて「略奪」も起こっているらしい。ウクライナ側もそれなりに準備してきて、主要道路の橋を爆破してロシア軍戦車を通さないようにしていると言う。「と言う」「らしい」としか僕には書けないが、ウクライナ軍が健闘しているのは確かだろう。もっともロシア軍の方が圧倒的に多いので、このままではいずれ数日中にキエフも制圧されるという見通しもある。東部にある第二都市ハリコフも攻撃を受けている。南部の黒海沿いからも侵攻を受けていて、少しずつウクライナの都市が陥落したという報道が多くなってきた。
(ハリコフの状況)
 この間、ウクライナへは世界中で同情が高まっている。戦闘はウクライナで起こっていて、ロシアで起こっているわけではない。ウクライナ軍がロシアに攻め入ったのではなく、ロシア軍がウクライナに攻め入ったのである。民間人の被害も増大している。ロシアは軍事施設しか攻撃していないと言っているが、信じることは出来ない。それを信じろと言うのなら、ロシア軍への報道機関の従軍を認めるべきである。ロシア側から自由に報道出来ないのだから、信じろと言われても無理である。ロシア軍は残虐兵器を使用したとか、病院や学校を砲撃したという報道もある。食料や医療品が不足して来ているとも言われる。

 ロシア軍の車列に身を投げ出して進行を妨害するウクライナの人々。それを見て、ヨーロッパでも支援の動きが広がるだろう。すでに武器の援助、特にミサイルや軍用機も支援が始まっている。しかし、それをどのように運搬するのだろうか。ウクライナ戦争が東ヨーロッパに波及する可能性も考えて置くべきだろう。またキエフに対する食料空輸なども検討するべきだ。もっともロシア軍に撃墜される可能性があるから、ウクライナ上空の制空権を確保する必要がある。キエフを直接支援出来るルート(陸上でも)を確保するように、周辺諸国もうごくのではないか。日中戦争における「援蒋ルート」のようなものである。

 ロシア軍侵攻に対してNATO軍の介入はしない方針ではあるが、正規軍は出さないにしても様々な支援は行われると思う。フランスやドイツも何とか戦争を止めようと首脳外交を繰り広げていたが、結果的に嘘をつかれた形になって怒っているという。どのような形になるかは現時点では見通せないが、1956年のハンガリー1968年のチェコスロヴァキアのようにウクライナを見殺しにしてはならないという声がヨーロッパで高まることが考えられる。そうなると、現在何をするか判らないプーチンが核兵器を使用する可能性もある。第二次世界大戦後、最大の危機にあると思って警戒しなければいけない。

 日本はロシアに「満州事変の愚」を伝えなければいけないと思う。リットン調査団報告の採択をめぐって、国際連盟総会で日本だけが反対した。(棄権はタイだけ。)それに対して、日本の松岡洋右代表は連盟脱退を告げて、帰国時には英雄扱いされた。しかし、それこそが日本の暗黒時代の始まりであり、国と国民を存亡の淵に追いやった。ロシアも国連安保理におけるウクライナ問題の決議案で孤立した。棄権が中国、インド、アラブ首長国連邦の3ヶ国だった。何でインド、UAEが棄権したのか、よく判らないけれど。ロシアの反対は「拒否権」になるから、決議案は否決になる。しかし、自国しか反対票がなかったのは、かつての日本と同じである。世界がこれほど反対しているのは、それなりの理由があると判断しなければならない。そうでなければ、かつての日本のように国を危うくするのだとロシアに伝えるのは、日本人の歴史に対する責任だと考える。
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