尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「テレワーク」は定着するかー「ポストコロナ世界」考③

2020年06月14日 22時12分27秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 「ポストコロナ」の「ポスト」(post)というのは、「」を表す「接頭辞」である。反対語は「前」を表す「プレ」(pre)。他にもたくさんの接頭辞が英語にも、日本語にもある。英語では「in」とか「anti」とか…。「テレワーク」(telework)の「tele」も「遠く」を意味する接頭辞である。「テレフォン」「テレグラム」「テレヴィジョン」…。みな遠くから伝達可能な新技術に接頭辞「テレ」を付けた造語だった。

 コロナ以前は聞いたこともなかった「テレワーク」という言葉も、そういった新造語の一つである。職場を離れて「遠くで働く」ということで、「テレビ電話で働くこと」じゃない。「ワーク」はともかく、今回多くのものと「テレ」になった。新型コロナウイルスはいずれ終息するわけだが、果たして一端「テレ」化したものは、再び元に戻るのだろうか。それともコロナ後の世界は完全に一変してしまうのだろうか。
(行政も進める「働く、が変わる」)
 テレワークで済んでしまうんだったら、今までの「電車痛勤」は何だったのかと思う人もいるだろう。このまま「テレワーク」でいいと思いつつ、緊急事態宣言が明けたら少しずつ勤務形態も戻りつつあるようだ。もともと「ハンコを押すために出勤せざるを得ない」とか「派遣社員はテレワークにならない」など、日本企業のあり方をあぶり出す問題も起こった。朝はラッシュアワー、夜は居酒屋で「飲みニケーション」といった長時間労働は、ポストコロナ世界では消えていくのだろうか。

 もちろんそれは業態によって違うだろう。「人間相手」の仕事では、テレワークしようがない。今回医者でも「オンライン診療」が認められたが、新型コロナウイルスだったら「オンライン診療」では病名も確定できない。医療、福祉などは「テレワーク」には出来ない部分が多い。では教育はどうなんだろうか。「オンライン授業」が続くんだったら、例えば通信制高校でもいいとなるだろうか。ネット授業を中心にした私立通信制高校が今は幾つも出来ている。多分そう思って通信制へ行く人も増えていくだろうが、恐らく毎日通学する高校が主流なのは不変だろう。

 それは「ライブハウス」も同じだと思う。個々のライブハウス、あるいは個々の映画館や画廊などには閉めざるを得なくなるもあるだろう。しかし、ライブハウスという存在が無くなってしまうとは考えられない。音楽で「複製技術」が現れると、レコードでしか音楽活動をしない音楽家も現れた。今後は「配信だけで本人の写真もない」、時には国籍や性別も不明な曲も出てくるだろう。だが「音楽」一般の本質から、「身体的なパフォーマンス」が消え去ることはないはずだ。

 ここ何十年もずっと「シャッター商店街」が問題になってきた。今回のコロナ禍をきっかけに閉めてしまうお店も多いだろう。東京ではここ何年かミニシアター映画館がどんどん少なくなった。長い目で見れば、今後さらに減っていくだろう。それは新型コロナウイルス問題ではなく、人口動態や経済状況などの影響である。ウイルスはきっかけを作るだけなのである。少子化が進行する中で、ライブハウスやミニシアターは無くならないが、「絶滅危惧種」として保護対象の存在になるかもしれない。
(テレワークの仕組み)
 さて、冒頭の問い、「テレワークは定着するか」だが、それを決めるのは働く側というよりも、やはり企業側なんだろう。例えば交通費はどうなるか。今回は恐らく4月に一括して「通勤定期代」が支給されていただろう。しかし、実際の出勤回数で考えれば、回数券で済んだかもしれない。働く側でそうした人もいるかもしれない。しかし、交通費をケチるよりも、社員を定時に集合させるメリットもあるはずだ。交通費以上に大きいのが、オフィス代(自社ビルではなく、物件を借りている場合)である。大きなビルやオフィスを高い金払って借りている意味はあるか。

 それこそ業態ごとによるだろうが、僕は案外「テレワーク的労働形態」は普及していくのではないかと考えている。そうしても十分やっていける仕事はある。ただし、その場合、完全に「業績評価」型の人事考課になる。いちいち時間内の管理を出来なくなる代わりに、期間内に「見える業績」が必要になる。通勤時間がないんだからと、自分でもその分ぐらいは超過勤務するのが当たり前になるだろう。それどころか、深夜まで家で仕事をするのが常態化することも起こりうる。

 人との接触による新発想も少なくなるし、結局いいことばかりではない。また考えておくべきことは「新人はテレワークが難しい」ということだ。テレビ番組なんかも、今では再放送やリモート出演ばかりになってしまった。それでも出来るわけだし、何も全員がスタジオに集まって大騒ぎする必要も無い。そうなんだけど、今のところニュース番組やヴァラエティ番組などで、リモート出演するのも「従来からの出演者」ばかりである。ドラマの制作もストップしているので、新人には不利だ。これはどの分野にも言えることで、新人に活躍の場を与えるには「リアルな現場」が必要なのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする