尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「イスラム国」をどう呼ぶか-IS問題②

2015年02月16日 23時27分19秒 |  〃  (国際問題)
 「イスラム国」をどう呼んだらよいのだろうか。アラビア語で書いても誰も判らないから、英語表記をもとに日本語訳を考えるか、アルファベットの略称を使うしかない。英語表記は、「Islamic State」だから、「イスラム国」で間違いないではないと言えば、その通りだと思う。しかし、それは「自称」であり、「イスラム教」を誹謗するものだという主張も正しい。イスラム世界で、スンナ派もシーア派も、イスラム教を国教とするすべての国々も、一切「イスラム国」を国家としても、組織としても認めていない。NHKも「過激派組織IS・イスラミック・ステート」と呼ぶようになった。

 しかし、それで果していいのだろうかという疑問もある。今回の「日本人人質事件」をきっかけに、様々な人が様々なことを発言したわけだが、確かに「イスラム国への無知」がこんなに多いのかと僕もビックリした。「イスラム国とは外交関係がないので、日本政府は交渉できないでいる」と書いていた人がいるのには、驚いてしまった。自民党が途中から、「『イスラム国』と呼ぶと、国と誤認する人がいる」からと「I S I L」と呼び方を変えたのも理解できなくはない。ニュースでも、必ず「テロ組織」とか「過激派組織」とつけるようになってきた。それはそれでいいだろう。僕も「過激派組織」というのは、そう書くしかないのかなと思う。だけど、「イスラム国」が真に脅威であるのは、その「過激派組織」が「国家」を樹立したと称し、実際に一部地域を「統治」して「徴税」もしているという点にある。「イスラム国」と呼ばないようにすると、今後は「単なるテロ組織に過ぎない」という「過小評価」をもたらすのではないか。

 実際、「有志連合」を形成する各国は、正規軍を動員して空爆を行っている。「テロ組織」であるなら、イスラエルの諜報機関モサドが様々なパレスティナ解放組織に暗殺作戦を行ってきたように、あるいはオサマ・ビン=ラディン暗殺作戦を米軍特殊部隊が行ったように、(それぞれの作戦内容の是非ではなく)正規軍ではなく「特殊部隊」で対応する方がいいはずである。「テロ組織」は、面的な支配領域があるわけではないから、どこかに隠れ潜む組織の中枢を「無力化」すれば、組織の力は大きくダウンするだろう。しかし、「国家」として支配領域を広げてしまうと、まずその領域に部隊を送り込むことが難しい。今はまだ地上軍を派遣する国はないけれど、空から爆撃を加える作戦が成り立つということは、単なる「テロ組織」を超えてしまった現状になっているのは間違いない。呼称はどうあれ、そういう現状認識が必要であると思う。

 以上の論点は、「イスラム国」の「国」の部分の問題だが、では「イスラム」の方はどう考えるべきだろうか。これも、「イスラム国」「イスラム国」と毎日ニュースで出てきて、「殺害」「テロ」「脅迫」などと報道されるのだから、「イスラムというだけで危険なイメージが作られかねない」のは間違いない。でも「イスラミック・ステート」では同じではないのか。判りにくさを増して、少しごまかすということか。ましてや、「IS」とか「ISIL」ではニュースをちゃんと読んでる人しか判らないだろう。それでいいということなのかもしれないが。ただ、「テロ組織イスラム国」と表記すると、イスラム教そのものが危険な宗教だと誤認する人が(少数だろうけど)でてきやすくなる。(なお、アラビア語の略称「ダーイシュ」という言葉もあるが、これでは誰も判らない。)

 では、どうすべきか。僕には、今のところこれという答えはない。どう書いても、きちんとニュースを読まない人、読んでも理解が行き届かない人は出てくるし、それを完全に止められる手立ては誰にもない。おかしなことを言う人がいたら、一つずつ正確な理解を求めていくしかない。だから、呼称問題にそれほどこだわる気持ちはない。自分は報道機関ではないのだから、適当に読み飛ばす人のためには書いていない。自分なりに考えたこと、知っていることをきちんと書けばいいと思っている。「イスラム国」と言うと問題があるとは、だから思わないけど、書くときに配慮はいるんだろう。それより、僕が思うのは、「事件が起きると報道する」のがニュースの特性だから仕方ないとは思うけど、「イスラム過激派がらみの事件」がこう起こると、どうしても中東が危険な地域というイメージが膨らんでしまうということである。こういう時こそ、地道な文化交流(映画とか音楽とか)が大切である。

 なお、僕が「止めて欲しい用語」は別にあって、それは「アラーの神」である。これは「馬から落ちて落馬する」のたぐいで、「アラー」はアラビア語の「神」だから、意味が二重になってしまう。「アラーの神」などという人が今もいる(ニュースで何度も聞いた)から、キリスト教の神とイスラム教の神が違うなどと思い込む人が出てくる。これは心すべきことだと思う。イスラム教の理解については、2012年にイラン情勢が緊迫化した時に2回書いているので、参考にしてください。
イスラム教の基礎理解①」 「イスラム教の基礎理解②
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