尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

3月の映画日記

2014年03月30日 23時59分14秒 | 映画 (新作日本映画)
3月30日(日)
 フィルムセンターの大森一樹特集。去年の崔洋一はほぼ見てたので一度も行かず、今回も4回ほど。もっと見たかったけど(例えば先週の斎藤由貴のトークなど)、体調が今一つで見逃した。大森監督は全24回の上映中、20回挨拶したという。今日は「風の歌を聴け」の真行寺君枝の挨拶もあった。自主製作の「暗くなるまで待てない」は当時も見たけど、今も面白くはある。ただ、それが認められプロの撮影所で撮れるようになり、そこで学んだことが大きかったという。助監督出身ではないが、撮影所システムで学んだ世代なのである。プロ第一作の「オレンジロード急行(エクスプレス)」は城戸賞受賞シナリオを松竹で映画化したもので、アラカンと岡田嘉子(日本復帰作)が素晴らしく、僕はその年のベストワンにした。でもこの「軽さ」があまり評価されなかったと思うが、今見ても「自由」の気分が横溢しているロード・ムービーの快作で、「誰も傷つかない犯罪映画」の面白さ。観客の拍手も多く、再評価されて欲しい映画。

 その後ATGで2本撮った。自分の医学生時代の映画化「ヒポクラテスたち」(1980)は、大森映画で最高のベスト3に選出。当時はもっとトンデモナイ犯罪青春映画がいっぱいあったので、なんだかエリートの青春記に見えたのは、自分も学生だったから仕方ないのか。今見直すと、森永ヒ素ミルク事件や反精神医学運動などに関わる学生も出てくるし、寮では政治論争が絶えないし、大ゲンカもしょっちゅう。今見ると「激しい青春」で、70年代後半のムードも懐かしい。徳洲会が医学生リクルートに回っている姿も出てきて、貴重な映画になっている。続いて、81年に村上春樹原作の「風の歌を聴け」で、まだ「風」「ピンボール」しか出てない時代の春樹映画。「僕」が小林薫、「鼠」が巻上公一、ジェイが坂田明、「4本指の女」が真行寺君枝、「三人目の女の子」が室井滋と今見ても納得のキャスト。ただ「文学臭」が強く、村上春樹がまだ一般的でなかった当時は難解に思われたらしい。その頃から村上春樹が好きで、この映画も春樹テイストがあって僕は好きだった。でも今見ると、完全な成功作とも言えない感じがする。村上春樹は映画化が難しい。

 シネマヴェーラの山村聰特集は本当はもっと見るつもりが一回だけ。いつも見逃してる「夜の蝶」をやっと見た。銀座のバーのマダム戦争を描き、この言葉の由来となった。京マチ子と山本富士子の女の争いがすごいのと、色彩設計や美術が素晴らしい。吉村公三郎はかなり風俗映画の監督を作ったけれど、安定した出来で楽しめる映画が多い。併映の「家庭の事情」は、まあ軽い作品。

3月23日(日)
 昨年のベストテンに入ったけど映画を新文芸坐で2本。一つは「凶悪」で、日本映画3位に入るほどの評価を得ると思わず、公開時に見逃した。「上申書殺人事件」と呼ばれる実在の殺人事件の映画化で、首謀者役のリリー・フランキー、告発する死刑囚を演じるピエール瀧が大迫力であるのは間違いない。でも、この作り方はどうなんだろう。死刑囚の告発を受け、雑誌記者が取材していく。と、話は昔に飛んで、過去の人物が事件を起こすシーンが(事件当時の時間という設定で)出てくる。それは「事実」という前提なので、なんてひどいヤツラだと見てる側に感じさせる。その「叙述トリック」が気になるのである。そして死刑制度を前提に、どうすればもっと重く罰せられるかという発想で映画が進む。僕にはストンと落ちる映画ではなかった。併映がアメリカ映画の「悪の法則」で、コーマック・マッカーシーの脚本がけっこう複雑で、誰が悪いんだか、なかなか筋が納得できないまま映画が進行してしまった。

 中国の王兵(ワン・ビン)はやたらに長いドキュメントが多いので、劇映画の「無言歌」しか見てない。それは素晴らしかったが、記録映画「三姉妹ー雲南の子」が去年の第5位になった。多分ものすごくうっとうしく長い映画だろうなあ、風邪引いてるから見たくないなあと思いつつ、ロードショーで見逃したので見てきた。3200mの高地で、豚や羊を飼って農業も行っている。現金収入が少ないので、出稼ぎに行く人もいる。そんな村で暮らす三姉妹。忘れがたい映像ではあるが、どうも見てるのがしんどい。

 新作映画では「エヴァの告白」が第一次大戦後にポーランドからアメリカに移民した女性の生きていく道を示して感動的だった。マリオン・コディヤールが主演していて、見応えがあった。珍しい南米のチリ映画「グロリアの青春」という映画は、主演女優がベルリン映画祭で女優賞を得た。題名と違って、「第二の青春」で、離婚して子供も大きな女性の恋愛模様をほろ苦く描き出す。どこの国でも、年は取っても男と女は難しい。このような中高年の女性を描くのが、オーストリアのウルリヒ・ザイドルの「パラダイス三部作」で、3本見たら別に記事を書きたい。「キック・アス ジャスティス・フォーエヴァー」も見たけど、とにかく面白いけど、同じ話だし悪役が類型的すぎる。

 渋谷シネマヴェーラの園子温監督特集は全部行ってまとめ記事を書くつもりだったけど、最後の週になって、突然飽きてしまった。代わりに新文芸坐で、三船敏郎特集の「待ち伏せ」「お吟さま」を見た。「待ち伏せ」はもう何十年といつも逃してきた映画で、三船、勝新、裕次郎、錦之介、ルリ子の共演の稲垣浩最後の作品。多分そういう出来だろうと思った通りの出来。一方、「お吟さま」は公開当時見たけど忘れてた。千利休は後に三船敏郎と三國連太郎が演じたが、この映画の志村喬が一番利休らしいではないか。この映画では、利休を「国内統一戦争までは秀吉を支持するが、朝鮮侵略戦争は何としても止めなくてはならない」という立場の人物として描いている。当時は熊井啓のつまらない解釈に思ったのかもしれないが、今見ると「政権内ハト派」が駆逐されていく様をヴィヴィッドに描いて、まことに同時代性が出てきたのである。悲しいことだが。

 有馬稲子特集は、見た映画と見てない映画がカップルの日が多かった。トークショーが3回もあったので、一度は行きたいと思ったけど、結局風邪引いて見逃してしまった。中村登監督「白い魔魚」は、舟橋聖一原作の風俗映画。岐阜の古い紙問屋が危機に陥り、有馬稲子が結婚してくれればカネを出すという人物が現われる。それが上原謙で、出てきたときに観客に笑いが出た。似たような設定がこの当時は多いことを観客も判ってる。二枚目しかできないけど、もう中年でどうも変な役が多い。有馬稲子は東京の学生で演劇部という設定で、ファッションや当時のムードが面白い。来月フィルムセンターで上映が予定されている。

 有馬特集はその後、2回見た。「浪花の恋の物語」は近松の「冥途の飛脚」の映画化で、近松本人(片岡千恵蔵)が出てきて、当時の人形浄瑠璃の様子が描かれるという貴重な趣向がある。錦之介、稲子の結婚につながっていく作品で、内田吐夢の重厚な作品。「金が仇の世の中」というフレーズが今の時代にも響く名作。でも今回見直して、錦之介が「男の意地」という価値観にとらわれていて、それが悲劇につながっていくことも忘れてはならないと思った。併映の「抱かれた花嫁」は大した映画ではないけど、とにかく楽しい。浅草のすし屋の看板娘有馬稲子、ケチな母親望月優子は店の火災保険も解約してしまうという冒頭。これで大体筋は読める。浅草や上野動物園のロケもあるが、日光に行く設定で、東照宮やいろは坂が見られるのは貴重。湯元温泉の南間ホテルが親戚だという設定で出てくる。今はつぶれて、おおるり山荘になってる宿。五所平之助が井上靖の短編を映画化した「わが愛」。有馬が戦時中に一度結ばれた新聞記者佐分利信が戦後引退して鳥取県の山奥に引っ込む。その時に有馬もついて行って、誰も知らない短い愛の日々を送る。有馬稲子が非常に美しいという話で、なるほどと思ったけど、あまりにも男に都合のいい設定。さすがに五所亭の演出は緩急がうまく、見せられてしまうが。もう一本、木下恵介の弟子筋の川頭義郎という今はほとんど忘れられてる監督の「かあちゃんしぐのいやだ」。福井県武生市の子ども作文の映画化で、父親が病気で母の有馬が二人の子を支える。貧しい暮らしの中、親子でいたわりあって暮らして行く様を、堅実なリアリズムで描いて行く。白黒の地味な映画だけど、感動的で泣ける。見て良かった映画だった。
コメント
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