尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

都知事選の諸問題①

2014年02月09日 23時46分00秒 |  〃  (選挙)
 先に「都知事選の投票率はどうなるか」を書いたが、その中で「都知事選については、何も書いて来なかったし、終わるまで書く気はない。ただ投票率がどうなるかの観測だけ書いておきたいと思う。」と書いた。都知事選の最終得票及び投票率はまだ発表されていないが、すでに舛添候補の当選が諸メディアで報道されている。終わったと言っていいので、以下数回にわたり書いておきたいと思う。データに基づく分析は明日以後に譲り、まずは「候補者問題」。

 舛添が当選したのは、要するに「タマが良かった」ということにつきる。これが判らない人がいるようなので困る。支持者はみな、宇都宮、細川、田母神などを良いと思ってる。盛り上がれば当選するか、しないにしても相当の得票が可能だと思っている。しかし、自分の陣営内で盛り上がってるだけではダメで、「舛添に入れる票を取りに行く」ことは誰も出来ていなかった。勝てそうになれば、人は寄ってくるし分裂もしない。もともと都議選、参院選から日が近く、「基礎体力」の違いは判り切っていた。それをまとめた上に、石原元知事が田母神に行って、代わりに連合の支持が舛添に来た。基礎票が多少中道寄りになったわけで、「普通の有権者」には安心感を与えただろう。

 自民系の候補が誰になるかずいぶん注目されたが、自民党が行ったアンケートでは、東国原、石原伸晃、丸山珠代、小池百合子などを大きく引き離して、最初から舛添が圧倒的だったという話である。石原伸晃は現職閣僚なので、出すなら内閣改造につながりかねないし、世襲批判が出るからまずないだろうと思った。女性候補にするという案もあったようだが、中堅国の大統領並みの権限を持つ都知事という地位にふさわしい女性候補がいなかったのだろう。五輪を考えると、それなりの仕事をしてきた人物を探すと、都知事選立候補経験があるものでは、圧倒的に舛添に知名度があった。かつての厚生労働相の仕事ぶりも一定の評価はできると思う。保守高齢者層には、「福祉にくわしい舛添」が浸透しやすかった。

 「舛添だけは都知事にしてはいけない」という運動をしていた人もいたけど、もともと舛添に入れない人向けにいくら運動しても仕方ない。舛添に入れる層には何の影響力もなかった。「都知事にしてはいけない人」と言えば、僕にはそれは石原慎太郎ではないかと思うが、その石原を4回も当選させた都民に対して「舛添落選運動」をしても仕方ないだろう。僕も舛添氏に問題もあるのだろうとは思うが、石原慎太郎のように「尖閣諸島を東京都で買う」とかまでとんでもないことを言い出すとも思わない。

 「細川」か「宇都宮」か、これは「脱原発陣営の分裂」だと「一本化」を求める人もたくさんいたが、僕にはそれは全然理解できなかった。まだ最終得票が出ていないが、それでも両者の票を足しても舛添票に達しない。僕にはそうなるとしか思っていなかったので、「一本化」には関心が持てなかった。いや「一本化」すれば違う、「1+1」が「3」になるんだという人もいるだろうけど、僕はそうは思わなかった。細川に一本化されれば、細川知事の与党第一党が共産党ということになるから、小泉に魅力を感じて細川に入れようという保守無党派層が逃げる。宇都宮陣営でも一本化されれば、皆細川に入れるとは思えない。小泉がついてる細川には絶対入れないという人もたくさんいるはずである。一本化をめぐる議論を告示後もしてるのもおかしい。

 「シングルイシュー」(単一の争点)がいいのか悪いのかという議論もあったけど、勝てればそれで良かったとなるだけの話だろう。郵政選挙や大阪府市同日選がそれで、それで勝てたのである。つまり小泉純一郎や橋本徹なみのタレント性のある候補が必要なのである。細川護熙という20年前に8カ月ほど首相を務めた人物が、突然現れたとして若者が燃えるか。僕が見た感じでは「老いてなお盛ん」という気はしたけれど、「老い」は否定できない気がした。しかも、小泉純一郎という元首相が付いていた。さすがに演説はうまいもので、そういう街頭の盛り上がりを見ると細川追い上げあるかと思ってしまうと思うかもしれないが、その盛り上がりは小泉見たさであって、舛添票を奪うものではなかったのである。

 「原発」というテーマは、それだけを取ってみれば、都民の中には「脱原発支持票」が多い。しかし、安倍政権を止めるんだ、今都民が立ち上がらないといけない、都民はこぞって脱原発陣営に入れよという言い方が多かったように思う。「フクシマを忘れるな」と言われればその通りなんだけど、ソチ五輪の報道が毎日続く中で「史上最大の東京オリンピック、パラリンピックを」を第一の公約に掲げる舛添の方が細川、宇都宮よりも「夢がある」と思うのが普通なんではないか。細川陣営が「安倍政権の原発再稼働を止める」と言い、宇都宮陣営が「東京電力の柏崎刈羽原発は廃炉にする」と言ったのを見聞きして、僕でさえ「都知事の権限で出来ないことを何で言うのかな」と疑問を感じた。都知事の影響力は大きいとはいえ、どうも「上から目線」で都民に「原発止めるために力貸せ」と迫ってるような印象を与えたのではないか。そこに「福祉に詳しそう」な舛添に高齢者票が集中する理由があったのだろう。

 ところで、僕はそもそも「宇都宮」「細川」を分裂と思っていない。宇都宮陣営には共産党や社民党、緑の党などがあったが、緑どころか社民も都議会に議席がない。共産党の力の方が圧倒的に大きい。細川陣営は政党の推薦は受けないと言いつつ、民主党などが「勝手連」で支援するとしていた。日本の多くの選挙で、自民系と共産党の候補が出る。その自民系に民主も乗ることは地方選挙ではよくあるけど、共産党と民主党が地方選で共闘することはない。国会内などで課題ごとに「院内共闘」することはあるが、基本的に政治的スタンスが全く違う。民主党結党後の1999年都知事選以来、民主党と共産党が同じ候補を支持したことは一度もない。だから、そもそも「分裂」していないのである。結婚どころか付き合ってもいない二人を、目的地が同じだからと言って同じ車に乗せようというのは無理があったのだと思う。

 むしろ分裂したのは右の側で、2012年都知事選では一致して猪瀬を支持した自民と石原慎太郎が今回は別の候補を支援していた。また、これは前回と同じだが、民主党支持勢力のはずの連合が舛添を支持した。こっちは、本物の分裂で、その意味はまた書く機会があれば書きたい。細川、宇都宮陣営の問題はまた別にもう一回書くことにして、とりあえずの感想。
コメント
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